この記事でわかること
- 特別縁故者とは
- 特別縁故者の申し立ての流れ
- 特別縁故者になる際の注意点
相続人に当たらない人でも、一定の条件を満たせば遺産を受け取れる制度をご存知でしょうか?
- 内縁の相手が亡くなってしまった
- 血族関係のない人の介護を行っていて、その方が亡くなった
このような方が相続財産を受け取れる可能性があるのが『特別縁故者(とくべつえんこしゃ)』の制度です。
今回は、特別縁故者と認められる条件や手続きの流れを解説していきます。
相続税等に関する注意点も紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
なお、本記事は以下のとおり、2023年(令和5年)4月1日の改正民法施行に対応しています。
- 本制度における『相続財産管理人』の名称が、改正後は『相続財産清算人』に変更されました。
- 改正前は、相続財産管理人(改正後の名称は相続財産清算人)の選任から相続人捜索終了まで最短10カ月を要しましたが、改正により6カ月に短縮されています。
- 民法958条の3は、削除されています。
これらを踏まえて、最新の情報をお伝えします。
特別縁故者とは
特別縁故者とは、被相続人(亡くなった人)に相続人がいない場合に、特別に相続財産を受ける権利がある人を指します。
同居していた内縁の相手や、生前に療養看護に携わった者などが特別縁故者として認められる可能性があります。
ただし、これらの者に当然に相続の権利があるわけではなく、家庭裁判所に請求して特別縁故者として認められなくてはなりません。
特別縁故者として認められる要件や手続きの流れについて、詳しく解説していきます。
特別縁故者の要件
特別縁故者として認められるには、以下のいずれかに該当する必要があります(民法958条の二)。
- 被相続人と生計を同じくしていた者
- 被相続人の療養看護に努めた者
- その他被相続人と特別の縁故があった者
最終的には、家庭裁判所への申請により裁判所が判断します。
では、特別縁故者の要件を1つずつ詳しく解説していきます。
被相続人と生計を共にしていた者
『被相続人と生計を同じくしていた者』とは、次のような人を指します。
- 内縁の夫・妻
- 養子縁組手続きをしていないが、事実上の(養)親子関係がある者
内縁とは、婚姻届けを出していないが同居して夫婦同様の生活を送っている者を言います。
婚姻届を出す予定の有無は問いません。
事実上の養親子関係とは、配偶者に前夫(前妻)との連れ子がいた場合が代表的なケースです。
たとえば、AとBが結婚し、Bに前夫との子Cがいた場合、連れ子CはAの直接の相続人になりません。
(A → Bの順で亡くなれば、AからB、BからCの順に相続が発生します。
Bが亡くなるとCはBから相続しますが、その後にAが亡くなった際にCはAから相続しません)
このようなケースで、CとAが同居しているなど、生計を共にして養親子関係があれば特別縁故者と認められる対象になります。
被相続人の療養看護に務めた者
被相続人の看護や介護などをしていた者も、特別縁故者として認められる可能性があります。
ただし、仕事として介護・看護を行う者(看護士や介護士・家政婦等)は対象外です。
その他被相続人と特別の縁故があった者
『その他被相続人と特別の縁故があった者』とは、先に紹介した『同一生計』や『療養看護』以外で特別の縁故があった者を言います。
詳細は民法で決められているわけではなく、該当するか否かは裁判所の判断次第になります。
実際に認められた事例としては、以下のようなものがあります。
- 被相続人の身元引受人や後見人となっていた者
- 長年にわたり仕送りをしていた者
- 生前、事業に協力するなど実の親子関係に近い関係にあった者
- 被相続人との特別縁故が認められるに疑いのない継母と、被相続人の死後に養子縁組をして、祭祀および相続財産の管理を行ってきた者
特別縁故者として認められなかった例としては、次のようなものがあります。
