この記事でわかること
- 株式を相続する場合の株の相続税評価額の計算方法がわかる
- 株を相続する場合に発生する相続税の節税をする方法がわかる
- 株式を相続する際の手続きの流れについて知ることができる
相続が発生すると、被相続人が保有しているすべての財産が相続財産となって相続税の計算対象となります。
そして、このような財産の1つとしてあげられるのが株式です。
上場株式・非上場株式に関係なく、すべての株式は相続税の対象となるため、その評価額を計算しなければなりません。
この記事では株式の相続税評価額の計算方法や、相続する際の手続きについて、解説していきます。
目次
株の相続税計算方法
相続税の計算は、預貯金・不動産・株式などの財産の種類に関係なく、すべての財産を対象として行います。
それぞれの財産の評価方法は異なりますが、評価額を計算した後の扱いは基本的に一緒です。
ここでは、相続財産の評価額を求めた後の相続税の計算の流れを確認しておきます。
相続財産と基礎控除を求める
財産の種類ごとに計算して求めた相続税評価額を合計した金額が、相続財産の合計額となります。
また「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」で計算される基礎控除の額を計算します。
相続財産の合計額から基礎控除の額を差し引いた後の金額が課税対象となる財産の額となります。
基礎控除の額の方が大きくなる場合、課税対象となる金額はゼロとなります。
この場合相続税額は発生せず、また相続税の申告義務もないため、これ以後の計算を行う必要はありません。
相続税の合計額を計算する
相続税の税額を計算する際には、まず課税対象となる財産の額を法定相続分に分割した金額を求めます。
その後、分割した金額ごとに税率をかけて、相続税額の計算を行います。
3人の相続人がいれば、3人分の相続税の計算が行われることとなります。
これらの金額を合計した金額が、全員で納付する相続税の合計額となります。
各相続人の納税額を計算する
相続税の合計額を計算したら、実際に相続人ごとに納付する金額の計算を行わなければなりません。
そのために、相続人が相続した財産の割合を求めます。
その後、実際に相続した財産の割合に応じて相続税の合計額を按分し、相続人ごとの納付額を計算します。
それぞれの納付額を納めるとともに、相続税の申告書を税務署に提出すれば相続税に関する手続きは終了します。
相続した株の評価方法
相続税の簡単な計算の流れについて確認しましたが、株式を相続した場合に、その株式をどのように評価するのでしょうか。
株式には、上場株式と非上場株式があるため、それぞれの評価方法を確認していきます。
上場株式の評価方法
まず、上場株式とはどのようなものをいうのかを確認しておきます。
上場株式とは、東京証券取引所をはじめとする金融商品取引所に上場している株式のことです。
金融商品取引所で成立した売買の価格が日々公表されており、誰でも簡単にその価格を知ることができるのが特徴です。
上場株式の場合、原則として亡くなった日の終値が相続税評価額となります。
ただこの金額を原則とする一方で、以下の金額を計算し、最も低い金額を相続税評価額とします。
- (1)亡くなった日が属する月の終値の平均額
- (2)亡くなった日が属する月の前月の終値の平均額
- (3)亡くなった日が属する月の前々月の終値の平均額
各月の終値の平均額を計算することは難しくはないのですが、データを集めるのに時間がかかります。
口座を開設している証券会社に依頼すれば簡単にその金額を知ることができるので、まずは証券会社に依頼してみましょう。
非上場株式の評価方法
非上場株式とは、上場株式以外の株式のことです。
一般に公表されている取引価格はないため、その相続税評価額を計算して求める必要があります。
非上場株式の評価方法には、原則的評価方式と配当還元方式と呼ばれる2つの方法があります。
(1)原則的評価方式
原則的評価方式により株式の相続税評価額を計算する場合も、その計算方法は1つではありません。
ただ、いずれの方法でも2つの数字を求めた後、その金額を按分して計算することとなります。
原則的評価方式に用いる2つの数字とは、純資産価額と類似業種比準価額です。
純資産価額とは、その会社の決算書から計算される、株主の持ち分である純資産の金額です。
会社に資産が多くある一方で負債が少なければ純資産の額が大きくなるため、それだけ純資産価額は高くなります。
また、歴史の長い会社の場合、過去からの利益の蓄積が純資産となっているため、純資産価額が高くなる傾向にあります。
類似業種比準価額とは、会社の利益や配当の額を同業他社と比較して収益性の高さや株主利益を計算して株価に反映した金額です。
他社より効率的に利益を計上している、あるいは配当が多い会社はそれだけ株式の価値も高いと考えるのです。
そして、会社の規模などに応じて、純資産価額と類似業種比準価額を按分して、その会社の株価を求めます。
(2)配当還元方式
(1)の原則的評価方式は、会社の経営権を有するような株式を保有している株主に適用されます。
しかし、中には経営権とは無縁な、少数の株式しか保有していない株主も存在しています。
そのような株主については、配当だけが株主としての利益であるため、配当の額をもとに株価を評価するのです。
配当還元方式の計算方法は、年間の配当金額を10%で割った金額となります。
計算方法は1つしかなく、難しい計算でもないため、簡単に評価額を求めることができます。
株にかかる相続税を節税する方法
株式を相続すると相続税が発生することが考えられます。
特に非上場株式の場合、相続税評価額が思わぬ高値となるケースもあり、その結果かなりの税負担となることも少なくありません。
