メニュー

閉じる
無料相談0120-211-084
メール

最終更新日:2022/12/15

事業承継を株式譲渡で行うと節税になる?メリット・デメリットを解説

弁護士 水流恭平

この記事の執筆者 弁護士 水流恭平

東京弁護士会所属。
民事信託、成年後見人、遺言の業務に従事。相続の相談の中にはどこに何を相談していいかわからないといった方も多く、ご相談者様に親身になって相談をお受けさせていただいております。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/tsuru/

この記事でわかること

  • 株式を譲渡して事業承継を行う方法があることがわかる
  • 事業承継を株式譲渡で行うメリットとデメリットがわかる
  • 事業承継を株式譲渡で行う際の注意点について知ることができる

事業承継とは、中小企業の代表者が後継者に交代し、その会社の経営権を譲ることを指します。

中小企業の中には後継者不在の会社もあり、いかに後継者を探して事業承継を行うかが注目されています。

中でも、株式を譲渡して事業承継を行う方法は、第三者との事業承継の際にも利用されている方法です。

どのようなメリットとデメリットがあり、何に注意しなければならないのか、解説していきます。

事業承継の株式譲渡とは?

事業承継における株式譲渡とは、会社のオーナーが保有する株式を後継者に引き渡すことをいいます。

この時、株式を引き渡すと同時に会社の経営権も引き渡しており、最終的には会社そのものを譲渡することを意味します。

会社の株式を譲り渡した代表者は、その対価として売却収入を得ることがあります。

一方、株式を購入により取得した人は、株式の購入代金を先代オーナーに支払う必要があります。

売り手・買い手双方で秘密保持契約を締結した後、対価の授受を行い、株式名簿を変更するというのが大まかな流れです。

株主名簿の変更を行うだけで会社の経営権を譲渡することができるため、比較的簡単に事業承継を行うことができ、広く利用されています。

事業承継の株式譲渡の3つの方法

事業承継の際に株式を譲渡する方法は、売買だけでなくいくつかの方法があります。

ここでは、株式を譲渡する際の具体的な方法について解説していきます。

売買による場合

株式を譲渡する方法として最も一般的なのは、売買による場合です。

先代オーナーが保有する株式を後継者となる人に売却し、その会社の経営権を譲り渡します。

その後、会社が管理している株主名簿を先代オーナーから後継者に変更すれば、手続きは終了です。

売買を行うのは、主に第三者など血縁関係のない人が後継者となる場合です。

第三者が後継者となる場合とは、会社の役員や従業員が後継者となる場合も含みます。

また、M&Aを行う事業者が会社の株式を買収することもあります。

この場合も、先代オーナーやその一族が保有する株式を第三者に売却するケースに該当します。

贈与による場合

先代オーナーが保有する株式を贈与して、経営権を後継者に譲り渡すこともあります。

贈与契約書を作成した上で株式を贈与し、会社にある株主名簿の変更を行えば、簡単に手続きができます。

株式を贈与すると、多額の贈与税が発生する場合があります。

特に保有株数が多いオーナーの場合や、株式の評価額が高い会社の場合は、贈与税の額に注意が必要です。

贈与による株式譲渡を行う場合は、暦年贈与の基礎控除を利用して毎年少しずつ贈与することも有効です。

一度に株式譲渡するより時間はかかりますが、贈与税の負担を減らすことができるからです。

長期間にわたることや株式を無償で譲り渡すことから、贈与による株式譲渡が向いているのは、子供などが後継者となる場合です。

相続による場合

中小企業のオーナーが亡くなると、保有していた株式を相続人が相続することとなります。

この時、中小企業の代表者となる後継者が株式を相続することで、事業承継をすることができます

株式を相続する際には、すべての相続人で遺産分割協議を行い、誰が株式を相続するのかを決める必要があります。

その後、遺産分割協議書を会社に提示し、株主名簿を変更してもらいます。

相続税はすべての相続財産の評価額を計算し、相続人の人数に応じて計算します。

株式の評価額が高い会社の場合、相続税が高くなるのは贈与税の場合と同じです。

ただ、相続税の基礎控除は贈与税より大きく、税負担は贈与税より少なくなる可能性があります。

一方で、遺産分割の際に必ず株式を相続できるとは限らないため、遺言書など別の対策が有効となります。

相続により株式譲渡を行うには、法定相続人か遺言書でなければならないので、一般的には子供が後継者となる場合に用いられます。

事業承継を株式譲渡で行う5つのメリット

事業承継を株式譲渡で行うと、どのようなメリットがあるのでしょうか。

ここでは全部で5つのメリットをご紹介していきます。

株式を売却すると現金収入がある

株式の譲渡により事業承継を行うと、先代オーナーには後継者から現金収入が発生します

