この記事でわかること
- 事業承継が実際にどの程度行われているか現状を知ることができる
- 事業承継を阻む問題がわかる
- 事業承継できなかったときに起こりうるリスクがわかる
事業承継を行うことは、中小企業にとってはその会社の存続に関わる大きな問題です。
しかし、実際には事業承継したくても事業承継できない会社がいくつもあります。
この記事は、事業承継を阻む多くの問題・トラブルとその原因について解説します。
また、事業承継できなかった場合のリスクにも触れ、いかに事業承継が重要なものかを紹介していきます。
事業承継の現状
日本の事業承継の現状は、多くの中小企業が直面する深刻な問題として注目されています。
どのような問題があるのでしょうか。
中小企業では後継者問題が深刻化
参考:帝国データバンク全国「社長年齢」分析調査(2021年)
中小企業基盤整備機構のデータによれば、日本の全企業の99.7%(約358万社)が中小企業であり、その多くが後継者問題に直面しています。
特に新型コロナウイルスの影響により、経営環境がさらに厳しくなり、後継者問題に対する危機感が高まっています。
後継者候補の選定に課題があり、役員の退任や外部人材の採用でも後継者候補を見つけるのが難しい状況です。
社長の高齢化が進行し、経営者の平均年齢も上昇傾向にあり、2021年の全国社長の平均年齢は60.3歳となっています。
このため、後継者の確保や事業承継の新しい方法が必要とされています。
後継者が不在の中小企業は6割超
中小企業の後継者不在の問題は深刻で、全国の全業種で61.5%の企業が後継者不在の状態です。
過去10年で最も低い数字になりましたが、依然として高い水準です。
特に70代、80代の経営者を持つ企業では、後継者不在率がそれぞれ約4割、約3割であり問題が深刻化しています。
その結果、中小企業の3割が後継者不足のために廃業しているのが現状です。
この課題に対処するため、M&Aや内部昇格などの新しい事業承継の方法が注目されています。
また、経営者の子供を後継者とする割合が初めて30%台に減少するなど、ファミリー経営からの脱却が進んでいます。
事業承継を阻む5つの問題
事業承継の必要性は、多くの経営者が理解し痛感していることでしょう。
しかし、現実にはなかなか前に進みません。
なぜ事業承継を進めようと思っても、思いどおりに進められないのでしょうか。
事業承継を阻むいくつもの問題と、その問題が起こる原因について解説します。
後継者がいない
事業承継が進まない一番の問題は、そもそも後継者がいないことにあります。
かつては、社長の子どもが次の社長になるのが一般的でした。
しかし、子どもだけでなく親族も含めて、誰も社内に後継者となる候補者がいないケースは多くあります。
子どもの能力や資質を考えて、親が子どもを後継者にできないと判断することもあるでしょう。
後継者を育成できない
現在の経営者が後継者候補を定めたとしても、その人に経営者としての教育を実施するには時間もお金もかかります。
しかし、中小企業にはそこまでの余裕がないこともあり、思いどおりに後継者を教育できないことが少なくありません。
相続トラブルが起こる可能性がある
中小企業の事業承継は、相続と切り離せない問題です。
事業承継により会社の株式を大量に取得する見込みの人は、他の相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。
生前贈与を受けた場合でも、相続の際にすべての相続人が納得できる遺産分割を行うことは簡単ではありません。
事業承継を相談する人がいない
自身の後継者を誰にするか、いつ後継者に譲るかといった内容の相談は、なかなか家族にもできません。
そのため、事業承継について考えていても、誰にも相談できない状態となっている人が多いようです。
身近な相談相手としては、顧問税理士や金融機関の担当者などがいます。
しかし、必ずしも彼らが事業承継に詳しいわけではなく、疑問や問題点を解決することはできません。
そもそも事業承継を真剣に考えていない
中小企業の経営者の多くは、自分でルールを決める立場にあり、定年などの退任時期も自分で決められます。
そのため、元気なうちは事業承継について真剣に考えていない人が多いといえます。
しかし、いつまでも事業承継を考えないままでは、もし現在の経営者に何かあった場合に誰も対応できないことは想像に難くありません。
事業承継できなかったときの3つのリスク
事業承継するにも、数多くの問題があってなかなか簡単ではないと感じるかもしれません。
ただ、事業承継を行わずに経営者が亡くなってしまうと、その後にどのようなことが起こるのでしょうか。
従業員の雇用を守ることができない
事業承継できずに放置した場合、最悪のケースでは会社が事業を存続できなくなってしまいます。
事業を存続できなくなってしまうと、会社は売上をあげることができなくなり、従業員に給与を支払うこともできなくなります。
その結果、従業員を解雇せざるを得なくなるなど、大変大きな影響が生じることとなります。
廃業コストがかかる
事業を継続するためにはコストがかかりますが、同じように廃業する際にもコストがかかります。
会社を畳む決断をした場合、考えられるだけでも以下のような支出があります。
- 保有する資産を売却するためのコスト
- 退職する従業員に対する退職金
- 会社を解散・清算するための登記費用
また、会社に残された資産より負債の方が大きい場合には、会社の破産手続きをしなければなりません。
個人保証をしている場合には自宅まで売却しなければならず、適切な廃業のタイミングを図ることができなかった代償は大きいといえます。
地域社会に与える影響が大きい
中小企業が長年にわたって事業を継続してきたのは、その事業内容が広く認められてきたからです。
消費者相手に商売をしてきた会社だけでなく、特定の取引先との関係もまた、そのような信頼から成り立ってきたといえるでしょう。
廃業することとなったときにその代わりの会社がなければ、地域の空洞化といった影響が出る可能性もあるのです。