そこで、株式を相続した時に発生する相続税を節税する方法を考えてみましょう。
生前贈与により株式を贈与する
株式を相続することで多額の相続税が発生しそうな場合は、生前贈与により相続財産となる株式数を減らしておくのが有効です。
生前贈与の場合、毎年110万円までは贈与税が非課税となるため、長期間にわたって毎年少しずつ贈与すると、贈与税が発生しません。
また、株式は所有者が登記を行う必要がないため、登記費用などの出費も必要ありません。
贈与する金額を基礎控除の110万円以下に抑えようとすると、一度に贈与できる株数には限界があります。
早い段階から毎年少しずつ贈与するのが、より大きな節税をするためのコツです。
1株あたりの評価額を下げる
被相続人が保有する株式数を変えることはできない場合でも、その1株あたりの評価額は毎年変わります。
そこで、できるだけ評価額が低くなるように実行可能なことを考えてみましょう。
最も簡単にできることに、会社が支払う配当の額を見直すというものがあります。
どのような計算方法なのかにもよりますが、毎年配当している会社の場合、その額を減らすと評価額も下がることが考えられます。
会社の利益を減らしても株価が下がることが想定されますが、これは経営上の問題がない場合しか実行できません。
実際にどのような方法があるのかは会社の状況により異なるため、専門家に相談してみるといいでしょう。
事業承継税制を利用する
事業承継税制は、贈与税や相続税の特例として認められる制度です。
いくつもの要件がありますが、その要件を満たせば会社の株式を贈与・相続した際に発生する税額の納税が猶予されます。
適用できる人は限定されますが、利用できるのであれば節税効果は大変に大きなものとなります。
どのような人が適用できるのか、その要件をあらかじめ確認しておくようにしましょう。
株の相続手続き・必要書類
株式を実際に相続して、被相続人から相続人に所有者を変更するためには、どのような手続きが必要なのでしょうか。
行わなければならない手続きや、その時に必要となる書類について解説します。
上場株式の場合
上場株式の場合、その株式が保管されている証券会社や銀行で手続きを行います。
相続が発生したため名義変更をしたいと伝えれば、そのために必要な手続きに取りかかってくれます。
証券会社や銀行には、様々な書類を提出しなければなりません。
証券会社などが用意してくれる書類には、株式名義書換請求書兼株主票があります。
また、相続人自身が用意するものには、以下のような書類があります。
- ・戸籍謄本等
- ・相続人全員の印鑑証明書
- ・遺産分割協議書(相続人が複数いる場合)
なお、実際に株式を相続する相続人が証券会社などに口座を保有していない場合、口座を開設する必要があります。
非上場株式の場合
非上場株式の株主は、所有する株式を証券会社などに預けているわけではありません。
そのため、非上場株式を相続する場合は、株式の発行会社で相続に関する手続きを行います。
非上場株式を相続した株主は、まずは株式の発行会社に相続が発生したことを連絡します。
すると会社で相続の手続きに必要な書類を準備し、連絡してくれるはずです。
会社の中に、株主の親族がいる場合も多く、すでに相続が発生したことや誰が相続したのかを知っている場合もあるでしょう。
その場合は、戸籍謄本や印鑑証明書などが必要ないということもあるかもしれません。
ただ、手続きを確実に行い、相続のトラブルを避けるためには会社としても必要な書類を保管しておく方がいいでしょう。
相続した株を現金にする方法
相続した株式をそのまま株式として保有する人もいますが、中には売却して現金化したいという人もいるでしょう。
あるいは、株式を複数人で相続する場合に、売却した後の現金をそれぞれで分ける場合もあります。
相続した株式を現金にする際の方法や注意点について確認しておきましょう。
現金化する際にもまずは相続人名義の株式とする
株式を相続した人が株式をそのまま保有するつもりはなく、最初から現金化したいと考える場合があります。
しかし、被相続人の株式をその名義のまま売却することはできません。
必ず、いったんは相続人の名義の口座に株式を振り替える必要があるのです。
相続人の名義にするためには遺産分割協議書等が必要
相続した株式を売却するため、相続人の口座に株式を振り替える手続きをする際には必ず遺産分割協議書か遺言書が必要です。
遺言書がある場合はすぐにでも振り替えて売却することができますが、遺産分割協議を行う場合はそうはいきません。
株式を相続しない相続人も含めてすべての相続人が合意し、遺産分割協議が整わなければ遺産分割協議書は作成されません。
つまり、株式を売却できるのも、相続発生からかなり時間がたってからとなる場合があるのです。
非上場株式の場合は簡単に売却できない場合もある
相続した非上場株式については、上場株式のように簡単に売却できない可能性があります。
それは、株式の買取相手を自分で探し、会社に承認をもらわなければならないためです。
また、売却価格で合意できない場合もあるため、売却には時間がかかるものと考えておきましょう。
相続税の納税資金を株の売却金額で予定している場合は注意が必要です。
まとめ
株式を相続した場合は、不動産よりも売却しやすく、また分割しやすいため、トラブルにはならないと考える人がいます。
確かに、上場株式については売却までの手続きも比較的簡単で現金化もしやすいといえます。
しかし、非上場株式は簡単に売却できず、また評価額が大きくなることもあり、相続税の納付に苦労する原因となる場合があります。
贈与や事業承継税制などの特例を利用しながら、相続税の負担を軽減できるような方法を考えておきましょう。