相続税の計算は、自分が受け取った財産の金額がそのまま基準にならないところに難しさがあるのではないでしょうか。
今回は「難しくても相続税の計算方法を理解したい!」という人のために、詳しく説明します。
課税価格!遺産総額はいくらになるの?
相続税の金額を求めるためには、まず遺産総額を明確にする必要があります。
相続財産になるのは、現金や預金だけではありません。株式や国債などの有価証券・マイホームや別荘などの不動産・貴金属やジュエリー・自動車や船舶などの動産・ゴルフ会員権やリゾート会員権・書画や骨董品などです。
土地を借りる権利である借地権・田畑・山林・立木なども含まれます。生命保険金や死亡退職金も、相続税の計算上の「みなし相続財産」です。
生命保険金と死亡退職金には残された家族の生活保障という役目があるので、「500万円×法定相続人の数」の金額が非課税になるという決まりが設けられています。
故人の2,000万円の生命保険金を受け取った場合、法定相続人3人いれば2,000万円-500万円×3人=500万円のみが遺産総額に含まれます。
また、マイホームなどを一定の相続人が相続した場合には「小規模宅地の特例」を利用して、宅地の財産評価額を引き下げることができます。
例えば、故人のマイホームだった土地は「特定居住用宅地」と呼ばれ、故人と同居していた相続人が相続する場合は、330平方メートルまでの宅地の評価額が80%も下がります。
評価額が1億円の土地でも、「小規模宅地の特例」を利用すれば2,000万円になります。330平方メートルといえば100坪ですから、ほとんどのマイホームが対象になるのではないでしょうか。
相続財産には、マイナスの財産も含まれます。故人に借入金や未払いの税金などがある場合、「債務控除」として遺産総額から差し引くことができます。
故人のお通夜や告別式の費用も、同様に差し引くことができます。ちなみに、香典は遺族に贈られるものなので、相続財産に含まれません。
基礎控除!本当に相続税がかかる?
遺産総額が明確になったら、その金額から「基礎控除額」を差し引きます。
基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。配偶者は常に法定相続人になり、配偶者以外の子・父母・祖父母・兄弟姉妹の順で民法により相続順位が決められています。
例えば、第1順位の妻と子2人が法定相続人だった場合、3,000万円+600万円×3人=4,800万円が基礎控除額です。
遺産総額が4,800万円以下だった場合、相続税はかかりません。相続税の申告をする必要もありません。しかし、遺産の総額や税額を計算する時に「特例」を利用することで相続税がかからない場合は、申告が必要です。
よく利用される「特例」として、先ほどの「小規模宅地の特例」や「配偶者の税額軽減」などが挙げられます。
まずは法定相続分による計算をする!
基礎控除額を差し引いて課税される遺産総額が明確になったら、その金額で法定相続分どおりに相続したとして、いったん相続税を計算します。
各人の相続税を合計した金額が、相続税の総額です。法定相続分は、第1順位の配偶者と子どもの組み合わせの場合は配偶者2分の1・子ども2分の1です。
子どもが複数の場合は、2分の1を子どもの人数で割ります。第2順位の配偶者と父母または祖父母の場合は、配偶者3分の2・父母または祖父母3分の1です。第3順位の配偶者と兄弟姉妹の場合は、配偶者4分の3・兄弟姉妹4分の1です。父母・祖父母・兄弟姉妹が複数いた場合は、子どもと同様の配分になります。
遺産を法定相続分に配分できたら、決められた税率と控除額を当てはめて相続税額を計算します。
例えば、配偶者と子ども2人で、総額4,000万円の遺産を相続したと想定します。配偶者の法定相続分は4,000万円×2分の1=2,000万円で、相続税は2,000万円×税率15%-控除額50万円=250万円です。
子ども1人分の法定相続分は4,000万円×4分の1=1,000万円で、相続税は1,000万円×税率10%-控除額0円=100万円です。相続税の総額は、配偶者250万円+子ども100万円×2人=450万円です。
各自の具体的な相続分に割り付けを計算する!
