この記事でわかること
- 親の借金を子どもが返済する義務があるのか
- 相続放棄の効果や手続き方法
- 返済義務がないのに取り立てを受けた場合の対応方法
親に借金がある場合、子どもも返済の責任を負わなければならないのでしょうか。
原則として、親の借金は親自身に返済する義務があります。
子どもは保証人などになっていない限り、親の借金を返済する義務はありません。
ただし、親が借金を残したまま亡くなった場合、相続によって借金を承継する可能性があります。
特に親が事業を営んでいた場合、高額な事業資金として金融機関から借入をしており、相続人が返済できないケースもあるでしょう。
相続による借金の承継を回避するには、相続放棄などの手段があります。
ここでは、親に借金がある場合の対応方法などについて解説します。
子どもに親の借金の返済義務はある?
親の借金について、親が生きている間は原則として子どもに返済義務はありません。
子どもに返済義務が生じるのは、次のような場合です。
親の借金の保証人となっている場合
親の借金について、子どもが保証人や連帯保証人となっている場合には子どもにも返済義務が生じます。
保証人や連帯保証人である場合、主債務者である親が返済できなくなると、子どもが返済しなければなりません。
保証人であれば、親が存命で返済できる資力がある場合、まずは親の財産から返済にあてるよう債権者に主張できます。
ただし連帯保証人になっている場合、たとえ親に資力があっても、子どもは債権者から請求を受けた場合は返済を拒めません。
なお、まれに親が子どもに無断で連帯保証人にしているケースもありますが、そのような契約は原則として無効であるため、返済は不要です。
相続によって親の借金を承継した場合
相続で承継する財産は、預貯金や土地建物などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も対象となります。
借金の相続について、以下の事例をもとに確認してみましょう。
借金を相続する人
民法では、相続で財産を承継する人やその優先順位、分割割合などが定められており、この相続する人を法定相続人といいます。
亡くなった方の配偶者は常に相続人となり、配偶者と次の①~③で最も優先順位の高い方が財産を相続します。
- ①第1順位:子ども
- ②第2順位:両親
- ③第3順位:兄弟姉妹
法定相続分によって借金を負う割合が変わる
相続人の組み合わせによって、相続割合は次のように変わります。
相続人 | 相続割合 |
---|---|
配偶者:子ども | 1:1 |
配偶者:両親 | 2:1 |
配偶者:兄弟姉妹 | 3:1 |
たとえば亡くなった親に200万円の借金があり、配偶者、子どもが1人、兄弟姉妹が1人いる場合、配偶者と子どもが100万円ずつ返済義務を承継します。
配偶者と子どもが2人いる場合、借金200万円の承継は配偶者が100万円、子ども2人がそれぞれ50万円ずつになります。
相続によって親の連帯保証人の立場を承継した場合
親自身に借金がない場合でも、たとえば親が親族や知人の連帯保証人となっている場合、連帯保証人としての立場や責任は相続の対象となります。
亡くなった親の借金の有無・金額を調べる方法
近年では「終活」という言葉が定着し、相続人がスムーズに相続できるよう生前に身辺整理を行う方も増えてきました。
預金口座や有価証券、借金の有無などをまとめたエンディングノートがあると、相続人としては手続きを進めやすいでしょう。
ただし被相続人と疎遠だった場合や、被相続人自身も把握していなかった財産や負債が見つかる場合もあります。
そのような場合に備えて、次の方法で調査を行いましょう。
信用情報の開示を請求する
信用情報機関に登録されている被相続人の信用情報は、相続人からも開示請求ができます。
信用情報の開示を依頼すると、被相続人が借金をしている金融機関名や債務額などがわかります。
信用情報機関と主な加盟会社は次の通りです。
信用情報機関 | 略称 | 主に加盟している会社 |
---|---|---|
日本信用情報機構 | JICC | 消費者金融など |
シー・アイ・シー | CIC | 信販会社やクレジットカード会社など |
全国銀行個人信用情報センター | KSC | 銀行や信用金庫など |
法定相続人は、これら信用情報機関から被相続人の信用情報の開示請求ができます。
ただし、各信用情報機関は、加盟している金融機関についての情報しか有していないので、被相続人のすべての借入情報はわからない可能性があることには注意しましょう。
取引履歴を調査する
信用情報機関に登録されない債権回収業者や、友人や親戚などからの借入、滞納している税金などは、次のような方法で調べましょう。
- クレジットカードの取引履歴を調査する
- 預金口座の取引履歴を調査する
取引履歴は、相続人であれば金融機関に照会できます。
郵便物を確認する
被相続人への郵便物のうち、請求書や裁判所からの督促状がないか定期的に確認しましょう。
もし請求書があれば、通常は債権者の連絡先も記載されているため、返済が必要な残高などを確認できます。
亡くなった親が借金していたときの対処法
ここからは、親が借金を残したまま亡くなった場合の対処法について解説します。
