この記事でわかること
- 投資信託の相続税評価額の計算方法
- 投資信託の相続手続き・名義変更・売却の流れ
- 投資信託の相続におけるリスクと注意点
「投資信託は相続できるのか?」「現金化できるのか?」「積み立てNISAはどうすればよいのか?」など、様々な疑問を持っている人は少なくありません。
また、投資信託の評価額の算定や相続税、価格がタイミングによって変動する性質上、多くの注意点があります。
本記事では、投資信託の相続に必要な手続きや評価額の計算方法、注意しなければならないポイントをわかりやすく解説します。
相続人同士のトラブルや手続きの遅れを防ぐためにも、正しい知識を身につけて円滑な相続を目指しましょう。
目次
投資信託は相続できる?
投資信託は現金や不動産と同じく、相続財産として相続の対象となり、相続人が引き継ぐことができます。
相続の際は、遺言書の有無や法定相続人を確認し、遺産分割協議や遺言内容に従って相続人と相続分を決定します。
投資信託の相続の場合、まずは名義変更の手続きが必要です。
証券会社や金融機関に死亡届や戸籍謄本、遺産分割協議書などの書類を提出し、相続人名義へ移管します。
積立NISAで保有していた投資信託も同様に相続できますが、NISAの非課税枠は引き継げず、課税口座に移されます。
相続した投資信託は、そのまま保有し続けることも、売却して現金化することも可能です。
売却時は、譲渡益に対して所得税と住民税(20.315%)が課税されるため注意しましょう。
また、投資信託は生前贈与も可能ですが、贈与時点の評価額に基づき贈与税がかかるため、税金面の注意が必要です。
投資信託の相続税評価額の計算方法
投資信託を相続する際は、相続税評価額を正しく算出することが重要です。
評価額は投資信託の種類によって計算方法が異なります。
主な分類として、日々決算型投資信託、上場投資信託、一般的な投資信託があり、評価に用いる基準価額や控除項目が異なります。
ここでは、それぞれの手順について見ていきましょう。
日々決算型の投資信託
日々決算型投資信託(MRFやMMFなど)は、毎日決算が行われるタイプで、相続税評価額の計算方法はシンプルです。
MRFやMMFの相続税評価額は、ほとんどの場合、相続開始時に「持っている口数×1円」です。
もし未収分配金や手数料があれば、その分を足したり引いたりしますが、昨今の低金利ではほぼゼロなため、無視できる場合が多いでしょう。
具体的には、まず1口あたりの基準価額(通常1円)と保有口数を確認し、これを掛け合わせます。
次に、再投資されていない未収分配金があれば加算しましょう。
未収分配金に対しては、源泉徴収されるべき所得税相当額(20.315%)を差し引きます。
さらに、信託財産留保額や解約手数料が設定されている場合は、その分も控除しましょう。
ただし、外貨建てMMFは相続発生日の為替レートで円換算する必要があるので、その点は注意しましょう。
上場投資信託(ETFなど)
上場投資信託(ETFなど)の場合、評価対象となる価格は、以下の4種類から最も低い価格を選びます。
- 相続発生日の終値
- 相続発生月の取引日ごとの終値の平均値
- 前月の取引日ごとの終値の平均値
- 前々月の取引日ごとの終値の平均値
相続発生日が取引所の休日の場合は、直前または直後の取引日の終値を使用します。
また、複数の取引所に上場している場合は、一番安い取引所の価格を使うことができます。
次に、評価額の計算式によって、評価額を算出します。
計算式
評価額 = 最も低い価格 × 保有口数
ETFなどは市場価格が日々変動するため、評価額も大きく変動する可能性があります。
正確な評価額を出すためには、証券会社から発行される残高証明書や証券取引所の価格データを確認しましょう。
一般的な投資信託(公募型の非上場投資信託など)
一般的な投資信託の相続税評価額は、相続発生日の基準価額をもとに計算します。
2)被相続人が保有していた投資信託の口数を掛け合わせて、時価を計算する
3)再投資されていない未収分配金があれば、その金額を加算する
4)信託財産留保額や解約手数料が設定されている場合は、その分を控除する
5)取得費や譲渡費用を差し引いた含み益が生じる場合は、その含み益に対して譲渡所得税相当額(20.315%)を控除する
これらの計算を踏まえて、最終的な相続税評価額を算出します。
