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最終更新日:2023/11/7

医療法人の事業承継スキームとは?株式会社との違いをわかりやすく解説

弁護士 水流恭平

この記事の執筆者 弁護士 水流恭平

東京弁護士会所属。
民事信託、成年後見人、遺言の業務に従事。相続の相談の中にはどこに何を相談していいかわからないといった方も多く、ご相談者様に親身になって相談をお受けさせていただいております。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/tsuru/

医療法人の 事業承継の方法や スキームは?株式会社との違いも解説

この記事でわかること

  • 医療法人はどのように事業承継を行うのかがわかる
  • 医療法人と株式会社の違いが事業承継にどのように影響するのかがわかる
  • 医療法人が事業承継を行う際のスキームについて知ることができる

多くの開業医が、安定的な事業の継続をねらいとして、医療法人を設立しています。

ただ、すでに設立されている医療法人の中には、経営者である医師が高齢化し、事業承継の必要に迫られているケースもあります。

しかし、現実にはなかなか医療法人の事業承継は進みません。

ここでは、医療法人が事業承継を行うために、どのようなスキームを利用できるかご紹介します。

事業承継は、計画すればすぐに実行できるものではありません。

事前によく計画して、さまざまなリスクを避けるようにしましょう。

医療法人の事業承継の実情

近年、医療法人の経営者の高齢化が進んでいると言われています。

医療法人の多くは個人医院が法人化したものであり、代表者の定年などを設けずに法人が運営されているためです。

死ぬまで現役というような姿勢で高齢の経営者が法人の運営にあたっていますが、その多くは事業承継の必要に迫られています

後継者がいないと、現在の経営者が実務をできなくなった時に、その法人は消滅の危機を迎えてしまいます。

本来、若い次世代の経営者にバトンタッチするのが望ましいのですが、少なくともその候補者を探しておく必要があります。

ただ、後継者の候補者がいる場合でも、事業承継が思いどおりに進まない事情があります。

それは事業承継する際に、後継者に多額の税金が発生すると想定されるためです。

子どもが後継者となる場合、ほとんどのケースで相続により事業承継が行われることとなります。

これは生前に贈与などで事業承継を行うと、相当大きな税負担が発生してしまうので、それを避けるためです。

ただ、相続まで待ったとしても、医療法人の持分の評価額を計算すると高額の相続税が発生することとなってしまいます。

そのため、後継者となる人にとってはいずれにしても頭の痛い問題だと言うことができます。

医療法人の経営上、大きなリスクを抱えているケースが多いため、少しでも早い段階で事業承継の検討を始める必要があります。

医療法人制度の概要

医療法人の事業承継について解説する前に、医療法人とはどのような組織なのか解説します。

医療法人の中にもいくつかの種類に分類することができるため、その違いについて確認しておきましょう。

医療法人とは

医療法人とは、病院、医師もしくは歯科医師が常時勤務する診療所などを開設することを目的とした社団または財団法人のことです。

医療法の規定に基づいて設立され、運営されています。

設立・存続にあたっては、必ず医師または歯科医師が必要です。

また、すべての医療法人は非営利法人であるとされ、出資者に対して剰余金の配当を行うことはできません。

さらに、病院などの医療施設を開設する際には、都道府県知事の許可が必要となります。

医療法人の分類

医療法人は、大きく社団法人と財団法人に分けられます。

そして、社団医療法人は、持分あり医療法人と持分なし医療法人に分類できます。

また、さらに持分のない社団法人と財団法人には、公益性の高い社会医療法人や特定医療法人と呼ばれる法人があります。

非常に複雑な分類となりますが、整理すると以下のような形になります。

医療法人の分類

医療法人と株式会社の違い

医療法人と株式会社の違い

医療法人の特徴についてご紹介しましたが、そもそも医療法人と株式会社はどのような違いがあるのでしょうか。

医療法人と株式会社の組織としての違いを中心に確認していきましょう。

医療法人の機関

医療法人の機関設計は、株式会社などの組織とは大きな違いがあります。

あまりなじみのない言葉もありますが、医療法人について知るためには、その内容を確認しておく必要があります。

社員総会・評議員会

社員総会は、医療法人の最高意思決定機関です。

理事や監事の選任・解任、あるいは役員報酬の決定、財務諸表の証人などの権限を有しています。

評議員会は、財団医療法人にのみ設置される機関です。

医療法人の業務や財産の状況、役員の業務執行の状況など役員に対して意見を述べ、役員から報告を受けることができます。

理事及び理事会

医療法人は、3人以上の理事を置くこととされています。

理事は社員総会で選任されます。

また、理事会は理事により構成される業務執行機関であり、医療法人の業務を執行します。

理事のうち1人を理事長とすることとされており、理事長は必ず医師か歯科医師でなければなりません。

理事長は医療法人の業務を執行し、3ヶ月に1回以上、理事会に対して自己の職務状況の報告が決められています。

監事

医療法人は、1人以上の監事を置く必要があります。

監事は社員総会によって選任されます。

監事に選任された人は、医療法人の業務などの監査を行うこととされています。

株式会社の機関

株式会社の機関は、株主総会、取締役及び取締役会、監査役となっています。

株主総会

株主総会とは、会社に出資を行って株主となった人が、会社の基本的な方針や重要事項を決定する機関です。

また、会社の実務を行う取締役や監査役を選任する機関でもあります。

株主の保有する議決権は、出資した金額などに応じて付与されるため、多くの株式を保有する人は1人で会社の方針を決定できます。

株主は会社のオーナーとして、会社の最高意思決定に参加することとなるのです。

取締役会及び取締役

取締役会は、会社の業務執行上の意思決定機関となります。

取締役会は3名以上の取締役により構成され、取締役はそれぞれ株主総会で選任されます。

また、取締役の中から1人を代表取締役として選任し、会社の代表権を有することとなります。

ただし、現行の会社法では取締役会の設置は義務ではありません。

取締役の人数も1名以上であればよく、この場合、会社における重要事項の決定はすべて株主総会で行われることとなります。

しかし、株主総会の開催は年1回という会社がほとんどであり、すべての事項に株主の判断を仰ぐことはできません。

そのため、役員の人数を減らして取締役会を廃止することが絶対に良いとは言えない点に注意が必要です。

監査役

監査役は、取締役の行う業務の監査を行う機関です。

また、会社が作成した計算書類の監査も行います。

経営上の不正や会計上の不正がないかを防ぎ、その発生を未然に防ぐことが大きな役割となります。

医療法人と株式会社の相違点まとめ

医療法人と株式会社の違いは以下の通りです。

医療法人 株式会社
準拠法 医療法 会社法
設立の方法 都道府県知事の許可の後設立登記 設立登記
最高意思決定機関 社員総会 株主総会
役員の名称 理事 取締役会
代表者 理事長 代表取締役
議決権 社員1人について1個 持株数に応じて付与
配当の可否 配当禁止 配当可能

医療法人の事業承継スキーム

それでは、具体的に医療法人の事業承継を行う際には、どのような方法があるのでしょうか。

事業承継は、後継者のタイプによって大きく「親族間承継」と「M&A」に分けることができます。

事業承継の形態 具体的な方法
親族間承継
  • 出資持分の移転
  • 持分の払い戻し(社員の退社と入社)
  • 認定医療法人の活用
M&A
  • 出資持分の譲渡
  • 持分の払い戻し(社員の入社と退社)
  • 合併
  • 事業譲渡

