この記事でわかること
- 定期贈与について理解できる
- 定期贈与について注意すべき点に自分で注意できる
- 定期贈与と連年贈与の違いがわかる
定期贈与は相続税対策の一環として、財産を生前に譲る方法の一つです。
生前贈与は、亡くなる前に財産を無償で譲ることです。
生前贈与によって相続時の財産が減少し、相続税の軽減を図ることができます。
ただし、生前贈与の方法によっては相続と同じ扱いになり、税金がかかるケースもあります。
ここでは、定期贈与について詳しく説明し、定期贈与と連年贈与の違いについても解説します。
目次
定期贈与とは
「定期贈与」とは、定まった期間に規則的な支払いを行う贈与のことです。
たとえば、毎年10年間にわたって100万円ずつ贈与するといった場合がこれに該当します。
こういった場合は、1,000万円を10回に分割したものとみなされ、毎年の贈与金額ではなく総額1,000万円に対して贈与税がかかります。
贈与税の率は贈与される額によって変わり、最高税率として6億円を超えると55%になります。
定期贈与の贈与税は、一般的な相続税よりも重くなることがありえるということです。
相続税の負担を軽くしようとして定期贈与をする人もいますが、逆に税額が増えてしまうことがあるので注意が必要です。
定期贈与と連年贈与の違い
「連年贈与」とは毎年贈与することを指し、贈与税は1年間に受け取った金額の合計から110万円を差し引いた金額にかかります。
110万円未満の贈与は、基礎控除内の金額ですので税金がかかりません。
たとえば、親から子供が1,000万円を受け取ると、贈与税は177万円です。
しかし、1000万円を年間110万円未満の分割贈与にすると、贈与税はゼロ円になります。
特に若い世代なら、一気に贈与するよりも年間110万円未満ずつ贈与する方がおすすめです。
連年贈与と定期贈与は、毎年贈与することは同じですが違いもあります。
連年贈与においては毎年贈与が行われるものの、あらかじめ取り決めがなく、偶発的な贈与のことを指します。
一方で、定期贈与はあらかじめ取り決めがあり、毎年定期的に贈与が行われていることです。
贈与税の課税対象額も異なります。
連年贈与では毎年の贈与額が対象となり、定期贈与では贈与の合計額が対象となります。
定期贈与とみなされる条件
定期贈与とみなされる贈与には、以下の条件があります。
- 毎年同じ金額を贈与している
- 毎年同じ時期に贈与している
- 贈与契約書を作成していない
- 銀行振り込みなどの証拠が残る方法ではなく手渡している
暦年贈与で相続税対策を行う場合、複数年にわたる贈与が一般的です。
しかし、税務署に「定期贈与」とみなされないように注意が必要です。
複数年で一定額を贈与する際、一括で贈与しようとしたのを分割しているのではないかと疑われることがあるからです。
暦年贈与を定期贈与と判断されないようにする方法
「定期贈与」とされないようにするには、定期贈与の定義に合致しない贈与方法を取る必要があります。
この章では、そのための具体的な対策を説明します。
金額を毎年変える
同じ金額を何年も贈与すると、税務署に「定期贈与だ」と見なされるリスクが高まります。
毎年異なる金額を贈与し、変化を加えるのがいいでしょう。
たとえば、1年目に100万円、2年目に105万円、3年目に90万円といった具合に毎年贈与額を変えてみるということです。
時期を毎年変える
毎年同じ時期に贈与すると、前もって贈与することが決まっていたように見えます。
そのため、毎年行う贈与のタイミングを分散させるといいでしょう。
たとえば、1年目は4月に、2年目は6月と8月に分けて贈与するようにします。
贈与税を敢えて申告する
毎年110万円以上の贈与を行い、その度に贈与税を申告・納付することは、定期贈与とみなされないためには非常に有効です。
たとえば、111万円を贈与すると、基礎控除の110万円を差し引いた1万円に10%の税率がかかり、税額は1,000円になります。
贈与税がすでに支払われている場合に、税務署が後から定期贈与として追加徴収することはまれです。
このため、こうして少額の贈与税を納めることで大きな金額の課税リスクを最小限に抑えることができます。
毎年の贈与税の申告は手間がかかるかもしれませんが、1度申告書を作成すれば、翌年からは同様の手続きで済むため、それほど負担にはなりません。
