この記事でわかること
- 特定居住用宅地等とは
- 特定居住用宅地等の適用要件
- 適用する場合の具体例
土地を相続する際、小規模宅地等の特例を利用できる場合があります。
条件を満たすと、土地の評価額を50%または80&にまで減額することができる制度です。
小規模宅地等の特例の対象となる宅地には、特定居住用宅地等、特定事業用宅地等、貸付事業用宅地等の3つの種類があります。
中でも特定住居用宅地等は、自宅や実家に適用されるため、利用する場面の多いものです。
今回は、特定居住用宅地等の基本から適用条件、適用の具体例、必要書類まで詳しく解説します。
目次
特定居住用宅地等とは
小規模宅地等の特例として、特定居住用宅地等と認められるためには、様々な要件があります。
ここでは、特定居住用宅地等の定義や適用要件を具体的に解説します。
特定居住用宅地等の概要
小規模宅地等の特例には、以下の3つの宅地区分があります。
- 特定居住用宅地等:被相続人の自宅の敷地など、居住用に使われていた土地
- 特定事業用宅地等:事業で使われていた土地(店舗・工場など)
- 貸付事業用宅地等:賃貸住宅や駐車場など、貸付事業に使われていた土地
この中でも特定居住用宅地等とは、被相続人が住んでいた自宅の土地を、家族が相続する場合に使える制度です。
相続税の対象となる土地の評価額が上限330㎡まで最大80%%減額されるため、大きな節税につながります。
たとえば、評価額3000万円の宅地の場合、特例が適用されれば600万円と評価される計算になります。
制度を利用する場合には、税務署に所定の書類を添えて申告する必要があります。
ただし、特定居住用宅地等と認められるには、様々な要件を満たす必要があります。
要件について、詳しく解説していきましょう。
特定居住用宅地等の適用要件
特定居住用宅地等は、宅地を相続する人や、相続が発生する前後の居住状況などにより要件が異なります。
ここでは、以下の代表的な3つのケースに分けて、それぞれの適用要件を解説します。
- 配偶者や同居していた親族が相続する場合
- 別居していた親族が相続する場合
- 複数人で共有して相続する場合
それぞれのケースを詳しく見ていきましょう。
配偶者・同居する親族が相続する場合
配偶者や同居親族が宅地を相続する場合は、特例が最も使いやすいパターンのひとつです。
まず配偶者が宅地を相続する場合は、要件は特にありません。
居住状況に関わらず、特定居住用宅地等に該当するとされます。
一方で、同居していた家族が相続する場合は、以下の2つの要件を満たす必要があります。
- 相続した後も、相続税の申告期限まで特定居住用宅地等に建っている建物に住み続ける
- 相続税の申告期限まで土地を手放さない
相続税の申告期限までに手放した宅地は、特定居住用宅地等に該当しなくなるため注意しましょう。
なお、同居の要件について明確に定められたものはありません。
住民票が同じであることに加え、以下のような観点から総合的に判断されます。
- 日常生活の状況
- 住宅の構造
- 生活拠点や、他に保有する住宅の状況
別居する親族が相続する場合
別居していた親族が実家などを相続する場合でも、一定の条件を満たせば、特定居住用宅地等と認められる場合があります。
いわゆる家なき子特例です。
特例を受けるには、以下のような条件をクリアする必要があります。
- 被相続人の配偶者や同居の親族がいない
- 相続人が、相続の3年前までに、自分または自分の配偶者、3親等以内の親族、特別の関係がある法人のいずれの持ち家にも住んだことがない
- 相続税の申告期限まで相続した宅地を手放さない
- 相続開始時に住んでいた家について、過去に所有していたことがない
被相続人と別居し、マイホームを持たずに賃貸暮らしであることが家なき子特例の要件と言えます。
共有の場合
生前、被相続人と他の人が宅地を共有していた場合、被相続人の共有部分について、要件を満たす相続人が相続する場合は、小規模宅地等の特例が使えます。
たとえば被相続人と配偶者が共有する土地を、同居の子どもが相続する場合です。
また、相続人が複数いる場合、土地を共有で相続することがあります。
たとえば、兄弟3人で実家の土地を相続し、それぞれ3分の1ずつの持ち分とする場合です。
このような場合でも、要件を満たす相続人の相続分に関しては、特定居住用宅地等の特例を使うことは可能です。
共有者全員が要件を満たしていないと特例が使えない、ということはありません。
共有での相続は複雑になりやすいため、早めに相続人同士で話し合い、必要に応じて専門家に相談することをおすすめします。
特定居住用宅地等の具体例
特定居住用宅地等の特例がどのようなケースで使えるか否か、判断が難しいものです。
ここでは具体的な例を使って、現実に起こりやすい3つのパターンを解説します。
配偶者や同居の親族がいるが、別居の親族が相続するケース
別居の親族が自宅を相続することも少なくありません。
たとえば、被相続人と同居していた配偶者が高齢で実家を維持できないため、遠方に住んでいる子どもが家を相続するようなケースです。
この場合、配偶者がいるため家なき子特例は使えず、特定居住用宅地等とは認められません。
二世帯住宅で相続するケース
二世帯住宅の場合、区分所有登記の有無によって、特定居住用宅地等に該当するかが判断されます。
区分所有登記とは、一つの不動産を区分に分けて登記をすることです。
たとえば二世帯住宅の場合に、1階に両親、2階に息子夫婦が住み、別で登記をしているケースなどです。
二世帯住宅でも登記を分けていなければ、小規模宅地等の特例を適用できます。
しかし、区分所有登記をしている場合、たとえ同じ家に住んでいても、同居とはみなされず特例は使えません
被相続人が老人ホームに入っていたケース
生前、被相続人が老人ホームへ入居していた場合でも、以下の要件を満たすことで、特定居住用宅地等の対象となります。
- 被相続人が要介護または要支援認定を受けている
- 自宅が賃貸に出されていない
被相続人が老人ホームに入居後も、相続人が引き続き当該宅地に住み続けていれば、特例の対象となります。
特定居住用宅地等に小規模宅地等の特例を適用するとどのくらい減額される?
