この記事でわかること
- 事業承継士とはどのような資格なのかを知ることができる
- 事業承継士に事業承継の相談をするメリットとデメリットがわかる
- 事業承継に関する相談をするのに最適な資格者を知ることができる
事業承継を行う必要に迫られていても、なかなか実行に移せないケースが多いでしょう。
税金や手続き面の不安があるにも関わらず、そのことを誰に相談したらいいかわからない人が多いのもその一因です。
そんな時に頼りになるのが、事業承継に関する知識を有する事業承継士です。
事業承継士とはどのような資格なのか、そして事業承継を依頼するメリットとデメリットは何か、解説していきます。
目次
事業承継とは?
事業承継とは、中小企業や個人事業主の経営者が、その事業を子どもなどの後継者に引き継ぐことをいいます。
大企業の社長が交代するのと大きく異なるのは、後継者が経営権だけを引き継ぐわけではないことです。
経営者が交代すると同時に、会社の株式や事業用の資産などの個人財産も後継者に移転する必要があります。
この移転の方法については、相続、贈与、売買などがありますが、いずれの方法でも税金が発生します。
そのため、事業承継には税金の負担が必ずあります。
税金の計算を行うためには、先代経営者が保有する会社の株式や事業用の資産がいくらになるかを評価する必要があります。
また、その評価額をもとに、事業承継の方法に応じた税額の計算をしなければなりません。
事業承継の方法を検討する際には、どの方法であればどれだけの税額が発生するのか、シミュレーションも必要となります。
しかし、このような計算を自身で行うには限界があります。
事業承継士とはどんな資格を持つ人?
前述したように事業承継を行う際には税金を概算したり、その事業者にあった事業承継の方法を検討したりしなければなりません。
しかし、事業承継について誰に相談すればいいのかわからず、そのまま放置しているうちに相続が発生することもあります。
そこで、事業承継に関する専門知識を有する人として、事業承継士の資格が設けられています。
事業承継士はどのような資格なのか、その成り立ちなどから確認していきます。
事業承継を取り巻く状況
中小企業の経営者の高齢化が進んでいます。
中小企業白書によれば、2000年には経営者の年齢で最も多いのは50歳代前半でしたが、次第にその年齢は上昇しています。
そして、2020年に経営者の年齢で最も多いのは、70歳代前半となっているのです。
このことは、中小企業経営者の世代交代が進んでおらず、もともとの経営者がそのまま年齢を重ねていることを表しています。
また中小企業白書では、後継者不在率の統計データも公表されています。
このデータによれば、経営者の年齢が60代の中小企業では、48.2%の企業が後継者不在と答えています。
70代の場合は38.6%、80代の場合も31.8%不在としており、深刻な後継者不足にある状況が見て取れます。
事業承継が進まなければ中小企業は廃業することとなってしまい、その会社の持つ技術やノウハウが失われる危機にあります。
また、雇用が失われるなどの影響も大きく、国としてもその対策に乗り出しているのです。
事業承継士が設立されるまでの経緯
事業承継士の資格を認定する団体は、一般社団法人事業承継協会です。
代表理事を務める内藤博氏は、出版社の役員を務める一方で中小企業診断士の資格を取得し、49歳で独立しています。
この時、自身が祖父の事業を承継できなかった経験から、事業承継の専門家となることを決意しました。
東京商工会議所の事業承継専門家などを務め、数多くの実務に対応する一方で、自身の後継者を育成する必要性を感じています。
そこで、事業承継センター株式会社を設立して後継者の育成に乗り出しました。
また、2015年に一般社団法人事業承継協会を設立し、事業承継士の資格を創設しています。
その後、株式会社の経営は事業承継により若い世代に交代し、事業承継協会の代表として事業承継士の普及を目指しています。
事業承継士となるには
事業承継士の資格を取得するためには、いくつかの要件が定められています。
1)すでに一定の資格を取得している
事業承継士の資格取得に必要な資格は、以下のいずれかとされています。
2)30時間の講座を受講する
上記の資格を取得していても、事業承継に関して深い知識があるわけではありません。
そこで、30時間の講座を受講し、その知識を深める必要があります。
実際に事業承継の業務を行ってきた中で生まれたノウハウが講座の内容に盛り込まれており、より実践的な内容となっています。
3)認定試験に合格する
講座を受講して受験資格を得たら、講座で使用したテキストをもとにした試験を受験することができます。
択一式と記述式による試験が実施され、60%以上の得点を得ることで合格となります。
4)事業承継協会に入会する
一般社団法人事業承継協会に入会すれば、事業承継士として認定されます。
3年ごとに更新が必要とされますが、研修に出席する、実際にコンサルティングを行うなどの要件が設けられています。
事業承継士に事業承継を相談するメリット・デメリット