1,000万円(基礎控除後の金額で890万円)の定期贈与を行うと、一般税率で231万円の贈与税がかかります。
一方、2年かけて毎年500万円(基礎控除後で390万円)の暦年贈与を行うと税額は106万円です。
定期贈与では基礎控除を超えた金額に一般税率がかかりますが、分割することで贈与税の負担が軽減されます。
贈与契約書を作成する
毎年行う連続的な贈与を、定期贈与ではなく暦年贈与であると証明するためには、贈与ごとに贈与契約書を作成するのがよい方法です。
これによって、毎年の贈与が一度の合意ではなく、その都度合意された独立した契約である証拠となります。
相続後の税務調査で、生前贈与が税務署に認められないことがあります。
たとえば、贈与契約書なしに相続人の預金口座に生前にお金を振り込んでいた場合、税務署がそれを贈与ではなく、貸付金の振込みとみなすことがあります。
このような指摘を受けた場合に生前贈与時に作成した贈与契約書を提示すれば、税務署に明確に贈与があったことを主張できます。
しかし、契約書がなく、贈与額が少額で贈与税の申告もなかった場合、証拠を提示できないため贈与を認めてもらえないリスクが高まります。
このような状況では、節税目的で行った生前贈与が無駄になる可能性があるため、税務調査を見越して契約書を作成することが重要です。
贈与契約書は、税理士や弁護士のウェブサイトなどでテンプレートが提供されていることがあるので、検索してみましょう。
生前贈与をするときの注意点
この章では、生前贈与をするときの注意点について説明します。
相続が始まる3年(7年)以内の贈与に注意する
相続開始の3年(または7年)以内に行った贈与は、相続税計算時に相続財産として考慮されるため、税金がかかることになります。
つまり、相続開始までの期間に行った贈与は再び相続財産に戻されるという仕組みです。
(※税制改正により、2024年1月以降の相続については相続開始の3年から7年以内に行った贈与についても相続税がかかるようになっています。)
そのため、できるだけ早い段階で贈与を始めることと、証拠を残しておくことが重要です。
名義預金とみなされないようにする
親子や夫婦間の贈与では、名義預金にも注意が必要です。
名義人と実際の管理者が異なる場合、名義人の財産とはみなされず、生前贈与が否認されて相続税がかかる可能性があります。
贈与が成立するには、受け取った人が財産を自由に管理できる必要があります。
生前贈与時の資金の振り込み先も慎重に選びましょう。
遺留分侵害額請求がなされるリスクに注意する
もし生前贈与が遺留分(相続人が法定相続分を受け取る権利)を侵害するような形で行われた場合、遺留分侵害額請求がなされる可能性があります。
遺留分侵害額請求権は、侵害された「遺留分」に対応する金額を請求できる権利です。
遺留分とは、故人の兄弟姉妹以外の法定相続人に最低限確保される遺産の取得分です。
もし贈与や遺言によって自分の遺留分が削減された場合、被侵害相続人は侵害した人(贈与や遺言の受益者)に対して、その侵害分に相当する金銭を取り戻すために遺留分侵害額請求権を行使できます。
遺留分に含まれる生前贈与の範囲は、以下の通りです。
- 亡くなる1年以内に行われた生前贈与(ただし、遺留分を侵害するために行われた贈与は、1年以内の贈与だけでなくそれ以前の贈与も含まれます)
- 受け取った人が相続人であり、相続開始から10年以内に受けた特別受益
生前贈与を考える場合、遺留分が侵害されないかどうかも一緒にチェックすることが大切です。
老後の生活費や介護費用が不足しないようにする
生前贈与は、将来の相続に備えて節税対策として行われることもあります。
しかし、自分の予想以上に長生きする場合や、贈与を過度に行うと、自分の老後や介護に必要な資金が不足する可能性があります。
贈与を通じて税金を軽減しようとすることで、かえって家族に負担をかけることにならないように注意が必要です。
将来の生活設計とともに、生前贈与も検討する際は慎重な計画が重要です。
まとめ
暦年贈与を行って相続税の負担を軽減したい場合、定期贈与とみなされるリスクを避けて行う必要があります。
暦年贈与と定期贈与の違いを理解し、適切な対処を心がけましょう。
自身での処理に不安がある場合は、相続に詳しい税理士などの専門家に相談すると安心ですね。