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最終更新日:2022/12/13

揉めない相続VOL21 相続人が居住中かどうかによって変わる?賃貸物件や借地権の相続について

弁護士 中野和馬

この記事の執筆者 弁護士 中野和馬

東京弁護士会所属。
弁護士は敷居が高く感じられるかもしれませんが、話しやすい弁護士でありたいです。
お客様とのコミュニケーションを大切にし、難しい法律用語も分かりやすくご説明したいと思います。
お客様と弁護士とが密にコミュニケーションをとり協働することにより、より良い解決策を見出すことができると考えております。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/nakano/

土地や建物の所有権が相続の対象になることは当然のことと理解されていると思われます。

それでは、故人が所有していた不動産を賃貸していた場合、または逆に、故人が所有者から不動産を賃借していた場合、それぞれどのような取り扱いになるのでしょうか。

本記事では、どれらの権利関係が相続によってどのように取り扱われるかについて見ていきたいと思います。

賃貸人について相続が発生した場合

(1)賃貸人の地位の相続

不動産の賃貸人が亡くなった場合、賃貸人たる地位は当然に相続されます。

不動産の賃貸人の地位は、当該不動産の所有権に付随する権利ですので、最終的には、その不動産を相続によって取得した者が、賃貸人の地位を承継することになります。

つまり、賃貸人の財産についての遺産分割協議によって、当該不動産を承継すると決定された人が、賃貸人の地位を承継することになります。

(2)敷金の取り扱い

賃貸人が亡くなって、賃貸人の地位が相続により承継された場合、従前の賃貸借契約に基づいて賃借人が預託していた敷金も当然に、その不動産を相続によって承継した者に引き継がれることになります。

その結果、賃貸借契約が終了する際には、賃借人は、その承継人に対して敷金の返還を請求する事ができます。

(3)賃料の支払い

①賃料支払い請求権

賃料の支払いを請求する権利は、賃貸人の地位に付随するものですので、賃貸人の地位を承継した者が取得します。

したがって、賃貸人の地位を承継した者が決定した後は、当然に、その者に対して賃料を支払うことになります。

②遺産分割前の取り扱い

一方、遺産分割がなされるまで、相応の期間がかかる場合があります。

その場合に、賃借人として誰に賃料を支払えばいいのかが問題となります。

これについて、最高裁判決は以下のように判断しています。

相続開始から遺産分割までの間に共同相続に係る不動産から生ずる金銭債権たる賃料債権は、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得し、
その帰属は、後になされた遺産分割の影響を受けない(最高裁平成17年9月8日判決民集59-7-1931)

したがって、賃借人としては、各相続人からそれぞれの持分に応じた賃料の請求があった場合には、その支払いをしなければならないことになります。

ただ、現実問題として、賃借人が賃貸人の相続人には誰がいるのか、それぞれの相続分がどれだけなのかの確認をすることは不可能でしょう。

そのため、この場合には、賃借人としては債権者不確知として、賃料を供託するという方法が妥当と思われます。

賃借人について相続が発生した場合

(1)賃借権は相続されるか

故人が借りていた不動産等の賃借権も、財産的な価値を有する権利として、相続されます

土地の賃借権も建物の賃借権も同じです。

賃貸借契約においては、賃借権の譲渡等が禁止されている場合が一般的と思われますが、相続による賃借権の移転は賃借権の譲渡とは異なるため、このような規定が設けられていた場合であっても、賃借権の相続の障害とはなりません。

(2)相続人

借地権及び借家権は、目的不動産を使用する権利であるとともに、その賃料の支払義務(債務)を伴うものです。

その結果、賃借権は賃貸人の地位とは異なり、相続人間の合意で、特定の者のみを賃借権の承継人と定めることはできず、共同相続人が共同で賃借人の地位を相続することとなります。

(3)賃料の支払い義務

賃借中の不動産の賃料は、その賃借物件の使用の対価として支払われるものです。

このような債務は法律上は不可分債務とされており、債務者はその全額について支払義務を負うとされています。

つまり、賃借人の相続人が長男と次男の2人だった場合、長男と次男はそれぞれ賃料の全額について支払義務を負うことになり、賃貸人は長男と次男のいずれに対しても賃料全額を請求できます

たとえ、当該不動産について、相続人間で長男が居住することを決定したとしても、それによって次男が賃料債務をまぬがれることにはなりません。

ただ、賃貸人は、両方から全額を取得できるわけではなく、長男か次男のいずれかから全額の支払いを受ければ、他方には請求できないわけで、二重取りできるわけではありません。

(4)承継者を限定する方法

実際には、上記の例で、長男が賃借権を承継して、その物件の使用を継続するとした場合でも、法律上は上記のように長男、次男が共同で賃借権および賃料債務を承継することになりますが、

これを、長男のみを賃借人とするためには、賃貸人との間で、改めて長男のみを賃借人とする賃貸借契約を締結し直すという取り扱いをすることになります。

同居人の居住権

(1)借地借家法第36条

賃借人が死亡した場合において、相続人以外の者が賃貸借物件に居住していた場合に、その同居者がもはや居住できなくなるとしたのでは、その同居者に酷であるため、借地借家法第36条は一定の要件の下で、相続人以外の同居者に賃借権の承継を認めました

<条件>

  • ・被相続人(賃借人)に相続人がいないこと
  • ・その建物が生活の基盤となる居住用のものであること

(2)相続人がいる場合

既に被相続人の子供が独立していて、被相続人はそれとは別に内縁の妻と同居していたという場合には、「被相続人に相続人がいないこと」という条件を満たさないため、借地借家法第36条は適用できないことになります。

その結果、この場合に相続人である被相続人の子供から明け渡し請求を受けた内縁の妻は、明け渡し請求に応じなければならないことになります。

しかし、実際の取り扱いとしては、判例は、係る請求について、相続人が当該建物を実際に使用する必要がある場合を除き、係る明け渡し請求は権利の濫用(民法第1条第3項)に当たるとして、その請求を否定する傾向にあるようです(最高裁昭和39年10月1日判決民集18-8-1578)。

まとめ

以上、賃貸借契約の当事者に相続が生じた場合の取り扱いについて見てきました。

賃貸人の側に相続が生じた場合と、賃借人の側に相続が生じた場合とで、取り扱いが大きく異なることがおわかりいただけたと思います。

この点をしっかり認識して対応する必要があります。

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