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最終更新日:2022/12/13

事業承継の方法は3つ!メリット・デメリットや活用できる公的支援を紹介

弁護士 水流恭平

この記事の執筆者 弁護士 水流恭平

東京弁護士会所属。
民事信託、成年後見人、遺言の業務に従事。相続の相談の中にはどこに何を相談していいかわからないといった方も多く、ご相談者様に親身になって相談をお受けさせていただいております。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/tsuru/

この記事でわかること

  • 事業承継には大きく分けて3つの方法があると知ることができる
  • 事業承継の手続きを流れに沿って順番に知ることができる
  • 事業承継を成功させるためのポイントや受けられる支援制度がわかる

事業承継を考えている中小企業の経営者の中には、後継者がいなくて困っている方もいるでしょう。

本来であれば自分の子どもに会社を継いでほしいものの、すでに別の仕事をしており、戻ってくる気配もないケースがあるためです。

しかし、このような状況でも会社を次の世代に残していくことはできます。

事業承継には3つの方法があり、子どもや親族以外の人が後継者になることもあるからです。

ここでは、事業承継の3つの方法についてご紹介し、スムーズに事業承継するためのポイントを確認していきます。

事業承継とは?

事業承継とは、会社の経営を後継者に任せることをいいます。

単純に言えば社長が交代することですが、中小企業の事業承継は大企業の社長交代とは大きく違う点が3つあります。

それは、社長が会社の大株主であることが多い点です。

後継者が経営権を確保して事業承継する際には、先代経営者が保有する株式を取得する必要があります。

また、会社で使う資産の中には、社長が個人で保有しているものもあります。

代表的なものが、会社の建物やその敷地です。

後継者が安定した経営を目指す場合には、このような資産も取得する必要があります。

さらに、中小企業では社長以外の人が経営上のノウハウや知識を持っていないため、後継者が引き継がなければなりません。

人的資源が豊富とは言えない中小企業では、先代経営者が持つ知的資産の承継は必要不可欠です。

このように、中小企業の事業承継とは、経営権、資産、知的資産の承継を意味しています。

事業承継の3つの方法

以下の表は、事業承継の方法を3つの方法に分類した場合のメリットとデメリットをまとめたものです。

承継の方法 メリット デメリット
親族内承継
  • 後継者を選びやすい
  • 事業承継をスムーズに進められる
  • 周囲からの理解を得やすい
  • 経営者になるための教育ができる
  • 相続や贈与を有効に利用できる
  • 親族内に後継者が見つからない場合がある
  • 後継者に経営者になるための資質や能力が不足している場合がある
親族外承継
(役員や従業員)
  • 会社の事業に精通しており事業を継続しやすい
  • 周囲からの理解を得やすい
  • 能力の高い人を後継者に据えることができる
  • 株式の買取資金を準備するのが難しい
  • 特定の人を抜擢することに従業員から反発もある
  • 候補者が事業承継を拒否することもある
M&A
  • 会社を売却することで先代経営者に利益が残る
  • 多くの後継者候補から選ぶことができる
  • より良い条件で売却できる
  • 買い手を見つけることは簡単ではない
  • 事業承継が成立するまでに時間がかかる
  • 事業承継後の会社運営に対する不安が残る

