この記事でわかること
- 特別受益や遺留分とはどのような意味なのかわかる
- 特別受益に当たる生前贈与があった場合の遺留分の計算方法がわかる
- 遺留分の計算に際して特別受益の持ち戻しを回避できるかわかる
相続が発生したときに、特別受益にあたる生前贈与が存在することがあります。
相続人への贈与について遺留分の基礎となる額の計算上考慮されるのは、特別受益に当たる場合だけです。
そこで、特別受益にあたる相続人への贈与があった場合の遺留分の計算方法を解説します。
また、遺留分の計算に際して特別受益の持ち戻しを回避できるかについてもご説明します。
目次
特別受益とは
特別受益とは、被相続人の存命中に相続人が受けていた特別な利益をいいます。
生前贈与は、被相続人から特別の利益を受ける場合となりますが、特別受益として、持ち戻しの対象となるのは、婚姻、養子縁組、生計の資本としての贈与に限られます。
このうち生計の資本とは、居住用不動産の贈与や不動産購入の資金の贈与、独立起業するための資金の贈与など、生活を立てていための手段の基礎となる財産の贈与が該当します。
遺留分とは
遺留分とは、相続人が最低限相続する権利を認められた遺産のことです。
法定相続人のうち、兄弟姉妹以外の相続人について、遺留分が定められています。
父母などの直系尊属のみが相続人となる場合は、遺留分を算定するための財産の価額に3分の1を乗じた額に法定相続分を乗じた額遺留分となります。
また、それ以外の人が相続人となる場合は、遺留分を算定する財産の価額に2分の1を乗じた額に法定相続分を乗じた額が遺留分となります。
遺留分を有する相続人は、遺留分を侵害している人に対して、遺留分を侵害している額の支払を請求することができます。
特別受益も遺留分の対象になる
特別受益となる財産は、元々は被相続人の財産です。
生前贈与された財産のうち特別受益にあたるものは、遺留分の計算の基礎となります。
ここでは、特別受益となる生前贈与があった場合の遺留分の計算について解説します。
特別受益は遺留分侵害額請求の対象になる
遺留分の金額を計算する際には、以下の計算式により、その金額を求めます。
(被相続人が相続開始時点で有していた財産+贈与した財産)-債務
このように、被相続人が贈与した財産は、遺留分の計算の基礎に含まれます。
遺留分の計算の基礎に含まれる「贈与」とは
前述したとおり、被相続人が贈与した財産は、遺留分の計算の基礎に含まれることとなりますが、 遺留分の計算の基礎に含まれる「贈与」は、以下のものに限られます。
①相続開始前1年間に行われた贈与
1年以内に贈与を行った場合は、受贈者は相続人に限定されませんが、②のとおり、相続人に対する1年以内の贈与については、特別受益にあたる贈与のみが、遺留分計算の基礎に含まれます。
①でいう贈与は、贈与者と受贈者が遺留分権利者に損害を与えることを知ってなされた贈与に限られます(相続人についてはこの要件はありません)。
遺留分権利者に対する損害を与える意思があったかどうかは、問われません。
②相続人に対して相続開始前の10年間に行われた特別受益にあたる贈与
特別受益に該当する生前贈与は、遺留分の計算に含めます。
以前は、贈与がいつ行われたかにかかわらず、相続人に対する生前贈与は、遺留分の計算の基礎に含めることとされていましたが、2019年7月1日以降に発生した相続については、相続開始から10年以内の生前贈与に限定されることになりました。
特別受益の持ち戻しによる遺留分の計算方法
相続開始前の10年間に相続人に対して特別受益にあたる生前贈与があった場合、その金額は遺留分の計算の基礎に含まれます。
この場合、どのように遺留分の計算を行うのか解説していきます。
特別受益の持ち戻しとは
特別受益の持ち戻しとは、相続人同士の間に不公平が生じないよう、特別受益に該当する生前贈与の額を遺産の金額に加えることです。
遺留分の計算に当たっても、特別受益に当たる生前贈与の額を持ち戻して、遺留分の算定の基礎となる金額を計算します。
遺留分の計算の流れ①遺産と特別受益の金額
遺留分の金額を計算する際は、まず遺産の金額、特別受益に当たる生前贈与の額などを求める必要があります。
相続人に対する生前贈与の額の中でも特別受益に該当するか否かを確認する必要があります。
また、生前贈与が、相続開始前の10年間に行われたものか否かを確認する必要があります。
