マイナス財産がある場合に、相続によって不測の損害を受けるおそれのある相続人を保護する制度が「限定承認」です。
一方、マイナス財産がある場合に、相続によって損害を受けるおそれのある債権者を保護する制度が「財産分離」です。
この2つの制度について、以下で解説します。
限定承認とはなにか
人が亡くなると、その人の財産は、一切の権利・義務を含めて相続人に包括的に受取人に受け継がれます。
しかし、これで受け継ぐのはプラス財産だけでなく、借金返済の義務など、マイナス財産も含まれます。
そこで、マイナス財産を相続したくない人もあらわれます。
マイナス財産、借金返済の義務から逃れる方法として限定承認があります。
これは、相続で得た財産を限度としてのみ遺産のマイナスを受け継ぐことを承認するものです。
この場合、マイナス分が多くても相続人は責任を負いません。
逆にプラス分が多ければ取得することができます。
相続財産のプラス・マイナスがはっきりしない場合には、非常に好都合な制度です。
限定承認の手続き
限定承認は、財産目録を作成して家庭裁判所に申述書を提出することにより行います。
相続人全員で行うこと
相続人が複数いるときは、相続人全員で共同して限定承認を行う必要があります。
もし、相続人の一人でも承認してしまうと、他の相続人は限定承認ができなくなってしまいますので、注意しなければなりません。
なお、相続の放棄をした人がいても、限定承認をすることができます。
5日以内に広告すること
限定承認をした人は、亡くなった人の債権者や遺言により財産を贈られた人(受遺者)のすべてに対して、限定承認をしたこと、および一定の期間内に請求すべき旨を、5日以内に広告しなければなりません。
この広告期間は、2ヵ月以上です(ただし、知れている債権者には、個別に通知しなければなりません)。
その結果、もしマイナス分のほうが多いときは、各債権者に対して、相続財産額を各債権者の債権額に応じて按分(債権額に比例した割合で分ける)した額を返済することになります。
これは、相続財産の範囲内で行われますので、絶対に持ち出しにはなりません。
財産分離とはなにか
限定承認という制度は、マイナスの財産、借金返済の義務などがある相続人にとっては非常に好都合な制度です。
一方で、債権者は、前から当てにしていた債務者(限定承認した相続人)の資産を相続のためにマイナス財産と混ぜて差し引きゼロにされたらたまりません。
債権者は、相続により、債務の取り立てが困難になることを防ぎたいのです。
このような場合のために財産分離という制度があります。
家庭裁判所に対して、遺産を分離して、従来の資産を混じらないように請求することができます。
ここで、注意すべき点は、財産分離は、限定承認とは異なり、マイナスの資産だけでなくプラスの資産も含まれるということです。
財産分離の手続き
財産分離は、家庭裁判所に対して請求しますが、請求ができる期間は、原則として相続開始の時(知った日からではない)から3ヵ月以内です。
ただし、相続財産が相続人の固有財産と混合しない間は、その期間の満了後も請求できます。
家庭裁判所が財産分離を命じたときは、その清算手続きが行われます。
まとめ
限定承認と財産分離は、手続きが複雑なことからあまり利用されていませんが、マイナス財産がある場合には、利用を考えてみましょう。
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