親族間承継による出資持分の移転

先代経営者から後継者へ医療法人の持分を移す方法には、相続や贈与、譲渡(売買)がありますが、親族間の場合は相続や贈与によるケースが多いでしょう。

ただし、相続による移転の場合は事業承継がスムーズに進むとは限らないため、先代経営者が亡くなる前に事業承継を実行に移す必要があります

また、医療法人の出資持分は株式会社とは異なり、議決権が付与されていません

医療法人の経営権を承継するためには、従前の社員が後継者にとって好ましい議決権行使をする場合を除いて、社員の入れ替えを検討する必要があるのです。

親族間承継による持分の払い戻し

先代経営者が医療法人を退社して、医療法人から出資持分の払い戻しを受けます

一方、後継者は医療法人に出資持分の払い込みを行います

この場合、相続や贈与といった形での出資持分の移転は行われないため、相続税や贈与税は発生しません。

ただし、所得税の総合課税の対象となるため、住民税を合わせると55%もの税負担となる可能性があることに注意が必要です。

また、医療法人の経営権を持つのは社員であることから、このスキームでも社員の入れ替えを検討しなければなりません。

持分の払い戻しがうまくいっても、社員の構成を変えられないため、事業承継がうまくいかないことがあり得ます。

親族間承継での認定医療法人の活用

認定医療法人とは、持分あり医療法人から持分なし医療法人への移行を決定した医療法人のことです。

移行計画について厚生労働大臣の認定を受けられれば、医療法人の持分に関わる相続税・贈与税の課税が猶予されます

また、持分なし医療法人への移行後6年が経過すると、納税が免除されることとなります。

2026年12月末まで、この認定医療法人制度を使って持分なし医療法人に移行することができるため、早めに対応する必要があるでしょう。

なお、場合によっては社員の入れ替えなどを行う必要があるため、持分なし利用法人に移行した後も、経営権を握っている社員の構成には気を付けなければなりません。

M&Aでの出資持分の譲渡

医療法人の後継者がいない場合、保有する出資持分を第三者に売却して医療法人の存続を図ります

M&Aと呼ばれる事業承継の中では、第三者への出資持分の譲渡が最も多く用いられる方法です。

譲渡する際には、その売却価格をいくらにするのか、売却時期はいつにするのかといった点を交渉します。

そのため、特に価格の点で合意できないと、売買が成立しません。

また、出資持分を売却しても、それまでの経営者が社員のままとなっている場合は、実質的な経営権を譲渡できないことが予測されます。

出資持分の売却とともに、経営者が社員の地位を退く手続きも検討する必要がある点に注意しましょう。

M&Aでの持分の払い戻し

M&Aを行って経営者が交代した医療法人が、先代経営者の出資持分を法人として買い取る場合があります。

払い戻しを行う時点での法人の出資持分の評価額を計算し、その評価額で先代経営者やその家族などから買取りを行うのです。

この場合、出資持分の払い戻しを受けた先代経営者などは、みなし配当と呼ばれる利益が発生します。

医療法人の経営が順調に推移した場合ほど評価額が高くなり、課税対象となる金額も大きくなります。

みなし配当は総合課税の対象であり、金額が大きくなるほど税率も高くなってしまうので、注意しなければなりません。

M&Aによる合併

M&Aを行う際に、他の医療法人をすでに経営している人がその出資持分を取得し、合併することがあります。

合併によって効率的な経営により経費の発生を抑え、またシナジー効果により売り上げを増やすことが期待できます。

医療法人同士の合併は可能ですが、株式会社との合併は許可されていません。

医療法人同士の合併手続きは複雑で、社員や理事の同意が必要になります。

同意の割合は法人の種類によって異なり、社団医療法人の場合であれば総社員の同意を、財団医療法人の場合は理事の3分の2以上の同意を得なければなりません。

