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最終更新日:2022/12/15

事業承継の相続対策とは?事業承継税制や相談先についてわかりやすく解説

弁護士 水流恭平

この記事の執筆者 弁護士 水流恭平

東京弁護士会所属。
民事信託、成年後見人、遺言の業務に従事。相続の相談の中にはどこに何を相談していいかわからないといった方も多く、ご相談者様に親身になって相談をお受けさせていただいております。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/tsuru/

事業承継の相続対策とは?事業承継税制や相談先についてわかりやすく解説

この記事でわかること

  • 事業承継を行う際に経営者がすべき対策を知ることができる
  • 事業承継税制を利用すると相続対策となることがわかる
  • 事業承継をともなう相続税の対策を相談できる相手がわかる

事業承継を行う場合、先代経営者から財産を引き継ぐ後継者には、相続税や贈与税が課されます。

先代経営者が存命中に事業承継すれば贈与税、亡くなってからであれば相続税を負担しなければなりません。

事業承継を先代経営者が亡くなってから行う場合も多く、この場合には生前に対策をしておく必要があります。

どのような人に相談しながら進めるといいのか確認しながら、相続対策を行う方法について解説していきます。

事業承継の相続対策にはどんなものがある?

企業経営者が、子どもなどを後継者としてその事業を引き継いでもらうことがあります。

事業を引き継ぐタイミングは自由に選ぶことができますが、先代経営者が亡くなってからとすることも多いでしょう。

亡くなってから事業承継を行うために、どのような準備をしておくといいのでしょうか

相続対策といっても、その方法や目的には様々なものがあるため、何を目的にすべきか考えて対策するようにしましょう。

遺言書の作成

相続で事業承継を行う際には、誰が事業の後継者になるかを先代経営者が決めることができません。

そのため、誰か特定の人に事業を任せたいと考えていても、それを実現できる保証はないといえます。

また、相続人の中に事業承継したいと考えている人がいても、承継できるとは限りません。

そこで事業を引き継いでほしい人がいる場合には、遺言書を作成して、その人が事業承継できるようにしておきましょう

誰にどの遺産を相続させるか、事業用の遺産を相続させるのかを遺言書に残しておくのです。

また、遺言書があれば、法定相続人以外の人を後継者に相続することも可能となります。

遺言書には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。

どの遺言書もその効力に変わりはありませんが、遺言書が有効に成立しない可能性には違いがあります。

自筆証書遺言や秘密証書遺言は、自身で遺言を作成することとなるため、記入漏れなどによって形式的に有効に成立しないことがあります

また形式に問題はなくても、偽造や改ざんなどを疑う人が出てくる可能性もあります。

これに対して、公正証書遺言は公証役場で作成するため、無効になることはありません。

確実に遺言書を成立させるためには、公正証書遺言を選択して作成するのが最も望ましいといえます。

債務・保証・保証担保の承継

事業承継しようとしている会社が金融機関から借り入れを行っている際は、事前に確認すべき点があります。

中小企業が借入れする際には、金融機関に対して経営者自身が個人で保証していることがあります。

事業承継する際には、この個人保証についても後継者が引き継ぐ必要があることを覚えておきましょう。

また、会社の借入金について、個人の財産を担保としていることも考えられます。

このような場合、先代経営者が保有する担保となった資産を後継者が相続しなければ、事業承継後に担保とすることができません。

そのため、相続の際には担保の対象となった遺産も後継者が引き継ぐ必要があります。

ただ、個人保証や個人の財産に対する担保を引き継ぐ場合、誰でも保障や担保を引き継ぐことができるとは限りません。

個人保証や担保の内容を引き継ぐため、相続が発生する前から金融機関と話し合いをしておく必要があります。

そして、実際に相続が発生した時には、スムーズにすべての債務を引き継ぐことができるように準備しておきましょう。

株価評価の引き下げ

事業承継を行う際には、贈与税や相続税が発生することとなります。

事業承継の際には会社の株式を後継者が引き継ぐため、その株価を引き下げることで税負担を減らすことができます。

ただし、会社の株価を引き下げるのは簡単ではありません。

非上場会社の株価を計算する際には、会社の利益、配当金の支払状況、純資産の金額をもとに行います。

また、会社が保有する資産・負債の評価額を計算して、その金額も株価の計算に使います。

そのため、会社の利益を減らしたり、純資産の金額を減らしたりすることで、その評価額を下げることができるのです。

しかし、これらの金額を急激に減らすことはできません。

無理に利益の額を減らしたりすると、会社の経営が傾いてしまうことにもなりかねません。

そのため、株価を引き下げるためには、非常に長い時間がかかるのです。

相続が発生してからではなく、その何年も前から徐々に対策を始める必要があります。