遺産分割協議で決めた負担割合は債権者に主張できない
相続人全員の合意があれば、遺産分割協議で法定相続分とは異なる相続割合を定められます。
たとえば、配偶者がすべて相続する、配偶者・子ども・兄弟姉妹が全員で同じ割合で相続するといった定めも可能です。
相続財産に借金がある場合、その負担割合も遺産分割協議で自由に定められます。
ただし遺産分割協議はあくまで相続人間の取り決めであり、債権者には主張できません。
遺産分割協議で「長男がすべての借金を引き継ぐ」と定めても、債権者は長男以外の相続人にも法定相続分を限度として返済を請求できます。
なお、この場合でも相続人間では遺産分割協議の効力が生じるため、法定相続分を超える返済をした相続人は、他の相続人へ求償できます。
相続放棄をする
借金の承継を免れるための最も効果的な方法として、相続放棄があります。
相続放棄とは、家庭裁判所を通じて相続に関する権利義務を一切承継しないようにする手続きです。
借金の承継もなくなる一方で、いくつか注意点もあるため、判断は慎重に行いましょう。
相続放棄の効果
相続放棄をすると「はじめから相続人ではなかった」という扱いになります。
相続人としての立場を失い、プラス・マイナスすべての財産を承継しません。
相続放棄をする方法
相続放棄は、家庭裁判所に相続放棄の申述を行い、裁判所から認められると成立します。
相続放棄は、相続財産を承継できなくなるという重大な効果を発生させるため、裁判所では手続きの方法が厳格に定められています。
まず、以下の書類を家庭裁判所に提出して、相続放棄の申述を行います。
- 相続放棄申述書
- 被相続人の住民票または戸籍附票
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本や除籍謄本
- 申述人の戸籍謄本
手続きの中で、他の相続人の合意などは求められません。
家庭裁判所への書類提出後、本当に相続放棄をしてよいか意思確認をする照会書が郵送されるため、必要事項を記入して返信します。
相続放棄の申述が無事受理されると、おおよそ1カ月で家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書が届きます。
これにより、相続放棄が成立します。
裁判所への対応を誤ると相続放棄できなくなってしまう可能性もあるため、弁護士に相談した上で手続きを行うことをおすすめします。
相続放棄をできる期間には制限がある
相続放棄は、原則として「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3カ月以内」に行わなければなりません。
しかし、被相続人が亡くなった後は、葬儀や様々な手続きで多忙となり、手続きの期限に気付かないまま日にちが経ってしまう恐れがあります。
相続放棄は、被相続人が存命のうちにあらかじめ弁護士に相談しておき、いざ相続が開始したらすぐに準備に取り掛かれるようにしておきましょう。
なお、家庭裁判所の手続きにより3カ月の期間を伸長できる制度があります。
もし事前に検討できないまま相続が始まってしまった場合、焦って判断する前に伸長の手続きをしておくとよいでしょう。
他の相続人の相続割合が変わる点に注意
相続放棄をした場合、相続の権利義務は次順位の法定相続人へ移ります。
このときに注意が必要なのは、相続放棄をしても承継する借金の総額は変わらないという点です。
たとえば、借金400万円、相続人は配偶者と子ども2人の場合、借金は配偶者200万円、子どもA100万円、子どもB100万円で相続します。
もし子どもAが相続放棄をした場合、借金400万円は変わらないまま、配偶者200万円、子どもB200万円という負担割合になります。
つまり、相続放棄をすると他の相続人子どもBの負担額が増えてしまいます。
相続放棄をするのに他の相続人の合意は必要ありませんが、負担額が増えてしまう相続人には事前に伝えておくのが望ましいでしょう。
単純承認をした後では相続放棄ができなくなる
単純承認とは、相続財産をすべて承継するという意思表示です。
相続開始を知ってから何もしないまま3カ月が過ぎると自動的に単純承認となります。
注意点として、一定の行為をした場合は本人の意思とは関係なく、単純承認をしたとみなされます。
これを法定単純承認といい、具体的には次のような行為が該当します。
- 相続財産の一部またはすべてを処分した場合
- 相続の開始を知ったときから3カ月以内に相続放棄などの手続きをしなかった場合
- 相続財産の一部またはすべてを故意に隠す、消費する、あるいは財産目録へ記載しなかった場合
法定単純承認に該当すると、相続放棄ができなくなってしまうので注意しましょう。
限定承認をする
限定承認とは、相続財産のうちプラスの財産の額を限度としてマイナスの財産を引き継ぐという方法です。
具体的な事例を見てみましょう。
事例プラスの財産が300万円、マイナスの財産が500万円だった(プラスの財産以上にマイナスの財産がある)場合
プラスの財産はすべて承継しつつ、マイナスの財産の承継は300万円に限定されます。
このため、相続人は自分の資産から持ち出して500万円を完済する必要はありません。
事例プラスの財産が500万円、マイナスの財産が300万円だった(プラスの財産がマイナスの財産より多い)場合
