この記事でわかること
- 事業承継計画とはどのようなものか知ることができる
- 事業承継計画を作成する目的や考慮すべきことがわかる
- 事業承継計画書にどのような内容を記載するかわかる
事業承継を行う際には、何も計画せずに実行することはできません。
必ず事前に、どのような流れで事業承継を実行するのか、そのあらましを考えておく必要があります。
このように事業承継についてあらかじめ考えるのが事業承継計画であり、それをまとめたものが事業承継計画書です。
事業承継を行う際に、非常に大きな意味を持つ事業承継計画について解説します。
目次
事業承継計画とは
事業承継計画とは、その名のとおり事業承継を実行する前にその概要を考えておくことです。
事業承継は思い付きでできるものではなく、また短時間で結果が出るものでもありません。
あらかじめそのメリットとリスクを考えて、実行までの間に何度も検討する必要があります。
そしてどのような方法で事業承継を行うのか、その時期はいつにするのかといった内容を決めておくことが大切です。
このようにして作成した事業承継計画にもとづいて、事業承継を実行することとなります。
また、事業承継計画を書面にしたものが事業承継計画書です。
事業承継計画書自体は、何か特定の形式が定められているわけではありません。
一般的には、中小企業庁がホームページで公表している事業承継計画書を利用することが多いでしょう。
ただ、金融機関などが事業承継計画書を提供している場合があり、こちらも利用することができます。
事業承継計画表という名称になっている場合もありますが、中身に違いはありません。
ただ、事業承継にあたって融資を受けるのであれば、その金融機関で提供されているものを利用するのが一般的です。
主な事業承継計画書の提供元のリンクをご紹介します。
事業承継計画の作成目的
事業承継計画を作成するのは何故なのでしょうか。
ここでは、事業承継計画の作成目的を知り、より良い事業承継計画を作成するためのポイントを確認しておきましょう。
事業上の資産・負債の引き継ぎをスムーズに行う
事業を行う会社や個人は、その事業を行うための資産を数多く保有しています。
また、事業上の借入金や負債を抱えており、その返済を定期的に行っていることもあります。
事業承継を行うということは、このような資産や負債をすべて次の経営者が引き継ぐことを意味します。
しかし、負債があるとことを知らずに事業承継したために、たちまち事業が立ち行かなくなることもあり得ます。
また、どのような資産があるかわからないまま事業承継しても、どのような設備投資をすべきかの判断が遅くなってしまいます。
事業承継する際に、その資産や負債の内容をすべて把握しておくことは、先代経営者も後継者にも重要なことです。
会社の場合、株価評価にも密接に関連するため、漏れのないようにしておかなければなりません。
先代経営者の理念やビジョンを知る
どのような考えのもと、その会社が存在してきたのかを確認しておきましょう。
後継者もまずは先代経営者の考え方や理念を理解し、その考え方を引き継ぐところから始まります。
事業承継をした後継者は、先代の殻を破ることを常に意識することでしょう。
しかし、まずは先代の考えを理解し、その考えに賛同してきた従業員や取引先を大切にしなければなりません。
そして、後継者自身がある程度の成果を出した時には、新しい考え方を打ち出してこれまでとは異なる視点を加えていけばいいのです。
焦って後継者の独自性を出そうとしても、うまく行かずに反発を招いてしまう可能性もあります。
どのような考えで従業員が働いてきたのか、そのことを無視して事業承継することはできないのです。
相続や納税などの問題を認識する
会社の場合、事業承継とはその会社の株式の引き継ぎも意味します。
会社の株式は、その評価額が莫大な金額になっているケースもあり、後継者が負担する贈与税や相続税の負担は大きくなります。
そこで、誰がどれだけの株式を引き継ぐのか、その内訳を考えるとともに税負担についても考慮しておきます。
また、遺産分割の際には、法定相続割合や遺留分などの問題に発展することもあるため、あらかじめ対策しておくようにしましょう。
事業承継の計画を立てるときに考えたいこと
事業承継計画を立てる際に、どのようなことを考える必要があるのでしょうか。
