目次
相続財産というと、一般に、動産や不動産、現金、預金などのプラスの財産のことを思いつくことでしょう。
しかし、実際には、故人が住宅ローンなどの借金を負担している場合もあり得ます。
そこでこの記事では、故人が負担していた債務が相続に際してどのような取り扱いを受けるのかについて確認していきたいと思います。
債務も相続される
民法第896条は、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」としています。
つまり、相続によって「権利」のみならず「義務」も相続されるのです。
プラスの財産だけを相続して、マイナスの財産である借金や債務は相続しないという制度は、現在の民法では認められていません。
債務を相続しないためには、相続自体を放棄して、はじめから相続人とはならなかったものとするしかありません(民法第938条)。
債務は誰がどれだけ承継するのか
(1)債務の承継
プラスの相続財産については、相続人が複数いる場合、いったんは共有となりますが(民法第898条)、その後、遺産分割協議を経て、具体的に誰がどの財産を取得するかを相続人間で決定することになります。
例えば、配偶者は自宅の土地・建物を取得する、長男は自家用車と別荘を取得する、次男は預金債権と山林を取得する、といった形で、それぞれが具体的にどの財産を取得するかを決定する事ができます。
これに対して、債務については、相続人が共同で負担することとされています。
特に、借金などの金銭債務については、相続開始と同時に、相続人が相続分に応じて負担を承継するとしています。
したがって、被相続人が2,000万円の債務を負担していた場合、相続人が配偶者、長男、次男の3名であった場合、配偶者は1/2である1,000万円、長男・次男はそれぞれ1/4の500万円ずつの債務を承継することになります。
遺産分割協議・遺言による修正の可否
(1)遺産分割との関係
相続開始後に、相続人間の遺産分割協議において、特定の相続人のみが全ての債務を承継すると合意したり、債務についてそれぞれの債務者が負担する割合を合意すること自体は可能であり、相続人間においてはその合意について効力が認められます。
しかし、これはあくまでも相続人間で勝手に決定したことであり、債権者はその決定に関与していません。
したがって、係る合意がなされたとしても、債権者はそれに拘束されることはありません。
債権者としては、原則通り、各相続人に対して、その相続分に応じた弁済を請求することができます。
この場合、債権者からの請求に応じて、相続人間の合意によって決定した自分の負担額を超える弁済を行った者は、他の相続人に対して自己の負担額を超えて弁済した分について求償することになります。
(2)遺言による相続分の指定との関係
被相続人が遺言により相続分の指定がある場合についても問題となります。
裁判所は、遺言によって相続人のうちの一人に対して財産全部を相続させる旨の遺言がなされた事例において、遺言の趣旨から相続財務については当該相続人に全てを相続させる意思のないことが明らかであるといった特段の事情がない限り、相続人間においては当該相続人が相続債務も全て承継したものと解される、と判断しました(最高裁平成21年3月24日判決民集63-3-427)。
ただし、これもあくまでも「相続人間において」は、特定の相続人に全ての債務を負わせる意思であったにすぎず、債権者がそれに拘束されるわけではありません。
(3)債権者の対応
遺産分割協議による債務の負担割合に関する合意や、遺言による債務の負担についての被相続人の意思があったとしても、債権者は当然にはこれらに拘束されることはありません。
ただし、債権者の側からこれらの合意や遺言の内容を容認する事は問題ありません。
相続分に応じた債務の承継とした場合、債権者は各相続人に対しては相続分に応じた請求しかできません。
その結果、一部の相続人の資力が乏しい場合には、実際に相続財産を多く取得した相続人から多く回収できた方が債権者にとっても都合がいいからです。
ただ、債権者としては、本当にそれがメリットがあるのか、逆に、資力の乏しい相続人に対しての債権が多くなるというリスクがないかについて、正しく判断して対応する必要が生じることになります。
保証債務
保証債務は、万一、主たる債務者が履行できない自体に陥った場合に弁済義務を負担するという内容の債務です。
しかし、これについても、判例は、被相続人が締結した保証契約に基づく債務の相続を認めています。
つまり、通常の保証債務・連帯保証債務は、停止条件付きではあるものの、通常の金銭等の支払い債務にすぎないため、通常の債務と同様に相続分に応じて承継されるとしています(最高裁昭和34年6月19日民集13-6-757)。
一方、身元保証債務、包括的信用保証債務については、個人的な信頼関係に基づく債務であるとして、一身専属に属するものであるとして相続されないとしています(最高裁昭和37年11月9日判決民集16-11-2270)。
まとめ
以上、債務といったマイナスの財産の相続について見てきました。
債務については、債務を承継する相続人の資力によっては債権者の利害が大きく影響されるため、相続人間で勝手に変更したとしても、債権者に対してはそれを主張できないということを認識する必要があります。
そして、その負担割合または負担額を変更したい場合には、債権者の容認を得ることが必要であるということを認識しておく必要があります。
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