この記事でわかること
- 事業承継税制には一般措置と特例措置の2種類あることがわかる
- 贈与税について事業承継税制の適用を受けるための要件がわかる
- 事業承継税制で贈与税の納税猶予を受ける際の注意点がわかる
事業承継税制を利用して株式を後継者に移転すると、大幅な節税になります。
そこで、事業承継税制を利用して税負担を減らしながら株式を移していきたいと考えている方もいるでしょう。
事業承継税制には2種類がありますが、特にメリットの大きい特例措置を利用するにはどのような要件があるのでしょうか。
また事業承継税制を利用する際に注意しなければならないポイントには何があるのかも確認しておきましょう。
目次
事業承継税制とは?
事業承継税制とは、中小企業のオーナーが保有する株式を後継者が引き継ぐ際に発生する税金の納税が猶予される制度です。
株式を引き継ぐと相続税や贈与税が発生しますが、その納税が猶予されるため、後継者の負担が大幅に軽減されるのです。
中小企業の中には、後継者が不在で存続の危機にある会社が少なくありません。
また、後継者の候補者はいても、その人が会社の株式を引き継ぐためには多額の税金がかかるため、二の足を踏むケースもあります。
現在ある中小企業の多くが消滅してしまうこととなれば、そこで働く人は仕事を失うこととなります。
また、大企業との取引によって日本経済の根幹を支える会社もありますし、地域社会において不可欠な会社もあります。
そのような中小企業が存続できなくなってしまうと、その影響は大きく広がる可能性があるのです。
そこで、中小企業のオーナーが後継者に事業承継しやすくなるような制度を目指して事業承継税制が設けられています。
事業承継税制の一般措置と特例措置の違い
一般措置 | 特例措置 | |
---|---|---|
対象となる株式 | 発行済株式総数の3分の2まで | すべての株式 |
適用期間 | 制限なし | 令和9年12月31日まで |
特例承継計画 | 不要 | 必要 |
納税猶予割合 | 贈与は100%、相続は80% | 100% |
後継者となる人 | 筆頭株主である後継者1人のみ | 持株割合10%以上の3人まで |
雇用確保要件 | 贈与や相続があった時の80%以上を維持しなければならない | 80%以上の雇用を維持できなくても認められる |
相続・贈与から5年後以降の減免要件 | 民事再生や会社更生がある場合には、株式を再評価して贈与税・相続税を再計算し、差額の納税を免除する | 経営環境の変化を示す一定の要件を満たせば、譲渡や合併による消滅・解散でも減免される場合がある |
事業承継税制には、一般措置と特例措置の2種類があります。
この2種類の違いを確認しておき、どちらを利用すべきかの判断材料としていきましょう。
対象となる株式の数
一般措置の場合、事業承継税制を利用して納税猶予が適用されたとしても、すべての株式が対象になるわけではありません。
発行済株式総数の3分の2までの株式数しか対象にならないためです。
先代オーナーがすべての株式を保有していたとしても、3分の1の株式については通常の贈与税や相続税の対象とされます。
一方、特例措置の適用を受ける場合は、発行済株式のすべてが対象となります。
先代オーナーがすべての株式を保有している場合には、そのすべてが納税猶予の対象とされるのです。
適用期間
一般措置は、事業承継税制の原則的な方法として、平成23年の税制改正により新たに設けられた制度です。
それまでなかった大きな納税猶予が、いつでも使える制度として新たに設けられています。
これに対して特例措置は、事業承継税制をより使いやすくした制度として平成30年の税制改正により設けられました。
令和9年12月31日までの時限立法であり、これまでに贈与や相続を行う必要があるのです。
特例承継計画
特例承継計画とは、事業承継を実施する前に都道府県知事に提出する書類です。
どのような形で事業承継を行うのか、事業承継後どのような経営計画を立てているのかを報告し、認定を受ける必要があります。
特例承継計画は特例措置が始められた時に新たに作られたものであり、特例措置を実施する際に必要となる書類です。
一般措置の適用を受ける場合は、特例承継計画を作成し提出する必要はありません。
これは、一般措置が創設された時には事業承継計画という書類自体が存在していなかったためです。
現在も、一般措置の場合は必要がないのです。
納税猶予割合
事業承継税制の適用を受けた時、納税猶予の割合が高いほど、実際に納付する税額は少なく済みます。
一般措置の適用を受けた場合は、贈与税につき100%の納税猶予が受けられる一方、相続税については80%となります。
そのため、贈与では大きな負担なく株式を移転することができても、相続の場合には税額が発生することになります。
これに対して特例措置の場合、納税猶予割合は贈与・相続のいずれも100%とされています。
贈与税や相続税として発生した税額があっても、その全額の納税が猶予されるのです。
株数においてもすべてが対象となることから、他に贈与・相続された財産がなければ、一切納税が必要ないのです。
後継者となる人
一般措置の場合、後継者は筆頭株主となる人1人のみとされています。
