この記事でわかること
- 相続させたい人に、財産がきちんと行き渡る方法について理解できる
- 遺留分侵害をしないように意識した遺言書の原案作成が自分でできる
- 相続人を守る方法がわかる
親としても、是非とも相続させたいと思わせる子どもがいれば、一方であまり相続させたくないと正直思ってしまう子どももいるでしょう。
親の好き嫌いがあるのは自由ですが、相続人には最低限もらえる遺産を請求する権利(遺留分侵害額請求)があります。
ストレートにこの人に財産をあげて、この人にはあげないという内容の遺言書を作成した場合、相続人どうしで揉めたり、遺留分侵害額請求をされたりして思ったように財産が移転されない可能性があります。
しかも、遺言書を書いた人は、遺言書が実行される場面を見ることは不可能であるわけですから、尚更遺留分を侵害しない遺言書の書き方を意識する必要があります。
本当に実効性のある遺言書を作成するために、遺留分を侵害しない遺言書の書き方を解説します。
ひいてはそれが相続人を守ることにもつながるのです。
目次
遺言書が遺留分の侵害になる場合・トラブル例
せっかく作った遺言書が遺留分の侵害となり、トラブルに発展してしまうケースをご紹介します。
そもそも遺留分とは
そもそも「遺留分」とはどのような権利のことをいうのでしょうか。
民法には以下の通り定められています。
千二十八条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一
例えば、妻と子供一人が相続人になったとします。
法定相続分としては、妻が2分の1、子供が2分の1で、子供の遺留分は、2分の1の半分なので4分の1になります。
直系尊属のみが相続人である場合というのは、例えば子供を親が相続する場合です。
親は直系の尊属なので、法定相続分の3分の1が遺留分になります。
これらは、最低限もらえる遺産です。
最低限もらえる遺産の部分を侵害された場合は、最低限もらえる遺産を取り戻すことができます。
第千三十一条 遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる。
ただし、取り戻すことができるだけであって、取り戻さなければいけないわけではありません。
権利なので、行使するかどうかは権利者次第になります。
今回解説するケースは、遺留分を侵害する内容の遺言書を読んだ相続人が、将来的に遺留分侵害額請求を行うかもしれないという想定です。
事前に相続人となる予定の人全員で、遺留分侵害額請求をしないとか、遺留分を放棄していた場合は、まだリスクとしては小さいかもしれません。
次は、具体的にどのようなケースで遺留分侵害額請求がなされるのかをみてみましょう。
遺留分侵害がある例「遺産の全部を誰々に相続させる」
今回も、相続人は妻と子供という例で考えてみます。
「遺産は全て妻に相続させる」と遺言書で書いた場合、子供は遺産の4分の1について、自分が本来もらえるはずだった部分として、遺留分侵害額請求を行うことができます。
片方の親が亡くなって、ひとまず残った方の親に全部相続させるというのはよくあるパターンではあります。
しかし、そうするためには、相続人同士で十分話し合うか、遺言書を作成するときに全員が合意していなければ、揉める原因となります。
逆に、子供が複数人いる中で、一人だけを指名してその人に遺産相続を集中させたいという内容の遺言書を作ったとします。
この場合は、遺産をもらえなかった他の子供が遺留分侵害額請求をしてくることがあります。
遺留分侵害額請求がされると親族の仲もズタズタに
遺留分侵害額請求がされると、親族の仲が悪くなってしまいます。
遺留分侵害額請求は、内容証明郵便などで行うものから、裁判上の請求になるものまであります。
いずれにしても、遺留分侵害額請求される側としては、「遺言書があるのにその通りにせずに自分の取り分を欲しいというなんてひどい。
私には遺産を全部もらう権利がある。
遺言書にもそう書いてあったし、絶対に渡さない」と思うでしょう。
逆に遺留分侵害額請求をする側としては「最低限自分がもらえる部分についてはきちんともらいたい」と思うでしょう。
それぞれの思惑が見えますし、何より相続は「争族」とも言われるほど、財産だけの問題ではなくて人同士の紛争に発展しがちです。
1人に相続させる遺言は遺留分の侵害になる可能性あり
そうはいっても、被相続人としては財産を誰に渡すのかは、自由に決めたいと思うでしょう。
遺言書も、自由な内容で書きたいと思うのも無理はありません。
相続人が複数いる場合は、誰か一人に相続させる遺言は遺留分の侵害にあたる可能性がありますが、遺留分の侵害にあたる可能性のある遺言書を書く自由はあります。
遺留分の侵害にあたるような内容の遺言書を書く前に少し考えていただきたいのは、何のためにその遺言書を書くのかということです。
自分が残したい財産を、残したい人に渡すためではないでしょうか。
ただ好きな内容の遺言書を書いて、相続が起こったあとで親族が揉めてしまい、それでも自分には関係ないと思うのであれば誰にも止める権利はありません。
しかし、遺言書の本来の目的が、自分の残したい財産を残したい人に渡すためであるのなら、実効性のある内容にしなければなりません。