誰が後継者になって事業承継するのかによって、事業承継の進め方や注意点は大きく変わります。

また、先代の経営者にとってのメリットも異なります。

ではそれぞれの場合のメリットとデメリットを解説していきます。

親族内承継

子どもなどの親族が事業承継するケースは、今でも数多くあります。

ただ、以前は子どもが承継するのが一般的でしたが、現在ではその割合は徐々に低下しています。

また、子ども以外の親族が事業承継することもありますが、その割合は必ずしも多いとは言えないでしょう。

親族が後継者になって事業承継する場合、最大のメリットは後継者の候補者が身近にいることです。

社長の親族ということであれば、従業員や取引先、金融機関などの理解も得やすく、事業承継はスムーズに進みます。

また、後継者が従業員として働いている場合には、会社の事業に対する理解が深いこともメリットとなります。

一方で、親族の中に後継者となる人が必ずいるわけではないことに注意が必要です。

もし後継者がいないのであれば、早めに他の方法で後継者を探さなければなりません。

また、後継者の候補者が親族にいても、その人が経営者にふさわしいかどうか、しっかり見極める必要があります。

その資質が問われるような人が後継者になることで、会社が経営上の危機を迎える可能性もあるからです。

親族外承継

親族に候補者がいなければ、親族以外の人を候補者とする必要があります。

この時、まず考えられるのが会社の役員や従業員の中から候補者を探す方法です。

役員や従業員が後継者となるのであれば、会社のことをよく知っている人が次の社長となります

そのため、周囲からの理解を得やすく、また事業もこれまでと同じように続けることができます。

また、役員や従業員の中から最も経営者にふさわしい人を選ぶことができるため、承継後の不安も少ないでしょう。

一方、後継者となる人は社長との血縁関係はないため、株式を相続するのではなく購入するのが一般的です

しかし、多額の購入資金をすぐに用意できないため、どのようにして資金を準備するかが問題となります。

また中には、後継者にしようと考えていた役員や従業員からその就任を拒否されることもあります。

このことも、事業承継を進める上で大きな障害となる可能性があります。

M&A

社員が後継者になる場合と同様に、第三者が会社の事業を承継して後継者になる場合は先代経営者から株式を購入することとなります。

この価格は会社の価値を反映したものとなるため、売却した先代経営者は大きな利益が得られます。

また、株式を売却する相手を探す際は、多くの人の中から最も良い条件の人に売却することができます。

誰を後継者にするのにふさわしいのかも検討し、最適な人を後継者にできるのです。

ただ、後継者にふさわしいと思える人を必ず見つけられるとは限りません。

そもそも、買い手となる候補者が現れない可能性もあるのです。

また、様々な条件について交渉の必要があるため、事業承継が成立するまでに時間がかかります。

さらに、株式を売却した後は基本的にノータッチとなるため、会社の経営が想定どおりに行くのか不安かもしれません

事業承継の流れ

事業承継の流れ

事業承継を進める際には、何をしなければならないのでしょうか。

その手順を順番に解説していきます。

1)経営状況と後継者の把握

事業承継をしようと考えている経営者は、まず会社の状況を把握しなければなりません

経営状況が良ければ後継者を見つけやすい一方で、経営に問題を抱えているような場合は難しいことが想定されます。

また、後継者の候補となりそうな人が身近にいるのかを確認します。

もし親族や会社内にそのような候補者がいるのであれば、その人に後継者としての教育を始める必要があるためです。

2)事業承継のための経営改善

事業承継を行うと、会社の経営者が代わります。

また同時に、会社の株式を後継者に引き継いでもらうこととなります。

事業承継後の会社の経営を安定させると同時に株式の買い手を見つけるため、会社の経営改善を実施しましょう。

このことが結果的に、株式売却時に大きな利益をもたらすことにもつながるはずです。

3)事業承継計画の策定またはマッチング

親族内承継や従業員承継を行う場合は、事業承継計画を策定しなければなりません。

事業承継の具体的な時期や方法、またそれにより発生する税金や株式の買取金額などを記載します。

先代経営者と後継者が一緒に作成することが求められます。

一方、M&Aによる事業承継を行う場合は、買い手の候補者を探し出すマッチングを行う必要があります。

自力で相手を探すことは不可能に近いため、仲介業者や金融機関を通してその買い手を探すこととなります。

4)事業承継の実行

事業承継を行うとは、具体的には会社の株式や資産を後継者に移転することです。

後継者となった人は会社の社長に就任し、実際に会社の業務を開始することとなります。

従業員や関係者へのあいさつを忘れずに行い、スムーズに引継ぎができるように準備しておきましょう。

