この記事でわかること
- 遺産分割と第三者への資産の譲渡のいずれが優先されるのかがわかる
- 遺産分割前と後で第三者が保護されるかどうかを知ることができる
- 法定相続分を超える第三者への譲渡は保護されないことがわかる
目次
遺産分割の第三者の保護とは?
相続が発生すると、それまで被相続人の財産だったものは相続人の財産になります。
相続人が何人もいる場合は、法定相続分を持分とした共有財産となります。
一方で、遺産分割により、実際にその遺産を相続する人を決める手続きが行われ、法定相続分とは異なる形で相続人が決定されることもあります。
そこで問題となるのが、遺産分割の前後に自身の相続分を第三者に売却した相続人がいる場合です。
法定相続分を売買すること自体に違法性はなく、相続人の立場からすると、自身の法定相続分があるのは当然であることから、それを売却しても問題はないといえます。
ここで適用されるのが、民法909条です。
遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。
この規定により、第三者の権利が保護されるのか、あるいは遺産分割で権利を取得した相続人の権利が保護されるのかを、確認していきましょう。
遺産分割前の第三者とのトラブル
まずは、遺産分割が行われる前に、第三者に遺産を売却した場合で考えてみましょう。
具体的な例としては、以下のようになります。
事例
- 父が亡くなり、法定相続人はAとBの兄弟2人である
- 父名義の土地と預貯金が遺産であり、このうち土地は法定相続分で登記を行った
- 相続開始から3か月後に、土地の法定相続分である2分の1についてBが第三者であるCに売却して登記した
- 遺産分割協議により、土地はAがすべてを相続することとした
以上のようなケースにおいて、土地を購入したCと相続したAのいずれが保護されるのかが問題となります。
遺産分割の効力はさかのぼる
民法第909条の条文にあるように、遺産分割の効力は相続開始の時にまでさかのぼるとされています。
つまり、このケースでは遺産分割により土地をAが単独で相続したため、はじめからAがその土地を所有していたこととなるのです。
Aが単独で所有していた土地を、Bが勝手に売却することはできないことから、Bから購入したCの権利は認められないのです。
第三者に登記がある場合は結論が変わる
ただし、第三者として土地を購入したCが、その取得にもとづいて登記を行っていた場合は例外です。
この場合、民法第909条の但し書きが適用されます。
ただし、第三者の権利を害することはできない。
引用:民法第909条ただし書
この但し書きが適用されると、遺産分割でAが相続したとしても、遺産分割前に購入したCの権利が保護されるのです。
民法には登記が必要とは書かれていませんが、登記が必要だということは広く一般的に認識されています。
遺産分割後の第三者とのトラブル
一方で、遺産分割が完了した後に法定相続分を第三者に売却した場合、第三者と相続人の関係はどのようになるのでしょうか。
以下の事例で考えてみましょう。
事例
- 父が亡くなり、法定相続人はAとBの兄弟2人である
- 父名義の土地と預貯金が遺産であり、このうち土地は法定相続分で相続登記を行った
- 相続開始から5か月後、遺産分割によりAが土地、Bが預貯金を相続することとした
- Bが自ら相続したものと思わせて、第三者Cに土地の1/2を売却した
このような場合に、土地を購入したCと遺産分割で取得したAの権利が対立することとなるのです。
この場合ポイントとなるのは、遺産分割協議でAが土地を単独で取得することとなった後、いつ登記を行ったのかです。
今回は2つのケースから土地を購入したCの所有権がどうなるかをみてみましょう。
- ケース1:遺産分割協議後すぐにAが土地の登記を行った場合
- ケース2:遺産分割相続後、Aが土地の登記を行う前に土地の売買が成立した場合
それでは1つずつ解説します。
遺産分割後に速やかに登記を行った場合
遺産分割協議が終了してすぐにAが土地の所有権についての登記を行えば、その土地にBが権利を有していないことは確認できます。
この場合、Bは何の権利も有していないので、そのBから購入したCが保護されることはありません。
仮にCが登記を見ていなかったとしても、そのこと自体が不注意であるため、保護されるべきとは考えられていないのです。
そのため、Cはその土地に対する権利を有していないこととなります。
遺産分割後の登記より先に売買が成立した場合
ただ、Aが単独所有となったことを示す登記が速やかに行われなかった場合は、事情が異なります。
土地の登記上は、AとBがそれぞれ1/2ずつの所有権を有していると記載されているためです。
Bがその土地の1/2の所有権を有していると登記でも確認できたため、CはBが土地の所有者であることを信じて疑いません。
そのため、CはBからその持分を購入することとしたのです。
この場合、登記に記載された内容を信じたCは保護されます。
そして、CがBから取得した所有権について登記を行えば、遺産分割協議で取得したAにも対抗することができるのです。
結果として、Cの方が先に登記を行えば、その土地の1/2についてはCが所有権を有することとなります。
法定相続分を超える譲渡について第三者は保護されない
相続した土地を遺産分割協議前と後に譲渡した場合、その譲渡の相手方である第三者が保護されるケースがあることがわかりました。
次に、法定相続分を超えて売却した場合には、その相手方である第三者は保護されるのか考えてみましょう。
事例
- 父が亡くなり、法定相続人はAとBの兄弟2人である
- 父名義の土地と預貯金が遺産であり、土地は法定相続に応じて1/2ずつ相続登記を行った
- 相続開始から8か月後、遺産分割によりAが土地、Bが預貯金を相続することとした
- Bが土地をすべて相続したものと思わせて、第三者Cに売却した
このようなケースで、土地を購入したCは保護されるのかが問題となります。
法定相続分を超えた売却は無効
Bは、相続でその土地をすべて手に入れたとCに対して説明するものと推測できます。
しかし、CはBから口頭以外の方法で説明を受けると、Bの説明は矛盾していることに気づくはずです。
土地の相続登記の状態を見れば、Bの所有分は1/2しかないことがわかります。
また、遺産分割協議書には、Bが土地を相続したことは一切書かれていません。
そのため、CがBからその土地のすべての所有権を取得することはできないことに気づき、その取引は行われないはずなのです。
もし、このような注意を怠ったまま、Bから土地を購入したと主張しても、Cは保護されません。
Bが登記上の権利を有する1/2を超える部分については、Cは何ら効力を有していないこととされるのです。
この場合、Bの法定相続分を超える部分については、もともとBは登記の上でも権利を有していません。
そのため、Cが土地全体を購入したつもりでも、その登記は非常に困難なものになります。
また、仮にCが土地全体の所有権を得たものとする登記が行われても、Aが有する1/2の持ち分についてはAが優先されるのです。
まとめ
遺産分割協議が成立するまでは、相続開始から数か月以上の時間がかかるのが普通です。
その間、亡くなった人の登記のままになっていたり、法定相続分で登記を行ったりすることとなりますが、譲渡することもできます。
しかし、遺産分割協議と譲渡の時間の流れを整理し、誰がその土地に対して権利を有しているのか、確認する必要があります。
また、遺産分割協議が成立したら、放置せず速やかに登記を行うことが非常に重要なのです。
もし相続された土地を購入することが自分に起きた場合は、土地の登記がどうなっているかをチェックすることも忘れないで行いましょう。