そのため、複数の後継者がいる場合でも、株数の少ない人には通常の贈与税や相続税が発生するのです。
一方、特例措置の場合は最大で3人の後継者が納税猶予の適用を受けられます。
ただし後継者となる人は、それぞれ会社の株式を10%以上保有している必要があります。
雇用確保要件
一般措置の場合、事業承継を行った時点で雇用していた従業員の80%以上の雇用を確保しなければなりません。
この80%という割合は、事業承継を行った後5年間の平均となります。
そのため、最低でも5年間は従業員の雇用に気を配る必要があります。
これに対して特例措置の場合も、従業員の雇用については事業承継時の80%以上を確保することとされています。
ただし、仮に80%を割り込んだ場合でも、納税猶予が取り消されるわけではありません。
その理由を説明する書類を提出すれば、納税猶予は取り消されません。
5年経過後の減免要件
一般措置の場合は、会社が民事再生などの適用を受けると、その時点での株式の評価額を再計算し、税額を求めます。
そして、当初の計算で求めた納税猶予額との差額については、納税が免除されるのです。
一方、特例措置の場合は、民事再生や会社更生の他、株式譲渡や合併などでも免税を受けられることとされました。
事業承継税制で贈与税の納税猶予を受けるための要件
事業承継税制の適用を受ければ、納税が免除され大きなメリットを受けることができます。
ただ、誰でも事業承継税制を適用できるわけではなく、以下のようないくつもの要件が定められています。
- 会社の要件
- 後継者の要件
- 先代経営者の要件
- 担保の要件
では、それぞれの内容について確認していきましょう。
会社の要件
事業承継税制の適用を受けることができるのは、中小企業基本法に定める中小企業に限定されています。
資本金または従業員数のいずれかが基準以下でなければならず、その基準値は業種ごとに定められています。
また以下のような要件も含まれます。
- 上場会社ではないこと
- 風俗営業会社や資産管理会社でないこと
- 従業員が1人以上いること
後継者の要件
後継者となる人は、同族関係者で50%超を保有しており、その中で筆頭株主でなければなりません。
また、贈与を受ける場合は会社の代表者であり、18歳以上で3年以上役員を務めていなければなりません。
先代経営者の要件
先代経営者は、会社の代表者であった人でなければなりません。
贈与の時に、同族関係者で過半数の株式を保有しており、かつ筆頭株主でなければなりません。
また贈与を行う場合は、贈与の時点では代表者を退任している必要があります。
担保の要件
納税猶予の適用を受けるためには、その税額に見合う担保を税務署に提供しなければなりません。
事業承継税制の場合は、対象となった非上場株式をすべて担保とするのが一般的です。
事業承継税制で贈与税の納税猶予を受ける手続き
事業承継税制を利用して、非上場株式を後継者に贈与して納税猶予を受ける方法を解説します。
期限が定められているものについては、その期限内に手続きを行わなければなりません。
おおまかな流れとしては、以下のようになります。
- ①特例承継計画を都道府県知事に提出する
- ②都道府県知事から交付された認定書を添付して贈与税の申告を行う
- ③納税猶予税額と利子税の金額に見合う担保を提供する
それぞれの注意点について、解説していきます。
①特例承継計画を都道府県知事に提出する
特例措置の適用を受ける場合は、特例承継計画を各都道府県知事に提出します。
提出後、その内容について審査を受け、問題なければ都道府県知事から認定書が交付されます。
②認定書を添付して贈与税の申告を行う
特例承継計画の認定を受けていることを証明する書類を添えて、贈与税の申告を行います。
通常の贈与税の申告では納税も同時に行いますが、納税猶予を受ける場合は納税が発生しない場合もあります。
③担保を提供する
納税猶予税額と利子税の金額に対応する担保を税務署に提供するとともに、その内容を税務署に申告します。
なお、事業承継税制の納税猶予を受ける場合は、その非上場株式を担保とすれば、他の財産は必要ありません。
事業承継税制で贈与税の納税猶予を受ける時の注意点
事業承継税制の最大のメリットは、贈与税の納税が猶予されることです。
特に会社の経営を引き継いだばかりの人は、納税資金を十分に持っていないことも考えられます。
そのため、発生した税額の納付を猶予してもらうことには大きな意味があるのです。
一方で、納税猶予はあくまで納税義務が猶予されている状態であり、納税義務が消滅したわけではありません。
納税猶予が取り消される事由に該当すれば、贈与税を納付しなければなりません。
またそれだけではなく、利子税も発生するため税負担はさらに大きくなってしまう可能性があります。
納税猶予を継続するためには、事業承継後の経営に気を配る必要があると言えます。
まとめ
非上場株式を贈与した場合には、事業承継税制の適用を受けることができます。
事業承継税制には、一般措置と特例措置の2種類がありますが、特例措置の方が後継者にとってメリットが大きくなります。
ただ、特例措置の適用を受けるためには特例承継計画を作成する必要があることに注意が必要です。
その他の要件は特に厳しくなっているわけではないため、期限内に手続きを進めていきましょう。