この記事でわかること
- 事業承継する際にはまとまった資金が必要になることがわかる
- 事業承継を行う際に利用できる融資の種類や特徴がわかる
- 事業承継で融資を受ける際の注意点を知ることができる
中小企業の社長が交代する事業承継を行う場合、後継者のタイプによりいくつかの方法がありますが、どのようなタイプであってもまとまった資金が必要となります。
しかし、後継者が事業承継前にその全額を用意できず、融資を受けることが必要になるケースもあります。
そこで、事業承継を行う際に利用できる融資にはどのようなものがあるかご紹介します。
また、融資を受ける際の手続きの流れの中での注意点について解説します。
目次
事業承継に必要な資金
一般的に事業承継を行う際には、どのような理由で資金が必要となるのでしょうか。
ここでは後継者のタイプを2つに分けて、事業承継に必要な資金にはどのようなものがあるのか説明します。
親族内承継の場合
親族内承継の場合に必要となる資金には、以下のようなものがあります。
親族内承継に必要となる資金
- 株式の購入資金
- 贈与税、相続税などの税金
- 事業用資産の購入資金
親族内承継の場合にポイントとなるのは、①会社の株式をどのように移すのか②事業用の資産は誰が保有しているかです。
それぞれ具体的に説明していきます。
①会社の株式をどのように移すか
多くの場合には、贈与や相続により後継者に移すこととなります。
この場合、贈与税や相続税が発生するため、後継者は納税しなければなりません。
また、株式を先代経営者以外の親族が保有していると、その人から買い取らなければならない場合もあります。
このような場合には、現在の株主から株式を買い取るための資金が必要となります。
②事業用の資産を誰が保有しているか
多くの場合は、事業承継を行う前には会社がその資産を保有しています。
ただ、中には先代経営者やその他の親族が保有する資産があるかもしれません。
特に、会社の建物やその敷地については、個人名義となっている場合も多くあります。
事業承継後に安定した経営を行うために、このような資産を買い取った方がいいケースも少なくありません。
このような場合には、資産を買い取るための資金も必要となります。
親族外承継の場合
親族外承継の場合に必要となる資金には、以下のようなものがあります。
親族外承継に必要となる資金
- 株式の購入資金
- 事業用資産の購入資金
親族以外の人が後継者となる場合には、従業員や役員が買い取るケースと第三者がM&Aを行うケースがあります。
ただ、いずれのケースでも後継者となる人は、会社の株式を先代経営者から購入するしかありません。
会社の経営状況や財務状況を反映した適切な評価額で買い取る必要があるため、相当大きな金額になることもあります。
株式の購入資金をどのように調達するかは、後継者にとって大きな問題となります。
また、事業用の資産を先代経営者やその他の親族が保有するケースも多くあります。
この場合には、資産を購入するための資金も用意しなければならないため、全体では相当な資金が必要となります。
事業承継の融資の種類
事業承継の際には、多額の資金が必要になるケースがあることがわかりました。
そのような資金を簡単に準備できないため、実際には金融機関からの融資を利用するケースもあります。
そこで、どのような融資を利用することができるのか、その種類や特徴などを解説します。
政府系金融機関
国は、事業承継が中小企業における大きな課題の1つとして認識しています。
そして、事業承継の問題を放置すれば中小企業がなくなってしまう危機感があるため、事業承継が円滑に行われるような政策を行っています。
政府系金融機関の中で、中小企業や個人事業主に対する融資を積極的に行っているのは、日本政策金融公庫です。
この日本政策金融公庫は、事業承継にも利用できる融資制度を設けています。
「事業承継・集約・活性化支援資金」と呼ばれる融資制度は、その名のとおり事業承継やM&Aを行う経営者に対する貸付となっています。
制度としては、「国民生活事業」と「中小企業事業」の2つで条件や融資額等が異なっており、「国民生活事業」として利用する場合、その特徴には、以下のようなものが挙げられます。
- 担保や保証人は不要
- 設備購入資金としても利用でき、返済期間は20年以内
