この記事でわかること
- 特別縁故者とはどのような人を指すのか知ることができる
- 特別縁故者になるために必要な要件を知ることができる
- 特別縁故者になるとどのような税金が発生するのかがわかる
相続が発生した時に、特別縁故者となる人がいるケースがあります。
特別縁故者になる人がいると、相続の際にどのような違いがあるのでしょうか。
また、特別縁故者となるにはどのような要件を満たす必要があるのでしょうか。
ここでは、特別縁故者になるための手続きの流れや、特別縁故者になるとかかる税金についても解説していきます。
目次
特別縁故者とは
相続が発生すると、遺言など特別の指定がなければ、法定相続人が遺産を相続することとなります。
ただし、被相続人の中には結婚していない、あるいは子がいないことで法定相続人がいない人もいます。
そこで、亡くなるまで被相続人の面倒をみていた人が、被相続人の残した財産を相続することがあります。
このように、被相続人の遺産について特別に相続を受けられる人のことを、特別縁故者といいます。
生前に遺言や死因贈与などの方法で、被相続人の死後に遺産を譲り受けることを決めている場合は、特別縁故者になる必要はありません。
しかし、そうでない場合には、特別縁故者にならなければ遺産を譲り受けることはできません。
特別縁故者の適用要件
特別縁故者となれば遺産を相続することができますが、誰でもなれるわけではありません。
特別縁故者になるには、どのような要件があるのでしょうか。
被相続人と同一生計にあった人
被相続人と同居していた人や、被相続人により生計を維持されていた人は、特別縁故者になることができます。
具体的には、被相続人の内縁の配偶者や、法律上の養子縁組はしていないものの、事実上の養子・養親にあたる人などです。
実の子ではないが、甥や姪を自身の子のように育ててきた場合などは、特別縁故者になることができる可能性があります。
過去の裁判では、亡くなった子の配偶者が特別縁故者と認められた事例もあります。
被相続人の療養看護を行った人
被相続人が亡くなる前に、その被相続人の病気療養や介護に貢献した人は、特別縁故者になることができます。
被相続人が自宅で過ごした場合は、被相続人と一緒に生活する、あるいは頻繁に通って療養介護を行った場合に対象となります。
また、被相続人が入院している場合や、介護施設で生活していた場合もあります。
この場合は、施設に定期的に通って、被相続人の世話をすることが求められます。
療養看護を行った人は、親族である必要はありません。
ただ、看護師や介護士など、報酬をもらって業務として行った人はここから除かれ、特別縁故者にはなりません。
その他被相続人と特別の縁故があった人
同一生計、療養看護という2つの要件の他、特別縁故者として認められる可能性のある人がいます。
たとえば、被相続人から「自分が死んだら土地を譲る」といった約束をされていた人です。
このような約束を遺言書でしていた場合は、問題なくその遺言書にしたがって財産を譲り受けることができます。
ただ、遺言書がない場合でも、そのような約束があったことが明らかになれば、特別縁故者となることがあります。
さらに、被相続人と特別に密接な関係にあった人は、特別縁故者になる可能性があります。
友人や知人であった人、生前に被相続人から金銭援助を受けていた人などは、特別縁故者として認められる可能性があります。
法人も特別縁故者になれる
相続が発生した場合には、法定相続人となるのは自然人、つまり個人の人だけです。
これに対して、特別縁故者となることができるのは自然人に限らず、法人なども含まれます。
法人の中で、地方公共団体、学校法人、宗教法人、公益法人、社会福祉法人などは特別縁故者と認められることがあります。
ただ、どのような法人でもいいというわけではなく、被相続人が経営や設立に深く関わっていることが求められます。
相続人がいる場合は認められない
特別縁故者となり得る人がいる場合でも、法定相続人がいれば、特別縁故者として認められることはありません。
この点は、被相続人が誰に生活の面倒をみてもらっているかといった事情は関係ありません。
たとえば、長年音信不通の子と、同居している内縁の妻がいる場合を考えてみます。
この場合、被相続人が亡くなるまでの間、被相続人の世話をしていたのは内縁の妻です。
しかし、音信不通の子であっても、法律上は法定相続人となります。
その結果、法定相続人である子がすべての遺産を相続し、内縁の妻は何も相続できないこととなります。
どうしても内縁の妻に遺産を引き継いでほしいと考える場合は、遺言書を作成するようにしましょう。
特別縁故者の申し立ての流れ・必要書類
特別縁故者として認められるためには、裁判所で必要な手続きを行う必要があります。
具体的に、どのような手続きをどのような流れで行うのか、解説していきます。
相続財産管理人を選任する
亡くなった人がいて相続が発生した場合のうち、相続人がいない場合、あるいは相続人がいるかどうかわからない場合があります。
このような場合には、家庭裁判所に相続財産管理人の選任の申立てを行います。
相続財産管理人の選任の申立ては、家庭裁判所に対して相続人がいないかもしれないということを報告する意味合いがあります。
特別縁故者の他、被相続人にお金を貸していたが返してもらう前に亡くなった場合に、債権者が申し立てる場合もあります。
申立てを行う際に必要な書類は、以下のとおりです。