5)事業承継後の見直し

事業承継を行った後にも、事業を進めながら見直しなどを行う必要があります。

また、単にこれまでの事業を継続するだけではなく、新しい事業を始めることも検討していく必要があります。

事業承継してすぐに経営悪化してしまうことのないように、様々な角度から見直しをしなければならないのです。

事業承継を成功させるための4つのポイント

事業承継は、後継者が見つかれば必ず成功するというものではありません。

事業承継を成功させるいくつかのポイントを確認しておきましょう。

専門家のサポートを受ける

事業承継を行う際には、税金が発生することや株式や資産の買取資金が必要になることもあります

そのような資金需要があることを知らずに事業承継を進めてしまうと、後で取り返しのつかないことになりかねません。

事業承継を考え始めたら、必ず専門家に相談し必要なサポートを受けるようにしましょう。

幅広い中から後継者を発掘し育てる

事業承継の成功のカギは、後継者選びにあると言えます。

そのため、誰に事業を承継するか、慎重に検討しなければなりません。

親族がベストの選択肢とは限らないため、会社内外に適任者がいないか、幅広く探し、その能力を伸ばしていけるよう教育を行いましょう。

事業承継には資金が必要

事業承継は、単に社長の役職を交代することではありません。

先代経営者が保有していた株式や資産などを、後継者が取得しなければなりません。

この株式や資産の取得資金は、後継者が自身で用意しなければならないのです。

また、株式や資産を相続や贈与により移転することもあります。

ただ、この場合は相続税や贈与税が発生するため、やはり資金は必要不可欠となるのです。

事業承継の準備は早めに行う

事業承継を行い、最終的にはその会社の経営をすべて後継者に任せることとなります。

会社の経営を行う上で必要な情報やノウハウの一部を、先代経営者だけが持っていることもあります。

この場合、先代経営者から後継者にスムーズな事業承継が行われなければ、そのノウハウなどが引き継がれないこととなります。

たとえば先代経営者が亡くなってしまった場合には、そのノウハウを誰も知らないまま失われていくのです。

そのような結末にならないよう、事業承継の準備は早めに始める必要があるのです。

事業承継で受けられる公的支援

事業承継が進まなければ、多くの中小企業が廃業してしまうこととなります。

中小企業が廃業すれば、その会社が行ってきた事業を誰もする人がいなくなる可能性もあります。

これは国としても大きな損失であるため、そうならないように様々な支援が設けられています。

事業承継税制

事業承継税制は、中小企業の先代経営者から株式を相続や贈与により引き継いだ場合、納税が猶予される制度です。

発生した税額の全額の納税が猶予されることもあり、非常に大きなメリットが得られます。

適用を受けるためには、まず都道府県と時に特例承継計画を提出しなければなりません。

その上で、相続や贈与の後に申告書を税務署に提出することとなります。

遺留分に関する特例

会社の株式を後継者が集中して相続できるようにすると、遺留分の問題が発生します。

他の相続人が相続した財産が遺留分に満たないこととなるため、不足額を請求されることとなるのです。

そこで、先代経営者の生前に経済産業大臣の確認を受け、家庭裁判所の許可を受けると株式などを遺留分の算定から除外できます

手続きが煩雑で、かなり専門的な知識がないと対応が難しい制度ですが、遺産分割で揉めないように対策しておくことができます。

事業承継・引継ぎ補助金

事業承継をきっかけに、新しい商品の開発や新分野への進出、あるいは業態転換を図る会社があります。

このような会社について、取り組みに必要となる経費を補助してもらえる制度があります。

中小企業庁の「事業承継・引継ぎ補助金」は、事業承継の形態に応じて、最大1,000万円を超える補助金を受けることができます

事業資金・集約・活性化支援資金

事業承継を行う際には、株式や資産の購入、あるいは税金の支払いなど様々な資金需要があります。

そこで、政府系金融機関である日本政策金融公庫では、事業承継に対応した融資制度を設けているのです。

運転資金として最大4,800万円、設備投資も含めると最大7,200万円の融資が受けられます。

民間の金融機関でも同様の融資制度を設けている場合はあるので、条件に合ったものを利用するようにしましょう。

まとめ

事業承継には、親族内、従業員などの親族外、M&Aの3つの方法があります。

いずれの方法もメリットとデメリットがあり、どの方法が一番優れているということはありません。

後継者にふさわしい人が見つかった場合には、どのような関係性であるかに応じて、事業承継を始めるようにしましょう

また、専門家のサポートを受ける、公的な支援制度を利用することも検討し、スムーズな事業承継を目指していきましょう。

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