この記事でわかること
- 法定相続人がいない場合に遺産はどうなるのかわかる
- 法定相続人がいない場合の財産の分け方が理解できる
- 法定相続人がいない場合の対処法がわかる
目次
法定相続人がいない場合(相続人不存在)のケース
相続で問題になるのが、法定相続人の第1順位から第3順位までがすべて存在しないケースです。
法定相続人が誰もいないケースを「相続人不存在」といいます。
法定相続人がいない場合とは、次のようなケースです。
法定相続人がいないケース
- ・法定相続人が誰もいない場合
- ・法定相続人がすべて相続放棄した場合
- ・すべての法定相続人が相続欠格や排除された場合
なぜ3つのケースで相続人不存在になるのか見ていきましょう。
法定相続人がいないケース(1)|法定相続人が誰もいない
第1順位から第3順位までの法定相続人が誰もいないケースは、相続人不存在になります。
たとえば、兄弟姉妹のいないひとりっ子で育ち、結婚せずに子供もおらず両親とは死別している、といったケースでは、被相続人が亡くなったときに法定相続人がいません。
仮に配偶者や子供、兄弟姉妹がいても、被相続人の相続発生時(亡くなったとき)に全員が故人であれば、同じく相続人不存在となります。
法定相続人がいないケース(2)|すべての法定相続人が相続放棄した
すべての法定相続人が相続放棄した場合は、法定相続人がいない場合に該当します。
相続放棄は、相続権自体を放棄する手続きで、遺産の中のマイナス(借金など)が多いときによく使われます。
相続放棄をすることにより、法定相続人は最初から相続人ではなかったことになりますから、マイナスだけでなく預金などのプラスの財産も相続しないことになります。
すべての法定相続人が相続放棄をすると、すべての法定相続人が最初から相続人ではなかったことになりますので、法定相続人がいなくなります。
法定相続人がいないケース(3)|すべての法定相続人が欠格や排除
すべての法定相続人が欠格や排除になった場合も、法定相続人がいないケースに該当します。
相続人の「欠格」とは、相続人の相続権が剥奪されることです。
被相続人や他の相続人を故意で死亡させるなど、犯罪に手を染めたケースが欠格の代表例になります。
詐欺や脅迫によって遺言書を書かせたり、遺言書の内容を変更させた場合や、勝手に遺言書を書き換えたり棄てたりした場合も、相続人の欠格に該当します。
欠格事由に該当すると、本来は相続人として相続できたはずなのに、相続人としての資格を剥奪され、相続ができなくなるのです。
相続人の「廃除」とは、被相続人の意思で相続人から相続権を奪うことを意味します。
相続人に被相続人の虐待や侮辱といった問題行動があった場合は、被相続人の意思で相続権を排除可能です。
相続人の排除は遺言書や裁判所での手続きで行います。
相続人がすべて欠格や排除になってしまうと、相続において法定相続人がいなくなります。
法定相続人が行方不明になっている場合は相続人がいない扱いになる?
法定相続人が行方不明になっているケースは、法定相続人がいない場合には該当しません。
相続人が行方不明になっていても、相続人自体が戸籍上に存在しないわけではなく、法定相続人がいない場合とは異なります。
また、法定相続人と連絡がつかない場合も、同様の理由で法定相続人がいないケースには該当しません。
法定相続人がいない場合は遺産は最終的に国庫に
法定相続人がいない場合、遺産をどのように扱うかが問題になります。
相続する人がいないため、預金や不動産といった遺産が宙に浮いたような状況になるのです。
遺産相続する相続人がいない場合は、遺産は最終的に国庫に帰属することになります。
相続人がいないために国庫に入る遺産は、最高裁への取材データより、令和元年で約603億円に達したことがわかりました。
かなりの遺産が相続されず、最終的に国庫に入っていることがわかります。
ただし、遺産が国庫に帰属するのは、あくまで最終的に「誰も遺産の受け取り手がいなかった場合」です。
法定相続人がいない場合の財産の分け方
遺産が国庫に入るまでに、相続人以外で遺産を引き受ける人がいないか確認することになります。
遺産の受け取り手が出てくれば、その人に遺産を引き受けてもらうことがあるのです。
次のような流れで、遺産を分ける人がいないか確認と手続きが行われます。
遺産を分ける人がいないか確認する手続き
- (1)相続財産管理人を選任する
- (2)債権者に対する債権の申出を公告
- (3)相続人捜索と相続人不存在の確定
- (4)特別縁故者への遺産分与
- (5)国庫に帰属
法定相続人がいない場合は、まずは遺産を管理する相続財産管理人を選任します。
