この記事でわかること
- よくある相続トラブル事例がわかる
- トラブルの原因となる遺産分割協議について理解できる
- トラブル解決の糸口となる遺産分割調停についてわかる
目次
相続で親族トラブルを経験している人は激増
遺産相続について裁判所へ相談する件数は、年々増えています。
少し前のデータですが裁判所の統計によると、平成24年度司法統計では174,494件となり、10年間で1.9倍に増えています。
相談ではなく実際に遺産分割事件となってしまった件数は、15,286件です。
遺産分割事件は、調停や審判を利用したということになるため、相続で揉めてしまって、トラブルになった件数と考えても良いでしょう。
平成26年度司法統計では、遺産分割事件数は15,261件と若干減りましたが、長期的に見れば増えていることには間違いありません。
なぜ、このように事件になる件数が増えるのかというと、一つには高齢化により、死者数が多いからということがあります。
人が亡くなるということは、相続が起こるということです。
厚生労働省が発表している人口動態調査によれば、日本で亡くなる人は、1年間に1,376,000人と推計されています。(令和元年 推計値)
この中には、幼児もお年寄りも若者も含まれていますが、排除せずに計算します。
司法統計の遺産分割事件が、平成26年から横ばいであったとして、15,000件とします。
15,000件÷1,376,000×100=1%
毎年起こる相続のうち、1%は裁判所のお世話になっているのではないか、ということが考えられます。
相続トラブルは、単に仲が悪くなった程度のものから、訴訟までいってしまうものまで、様々です。
仲が良いから大丈夫、と言い切れる問題ではありません。
むしろ、これからも仲良くしていきたいのであれば、あとで相続トラブルにならないように、事前に対策をしておくことが重要なのです。
なお、裁判所が公表している資料によれば、遺産分割事件において、弁護士関与率は7割を超え、平均審理期間は、11.8ヵ月です。
つまり、すべての相続のうち、1%は調停や訴訟にすすみ、ほとんどの場合で弁護士に依頼し、平均で1年弱くらいは結論が出ず、紛争かそれに近い状態になるということです。
相続の親族トラブル事例と解決方法
よくある遺産相続トラブルのパターンを解決策とともにご紹介します。
事例1:分割しずらい遺産(不動産など)のみ残る
遺産相続トラブルの中で、多いのが不動産など分割しづらい遺産が残ってしまったパターンです。
特に、家や土地などの不動産は分けることが難しいことが特徴です。
現物を分割するか、代償分割(不動産をもらわない人にお金をあげる)、換価分割(お金に換えて分配する)などの方法があるものの、どの方法をとるかという時点で意見がまとまらないことがあります。
さらに、現在家に人が住んでいたりすると、その人がもちろん住み続けたいわけですが、他の相続人に渡すお金もなく、もめることがあります。
解決策としては、被相続人が遺言書を作っておき、どのように遺産を分割するのか決めておくことです。
事例2:寄与分や特別受益などを主張する人がいる
寄与分とは、たとえば被相続人と一緒に事業をしていて、被相続人の財産を作ることに寄与したという場合や、介護をしたので介護をしたことの経済的利益を認めて欲しいといった場合に主張されることがあります。
被相続人が亡くなるまで一緒に住み、介護をした人がいる場合、その人が他の人よりも多く遺産をもらいたいというかも知れません。
さらに、特別受益を主張し始める人がいたりします。
特別受益の場合は、被相続人が生きているときに被相続人の一部に特別にお金をあげ、お金をもらえなかった相続人から主張されることがあります。
主張された人は、特別受益であることを認めたくないですし、他の相続人からしたら特別受益であることを認めさせれば、その分特別受益を受けた人のもらう予定の遺産が減り、自分の分が増える可能性があります。
寄与分や特別受益などの対策も、遺言書で行うといいでしょう。
遺言書で寄与分のある人に多く財産を相続させ、特別受益のある人の遺産を少なくするか、特別受益の持ち戻し免除をすることも可能です。
事例3:無茶な要求をしたり無視したりする人がいる
相続人の中には、無茶な要求をしたり、相続人を協議に参加させないようにしたりして自分たちだけで遺産分割協議を進めてしまおうという人がいます。
この場合には、家庭裁判所で遺産分割調停を起こすことで、無茶な主張をする人は出づらくなりますし、相続人を無視することもできなくなります。
