目次
人が亡くなった場合、故人の愛用品などを故人または遺族の意思で親戚や親しかった方に分配する行為が慣習的に行われる場合があります。
これを「形見分け」といいます。
本稿では、この形見分けの性質について確認するとともに、遺産分割との関係について見ていきます。
形見分けの性質
人が亡くなった場合、被相続人が有していた財産は、基本的に全て相続財産を構成し、遺産分割の対象となるのが原則です。
したがって、形見分けは、一般的には共同相続人から特定の相手への贈与に該当すると考えられます。
これに対して、故人が遺言で特定の財産を誰かにあげることを定めていた場合には、遺産分割方法の指定または遺贈となり、相続開始と同時に当該対象者に帰属することになります。
ただ、故人が、特定の物を誰かにあげたいと生前表明していたとしても、遺言で定めていなければ、法律的な効力は認められません。
その結果、この場合は原則通り相続財産の一つとして共同相続人の共有に帰属することになります。
形見分けと遺産分割協議との関係
形見分けは遺産分割の対象になるか
相続人に対する形見分けが、遺産分割の対象に含まれるかについては、相続財産に属する物を特定の相続人に帰属させる行為ということからすると、厳格には遺産分割によって行うべきと考えられます。
ただ、形見分け自体は、「財産」の分配というよりも、故人が身につけていたアクセサリー、衣服、時計といった身近な物を、故人の思い出として提供する慣習的な行為であるため、一般的には遺産分割の範囲外と認識されているといえるでしょう。
形見分けが遺産分割協議において問題となる場合
ただし、以下のような場合については、形見分けが遺産分割協議において問題とされる場合があります。
財産的な価値がある物の場合
通常の形見分けは、あくまでも財産的価値がそれほどない物を思い出として提供するものです。
しかし、提供される物が高価なアクセサリー、高価な時計、高価な着物などのように相当な財産的な価値が認められる物の場合には、形見分けの範囲を超えるものして、遺産分割の対象になると考えられます。
一部の相続人が勝手に形見分けと称して持って行った場合
形見分けは、相続財産として共同相続人の共有に属する財産の中から、故人の思い出の品を、共同相続人の合意の下で、遺産分割の対象とは切り離して、近親者や縁のあった方に提供する行為です。
したがって、あくまでも、共同相続人の総意または少なくとも共同相続人全員の承認のもとで行われるべきといえるでしょう。
それを、例えば相続人の中の同居していた者が、他の共同相続人の同意を得ることもなく、形見分けと称して自分の物にすることや、特定の人にあげるという行為は許されません。
形見分けが妥当でない場合
相続人の一部が形見分けとして一般に認められる以上の価値を有する物を勝手に第三者に提供していた場合には、他の相続人からその贈与の無効を主張されることがあるでしょう。
また、当該相続人が自らそれを取得していた場合には、その後の遺産分割協議においてその財産についても遺産分割の対象として遺産分割協議がなされることになります。
また、一部の相続人が、形見分けと称して財産の一部を隠匿するなどしていた場合には、その後に、それらの財産を除外して遺産分割協議がなされた場合、いったんは合意された遺産分割協議書自体が無効とされる可能性があると思われます。
形見分けと単純承認
最後に、形見分けで問題となる事項として、形見分けで故人の遺品をもらった場合、法定単純承認になるのかという問題があります。
例えば、故人が債務超過であるため相続を放棄したい場合において、一方で、形見分けとして故人の所有物を保持していた場合、相続財産の処分、隠匿しまたは悪意で財産目録に記載しなかったものとして法定単純承認となり(民法第921条)、相続放棄が認められなくなるのではないかということです。
結論的には、これも、形見分けによって取得した物が具体的にどのような物かによって判断されると考えられます。
その物が現実的に財産的な価値がない物である場合には法定単純承認とはならず、慣習的な形見分けとして認められるでしょう。
一方、相応の財産的な価値が認められる物であった場合には、法定単純承認と判断される可能性も否定できません。
まとめ
形見分けは、慣行的な行為であり、それについて法律上明確な基準は存在しません。
最終的には、社会的な常識によって判断されることになるでしょう。
ただ、被相続人が所有していた財産は、基本的に被相続人が亡くなった瞬間から共同相続人の共有となります(民法第896条、第898条)。
従って、形見分けを行うにしても、共同相続人全員の同意の下に行われるべきであり、一部の相続人のみが勝手に行うことは、後の相続トラブルの原因となるということを認識し、厳に慎むべきでしょう。
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