また、都道府県知事による合併の認可を得なければならない点にも注意が必要です。

M&Aによる事業譲渡

事業譲渡は、保有する事業用資産の全部または一部を、第三者に譲渡することです。

出資持分については譲渡せず、医療法人内で使用している財産・資産や、発生した債務が譲渡の対象となります。

事業譲渡により財産を取得しようとする第三者と、契約によってどこまでの財産や資産を譲渡するのかを決めていきます。

出資持分の譲渡や合併とは異なり、第三者に移転する資産の範囲を契約で定めるため、譲渡してよいものかの判断が必要です。

また、従業員や契約上の地位などが事業譲渡の対象となることもあり、その点にも注意しなければなりません。

医療法人の事業承継が難しい4つの理由

現実には思いどおりに事業承継が進まないケースが多くあります。

なぜ医療法人の事業承継は、株式会社の事業承継に比べて難しいのでしょうか。

医療法人特有の事情について解説します。

誰でも後継者になれるわけではない

医療法人の後継者は医師や歯科医師である必要があり、一般の会社の後継者選びとは異なります。

たとえ医療法人の代表者の子どもであっても、医師や歯科医師でなければ事業を引き継ぐことはできません。

医師や歯科医師になるのは容易なことではなく、代表者の子どもは医学部や歯学部への進学が求められるケースが多いでしょう。

それでも医師や歯科医師になることができない場合には、別の方法で事業承継を検討するしかありません。

相続税や遺産分割の際にトラブルとなる可能性が高い

医療法人の出資持分は経営権を示すものではなく、経済的な価値を持つ資産です。

もともと出資持分以外にも多くの財産を保有しているケースが多いため、医療法人の代表者が亡くなると、多額の相続税が発生します。

その上、出資持分を大量に保有していると、その相続の際には多額の相続税が課されることになります。

相続税対策として生前に出資持分の整理を考えるかもしれませんが、贈与税の問題や相続時の遺留分確保が困難になることが予想されます。

また、医療法人の経営を安定させるためには、出資持分はできるだけ後継者が相続したいと考えるため、先代経営者が亡くなって相続が発生すると、トラブルとなりやすいと言えます。

後継者が出資持分を買い取る負担が大きい

相続が発生する前に事業承継を行いたいと考える場合、まずは出資持分をどのように移転するか考えなければなりません。

後継者が出資持分を買い取る場合、買い取り資金の調達方法が大きな問題となります

買い取り金額が莫大で調達が容易ではないため、金融機関からの融資や先代経営者からの借入が検討されます。

いずれの方法も、簡単に融資を受けられるわけではなく、融資を受けたとしてもその後の返済が大きな負担になるでしょう。

事業承継後に思い通り経営することが難しい

出資持分の移転を行えば問題ないとは言い切れません。

出資持分の移転により事業承継が完了したように見えても、経営権はまだ以前の状態のままだからです。

出資持分だけでなく、社員総会を構成する社員についても、後継者の意に添った新しいメンバーを選ぶ必要があります

ただし、いきなりそのメンバーを全員入れ替えるようなことはできないため、徐々に進めていくしかありません。

医療法人の所有と経営が分離した形となっているため、事業承継を行う上ではさまざまなことを考慮しなければならないのです。

まとめ

医療法人は、株式会社のような営利法人とは異なり非営利性が求められます。

また、医師や歯科医師だけが代表者になることのできる、きわめて特殊な法人と言えます。

後継者となることのできる人もまた医師や歯科医師でなければならないため、簡単に事業承継することができません。

医療法人の事業承継を考える場合は、誰が後継者になるのか、どのような方法で行うのか、時間をかけて考える必要があります

医療法人の事業承継について悩んだ際には、早めに専門家に相談するのもよいでしょう。

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