遺産分割協議は、全員でするものであり、全員で行わないと無効です。
事例4:遺言書が偽物の可能性がある
遺言書が出てきたものの、自筆証書遺言で本当に被相続人が書いたものかどうかわからない場合があります。
究極的には筆跡鑑定をするしかありません。
また、自分に不利な内容だと思った相続人が、遺言書の無効を主張することがあります。
解決方法としては、遺言書を作成するときに公正証書遺言にしておくことが重要です。
公正証書遺言は偽造されにくく、形式面でも不備がありません。
遺言執行者も定めておくと、遺言の実現をスムーズにできます。
事例5:遺留分が侵害された
遺言書の内容が、遺留分(最低限もらえる相続分)を侵害する内容の場合、遺留分侵害請求が行われ、本来もらえる分を裁判で取り戻される可能性があります。
この場合も、遺留分については財産を残せるようにしておくことが重要です。
多く遺産を残したい人に生前贈与をする方法もあれば、生前に遺留分を放棄してもらうように遺留分権者にお願いしておくという方法も考えられます。
親族トラブルになりやすい遺産分割協議
なぜ遺産分割協議は、相続トラブルの原因になりやすいのでしょうか。
遺産分割協議は、相続人の全員でしなければなりません。
そもそも相続人同士で仲が悪いこともありますし、仲が良くてもお葬式などで忙しくしている最中に遺産分割協議をしなければならないので、精神的に非常に不安定な状況です。
また、親から受けた愛情の多い、少ないなどによる、複雑な心情を抱えてしまう人もいます。
たとえば、兄はかわいがられずに、弟がとてもかわいがられたということがあれば、兄弟間に複雑な思いが残ってしまい、相続を機に揉めることがあります。
ちょうどお金が必要なタイミングに、相続が起こったのでどうしてもお金が欲しいという人がいるかもしれません。
自分はさほどこだわりがなくても、相続人の配偶者がお金にこだわる人だったというケースも考えられます。
その場合も、他の相続人から見れば無茶な要求をしたり、他の人の相続分を減らそうとしたりするかもしれません。
遺産分割協議とは
遺産分割協議津協議は、遺産をどのように分けるかを決めるための協議です。
法律では、法定相続分が決まっているので法定相続分通りに分けてもいいですが、遺産分割協議で法定相続分通りではない分け方をしてもかまいません。
ただ、法定相続分の半分は遺留分といい、絶対にもらえる部分でもあるため、あとから遺留分侵害請求をされて取り戻される可能性があります。
遺留分を考慮しつつ遺産分割協議をしたほうが良いでしょう。
【ケース別】遺産分割協議が不要なとき
遺産分割協議が不要なケースがあります。
- ・ケース1:相続人が1人だけ
- ・ケース2:遺言書がある
相続人が一人だけの場合は、遺産分割協議は不要です。
また、遺言書がある場合も遺産分割協議は不要で遺言書に基づいて遺産を分割することになります。
しかし、遺言書の内容に納得がいかないので後から遺産分割協議をし、分割方法を変えることは可能です。
遺産分割協議でよくある親族トラブルと解決方法
遺産分割協議でよくある親族トラブルと解決方法について紹介します。
トラブル1:遺産分割協議が円滑進まず揉める
遺産分割協議を進めようにも、円満に協議が進まない場合は、弁護士に交渉の代理をするのも一手です。
身内にはきつく当たることができても他人にはそこまでできないので、スムーズに協議が進むかもしれません。
また、どのように遺産を分割すべきか、弁護士に法律的なアドバイスを求めることも可能です。
過去のケースから、類似の案件ではどのように分割したらうまくいったのかなどを尋ねることができます。
トラブル2:遺産分割協議に相続人が出てこない
遺産分割協議をしようにも相手が応じない場合や話し合いにならない場合は、裁判所で調停を行うことができます。
調停委員を間に入れて話をするので、直接対峙しなくて済みます。
もめる一歩手前ともとれますので、できたら調停以降の裁判手続に進まないようにしたいものです。
親族トラブル解決の糸口となる遺産分割調停
遺産分割調停について解説をします。
遺産分割調停とは
調停は裁判とは別の手続きであり、簡単に表現すると、話し合いの場です。
被相続人が死亡し、遺産分割協議をしても話し合いの結果がまとまらないときや、話し合いにすらならないときは、家庭裁判所に遺産分割調停事件を申し立ることができます。
他にも、法律的な判断が求められるケースも調停になります。
遺産分割調停事件の申し立ては、相続人のうち一人でも申し立てることができます。