相続税の総額が明確になったら、実際の相続分にしたがって各人の相続税を計算します。
上記の例で、実際には配偶者が3,000万円、子どもがそれぞれ500万円を相続したとします。
そうすると、実際に納付する相続税は、配偶者450万円×3,000万円÷4,000万円=337万5,000円、子どもそれぞれは450万円×500万円÷4,000万円=56万2,500円です。
それぞれの納税額が計算できたら、各人の状況に応じて税額から一定の金額を差し引いたり、加算したりして最終的な納税額を算出します。例えば「配偶者の税額軽減」の特例を利用すると、上記の配偶者の納税額は0円になります。
「配偶者の税額軽減」は、配偶者の相続した遺産の額が1億6,000万円までか法定相続分までだったら、相続税がかからないという優遇制度です。
「一家の財産は夫婦で協力して築き上げてきたものである」という考えに基づき、配偶者は特に優遇されています。
また、未成年の子どもが相続人である場合に利用できる「未成年者控除」や、障害者が相続人である場合に利用できる「障害者控除」などがあります。法定相続人である子どもが生きている状態で孫に相続させた場合などは、逆に納税額が20%増しになります。
養子縁組した孫であっても同様なので、孫に財産を残したい場合はよく考えたほうが良いでしょう。
相続税の具体的な計算例
ここで、夫が亡くなり妻と2人の子どもが相続人になったとして、相続税を実際に計算してみましょう。
プラスの財産は、現金や預金3,000万円・マイホームの宅地1億円・建物2,000万円・株式1,000万円・生命保険金2,000万円で、妻が夫と住んでいたマイホームの宅地と建物と死亡保険金・子どもが現金や預金・株式を半分ずつ相続しました。マイナスの財産である夫の借入金200万円と葬式費用300万円は、妻が支払いました。
プラスの財産であるマイホームの宅地は165平方メートルで、「特定居住用宅地」として「小規模宅地の特例」を利用できます。
特例を利用して、宅地の評価額は1億円の80%減である2,000万円になりました。生命保険金には「生命保険金の控除」の特例も適用できます。
保険金2,000万円-500万円×法定相続人3人=500万円が遺産総額に加算されます。
相続税計算上の遺産総額は、妻がマイホームの宅地2,000万円+建物2000万円+生命保険金500万円-債務控除200万円-葬式費用300万円=4000万円、子どもそれぞれが現金・預金1500万円+株式500万円=2,000万円で、3人分の合計額は8,000万円です。
次に合計額の8,000万円から「基礎控除額」を差し引きます。8,000万円-(3,000万円+600万円×3人)=3,200万円を、法定相続分どおりに相続したとして、3人の相続税を計算します。
妻の相続分は3,200万円×2分の1=1,600万円で、相続税は1,600万円×税率15%-控除額50万円=190万円です。子ども1人分の相続分は3,200万円×2分の1×2分の1=800万円で、相続税は800万円×税率10%-控除額0円=80万円です。相続税の総額は、190万円+80万円+80万円=350万円です。
次に、相続税の総額350万円を、実際の相続分にしたがって各人に割り付け計算します。
妻の分は350万円×4,000万円÷8,000万円=175万円、子どもそれぞれの分は350万円×2,000万円÷8,000万円=87万5,000円で、この金額が実際の各人の納税額です。
さらに、今回は「配偶者の税額軽減」の特例も利用します。配偶者である妻の相続分は4,000万円で、法定相続分以下であり、1億6,000万円以下でもあります。詳しい計算は割愛しますが、175万円の全額が控除され、妻の納税額は0円です。2人の子どもが、それぞれ80万円の相続税を納付します。
比較するために、特例を利用せずに相続税を計算してみましょう。
妻の相続分は、マイホームの宅地1億円+建物2,000万円+生命保険金2,000万円-債務控除200万円-葬式費用300万円=1億3,500万円です。
子どもそれぞれの相続分は2,000万円で、3人分の合計額は1億7,500万円です。合計額1億7,500万円-基礎控除額4,800万円=1億2,700万円を、法定相続分どおりに相続したとして、相続税の合計額を計算します。
妻の法定相続分は1億2,700万円×2分の1=6,350万円で、相続税は6,350万円×税率30%-控除額700万円=1,205万円です。
子どもそれぞれの法定相続分は1億2,700万円×2分の1×2分の1=3,175万円で、相続税は3,175万円×税率20%-控除額200万円=435万円です。
3人分の相続税合計額は、妻1,205万円+子ども435万円×2人=2,075万円です。特例を利用した場合は子ども2人分の160万円なので、1,915万円もの大きな差額になります。
相続においては、こういった特例を知らないと大きな損をしてしまいますが、利用するための細かい条件も設定されています。
いろいろな種類の資産を持っているけれど相続対策をしていない人、漠然とした不安を持っている人は、早めに相続に詳しい税理士などの専門家に相談するようにしましょう。