事業承継の種類とリスク
事業承継を行う際には、誰が後継者になるかによって3つの種類に分類することができます。
それぞれの特徴やリスクについて解説していきます。
親族内事業承継
親族内承継とは、社長の親族がその後継者として会社の経営にあたることをいいます。
後継者が子どもであれば現在の社長の相続人になりますが、社長の孫や兄弟、甥や姪などの場合は相続人にならない場合もあり、遺言書を用意しておかなければ相続で会社の株式を引き継ぐことができないケースも多いです。
遺言書で株式を引き継いだ場合でも、相続税が発生すると相続税額が2割加算されるため、注意が必要です。
さらに、法定相続人の中に遺留分が認められる人がいる場合、遺留分を無視して会社の株式を相続すると、他の相続人から遺留部侵害額請求を受けることとなります。
社内事業承継
会社の中にいる人、つまり会社の役員や従業員が事業承継する場合です。
これまで会社の事業遂行に携わってきた人ですから、事業承継後の会社の運営をスムーズに進めることができるでしょう。
また、取引先からの理解も比較的得やすく、有力な候補者が会社内にいればその人に後を任せるケースは増えています。
従業員が事業承継を行う場合、その会社の株式も従業員が取得する必要があります。
しかし、会社の株式の評価額が高くなっていると、従業員が取得資金を用意するのは極めて困難になってしまいます。
この資金を従業員が準備できない場合もあり、社内事業承継の成否に大きく影響します。
M&Aによる事業承継
M&Aとは、会社の株式を第三者に売却し、会社の事業を引き継いでもらうことをいいます。
親族にも従業員にも後継者の候補者が見当たらない場合、第三者に株式を売却するM&Aを検討する必要が出てくるのです。
M&Aで会社を売却しても、従業員の雇用を守り、会社を存続させることができます。
数多くの候補者から買い手を選定することができるのであれば、時期や金額などより良い条件で売却することもできます。
しかし、必ずしも適当な買い手を見つけることができるとは限らず、いつまでたってもM&Aが成立しない場合や、想定より低い金額でしか売却できない場合もあり得ます。
後継者不在ならM&Aを要検討
後継者不在の問題を解決するための有力な選択肢として、M&Aが注目されています。
M&Aを通じて、事業の継続性を保ちつつ、新たな市場や顧客層にアプローチすることが可能となり、事業の安定や成長が期待できます。
M&Aを行うことによるメリットは以下の通りです。
M&Aのメリット
- 新しい技術や市場へのアクセスが可能
- 資本の強化や事業の拡大が期待できる
- M&A後も雇用は維持される
- 廃業せず創業者の利益を確保できる
しかし、M&Aにはリスクも伴います。
M&Aのデメリット
- 経営文化の違いによる摩擦
- 組織の整合性の不足
- スタッフ間の相性問題
統合の手続きだけでなく、統合後も課題が発生する可能性があります。
特に、スタッフ間の問題は大きな注意が必要で、不満が募ると離職するリスクがあります。
そのため、M&Aを検討する際は、適切な戦略と実行が必要です。
事業承継の問題を解決するには?
事業承継を行う際には、数多くの問題に直面します。
その問題を1つ1つクリアしていかなければ、事業承継の成功はありません。
ここではそのポイントをいくつかご紹介します。
事業承継の準備をできるだけ早く始める
事業承継の問題の多くは、実際に事業承継に向けた動きを始めた後に起こります。
たとえば後継者の育成や税金対策は、事業承継を始めた後に直面することとなります。
また、株式の買い取り資金を準備しなければならない場合には、金融機関も交えて交渉する必要があります。
そのため、問題を解決するにはかなりの時間がかかるのです。
あわてて事業承継をしなくてもいいよう、事業承継に向けて早めに行動を開始することが有効です。
経営状況や財務状況を把握しておく
事業承継を行う際には、会社の株式の評価額を求める必要があります。
株式の評価額の計算に大きく影響するのは、会社の経営状況と財務状況です。
経営状況は、会社の売上や利益の金額に大きく影響されます。
また、会社の財務状況は、預貯金の残高や借入金の返済に密接に関係しています。
これらの情報をできるだけ正確に把握しておき、大きな問題が生じないような対策を講じておく必要があります。
国の制度を利用する
事業承継がスムーズに進まなければ、多くの中小企業が消滅してしまうかもしれません。
そのような事態にならないよう、国としても多くの優遇制度を用意しています。
事業承継税制や事業承継・引継ぎ補助金などの制度を利用して、税金の優遇を受けることや補助金を受け取ることができます。
リスクを最小限に抑え、後継者が少しでも困らないような事業承継を行うようにしましょう。
専門家に相談しながら進める
事業承継を円滑に進めるために、専門家の協力が大切です。
各専門家の得意分野を正確に理解し、その知識と経験を最大限に活用しましょう。
税理士 | 税務の複雑な問題を解決し、税に関するあらゆる問題をサポートします。 |
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弁護士 | 法的な問題やリスクを考慮し、事業承継におけるリスクを回避します。 |
公認会計士 | 財務状況を分析し、健全な経営基盤の構築をサポートします。 |
中小企業診断士 | 経営戦略に関する戦略的なアドバイスを提供します。 |
まとめ
事業承継は、会社の事業内容を引き継ぎ、その事業をスムーズに進めていかなければなりません。
また、従業員や取引先との関係を壊さないように配慮しながら、先代の後を継ぐ必要があります。
さらに、株式の取得や税負担などで金銭的な負担も発生するため、資金調達をどうするかあらかじめ考えておかなければなりません。
事業承継は短時間で簡単に成立するものではないため、早めに準備を始めて、じっくり進める必要があります。
事業承継に強い士業を頼ることも視野に入れて準備を始めていきましょう。