遺言書がきちんと実行されるかどうかを左右するのが、遺留分侵害額請求です。
遺留分を侵害するかもしれない内容を遺言書にする場合は、遺留分侵害額請求対策をきちんととっておく必要があります。
遺留分の侵害をしない遺言書の書き方
実際に、どのような書き方であれば遺留分の侵害をしないで、尚且つ自分が残したい人に残したい財産が渡るのかを考えてみましょう。
遺留分侵害額請求がされる前提の遺言書
遺留分侵害請求がされる前提の遺言書を書けば、遺留分侵害額請求がされても、自分が渡したい財産には及ばないようにすることができます。
どこから遺留分侵害額請求をするのかを指定
まず、遺言書で、渡したい財産を渡したい人へ相続させる旨を書きます。
何よりも妻の住む家を失って欲しくないので、妻に土地家屋を相続させる旨を書いたとしましょう。
例:遺言者が有する土地家屋の全てを、妻○○○に相続させる。
まずここで、土地家屋を妻へ渡るように指定します。
次は、土地家屋をもらえない子どもについてです。
例:遺言者の以下の預貯金を、長男○○○に相続させる。
こうすることで、預貯金が長男に渡りました。
金額は、遺留分相当にしておきます。
さらに、以下の一文を加えます。
例:遺言者は、遺留分侵害額請求は前条により長男に相続させる財産からすべきものと定める。
こうすることで、遺留分侵害額請求をされたとしても、妻に渡したい土地家屋には及ばなくなります。
遺留分侵害額請求をする財産の順番を指定
まず、預貯金を分割した後に、土地家屋など分けづらい財産を、遺言者が相続したもらいたい人に渡します。
そのあとで、遺留分侵害額請求は、預貯金からなされることを指定します。
例:
第1条 遺言者は、全ての預貯金を妻○○○、長男○○○に各2分の1ずつの割合で相続させる。
第2条 妻に、遺言者の土地家屋を相続させる。
第3条 遺言者は、妻に相続させる財産から遺留分侵害額請求をすべきものと定め、そのうち第1条の財産からなされるものとする。
このようにすることで、遺留分侵害額請求をされるとしても、やはり妻に土地家屋が渡るようになります。
遺留分侵害額請求をされても預貯金が減るだけになります。
特別受益であることを説明する
結婚資金、起業資金など、子供に何かしらの名目であげたお金を、相続分の計算に入れないように指示する文面です。
生前に贈与してしまう場合には活用できます。
例 遺言者は○○年○○月○○日に、結婚資金(起業資金など、用途がわかる文言で)として贈与した金○○○○円については、相続分の計算において、持ち戻しを免除する。
付言事項を活用する
付言事項とは、相続人への手紙のようなものです。
なぜその遺言書を書いたのかという理由を書きます。
ここで注意したいことは、絶対恨み言を書いてはいけないということです。
遺留分侵害額請求がされる恐れのある遺言書であれば尚更です。
付言事項は、以下のような内容にします。
例:
わがままだとは思いますが、最後のお願いとして私の遺言をどうか受け入れていただきたいのです。
残された妻にはずっとこの家に安心して住んで欲しいと思っています。
長男には、少なくて申し訳ないとは思いますが、預貯金を生活の足しにして欲しいです。
もし納得がいかないようであれば、妻にあげた預金から少しもらって、納得していただけませんか。
これからも妻に顔を出してやってください。
それでは、さようなら。
今まで皆さん本当にありがとう。
付言事項に法的効力はありませんが、相続人の心を左右する働きがあります。
読んだ結果、もしかすると遺留分侵害額請求は起こらなくて済むかもしれません。
遺留分侵害額請求権に備えて財産を指定できる
先の遺言書の文例で解説しましたが、遺留分侵害額請求に備えて財産を指定できます。
直接、預金など分けやすい財産を指定して、遺留分侵害額請求をしそうな人に振り分けておきます。
また、もし遺留分侵害額請求が起こらなければそのまま持ち主の元にあって欲しいと思う場合は、差し当たりあげたい人に渡しておいて、そこから遺留分侵害額請求のためのお金を使うという方法があります。
相続させたくない親族がいる場合にできること
どうしても相続させたくない親族がいる場合にできることとしては、遺言書ではなく、遺言者の生前に遺留分を放棄してもらうことです。
この方法が確実です。
その場合は、家庭裁判所の許可を得なければなりませんし、遺留分を放棄することで本人に何らかのメリットがあるようにする必要があります。
遺留分に相当する財産を事前に渡しておくなどの方法を考えましょう。
遺留分放棄は相続放棄とは別の制度です。
遺留分を放棄したとしても、相続人であることには変わりありません。
遺留分を放棄してもらって、さらに遺言書で遺産の行き先を指定するとか、遺留分放棄のあとに相続が起こった時点で相続放棄をしてもらうのが確実でしょう。
まとめ
今回は、遺留分の侵害をしない遺言書の作り方をご紹介しました。
遺産を渡したくない親族に一銭も渡さないぞ、という姿勢を明確にすると紛争の元です。
遺留分侵害額請求の対策をしておきましょう。
いずれにしても、生前も相続発生後も一銭も渡したくないという姿勢だと難しいです。
相続はさせたくないが、相手にも遺留分という権利があるので、それに配慮して交換条件としての贈与をするなどの作戦を考えましょう。