- 被相続人の死後に、財産管理を開始し祭祀(葬儀)を行った者
- 内縁関係にあったが、重婚的な内縁関係であった者
法の趣旨として、特別縁故者制度は相続人と類似する関係があった者に相続財産の移転を認めるものです。
そのため、判例としても生前からの縁があった者に限られています。
法人も対象になる
特別縁故者として、公益法人・学校法人・宗教法人等のほか、地方自治体等も認められる場合があります。
実例としては、路上で行き倒れとなっていた知的障害の者を「市」の判断で保護して、18年間にわたり生活資金等を支給して療養看護してきたところ、市がこの者の特別縁故者と認められた事例などがあります。
特別縁故者になるための申立の流れ・必要書類
特別縁故者になる申立ての流れは以下のとおりです。
- 相続財産清算人の選任
- 相続人・受遺者・債権者の捜索
- 特別縁故者の申立て・財産分与請求
- 特別縁故者の認定
では、手続きの流れをおおまかに解説していきます。
相続財産管理人の選任
特別縁故者の申立てを行うには、前提として、以下の者を捜索する必要があります。
- 本来の相続人
- 遺贈(遺言による贈与)がある場合には、その譲受人(受遺者)
- 被相続人に対する債権者
これらの者は、特別縁故者より優先して相続財産を受け取る権利がある者です。
被相続人に相続人がいない場合、または明らかでない場合に、まずはこれらの者を探す手続きを行うため、初めに家庭裁判所に『相続財産清算人選任の申立て』を行います。
相続人がいない場合とは、本来の相続人が相続放棄した場合も含まれます。
相続財産清算人には、主に弁護士が選任されます。
相続人・受遺者・債権者の捜索
相続財産管理人が選任されると、6カ月以上の期間を定めて相続人の捜索が行われます。
同時に上記6カ月の期間の範囲内で、受遺者および債権者の捜索が2カ月以上の期間を定めて行われます。
特別縁故者の申し立てが可能になるのは、これらの期間満了後になります。
相続人が見つかった場合
相続人捜索の期間内に相続人が見つかり、その相続人が相続の承認を行うと、相続が行われて清算人による相続財産の管理は終了します。
この場合、特別縁故者の申し立てはできなくなります。
相続人が見つかった場合でも、その相続人が相続放棄を行った場合等は、引き続き他の相続人や債権者の捜索が行われ、手続きは継続されます。
受遺者・債権者が見つかった場合
受遺者・債権者が見つかった場合は、受遺者に対しては遺言通りの財産の引き渡し、債権者については弁済が行われます。
すべての遺贈・弁済等が終わって財産が残る場合には、特別縁故者が譲り受ける可能性のある財産として残ります。
特別縁故者の申し立て・財産分与請求
相続人・受遺者・債権者捜索の期間が満了して該当者が現れなかった場合、または弁済等を行っても相続財産が残る場合には特別縁故者の申し立てが可能になります。
特別縁故者の認定
特別縁故者の申し立てを行い家庭裁判所が相当と認めると、相続財産の全部または一部が特別縁故者に引き渡されます。
特別縁故者申し立ての必要書類
特別縁故者の申立てをする際は、一般的に以下のような書類が必要です。
- 申立書
- 申立てをする人の戸籍謄本(法人の場合には履歴事項全部証明書等)
- 被相続人の戸籍(除籍)謄本
- 特別な縁故にあることを証する資料
- 相続財産目録
- 親族関係図(親族申立ての場合のみ必要)
申請の際には切手の予納についての確認も必要なため、事前に管轄の家庭裁判所に連絡し、書類及び費用の確認を行いましょう。
特別な縁故にあることを証する書類とは
特別縁故者にあることを証する書類とは、各要件である『生計が同一』『療養看護をしていた』『その他の特別の縁故があること』を証明するための書類です。
一例として、以下のような書類が該当します。
- 住民票
- 被相続人が支払うべき公共料金や税を支払っていた場合には、その領収書や口座引落としの履歴を示す通帳等
- 仕送りを行っていた場合はその履歴がわかる通帳等
- 被相続人が財産を譲る旨の手紙やメールを作成していた場合は、その書類