相続税対策ができる事業承継税制とは

事業承継税制

事業承継を行う際に、相続対策としてすべきことを紹介しました。

ただ、これらの対策を行っても、相続税の納税に対する対策としては不十分です。

そこで、相続税の納税が猶予される事業承継税制を利用することも検討してみましょう。

平成30年度の税制改正により、従来からあった事業承継税制に特例措置が追加されています。

税制改正後に設けられた特例措置の事業承継税制はどのような制度なのか、確認しておきましょう。

適用条件の緩和

事業承継税制は、納税猶予となる金額が大きいため、適用にあたってはいくつもの要件が定められています。

その中の1つに、従業員の雇用確保要件があります。

事業承継税制の適用を受けた場合は、その後5年間にわたって平均80%以上の雇用を確保しなければなりませんでした。

これは、事業承継を国が推奨する理由の1つに、中小企業における雇用の維持という目的があるためです。

しかし、従業員の雇用確保要件は、事業承継税制を行う上で大きな障害となっていました。

後継者が新たに経営者となることで、会社の経営がどのようになるかはわかりません。

事業承継直後は従業員の雇用を確保し続けることができる保証もなく、かといって従業員の雇用を維持するために会社が傾いては意味がありません。

そのため、事業承継税制の適用を断念するケースも多くあったのです。

新たに設けられた特例措置でも、従業員の雇用確保要件は定められています。

ただし、雇用維持が難しい場合には、都道府県知事に所定の書類を提出すればよいこととされています。

従来の制度では、その理由に関係なく8割の雇用維持ができなければ納税猶予は取り消されてしまいます。

しかし、特例措置では理由があれば雇用が維持できなくても、納税猶予が取り消されることはありません

適用対象の拡大

特例措置により変更となったポイントの1つが、適用となる後継者の条件が緩和されたことです。

従来は事業承継税制の適用を受けられる後継者は、1人に限られていました。

しかし、特例措置による場合は、最大で3人まで事業承継税制の適用を受けられるようになったのです。

具体的には、後継者が2人か3人となる場合は、それぞれが10%以上の議決権を保有していなければなりません。

また、他の後継者を除いた同族関係者の中で、最も多くの議決権を保有している必要があります。

中小企業の中には、先代経営者が100%の株式を保有しており、その株式を複数の子どもが分割して相続することがあります。

兄弟で一緒に会社の経営にあたる場合には、それぞれが同じくらいの株式を保有していることで、バランスが取れるためです。

また株式を分散した方が、公平な遺産分割がしやすくなるといえます。

適用期間

特例措置の適用を受けるためには、2つの期間に注意しなければなりません。

1つは、特例承継計画の提出時期です。

この特例承継計画は、事業承継のあらましや事業承継後の経営計画などを簡単に記した書類です。

事業承継を行う前に、必ず都道府県知事に提出し、その認定を受けることとされています。

特例承継計画の提出時期は、平成30年4月1日から令和5年3月31日とされており、この間に提出しなければなりません。

もう1つは、事業承継税制の適用期間です。

これは、実際に会社の株式を贈与あるいは相続する期間のことです。

この期間は、平成30年1月1日から令和9年12月31日までの10年間とされています。

事業承継税制の適用を受けるには、特例承継計画が認定されるだけではなく、株式の移転も行う必要があります。

事業承継による相続対策の相談先

事業承継による相続対策の相談先
事業承継を進めるためには、専門家のアドバイスや知識が必要不可欠です。

そこで、どのような専門家に相談すればいいのか、相談先とその特徴をご紹介します。

弁護士

弁護士は法律問題の専門家です。

会社の株式を問題なく移転するための手続きや、遺産分割がスムーズに進められるようなアドバイスを受けることができます。

特に、相続により事業承継を行う場合は、遺産分割協議や遺言により後継者が株式を引き継ぐこととなります。

他の相続人の遺留分に配慮し、有効に遺言が成立するように、事前に弁護士に相談しておくことができます。

税理士

税理士は税金計算の専門家です。

特に事業承継税制の適用を受ける場合は、相続税の申告書を作成し税務署に提出しなければなりません

自身ですべての書類を作成することは難しいため、税理士に依頼する必要があるでしょう。

また、相続税の申告を行うためには、相続財産となった株式や不動産の評価額を計算しなければなりません。

このような計算も税理士に専門家として対処してもらえるため、事前の相談も含めて依頼することができます。

まとめ

相続により事業承継を行う場合、先代経営者が亡くなっているため、その意思を確認できない状態となっています。

そのため、誰を後継者にするのか、他の遺産をどのように相続させるのかを本人から知ることはできません。

そこで、遺言を作成してその意思表示をしておくことが大変重要になります。

また、後継者の負担を減らすためには、事業承継税制を利用することが効果的です。

専門家に相談し、どのような対策をするべきか確認しながら、スムーズな事業承継を目指しましょう。

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