目次
自分の死後に、配偶者など特定の人に遺産全部を相続させたい場合、遺言を活用する方法が有効です。
遺産分割協議でも、特定の人だけが財産を取得することも可能ですが、相続人全員の同意が必要です。
特定の人に相続させる遺産分割協議、遺言で特定の人に相続させるやり方や活用について解説します。
遺産分割により配偶者など特定の人に遺産を全部相続させる
法定相続人全員による遺産分割協議で合意があれば、亡くなった方の全財産を、配偶者など特定の人に相続させることもできます。
遺産分割により配偶者に遺産を全部相続させる
相続人の合意に基づく遺産分割であれば、配偶者2分の1、子ども2分の1のような法定相続分と異なる分割をすることもできます。
分割の協議では、法定相続分は、遺産を分割する際の目安として考えることができます。
相続人間の協議で、相続分と異なる分割とすることは違法でもありません。
ただし、全員が参加し、未成年者の場合は特別代理人を選定するなど、相続人それぞれの意思に基づいた協議の結果でなければなりません。
夫婦が婚姻期間中に互いの協力の下で財産を形成しているとの考え方や、同じ生計によって暮らしていた夫婦の一方が亡くなることによって、残された配偶者が生活に困窮することがないように、生活を保障するとの面から、残された配偶者に全財産を相続させるケースも見受けられます。
相続分と異なる遺産分割協議書の書き方
遺産分割協議書では、一般的に相続人それぞれの取得する遺産の内容や割合について記載します。
相続分と異なる分割をする場合も、協議で決めた遺産の分け方を具体的に遺産分割協議書に記載します。
必要事項に漏れがなければ、全員が署名、押印することによって、遺産分割が成立します。
特に、配偶者だけに分割するような場合は、配偶者が「被相続人の遺産をすべて取得する」や、ほかの相続人が「なんらの遺産を取得しない」といった表現とすることによって、遺産分割を成立させることができます。
配偶者が全部相続しても次は子が相続できる?
配偶者は、相続税で認められている1億6,000万円の控除などを利用することによって、ほかの相続人に比べ、有利に遺産を取得することができます。
やがて配偶者が亡くなった際には、子どもたちが相続することになるため、結果的に法定相続分で分割することと同じとの考え方もあります。
ただし、相続人である子が、必ず将来遺産を手に入れることができるかは確定したものではありません。
亡くなった方の配偶者である母親は、譲り受けた遺産全てを自由に処分することができ、再婚すれば、別の相続が発生ることもあり得ることになります。
遺言により配偶者など特定の人に遺産を全部相続させる
相続人全員の合意があれば、遺産分割でも配偶者に遺産を全部相続させることができます。
しかしながら、遺産分割協議では、亡くなった方の意思全てを反映させることは難しいと言えます。
配偶者など特定の人に財産を残したい場合は、遺言を書いておく方法が有効です。
遺言とは?
遺言では、主に自筆証書遺言、公正証書遺言が利用されています。
遺言書があれば、基本的に、遺言書の内容にしたがって遺産を分割します。
自筆証書遺言は、自筆で書き記すもので、手軽に作成できる反面、紛失や偽造、隠ぺい、遺族に気付かれないなどの不都合もあります。
公正証書遺言は、公証役場において、公証人と証人2名の立会いの下で作成します。
作成の手間や費用はかかるものの、遺言書は厳重に保管され、遺言の内容が実現される可能性が高くなります。
遺言書の書き方
遺言の表現については、相続についての遺言者の意思を明確にしておくことが大切です。
贈与と受け取られないような表現にしておくと安心です。
一般的な表現としては、「全遺産は妻〇〇に相続させる」や「遺産全てを妻◯◯の相続分とする」などとします。
「相続させる」ではなく、「与える」とした場合は、遺留分を持たない兄弟姉妹との遺産分割協議が必要になる場合もあるため、注意が必要です。
遺留分に注意
亡くなった方が自分の財産をどう処分するかは、本来なら自由に決めても良さそうに思えますが、民法では、一定の相続人に、最低限の遺産取得分を請求する「遺留分」と呼ばれる権利を与えています。
遺留分は、基本的に、法定相続人に当たる配偶者と子と親に認められ、兄弟姉妹には認められていません。
亡くなった方が、法定相続分を侵害するような遺言を残した場合、法定相続人のうち配偶者、子、親は、その侵害について請求を行うことができます。
遺言の活用
相続には、遺言相続と法定相続の2種類があります。
遺言相続は、亡くなった方が、自分の意思を遺言という形で表示し、遺産は意思表示に従って分割されます。
法定相続は、遺言がない場合に、民法のルールに従って行う相続です。
原則的に、遺言書の内容が法定相続よりも優先されます。
このため、遺言書を利用すれば、法定相続人以外に財産を残すことが可能です。
たとえば、法定相続人になることができない、内縁の妻や、長い間献身的に介護をしてくれた長男の嫁などに対しても、財産を分けることができます。
まとめ
遺言を活用することにより、配偶者など特定の人に財産を残すことができます。