具体的な事例を使って、遺留分の計算を行ってみましょう。
ここでは、相続人は配偶者と子2人(長男・長女)とします。
また、遺産の総額が1億5,000万円、長男に対する特別受益が1,000万円あったとします。
遺留分の計算の流れ②特別受益の持ち戻し
特別受益に当たる生前贈与の金額があった場合、その金額を遺留分算定の基礎となる金額に持ち戻します。
今回のケースでは、特別受益に当たる生前贈与の金額1,000万円を遺留分算定の基礎となる額に加えます。
そこで1億6,000万円が、遺留分の計算の基礎となる金額です。
遺留分の計算の流れ③それぞれの遺留分の金額
次に、遺留分算定の基礎となる額から、各相続人のそれぞれの遺留分の金額を求めます。
今回のケースでは、各相続人の遺留分の金額は以下のようになります。
配偶者 1億6,000万円×遺留分1/2×法定相続分1/2=4,000万円
子 1億6,000万円×遺留分1/2×法定相続分1/4=2,000万円
したがって、配偶者の遺留分は4,000万円、長女の遺留分は2,000万円となります。
なお、長男の遺留分は2,000万円ですが、すでに特別受益に当たる生前贈与で1,000万円を受け取っています。
そのため、相続発生後に遺留分侵害額として請求できる金額は2,000万円-1,000万円=1,000万円となります。
特別受益の持ち戻しによる遺留分侵害額請求を行う方法
遺留分侵害額請求を行う際は、どのように請求を行うことになるのでしょうか。
特別受益に当たる生前贈与がある場合、その特別受益を遺留分算定の基礎としようとするときには、その計算を行った上で請求する必要があるので、確認していきます。
なお、遺留分侵害額請求権の行使は、相続開始及び遺留分侵害の贈与・遺贈があったことを知った時から1年以内に行わないと時効消滅してしまうので注意が必要です。
遺留分侵害額請求権の行使自体は、遺留分侵害額の計算をせずに行うことができます。
①特別受益の金額を計算する
遺留分の金額を請求する相続人は、他の相続人が特別受益に当たる生前贈与を受けたかどうかを正確に知ることはできません。
そのため、被相続人の財産の動きから特別受益に当たる生前贈与の金額を計算することとなります。
特別受益に該当する贈与では、預金が贈与されているケースが多くあります。
そのため、被相続人の預金口座の動きを、相続開始前10年間にわたって調査することとなります。
被相続人の保管している通帳で確認できない場合は、金融機関で明細を取り寄せる必要があります。
②遺留分の金額を計算する
特別受益に当たる生前贈与金額を求めたら、遺留分算定の基礎となる額にこれを加えた遺産の額に上で、遺留分の金額を計算します。
③内容証明郵便により遺留分侵害額請求を行う
遺留分を請求する場合、裁判所などに申立てを行うことなく遺留分を侵害している者に対し、直接請求を行うことができます。
ただ、口頭では請求したかどうかのトラブルが生じる可能性があるので、内容証明郵便により請求を行うことが望ましいといえます。
なお、一定期間内に遺留分侵害額請求を行わないと時効が成立し、その権利が消滅してしまうことがあるので注意しましょう。
④話し合いにより解決を目指す
遺留分侵害額請求を受けるかどうか、調停や訴訟について裁判所が関わる場合を除き,当事者間の話し合いにより決定されます。
交渉の場では、多くの場合、遺留分としてあくまで満額の支払いを求めるのか、あるいは、ある程度の減額を認めるのか判断が分かれます。
双方が合意した場合には、遺留分の侵害額が支払われることとなります。
特別受益の持ち戻しを回避する方法
遺産分割においては、被相続人が持ち戻しの免除の意思表示を行っていれば、持ち戻しが免除されます。
しかし、各相続人に最低限の遺産相続の権利を確保しようとする遺留分侵害額請求の制度の趣旨から、遺留分侵害額請求においては、被相続人による持ち戻し免除の意思表示があっても、特別受益に当たる生前贈与は遺留分算定の基礎となる額に算入されると考えられています。
まとめ
相続対策として、生前贈与を実行している方も多いことでしょう。
生前贈与は相続対策として有効ですが、特別受益に当たる生前贈与として遺留分侵害額請求の基礎に参入される場合もあることに注意が必要です。
相続人間のトラブルの原因となる可能性もあるので、誰にどれだけの財産を贈与したのか、わかるようにしておきましょう。