- 被相続人の出生から死亡迄の連続した戸籍謄本
- 被相続人の住民票除票または戸籍の附票
- 預貯金の通帳、不動産の登記簿謄本、有価証券の残高明細などの財産関係書類
- 被相続人との利害関係を明らかにする書類(被相続人と同居していたことがわかる住民票、被相続人の生前に行った看護や介護の記録、被相続人の残したメモなど)
- 申立書
相続人を捜索する
相続人がいないと思っていても、実際に法定相続人がいないとは限りません。
中には、生き別れの兄弟がいることや、隠し子がいる可能性もあります。
そこで、本当に相続人となる人がいないのか、相続人の捜索が行われます。
相続人の調査は、官報公告により行われます。
官報によって、被相続人に遺産相続が発生しているため、相続人は申し出るように通告します。
もしこのタイミングで法定相続人が見つかれば、その人がすべての遺産についての相続権を有することとなります。
そのため、特別縁故者を選任する手続きは必要なくなります。
債務の支払い、受遺者への遺贈を行う
被相続人が債務を抱えたまま亡くなった場合、相続財産管理人となった人は遺産から債務の支払いを行います。
また、被相続人が遺言書を作成しており、特定の人に対する遺贈が発生している場合も、相続財産管理人が支払いを行います。
いずれも、相続財産管理人となった人は、特別縁故者が申立てを行う前に遺産から支払いを行うこととなります。
相続人の不存在が確定する
相続人を捜索するための官報公告は、6か月間の期間にわたって行われます。
この間に相続人であると名乗り出る者がいた場合、その人が相続人となる可能性があります。
一方、名乗り出る人がいないまま公告期間の6か月間が経過すると、相続人が存在しないことが確定します。
特別縁故者への遺産分与の申立てを行う
相続人の不存在が確定すると、遺産に対して相続権を有する人はいないこととなります。
この場合、特別縁故者となる要件を満たす人がいれば、申立てにより遺産を分与してもらえる可能性があります。
特別縁故者となった人は、相続人の不存在が確定してから3か月以内に、特別縁故者への遺産分与の申立てを行うことができます。
この3か月の期限を超えてしまうと、どのような状況にあった人でも、特別縁故者としての遺産の分与を受けることはできません。
特別縁故者への遺産分与の申立てに必要な書類は、以下のとおりです。
- 申立人の住民票または戸籍の附票
- 被相続人の戸籍(除籍)謄本
- 申立書
特別縁故者になるとかかる税金
特別縁故者になった人が、被相続人の遺産を受け取ると相続税がかかります。
ただ実際には、相続税の計算には基礎控除と呼ばれる金額があるため、税金が発生する場合と発生しない場合があります。
また、相続税には様々な特例が設けられていますが、特別縁故者には適用されないものもあります。
特別縁故者が注意すべき相続税の決まりについて、解説していきます。
基礎控除の計算方法
相続税の計算を行う際は、すべての相続財産の評価額の合計から基礎控除額を差し引いた後の金額が、課税対象となります。
したがって、基礎控除額が相続財産の評価額を上回る場合には、課税対象となる金額は発生しません。
基礎控除額は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します。
ただし、特別縁故者が遺産を引き継ぐ場合は、法定相続人はおらず、また特別縁故者は法定相続人ではありません。
したがって、特別縁故者が遺産を引き継ぐ場合は、基礎控除額は必ず3,000万円になります。
つまり、相続財産の合計額が3,000万円以下であれば、相続税はかかりません。
基礎控除の金額の計算方法について、特別縁故者が遺産を引き継ぐ場合は注意が必要です。
相続税の2割加算
特別縁故者が遺産を相続した場合、相続税が発生する可能性があります。
この時、発生する相続税の金額に注意が必要です。
被相続人の一親等の血族や配偶者以外の人が遺産を受け取り相続税が発生した場合、その税額は2割加算されます。
その結果、本来の税額の1.2倍の相続税額となり、特別縁故者の負担はより大きくなります。
適用されない特例が数多くある
相続税の計算を行う際には、相続人の負担が少しでも小さくなるよう、様々な特例があります。
ただし、特例の多くは法定相続人が相続した場合を想定して作られており、特別縁故者には適用されません。
特別縁故者が遺産を引き継いでも、適用されることのない相続税の特例は以下のとおりです。
- 配偶者の税額控除
- 未成年者控除
- 障害者控除
- 小規模宅地等の特例
- 相次相続控除
相続税以外の税金
特別縁故者として遺産を引き継いだ場合、相続税以外に不動産取得税がかかります。
法定相続人が不動産を相続した場合、不動産取得税は発生しません。
しかし、特別縁故者が不動産を引き継いだ場合は、法定相続人が相続した場合とは区別されています。
その結果、不動産取得税が発生することとなるので、注意しましょう。
まとめ
生涯独身である人や、結婚しても子供がいない人の中には、法定相続人がいない状態となっている人がいます。
法定相続人がいないと、遺産は最終的に国庫に帰属することとされますが、特別縁故者がいればその人が引き継ぐことができます。
ただ、特別縁故者として認められるための要件を満たす必要があり、誰でも特別縁故者になれるわけではありません。
また、相続人がいないと思っていた人に相続人が現れる可能性もあるため、定められた手続きを着実に実行する必要があります。