亡くなった方の意思を死後に反映させることができる有効な方法で、年々利用者の数も増加しています。
ただし、法定相続分を侵害するような遺言をすれば、死後にトラブルを引き起こす原因になることもあるため、内容についての慎重な検討が望まれます。
なお、費用や時間はかかるものの、遺言は何度でも書き直すことができることを付け加えておきます。
▼揉めない相続 シリーズ
- 揉めない相続VOL1_ケース別!相続順位と相続分について完全解説
- 揉めない相続VOL2_別居中は?再婚したら?あらゆるケースでの「配偶者」の相続
- 揉めない相続VOL3_胎児にも相続権!子どもの相続に関する解説と代襲相続について
- 揉めない相続VOL4_愛人の子にも相続権?非嫡出子や養子の扱いは?あまり知られていない相続のケース
- 揉めない相続VOL5_非嫡出子も同等!配偶者と子の相続分についての計算方法
- 揉めない相続VOL6_直系尊属や兄弟姉妹の扱いは?配偶者の相続分が増えるケース
- 揉めない相続VOL7_相続分を超えて贈与を受けていたら?生前贈与などの特別受益が相続に与える影響
- 揉めない相続VOL8_寄与分は相続分にプラス!寄与分として認められるケースと認められないケース
- 揉めない相続VOL9_相続人がいない!遺産の行方と特別縁故者について
- 揉めない相続VOL10_相続人や相続分に関するトラブル10選と対策
- 相続トラブル回避のための戦略ガイド_11_財産は大きくわけて2種類!資産と債務についての概要と財産の調べ方
- 揉めない相続VOL12_財産目録や固定資産課税台帳を使った遺産の調査方法
- 揉めない相続VOL13_遺産かどうかでもめがちなケースとは?遺産確認の訴訟について
- 揉めない相続VOL14_形見分けはどんな扱い?遺産分割協議でもめるケースとは
- 揉めない相続VOL15_系譜や墓、位牌などが相続財産とならない理由
- 揉めない相続VOL16_預金などの債権を遺産分割する方法
- 揉めない相続VOL17_生命保険金の相続の方法とは?保険金請求権についても解説
- 揉めない相続VOL18_ローン返済中は?不動産について評価や遺産分割の方法を解説
- 揉めない相続VOL19_価値評価の方法は?遺産分割における動産の扱いについて
- 揉めない相続VOL20_有価証券の遺産分割は複雑!新会社法による株式の扱いと遺産分割の方法
- 揉めない相続VOL21_相続人が居住中かどうかによって変わる?賃貸物件や借地の賃借権の相続について
- 揉めない相続VOL22_借金などマイナス財産の相続はどうやる?債務の遺産分割方法
- 相続トラブル回避のための戦略ガイド_23_亡くなった父が保証人になっていた場合は?相続や遺産分割に関するトラブル10選と対策
- 揉めない相続VOL24_遺産分割の方法と遺産分割協議について徹底解説!
- 相続トラブル回避のための戦略ガイド_25_これで完ぺき!遺産分割協議の進め方と遺産分割協議書の作り方
- 揉めない相続VOL26_子が未成年者の場合の遺産分割協議のやり方と注意点
- 揉めない相続VOL27_配偶者など特定の人に全部相続させたい!遺言を活用しよう
- 揉めない相続VOL28_会社や農家などの遺産を相続する方法
- 揉めない相続VOL29_遺産分割協議での約束を破られた!協議でこじれたらやるべきこと
- 揉めない相続VOL30_意外と多い!「相続分が無いことの証明書」の偽造について
- 揉めない相続VOL31_遺産分割協議後に出てきた遺言書や新たな遺産!どうなる?
- 揉めない相続VOL32_遺産分割協議でのけ者に?相続の権利を無視された場合に求める相続回復請求権とは
- 揉めない相続VOL33_口約束の相続でもめた!遺産分割協議で起きるトラブル10選と対策
- 揉めない相続VOL34_トラブルを起こさない!遺言書のための知識と作成ポイント
- 揉めない相続VOL35_遺言書を無効にさせないための作成方法と発見したときの注意点
- 揉めない相続VOL36_他の遺言書が出てきた!イレギュラーな遺言書に対する対応
- 揉めない相続VOL37_遺言書で相続分や分割方法の指定があった場合
- 揉めない相続VOL38_相続は必ずしも得するわけではない!包括遺贈と特定遺贈の違いについて
- 揉めない相続VOL39_節税にも使われる死因贈与の問題点とは
- 揉めない相続VOL40_損する前に知っておこう!遺留分に関する注意点と遺留分減殺請求権について
- 揉めない相続VOL41_犬に全部相続させる?遺言書にまつわるトラブル10選と対策
- 揉めない相続VOL42_相続に関する各相談先と弁護士の探し方
- 揉めない相続VOL43_相続でもめたら?調停、審判、訴訟による解決方法
- 揉めない相続VOL44_相続について審判や調停を裁判所に申し立てる際の手続きや注意点
- 揉めない相続VOL45_相続の紛争における家庭裁判所の保全手続きとは?
- 揉めない相続VOL46_要チェック!相続でもめた際に家庭裁判所に提出する主な書式一覧