そのため、事業を譲り渡して会社をリタイアした後の生活を送るための資金を確保することができるのです。

また、代表者として会社を発展させてきた成果を、現金という形で手にすることができます。

事業を譲り渡したオーナーの中には、別の事業を行うことを計画している人もいるかもしれません。

そのような人にとっては、株式売却後に得られる現金収入は、新たな事業の開業資金となります。

従業員の雇用を確保できる

株式を後継者に売却するということは、会社はそのままの形で存続することを意味します。

会社がそのまま事業を継続することができれば、従業員の雇用をそのまま確保できます

会社がこれまでと同じように事業を継続するためには、これまでの従業員が残ってくれなければ困る状態となってしまいます。

そこで事業譲渡を行う際に、先代オーナーは後継者に対して従業員の雇用を確保するよう、契約に織り込むこともできます。

こうすれば、より安心して事業承継を行うことができるのです。

金銭的な負担が少なく手続きが簡単

株式譲渡による事業承継を行う際には、会社で管理している株主名簿を新しい株主に変更するだけです。

株式の売買契約書の作成や株価の算定など、わずかな書類の作成を行うだけでよく、それほど大きな費用もかかりません。

一方、合併など会社の登記事項に関する事業承継を行うと、登記費用や登録免許税などがかかるため、金銭的な負担が増えてしまうのです。

時期を見計らって贈与を行うことができる

贈与による事業承継を行う場合は、いつ贈与を行うか、何株贈与するかなどを自由に決めることができます

そのため、できるだけ贈与税が発生しないような形で贈与を行うことができるのです。

例えば、株式の評価額が下がったタイミングを狙って贈与を行えば、贈与税の負担は減らせます。

また、基礎控除内での贈与となるよう、贈与する株式数が大きくなりすぎないようにすることもできます。

後継者が若いうちから株式の贈与を毎年行って、できるだけ税金が発生しないようにすることも可能です。

突然の事業承継にも対応できる

先代オーナーが元気なうちであれば、売買や贈与により後継者に株式を移転することができます。

しかし、ある日突然亡くなってしまった場合などは、売買も贈与も行うことができません。

そこで、事業承継の最後の手段が相続です。

相続人の中に後継者がいる場合には、その後継者が多くの株式を相続して、事業承継することができます。

事業承継を株式譲渡で行う5つのデメリット

それでは、株式の譲渡による事業承継にデメリットはないのでしょうか。

実は株式譲渡によるデメリットも少なくありません。

ここでは、そのようなデメリットを5つご紹介します。

会社のすべての債務を引き継ぐこととなる

会社の株式および会社の経営権を引き継いだ場合、その会社の財産だけでなく債務も引き継ぐこととなります

また目に見える借金などの債務だけでなく、訴訟リスクなどの法的地位も引き継ぐこととなります。

このほか、金融機関からの借入れに対する個人保証を求められることも考えられるのです。

価格の算定に時間や費用がかかる

株式を売買する時だけでなく、贈与や相続を行う場合にも株式の評価額を求めなければなりません。

このうち、売買を行う時には、デューデリジェンスを行い、会社の価値を算定することとなります。

また贈与や相続の際には、相続税評価額を計算しなければならないのです。

このような株価の算定には多くの資料が必要となり、従業員からの聞き取りが実施される場合もあります

算定を行うのは公認会計士や税理士などの専門家であり、そのための費用も必要となります。

買い手は株式の購入資金を準備しなければならない

株式を売買によって譲渡する場合、株式を売却する人には現金収入が発生します。

このことは、裏を返せば買い手には現金による支出が発生することを意味します。

買い手となる後継者は、株式を購入する資金を自分で調達しなければならないのです。

金融機関から融資を受ける必要があれば、事前に金融機関としっかりと話し合いを行っておかなければなりません。

贈与税が発生すると負担が大きい

贈与税には、年間110万円の基礎控除があります。

ただ、この基礎控除を超えた金額については贈与税の対象となってしまいます

株式の評価額が高くなれば、この基礎控除を大きく上回る贈与となってしまい、多額の贈与税が発生します。

後継者が必ず相続できるとは限らない

相続により株式の譲渡を行おうと考えて、生前には特に株式を譲渡しないケースもあります。

しかし、実際に相続が発生した時に、後継者が必ず株式を相続できるとは限りません

被相続人が保有していた財産は、すべて遺産分割の対象となり、どの相続人も相続する権利があるためです。

遺言書などで株式を相続する人を指定しておかないと、後継者と思っていた人が相続できないこともあります。

事業承継を株式譲渡で行うときの注意点

事業承継を株式譲渡により行う際は、手続きが簡単など多くのメリットがありました。