事業承継士に事業承継の相談をすることには、相談するメリットとデメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
事業承継士に相談するメリット
事業承継士に事業承継を相談するメリットは、事業承継に関する最新の知識を有していることです。
事業承継に関連する法律や制度の内容はずっと同じというわけではなく、常に見直しが行われています。
その見直しにより、より時代背景に合った制度へと形を変えているのです。
事業承継士は、資格の取得や3年ごとの更新にあたってそのような情報を常にチェックしています。
そのため、最新の知識に基づいたアドバイスをもらうことができます。
また、事業承継士が実際に事業承継の実例を経験していることも、相談者にとってはメリットとなります。
事業承継にあたって、実際にどのような問題が起こりやすいのかわかっているため、あらかじめ対処法を考えておくことができます。
また、仮にトラブルが起こったとしても、その解決策をいくつも持っているため、対応がスピーディーであることが期待できます。
さらに、事業承継士の資格を持つ人は、他にも弁護士や税理士などの国家資格を有しています。
そのような資格を有している人は、同業者あるいは他の業種の専門家とのネットワークを密に持っていることが多いです。
そのため、事業承継で他の専門家の知識や経験が必要になった時も、そのネットワークを活かすことができます。
事業承継士に相談するデメリット
デメリットとして最初に考えられるのは、事業承継士に相談すると費用が発生することです。
その金額は必ずしも一律ではなく、人によってバラつきがあります。
そのため、どれくらいの費用を負担するのが適切なのかわかりにくいという問題があります。
また、事業承継士の資格を有している人も、普段は事業承継の仕事をメインで行っていない場合があります。
普段の職種が接していない事業承継で発生する問題については、得意分野と不得意分野があることが考えられます。
不得意分野に関する問題が発生しても、すぐに対処してもらえないケースもあり、サポートの必要性に疑問を持つこともあるかもしれないこともデメリットとして挙げられます。
事業承継は相続に強い資格を持つ専門家に相談
事業承継を実行するにあたっては、多くの問題に直面することとなります。
それらの問題の中には、事業承継士に相談しながら事業承継を進めれば解決するものもあります。
しかし、事業承継士がすべての分野に関して深い知識を持っているわけではないため、解決できないこともあります。
その場合は、別の専門家に相談し解決を図ることとなります。
具体的に、どのような問題が発生したらどのような専門家に相談するといいのでしょうか。
弁護士
中小企業で事業承継が発生した場合、相続の問題が絡んでくるケースがあります。
先代経営者が保有していた株式を後継者が相続すると、相続税が発生する他、遺留分の問題も生じることとなるためです。
相続に関するトラブルを避けるためには、弁護士に相談して事業承継を進めるのが一番確実な方法です。
また、M&Aによる事業承継の際には、当事者間で契約書を取り交わす必要があります。
この契約書の文面について問題がないかチェックしてもらい、手続きを進めるのも弁護士の大きな役割です。
事業承継を行う時ではなく、事業承継の前に弁護士に相談しておきましょう。
事前に相談しておけば、大きな問題が発生するのを未然に防ぐことができます。
行政書士
M&Aを行う際、その会社が行ってきた事業を引き続き行うために、買い手が許認可の申請をしなければならない場合があります。
この時、許認可に関する申請を依頼できる専門家が行政書士です。
買収した企業の許認可についてどのような手続きが必要になるのかも含めて、行政書士に確認するようにしましょう。
税理士
事業承継により税金が発生することがあります。
先代経営者から株式を相続したり、事業用資産を贈与されたりした場合などです。
また、株式の売買があった時は、その売主に譲渡益が発生することがあります。
税金が発生する場合には、その税金を計算するとともに申告書の提出が必要です。
また、事業承継税制などの特例を利用する際にも、申告書の提出が必要となります。
公認会計士
M&Aなどで株式や事業用資産を売買する際には、その価格を決定しなければなりません。
しかし、その価格を当事者同士で決定することは難しく、双方が納得できる価格を決めるには専門家の力が必要となります。
そこで、会社や資産の価格を決定する専門家である公認会計士に依頼することができます。
お互いに納得できる価格となるまで、何度も交渉するケースも少なくありません。
まとめ
事業承継の経験が豊富な経営者はほとんどいません。
そのため、事業承継を行うために何をしなければならないのか、よくわからない人が多いでしょう。
事業承継について漠然とした不安がある場合は、まずは事業承継士に相談してみましょう。
そこで必要なことがわかれば、次の手を打つことができるはずです。
また、事業承継士だけでは事業承継がスムーズに進まないことも想定されます。
様々な専門家の力も借りながら、問題のない事業承継を目指しましょう。