- 据置期間が5年、10年になることがある
総額7,200万円の融資を受けることができ、そのうち運転資金は4,800万円となっています。
運転資金の融資期間は7年以内となっており、据え置き期間が2年以内とされていることも特徴です。
なお、融資を受けるにあたっては、先代経営者と後継者が一緒に事業承継計画を策定することが求められています。
また、融資を受けてから7年以内の事業承継が見込まれることとされており、早い段階から融資が受けられるといえます。
事業承継により設備投資が必要になった場合には、この融資制度を利用して資金調達することができます。
また、事業承継に必要な運転資金がある場合には、その資金も調達できるため、真っ先に利用を検討すべきといえます。
なお、「中小企業事業」としてこの融資を利用する場合は、金額や条件に違いがあります。
詳しくは、下記のホームページでご確認ください。
一般の金融機関
政府系金融機関だけでなく、民間の金融機関も事業承継に対しては積極的な姿勢を見せています。
もし事業承継が進まなければ、多くの中小企業が消滅し金融機関の仕事も失われてしまうためです。
多くの金融機関では、事業承継ローンなどの名称で事業承継に特化した融資制度を設けています。
内容は金融機関によって様々ですが、担保や保証人なし、設備資金については20年の融資期間、長めの据置期間などが特徴としてあげられます。
これらの条件は、いずれも会社が通常の融資を受ける場合より好条件といえるため、利用する価値は大いにあるでしょう。
事業承継の融資を利用するまでの流れ
事業承継のための融資を利用するには、どのような手続きが必要になるのでしょうか。
ここでは、日本政策金融公庫の「事業承継・集約・活性化支援資金」を利用する際の手続きについて、順に解説していきます。
1)専門家に相談する
事業承継を検討する際には、まず税理士などの専門家に相談しましょう。
事業承継によって税金が発生することとなるため、その税額をあらかじめ概算して確認しておく必要があるためです。
事業承継の方法によって、贈与税や相続税、所得税などの税金が発生する可能性があります。
この時大きな影響を与えるのは、会社の株価です。
税理士に事業承継の方法について相談し、会社の株価を計算してもらい、かつ事業承継の方法に応じて発生する税額を計算してもらいましょう。
2)事業承継計画を策定する
事業承継計画は、事業承継の方法やスケジュールの他、事業承継により発生する税金のあらましについて記載されています。
具体的にどのように事業承継を進めていくのかが記載されており、大変重要な意味を持つ書類となります。
実際、日本政策金融公庫の融資を受ける際には、事業承継計画を作成しなければならないとされています。
事業承継計画は、先代経営者と後継者が一緒に策定するものです。
先代経営者だけ、あるいは後継者だけで事業承継計画を作成することはできません。
このことは、事業承継自体が先代経営者と後継者の共同作業であることを物語っているのです。
3)支店の窓口で相談する
事業承継計画書を作成したら、その書類を持って日本政策金融公庫の窓口へ行きましょう。
支店の窓口では、融資を受けられるかどうかの判断はできません。
ただ、事業承継にあたっての金融機関としてのアドバイスを受けることができます。
支店に出かける際には、事業承継計画書や会社案内、過去3年分程度の決算書を持参するといいでしょう。
一般的なアドバイスにとどまらず、より具体的なアドバイスをしてもらうことができます。
また、税理士などに相談した際に試算した税金などの金額も明らかになれば、具体的な融資の額を検討できます。
4)事業承継ローンを申し込む
支店の窓口で相談した内容を踏まえて、「事業承継・集約・活性化支援資金」の申し込みを行います。
事前に支店の窓口で確認している内容に基づいて、融資金額や返済期間などを無理のないものになるようにしましょう。
なお、融資の申込みの際に必要となる書類には、以下のようなものがあります。
融資の申込みに必要な書類
- 法人登記事項証明書
- 直近3期分の決算書と申告書
- 納税証明書
- 最新の事業年度の試算表
- 設備投資の概要(見積書など)