プラスの財産が500万円、マイナスの財産が300万円だった(プラスの財産がマイナスの財産より多い)場合
プラスの財産とマイナスの財産について、通常通りすべて承継します。
限定承認には、相続財産の総額がマイナスにならないというメリットがあります。
ただし、手続きが非常に煩雑で時間もかかり、相続人全員が共同して行わなければならないといったデメリットもあります。
実務上、利用されるケースは少ない手続きですが、たとえば相続開始時点で財産の合計がプラスかマイナスかわからない場合などは有効な手続きです。
手放したくない財産がある場合は債務整理も検討する
相続放棄をすると借金を承継せずに済みますが、同時にプラスの財産も相続できなくなります。
たとえば先祖代々の土地や家屋など、どうしても手放したくない財産がある場合、同時に借金も相続しなければなりません。
借金が高額であり、プラスの相続財産や相続人の資力では返済できない場合、債務整理をして借金を返済しながら財産を承継する方法を検討しましょう。
具体的な債務整理の方法は、以下のものがあります。
- 任意整理
- 個人再生
- 自己破産
自己破産は、生活に必要な家財など最低限の財産以外はすべて換金処分されます。
任意整理や個人再生であれば、一部の財産は手元に残したまま無理なく返済を続けられる場合もありますので、弁護士に相談しましょう。
子どもに親の借金の取り立てが来たときの対処法
親の借金を承継していないにも関わらず、債権者から取り立てが来た場合はどのように対応するのがよいのでしょうか。
返済義務がないにも関わらず取り立てを受けた場合、次の方法で対処しましょう。
返済義務がない旨を説明する
法令を遵守している債権者であれば、返済義務がないとわかった時点で取立をやめるケースがほとんどです。
たとえば相続放棄が成立している場合など、まずは借金について返済義務がない旨を伝えましょう。
返済義務がないと伝えても取り立てを続ける債権者は、そもそも違法業者である可能性も高いため、次のステップに進みましょう。
違法な取り立てを受けている証拠を残す
違法な借金の取り立てに対しては、証拠を残すことが重要です。
違法な取り立てとは、前述のように返済義務がないのに取り立てを続ける場合のほか、以下のような行為も貸金業法で禁止されています。
- 正当な理由がないのに、午後9時から午前8時までの間に電話や自宅訪問などで取り立てる
- 正当な事由なく、勤務先など債務者の自宅以外の場所で取り立てをする
- 自宅訪問で取り立てをしているとき、家主から退去するよう意思表示をされたにも関わらず居座り続ける
- 貼り紙やビラなどで、債務者のプライベートに関する事実を口外する
- 他者からの借り入れで返済するよう要求する
- 家族などが拒否しているにも関わらず無理やり協力させる
- 弁護士の受任通知を受領したにも関わらず本人への取り立てを続ける
証拠として残すには、貼り紙やビラなどの現物を収集する他、ボイスレコーダーや動画などで記録する方法が有効です。
証拠が記録されている事実を提示すれば、罪に問われるリスクから、その時点で取り立てをストップする可能性もあります。
弁護士や警察に相談する
取り立てが止まない場合や行為が悪質な場合、弁護士や警察に相談しましょう。
前述の証拠が記録されていれば、迅速な対応が可能です。
特に警察に相談する場合、民事不介入という原則があるため、客観的な証拠の提示ができなければ対応してもらえない可能性があります。
闇金業者から取立を受けている場合
無登録で貸金業を行っている闇金業者などは法令を遵守していないため、執拗な取り立てをしてくるケースもあります。
闇金業者には、違法行為により以下のような刑事罰が科される可能性があります。
-
<貸金業法違反>
貸金業として無登録で営業した場合、10年以下の懲役もしくは3,000万円以下の罰金またはその両方 -
<出資法違反>
1回きりの貸付で年109.5%を超える金利とした場合、または反復継続した貸付で年20%を超える金利とした場合、5年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金またはその両方
反復継続した貸付で年109.5%を超える金利とした場合、10年以下の懲役もしくは3,000万円以下の罰金またはその両方
民事上でも、闇金業者からの借金の元本や利息は返済の必要がありません。
すでに返済した借金についても、不法利得として元金・利息ともに返還請求ができます。
ただし、闇金業者はそもそも違法であるのを承知で取り立てをしているケースがほとんどです。
債務者から違法性を主張しても引き下がるケースはほとんどないため、弁護士や警察に対応を依頼しましょう。
まとめ
「親が借金していることを、相続が始まるまで知らなかった」というケースは意外と多いものです。
親の立場からは、子どもに心配をかけたくないため借金を隠している場合もあるでしょう。
もし相続財産に借金が含まれており、高額で返済が難しい場合、相続人全員で相続放棄をするのも一つの方法です。
ただしプラスの財産も承継できなくなるデメリットのためや、手元に残したい財産がある場合、債務整理などの手段を弁護士と検討していきましょう。