また時間的・経済的に現実的ではないケースの場合、遺産分割協議の案だけを最初に出して、内諾がとれたら遺産分割協議を郵送でまわして、署名・押印してもらうこともできます。
口約束は、「言った・言わない」のトラブルに発展してしまう可能性が大いにありますので、やめておきましょう。
遺産分割協議の内容は、かならず書面にして残しておいてください。
なお、不動産が遺産の中に含まれる場合は、不動産の所有権を、相続を原因として移転するときに、実印付きの遺産分割協議書が必要になります。
遺産分割調停の流れ
遺産分割調停の流れを確認します。
- (1)相続人と相続財産・遺言書の有無や内容確認等の調査をする
- (2)遺産の範囲を確定し遺産目録を作成する
- (3)遺産分割協議を提案する
協議に応じてもらえない場合や、協議がまとまらない場合は、以下に進みます。
- (1)遺産分割調停の申し立てが受理されると月に1回程度、調停が開催される
(調停が終わるまでの期間はおおよお1年〜1年半ほど) - (2)合意が得られなければ、裁判になることも
遺産分割調停に必要な書類
遺産分割調停に必要な書類は以下の通りです。
遺産分割調停に必要な書類
- ・遺産分割調停申立書
- ・遺産目録
- ・相続関係図
- ・その他必要に応じた書類
遺産分割調停のメリット
遺産分割調停のメリットについて見ていきます。
直接相手と話す必要がない
遺産分割調停では、相手と直接面と向かって話す必要がありません。
必要以上に感情的になり、ケンカになってしまうということがないので、話し合いが進みやすいのです。
他人に見られていると思うと、感情的になることにもブレーキがかかります。
手続きが簡単
裁判と比較すると、手続きが簡単で費用も少額で済みます。
調停は裁判ではなく話し合ってお互いの落とし所を見つけるというものです。
書面審理ではないですし、法律論で武装して戦うというものでもありません。
法律的に妥当な解決を目指せる
調停には、調停委員と調停官(裁判官)がついています。
当事者がもめていると、調停委員から解決案の提示がある場合があります。
調停委員から解決案を提示してもらうことで、お互いに現実的な解決策を目指しやすくなります。
裁判官がついているので、法律的に妥当な解決ができます。
遺産分割調停のデメリット
遺産分割調停も万能ではありません。
どのようなところにデメリットがあるのでしょうか。
一人でも反対したら調停不成立になってしまう
遺産分割調停では相続人全員が合意できないと調停が成立しません。
1年程度時間がかかる
調停が開かれるのは大体月に1回です。
すぐに合意に至ることは珍しく、調停が終わるのに1年程度、時間がかかることがあります。
相続の親族トラブルを回避したいなら弁護士への相談がおすすめ
相続人にできることは、相続トラブルが本格的に起こりそうだと思ったら、調停を起こすなど第三者の力を借りるようにすることです。
無茶な主張をする人がいたり、相続人のうち一人がなぜか無視されていたりする場合も調停を起こすことがおすすめです。
寄与分を主張する場合は、できたら生前にきちんと遺言書に寄与分について書いてもらうようにしてください。
あとからの主張だと、認められるまでに時間がかかります。
被相続人にできることは、形式・内容ともに整った公正証書遺言を作ることです。
公正証書遺言は、証拠能力が高く、公証役場に保管されますので、安心・確実です。
まとめ
今回は、遺産相続トラブルについてご紹介しました。
仲が良い親戚や兄弟姉妹であったとしても、遺産分割協議の時にはどうしても揉めてしまうことがあります。
それぞれに生活があり、お金が欲しい事情があるものを、自分たちだけの力で協議をまとめようとしても難しいかもしれません。
そこで、どうしても協議がまとまらない場合には、遺産分割調停をする事をおすすめします。
遺産分割調停は、裁判所で行う話し合いのようなものであり、裁判ではありません。
調停委員や、調停官がついてくれるので、単なる話し合いではなく、法律的にも適切な結論になるようにサポートしてもらえます。
また、調停は当事者同士が直接顔を合わせなくて済みます。
遺産相続でのトラブルを避けるためにできることは、相続人としては寄与分や特別受益に関する所などもめそうな事項については、あらかじめ遺言書に書いておいてもらうことができます。
また、被相続人としては、生前に公正証書遺言を作っておきましょう。
後に残される人たちが、遺産を巡って争いになってしまうことは、誰も望んでいないことでしょう。
今からできることをして、対策を打っておきましょう。