正確な評価のために、証券会社が発行する残高証明書などで基準価額や保有口数を確認しましょう。
投資信託の相続手続きの流れ
投資信託の相続手続きは、通常の銀行口座の手続きより時間がかかります。
余裕を持って進めましょう。
ここでは、投資信託の相続手続きの流れを具体的に解説していきます。
投資信託の相続手続き
投資信託の相続手続きでは、まず故人が保有していた金融機関へ連絡します。
それによって、被相続人名義の口座を凍結され、取引や入出金が停止されます。
次に、遺言書の有無を確認し、遺言書があれば内容に従い、なければ相続人全員で遺産分割協議を行い、分割方法を決定します。
分割方法が確定したら、金融機関に相続手続きを申請します。
戸籍謄本や遺産分割協議書、遺言書、相続人全員の印鑑証明書など、金融機関に指定された書類を準備し提出しましょう。
書類が確認されると、名義変更や資産の分配が進められます。
名義変更により引き継いだ投資信託は、相続人の判断でそのまま保有することも、解約して現金化することも可能です。
投資信託の移管
相続人が投資信託を引き継ぐ場合、故人の名義から相続人名義への移管手続きが必要です。
金融機関に相続手続きを依頼する際に、相続人名義の投資信託口座を開設することとなります。
複数の相続人で分割する場合は、各相続人がそれぞれ口座を用意しなければなりません。
必要書類をすべて提出し、金融機関が内容を確認した後、名義変更や資産の移管が行われます。
移管が完了すると、相続人は投資信託をそのまま保有し続けることも、売却して現金化することも可能です。
なお、名義変更や移管手続きが完了するまで、投資信託の売却や運用指示はできません。
手続きには一定の時間がかかるため、早めに対応しましょう。
投資信託を相続するときの注意点
投資信託を相続する際には、現金や預金とは異なる特有のリスクやコスト、税金の問題が発生します。
また、投資信託は価格変動が大きい場合があるため、相続人間でトラブルが生じやすくなるでしょう。
ここでは、投資信託を相続する場合のリスクや注意点について解説します。
解約や売却時のコストと税金
投資信託を相続して解約や売却を行う場合、商品によっては解約違約金や信託財産留保額が発生します。
これらは投資信託の種類や契約内容によって異なり、一般的には「なし」から「0.3%程度」の範囲で設定されています。
また、相続した投資信託を売却して現金化した場合、売却益(譲渡益)には譲渡所得税と住民税(合計20.315%)が課税されます。
この譲渡益は、被相続人の取得価額を引き継いで計算されるため、購入時よりも基準価額が上昇していれば課税対象となるでしょう。
解約手数料や税金の負担を最小限にするためには、事前に手数料体系や税務上の取り扱いを確認するとよいでしょう。
必要に応じて、専門家に相談することをおすすめします。
価格変動や分配方法と相続トラブルと贈与税リスク
投資信託は日々基準価額が変動するため、相続発生時、遺産分割協議、売却時で価値が大きく異なることがあります。
そのため、相続人間でトラブルの原因となることも少なくありません。
分配方法やタイミングについて相続人同士で十分に話し合い、合意を得ておくことが重要です。
相続人全員が現物分割により名義を変更し、それぞれが自分のタイミングで解約する方法も、トラブル防止策として有効です。
また、代償分割の場合、遺産分割協議書の書き方に注意が必要です。
代償分割は、代表相続人が一度に投資信託を相続し、後日売却して他の相続人へ現金で分配します。
しかし、遺産分割協議書に代償分割の記載がなく、後日任意で現金を渡すと贈与とみなされ、贈与税がかかってしまいます。
ただし、遺産分割協議書に「代償分割」と明記し、相続手続きの一環として支払うことが明確であれば、贈与税は原則かかりません。
代償分割する場合は、協議書に必ずその旨を明記しましょう。
まとめ
投資信託の相続には、専門的な知識や複雑な手続きが求められる場面が多くあります。
ご自身だけで判断せず、早めに相続や金融商品に詳しい専門家へ相談することが、トラブルや損失を防ぐ大きなポイントです。
特に、遺産分割協議や税金の取り扱い、名義変更の方法など、専門家のアドバイスがあるとスムーズに進むでしょう。
まずは信頼できる専門家に現状を伝え、具体的なアクションプランを立てることをおすすめします。