その上で、まずは債権者に債権の申出を行うように公告します。
被相続人にお金を貸している債権者が見つかれば、その債権者に弁済を行います。
次に、本当に相続人不存在なのか確認するために、隠れている相続人がいないか相続人の捜索が行われます。
相続人が見つからない場合は相続人不存在が確定し、特別縁故者へ遺産分与を行います。
特別縁故者とは「相続権はないが、被相続人と関係の深かった人」のことになります。
被相続人の介護療養に尽くした相続権を持たない親族や、被相続人と生計を同じにしていた相続権を持たない人などが特別縁故者です。
相続権のない内縁の妻や夫なども特別縁故者として遺産分与を請求できます。
相続人がいない場合の遺産は、債権者への公国や特別縁故者への分与などが順番に行われ、最終的に国庫に帰属することになります。
法定相続人がいない場合にできる対処法(1)|遺言書の作成
法定相続人がいない場合、被相続人が希望する人に遺産を渡すことは基本的に難しくなります。
たとえば、被相続人は内縁の妻に遺産を渡したいと思っていたとします。
内縁の妻は特別縁故者なので、特別縁故者として遺産を請求すればいいと思うかもしれません。
しかし、特別縁故者による遺産請求は必ず認められるわけではないのです。
特別縁故者の請求まで順番が回ってくる前(相続人捜索)の段階で相続人が見つかり、特別縁故者への遺産分与まで進まないこともあります。
法定相続人がいない場合かつ希望する人に遺産を渡したい場合は、遺言書で遺産の受取人を指定するという方法があります。
法定相続人がいない場合にできる対処法(2)|相続管理人の選定
自分が特別縁故者に該当する可能性が高いからといって、相続財産を勝手に我がものにすることは許されません。
法定相続人がいない場合は、ルールに則って遺産の手続きを進める必要があります。
相続財産の管理人がいないと、遺産を管理して分与の手続きを進めてくれる人がいません。
法定相続人がいない場合で特別縁故者が遺産を受け取りたい場合は、遺産を管理して手続きを進めてくれる相続財産管理人の存在が不可欠です。
相続管理人の選び方は次の通りです。
相続管理人の選び方
- ・家庭裁判所に相続管理人の選任を申立てる
- ・家庭裁判所が相続管理人の要否を審理する
- ・家庭裁判所が相続財産管理人を選任する
まずは、家庭裁判所に相続財産管理人の選任を申し立てて選任してもらう必要があります。
ただし、選任の申し立てをしても、相続財産管理人を必ず選任してもらえるわけではありません。
家庭裁判所が「遺産が存在する」「相続人が不存在である」「相続手続きが必要である」などの要件を確認し、要件を満たしていないと判断した場合は選任の申し立てが却下されます。
相続財産管理人の選任には、戸籍謄本や財産を証明する資料などが必要です。
相続財産管理人の報酬にあてるための予納金が必要になることもあります。
必要書類の準備や申し立ての手順でわからないことがあれば、弁護士に相談して進めましょう。
お世話になった人・特定の団体に相続することはできるのか
遺産をお世話になった人や特定の団体に寄付することも可能です。
お世話になった人・特定の団体に相続する方法
お世話になった人や特定の団体に相続するには、遺言書を作成し、相続させたい相手を遺産の受取人に指定する方法があります。
遺言などで遺産を渡したり、寄付したりする場合は、必ず相続人でなければいけないというルールはありません。
ただし、注意しておきたいポイントが2つあります。
お世話になった人・特定の団体に相続する場合の注意点
- (1)遺言書の文言
どのような文言で指定すべきか、弁護士などにアドバイスを受けることをおすすめします。
遺産を渡す相手や寄付先の団体などが対応に困らないように、弁護士などを交えて事前に話しておくと安心です。
- (2)実効性の確保
遺言書に記しても、その内容を実行してくれる人がいないと意味がありません。
弁護士などの専門家を遺言執行人に指定し、遺言内容の実効性を確保しましょう。
まとめ
法定相続人がいない場合、遺産は最終的に国のものになります。
ただし、いきなり国庫行きになるわけではなく、債権者への返済や相続人の捜索と不存在の確定、特別縁故者への分与などを経ることになります。
法定相続人がいない場合で「内縁の妻に財産を残したい」などの希望がある場合は、遺言などを用いるなどの方法で、自分の望む相続が実現できるように対策しておきましょう。
法定相続人がいない場合の相続対策については、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。