具体的なポイントについて、いくつか確認しておきましょう。
事業承継の方法を考える
事業承継といっても、その方法には様々なものがあります。
特に誰が後継者となるかによって、その後の事業承継の進め方は大きく変わるため、まずは「誰が」という点をはっきりさせておきましょう。
後継者となる人には、大きく分けて①親族、②従業員、③第三者の3つのパターンがあります。
中でも③第三者に事業承継させる方法は、M&Aと呼ばれます。
この場合は購入者を探すところから始めなければならないため、特に注意が必要です。
経営上のリスクを正確に判断する
事業をこれまで行ってきた先代経営者も、これから引き継ぐ後継者もその事業について色眼鏡で見てしまうものです。
経営上の強みやメリットばかりを見てしまい、リスクについて正確に判断できないことが多いようです。
しかし、事業承継を行う際には、経営上のリスクを正確に把握し、どのように対処するかを考えることがとても重要です。
事業の良い面ばかりを見るのではなく、冷静に状況分析する必要があります。
はじめから後継者を1人に絞る必要はない
事業を引き継ぐ意思のある人は、何も子どもだけとは限りません。
従業員がその事業を引き継ぎたいと考えているかも知れませんし、第三者の買い手が見つかる可能性もあります。
そのため、はじめから子どもや親族だけに後継者候補を絞る必要はないのです。
何のために事業承継を行うのか、そのことを改めて考える必要があります。
事業を存続し従業員の雇用を守る、あるいは地域社会に貢献するという考えかもしれません。
また、将来の相続や遺産分割をスムーズに進めるために、事業承継しようと考えているのかもしれません。
いずれの場合も、何が最善の選択となるのかよく考えるようにし、様々な選択肢を排除しないようにしいましょう。
事業承継計画書の記載内容
事業承継計画書には、どのような内容を記載することとなるのでしょうか。
様々な書式がありますが、多くの事業承継計画書に記載される内容をご紹介します。
前提状況
事業承継を行う前に、事業承継にあたって考慮すべき内容を記載します。
まずは親族関係を記載します。
後継者以外の親族も相続分を有しており、後継者が事業承継により株式を引き継ぐ際には、他の親族に対する配慮が必要となります。
親族の法定相続分・遺留分や贈与税・相続税の負担などを考慮する必要があるか明らかにするのです。
次いで、事業承継の予定時期を記載します。
単に何年後かだけでなく、先代経営者が何歳で後継者が何歳であるかが重要です。
また、会社の概要を記載します。
資本金、年商、創業時期や沿革など基本的な情報を整理し、スムーズに事業承継できるように準備しておきます。
経営者の思いと後継者の思い
会社の基本的な情報をまとめるだけでなく、経営者の思いも事業承継計画書に織り込んでおきましょう。
そこで、先代経営者が大事にしてきた理念やビジョンなどを記載します。
たとえば、後継者や従業員に対する思いを後継者や従業員に直接語りかけるように記載するのもいいでしょう。
一方、後継者となる人は、先代の思いに対してどのように考え、どう行動に移すのかを記載します。
先代の思いを理解した上で、さらにその事業を発展させるという内容が理想的と言えるかもしれません。
事業の分析と将来の予測
会社やその事業の置かれた状況分析を行う必要があります。
状況分析を行う際には、SWOT分析などを使って、強みと弱み、機会と脅威などの事業環境の実情と今後の変化について記載するようにしましょう。
広い視野から客観的に分析する一方で、会社に対する思いからこの事業は必ずうまくいくはずという気持ちもあるかもしれません。
この点はあまり主観的にならず、先代から後継者へ伝わるような内容にしましょう。
まとめ
事業承継は、多くの中小企業や個人事業主にとって大きな問題ですし、避けては通れません。
しかし、実際にそのための準備を行っている人は決して多くなく、相続が発生してから慌てるケースもあり得ます。
本来の事業承継は、先代が生きているうちに次の経営者を育てて行うものであって、事業承継計画書は、実際に事業承継を行う前から準備を始めるために利用するものです。
具体的に何も決まっていなくても、事業承継のための準備を始めることは、非常に大きな意味を持つと言えるでしょう。