ただ、手続きが簡単であっても注意しなければならないポイントはあります。

ここでは、そのような注意点について確認しておきましょう。

株券発行会社と株券不発行会社の違いを確認する

会社の中には、株券発行会社と株券不発行会社の2種類があります。

その名のとおり、株券を発行するかどうかの違いなのですが、会社がどちらに該当するのか把握していないケースもあります。

この違いにより株式譲渡の手続きに違いがあるため、最初に確認しておく必要があるのです。

会社の定款や登記事項証明書には、株券を発行するか発行しないかが記載されています。

ただし、2006年の会社法制定以前に設立された会社は、その後に定款変更していなければすべて株券発行会社に該当します。

株券発行会社で株式譲渡を行う際は、その株券を引き渡す必要があります。

一方、株券不発行会社の場合は、売り手と買い手の合意により株式を譲渡できます。

売買による場合は双方の合意が必要となる

会社の株式を売買によって譲渡する場合、売り手と買い手がともに売買の条件に合意していなければなりません

特に株式の価格や売却時期、代金の支払い方法などは、契約によってきちんと定めておく必要があります。

最終的には売買契約書を作成して、細かい条件についても双方が合意していることを確認するようにしましょう。

株式を売却した際にも税金がかかる

株式譲渡のうち贈与や相続については、それぞれ贈与税や相続税の負担が発生することとなります。

一方、売買を行った場合には、税金が発生しないのではないかと考える方もいます。

しかし、株式を売却した際にも税金が発生することがあります。

株式を売却した際に、その株式を取得した時の価格より高い価格で売却すると、その差額が利益となります。

この利益に対しては、所得税や住民税が課されることとなるのです。

所得税の税率は復興特別所得税とあわせて15.315%、住民税の税率は5%であり、合計で約20%の税金が課されます。

所得税の税率は、給与所得や事業所得など総合課税と呼ばれるものについては、累進課税制度が適用されます。

そのため、所得金額が大きくなるほど税率が上がり、最大では所得税と住民税あわせて50%を超えます。

しかし、株式を売却した際の譲渡所得については、その金額に関わらず一定の税率で課税されるのです。

まとめ

会社の株式を譲渡するということは、株主としての地位を後継者に譲ることを意味します。

株式を引き継げば、大株主であった先代オーナーの地位を引き継ぎ、新たな経営者になることができるからです。

ただ、贈与や相続による場合は後継者に、売買による場合は先代オーナーに、それぞれ課税が発生します

株式を譲渡して事業承継を行うことが、必ず節税になるわけではありません。

ただし、どのような方法で株式を譲渡するかにより、発生する税額が大きく変わるため、有利な方法を選択することができます。

税金の負担を考慮した上で、スムーズな事業承継ができるような株式の譲渡を行うようにしましょう。

テーマから記事を探す

弁護士法人ベンチャーサポート法律事務所ならではの専門性

多数の相続案件の実績のノウハウで、あなたにとって一番の頼れる味方となります。
ご自身でお悩みを抱える前に、ぜひ一度お気軽にご連絡ください。親切丁寧な対応を心がけております。

当サイトを監修する専門家

弁護士 川﨑 公司

弁護士 川﨑 公司

相続問題は複雑なケースが多く、状況を慎重にお聞きし、相続人様のご要望の実現、相続人様に合ったよりよい解決法をアドバイスさせていただくようにしています。

弁護士 福西 信文

弁護士 福西 信文

相続手続等の業務に従事。相続はたくさんの書類の作成が必要になります。お客様のお話を聞き、それを法律に謀った則った形式の文書におとしこんで、面倒な相続の書類を代行させていただきます。

弁護士 水流 恭平

弁護士 水流 恭平

民事信託、成年後見人、遺言の業務に従事。相続の相談の中にはどこに何を相談していいかわからないといった方も多く、ご相談者様に親身になって相談をお受けさせていただいております。

弁護士 山谷 千洋

弁護士 山谷 千洋

「専門性を持って社会で活躍したい」という学生時代の素朴な思いから弁護士を志望し、現在に至ります。 初心を忘れず、研鑽を積みながら、クライアントの皆様の問題に真摯に取り組む所存です。

弁護士 石木 貴治

弁護士 石木 貴治

メーカー2社で法務部員を務めた後、ロースクールに通って弁護士資格を取得しました。 前職の経験を生かし、実情にあった対応を心がけてまいります。 お気軽に相談いただければ幸いです。

弁護士 中野 和馬

弁護士 中野 和馬

弁護士は敷居が高く感じられるかもしれませんが、話しやすい弁護士でありたいです。 お客様とのコミュニケーションを大切にし、難しい法律用語も分かりやすくご説明したいと思います。 お客様と弁護士とが密にコミュニケーションをとり協働することにより、より良い解決策を見出すことができると考えております。