要件を満たし、特定居住用宅地等に該当すると相続税を大幅に減額することができます。
また、小規模宅地等の特例は、対象の宅地同士を併用することができるため、複数の土地を相続する場合は、減額効果が大きくなります。
ここでは具体的にどれほど減額できるのか、詳しく解説します。
減額の具体例
被相続人の自宅が評価額3000万円の土地であった場合を考えてみます。
同居していた長男が自宅を相続し、特定居住用宅地等の特例を使った場合、評価額は80%減額されて600万円になります。
特例を利用することで、負担を大きく減らすことができるのが大きな魅力です。
特定居住用宅地等と特定事業用宅地等を併用するケース
相続財産の中に自宅の土地と、事業で使っていた土地(店舗や工場など)がある場合、要件を満たしていれば、特定居住用宅地等と特定事業用宅地等を併用して特例を使うことができます。
この組み合わせでは、単純に足し合わせて計算できるため、最大730㎡まで評価額を減額できる可能性があります。
具体例で詳しく見ていきましょう。
たとえば、父親が亡くなり、自宅と家業である商店の敷地を相続したケースを想定します。
- 自宅の土地:330㎡(評価額4000万円)
- 店舗の土地:400㎡(評価額5000万円)
特例が適用されると、以下のようになります。
| 区分 | 面積 | 減額割合 | 評価額 | 減額後評価額 |
|---|---|---|---|---|
| 自宅 (特定居住用宅地等) |
330㎡ | 80% | 4000万円 | 800万円 |
| 店舗 (特定住居用宅地等) |
400㎡ | 80% | 5000万円 | 1000万円 |
| 合計 | 9000万円 | 1800万円 |
合計で約7200万円の評価減となり、相続税を大幅に下げることができます。
特定居住用宅地等と貸付事業用宅地等を併用するケース
貸付事業用宅地等とは、アパート経営や駐車場などで利用されていた貸付用の土地のことを言います。
適用要件に該当すると、土地の評価額が200㎡を上限に最大で50%まで減額されます。
具体例で詳しく見ていきましょう。
たとえば、被相続人が住んでいた自宅と、貸していた駐車場用地の両方を、同じ相続人が引き継ぐケースを考えます。
- 自宅の土地:150㎡(評価額4000万円)
- 駐車場の土地:200㎡(評価額3000万円)
ただし、貸付事業用宅地等がある場合、特例の適用面積に上限があることに注意が必要です。
面積の上限は以下の式で計算します。
- 特定居住用宅地等の面積×330分の200+貸付事業用宅地等の面積≦200㎡
今回のパターンを計算式に当てはめてみましょう。
- 150×330分の200+200=290㎡
上限の200㎡を超えているため、調整が必要です。
減額割合の大きい特定居住用宅地等を優先する場合、貸付事業用宅地等の面積の上限は以下のようになります。
- 200-150×330分の200=110㎡
自宅の土地は90㎡、駐車場の土地は110㎡まで特例を適用できるということになります。
もし貸付事業用宅地等の200㎡を優先すると、特定居住用宅地等の特例は適用されません。
どちらがよいか判断が難しい場合は、専門家に相談しましょう。
特定居住用宅地等に小規模宅地等の特例を適用する添付書類

特定居住用宅地等に該当する場合に、特例を適用するには、相続税の申告書と合わせて必要書類を添付して申請が必要です。
主な必要書類は以下のとおりです。
- 小規模宅地等に係る計算の明細書
- 土地の評価明細
- 遺産分割協議書または遺言書の写し
- 相続人全員の印鑑証明書
- 被相続人のすべての相続人を明らかにする戸籍の謄本
申告期限内に遺産分割協議が終わらず、申請が間に合わない場合は、申告期限後3年以内の分割見込書を添付することで、小規模宅地等の特例が申請できます。
家なき子特例の適用を受ける場合は、さらに以下の書類が必要です。
- 相続開始前3年以内に自分または自分の配偶者、三親等内の親族、特別の関係がある一定の法人の所有する家屋に住んでいないことの証明(相続家屋の登記簿謄本、借家の賃貸借契約書など)
- 相続開始時に居住している家を、相続開始前に所有していたことがないことの証明(戸籍の附票の写しなど)
まとめ
特定居住用宅地等の特例は、相続税の負担を大幅に減らすことのできる制度です。
ただし、特例を適用するには、様々な要件を満たしている必要があります。
事前に適用要件を理解しておくことで、相続前から対策をとることができるでしょう。
相続発生後も、相続税納付まで要件を満たしている必要があるため、要件をよく確認しましょう。
特例が適用できるか判断が難しい場合は、早めに税理士などの専門家へ相談することをおすすめします。