実際には、審査を通りやすくするため、更に書類を準備することもあり、窓口の担当者のアドバイスが参考になるでしょう。
なお、審査の際には審査担当者が事業所を訪ねて来ることがあります。
これは提出した書類だけではわからない内容を、実際に現地で確認するために行われます。
同時に、後継者に対するヒアリングも行われ、どのような考えを持っているのかを確認されます。
できるだけ自分の言葉で、今後の事業展開などを説明できるようにしておきましょう。
5)貸付契約を締結する
融資の審査に通れば、晴れて契約締結です。
具体的な契約内容の確認の後、融資金額が振り込まれます。
また、融資が実行されれば、その後すぐに返済も始まります。
延滞することのないよう、計画的に返済していきましょうん。
事業承継の融資を利用するメリット
事業承継の融資制度が設けられており、利用することができるとわかりました。
では、このような融資を利用することにはどのようなメリットがあるのでしょうか。
後継者が資金を準備するのを待たなくて良い
事業承継を行う際に、多くの資金が必要になるのはほとんどが後継者となる人です。
しかし、後継者はそれまで社長ではなかった人ですから、多額の資金を短時間に準備することは難しいでしょう。
もし融資を利用できないとすると、後継者が自力で必要な資金を準備するのを待つしかありません。
後継者が必要な資金を準備できるまで待つとすれば、事業承継が数年先送りとなってしまう可能性があります。
そこで、事業承継に必要な資金を融資で調達することで、事業承継を計画的に進めることができます。
事業承継と同時に新たなチャレンジができる
前述したように、事業承継ローンではその資金を設備投資などに利用できます。
そこで、事業承継を機にそれまでの会社の事業を見直して、新たなチャレンジをするきっかけとするのも良いでしょう。
新たに設備投資を行うと同時に経営の効率化を行う、あるいは新規事業を始めるための投資を行うといったことができます。
融資を受けなければ購入できないような設備を導入し、事業承継を一気に進めることで時代の流れに合った会社にできるのです。
事業承継の融資を受けるときの3つの注意点
事業承継にあたって融資を受けることは、良いことばかりではありません。
最後に、融資を利用する際に注意しなければならないポイントをいくつか確認しておきましょう。
融資を受けると負担は増える
融資を受けることとなれば利息の支払いが発生するため、結果的に支払いは増えてしまいます。
事業承継を行う際に、特に資金需要がないにもかかわらず融資を受けると、その後の返済で苦労することもあります。
必要のない借入れは極力避ける他、適正な融資金額だけを借入するようにしましょう。
融資の実行までは時間がかかる
融資を受けるには、必要書類など様々な準備をしなければなりません。
また、審査を受けてもその結果がすぐ出るわけではなく、融資の実行までは時間がかかります。
税金を支払う必要がある場合、資金不足を理由に納税を先延ばしにしてもらうことはできません。
また、融資の実行までは設備投資ができないため、事業承継を進めるのに影響が出てしまうこともあります。
いつ、どれだけの資金が必要となるのかあらかじめ確認しておき、それに合わせたスケジュールで融資を受けられるようにしなければなりません。
絶対に融資が受けられるわけではない
金融機関で審査を受けた結果、融資が受けられない可能性もあります。
この場合には、融資を受けられないまま事業承継を進めるのか、あるいは事業承継を中断するのか検討しなければなりません。
現在カードローンを利用している人や、過去に借入金の返済が滞った経験がある人は要注意です。
また、会社の経営状態が良くない場合や、事業承継計画に曖昧な点がある場合にも、融資が受けられないことがあります。
まとめ
事業承継を行うためには、まとまった資金が必要となります。
しかし、後継者がそのような資金を事前に準備しておくことができないことも多く、どのように資金調達するかが問題となります。
事業承継のための融資を受ければ、その問題を一気に解決できるため利用を検討することをおすすめします。
ただ一方で、返済する際のリスクや実行までにかかる時間などの注意点もあります。
事前に税理士などの専門家や金融機関の担当者に相談して、融資を受けるための準備をしておきましょう。