- 内縁関係である場合、その旨がわかるLINEやメールのやり取り等
何を提出するかは法律で特定されているわけではないため、該当する要件に合わせ、その事実を示す書類を可能な限り用意します。
特別縁故者申立てにかかる費用
特別縁故者の申立てをする際は、以下の費用がかかります。
- 相続財産清算人選任申立費用 約8,000円
- 特別縁故者の申立費用(収入印紙で納付 800円)
- 連絡用の切手代(裁判所によって異なる)
申立て後は、裁判所と何度か書面でのやりとりを行う場合があり、その際の切手を予納します。
費用は、事前に管轄の家庭裁判所へ確認しましょう。
特別縁故者になるときの注意点
特別縁故の申請における主な注意点は次のとおりです。
- 申立て期限がある
- 手続き完了まで数カ月かかる
- 法定相続人等に適用される各種相続税の優遇がない
では、一つずつ詳しく解説していきます。
申立て期限がある
特別縁故者の申立て期限は、相続人等捜索期間満了後の3カ月以内と定められています。
手続き完了まで数カ月かかる
特別縁故者の申立てには、これまで解説したとおり相続財産清算人の選任や相続人捜索等の期間がかかります。
また、他の縁故者からの申立ての可能性もあるため、特別縁故者の申立てを行ってもすぐに決定されることはなく、3カ月の申立て期限も満了する必要があります。
相続財産清算人の選任から数えると、9カ月以上の期間がかかる手続きであると認識しておきましょう。
また相続開始時点では相続人が存在したが、相続放棄によりいなくなったというケースでは、被相続人の死後、相続放棄の手続きにかかる時間もあります。
この場合には、相続財産清算人の選任以前に、被相続人の死後から数えて3カ月~経過しているケースも考えられます。
法定相続人等に適用される各種相続税の優遇がない
特別縁故者は、家庭裁判所が認めた場合に相続財産を受け取る制度であり、法定の相続ではありません。
税法上、法定相続人に認められる控除等が特別縁故者には認められない点に注意しましょう。
注意しなければならない税法上の取扱いには、次のようなものがあります。
- 法定相続人の基礎控除がない
- 相次相続控除がない
- 配偶者控除がない
- 障害者控除がない
- 2割加算の対象である
それぞれについて、簡単に解説していきます。
法定相続人の基礎控除がない
相続税には「3,000万円+(法定相続人の数×600万円)」という基礎控除があります。
特別縁故者は法定相続人ではないため、特別縁故者の基礎控除は3,000万円のみになります。
相次相続控除がない
相次相続控除とは、10年の間に2回以上相続があった場合、一定額が控除されるという制度です
特別縁故者には、この相次相続控除も適用されません。
配偶者控除がない
特別縁故者は、たとえ内縁であっても配偶者ではないため、配偶者控除は適用されません。
障害者控除がない
障害者控除とは、相続人が障害者である場合に次の控除が受けられる制度です。
- 一般障害者の控除額 10万円×(85歳-年齢)
- 特別障害者の控除額 20万円×(85歳-年齢)
特別縁故者の場合、この障害者控除も対象外になります。
2割加算の対象である
特別縁故者は、配偶者や1親等の親族等にあたらないため、相続税2割加算の対象です。
まとめ
特別縁故者とは、法定相続人に当たらない者が相続財産を得られる可能性のある制度です。
特別縁故者となるには、近しい者として法律で定められた要件をクリアし、家庭裁判所に認められる必要があります。
本来の相続人が見つかった場合等も対象外となる点や、税法上の優遇もない点に注意しましょう。
申立ての手続きには期間制限があり様々な書面の用意も必要なため、専門家に依頼するのがスムーズです。
特別縁故者の申し立てを専門家に依頼する場合、代理申請は弁護士が、提出書類の作成のみであれば司法書士が行うことが可能です。
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