目次
被相続人が亡くなったことによって生命保険金が支払われる場合、この保険金がどのように取り扱われるのかが問題となる場合があります。
具体的には、受取人が固有の権利として取得できるのか、それとも、相続財産に含まれるものとして遺産分割の対象になるのかです。
本記事では、これらについて整理しておきたいと思います。
保険契約の仕組み
保険契約においては、保険会社と保険契約を締結する者(=保険契約者)、生命保険金の対象となる人物(=被保険者)、保険事故が発生した場合に保険金を受け取ることができるもの(=受取人)という登場人物がいます。
まず、この仕組みをしっかり理解する必要があります。
そのうえで、保険金の取り扱いについては、誰が受取人かが最も重要なポイントとなります。
以下、ケースごとに分けて見ていきます。
被相続人が受取人となっている場合
相続財産に含まれるか
被相続人が受取人として保険金を受け取るということは、それは被相続人が権利を有するということです。
したがって、保険金は被相続人の財産として相続財産に含まれ、相続人に承継されることになります。
保険金が未だ支払われていない場合には、保険会社に対する保険金請求権が相続財産に組み込まれることになります。
保険金請求権の行使方法
保険金が未だ支払われていない場合、保険会社に対する保険金請求権がどのように行使されるのかが問題となります。
保険金請求権が金銭を目的とする可分債権として、当然に相続人の相続分に応じて分割されるのか、それとも、預金債権と同様に遺産分割協議によって帰属が決定されるのかについては、これについて判断した判例を見つけることができなかったため不明確です。
ただ、実務上は、保険会社として相続人からの請求に対して、他の共同相続人の同意書等を要求する等の対応がとられているものと思われます。
被相続人が被保険者、相続人の一部の者が受取人となっている場合
相続財産に含まれるか(判例の立場)
特定の者が受取人として指定されている場合には、その受取人は保険契約自体に基づいて保険金を取得するため、本来、保険金が相続財産に含まれると言うことはありません。
ただ、この取り扱いを行った場合、以下のような不公平が生じる場合があります。
例えば、相続人が子供3人の場合において、長男のみが保険金の受取人になっている場合、遺産については3人がそれぞれ1/3ずつ相続し、さらに長男だけが追加で保険金を受領できるとすると、保険金の額によっては相続人間に著しい不公平感が生じる場合があります。
しかし、これについて、判例は一貫して、保険金は保険契約に基づいて保険金受取人に直接支払われる受取人固有の権利であるから、相続財産に含まれることはないとしています。
例外
ただし、判例は、保険契約者が被相続人であった場合について、受取人が受け取る保険金は被相続人が支払った保険料に基づくものであり、その意味では、被相続人の費用負担によって生じるものであるという点等を考慮し、場合によっては受取人が受け取った保険金は特別受益に準じるものとして考慮される場合があるとしています。
具体的な事例として、最高裁平成16年10月29日決定民集58-7-1979が、以下のように判断したものがあります。
保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権・死亡保険金は遺贈または贈与によって得た財産には当たらない。
しかし、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法第903条(特別受益制度)の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいと評価すべき特段の事情がある場合には、民法第903条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となる。
特段の事由の有無は、保険金の額、この額の遺産総額に対する比率、同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人および他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきである。
ただ、どの場合に、特別受益に準じるものとして持戻しの対象となるかの基準は明確ではなく、保険金の額や、遺産の額との比較などの具体的な事情を総合的考慮して判断せざるを得ません。
まとめ
今回は、生命保険に関して、一般的に問題となりうるケースとして、被相続人自身が受取人となっている場合と、相続人の中の特定の者が受取人になっている場合の取り扱いについて見てみました。
ただ、生命保険を巡っては、まだまだ難しい問題があり得ます。
また、民法上の相続財産への帰属という問題とは別に、保険金について相続税が課せられるかという問題もありますので、注意が必要です。
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