この記事でわかること
- 期限のある相続手続きの種類
- 期限内に相続手続きをしなかった場合のデメリット
- 期限の延長ができる相続手続き
相続は予期せぬタイミングで発生することがあります。
事前に相続手続きについて調べていた方であれば、余裕を持って対応できるかもしれません。
しかし突然ご不幸があり、戸惑いながら相続手続きをする方も多いのではないでしょうか。
相続手続きは多岐に渡るため、やるべきことは数多くあります。
そのなかでも気をつけたいのは、期限のある相続手続きです。
期限内に手続きをしないと、デメリットが生じることがあるためです。
この記事では、期限のある相続手続きの種類や手続の内容ついて詳しく解説していきます。
【期間別】相続手続きの期限一覧
前述したように、相続手続きの中には期限が定められているものがあります。
以下は、期限のある相続手続きの一覧表です。
【期限が6カ月以内】
7日以内 | 死亡届の提出 |
10日以内 | 厚生年金受給停止・受給権者死亡届の提出 |
14日以内 | 年金受給停止・受給権者死亡届の提出 |
健康保険に関する手続き | |
介護保険の資格喪失届の提出 | |
世帯主の変更届(個人が世帯主の場合のみ) | |
3カ月以内 | 相続放棄・限定承認の申述 |
4カ月以内 | 準確定申告 |
【期限が6カ月以上】
10カ月以内 | 相続税の申告と納付 |
1年以内 | 遺留分侵害額請求 |
3年以内 | 不動産の相続登記 |
死亡保険金の請求 | |
5年以内 | 相続税の還付請求 |
上の表は5年以内に行う必要のある相続手続を、期限が「6カ月以内」の手続と「6カ月以上」の手続に区分して、期限が早い順に並べたものです。
期限が6カ月以内の相続手続きが多いことがわかります。
それでは、上記の手続きがどのようなものなのか詳しく解説していきます。
【7日以内】死亡届の提出
一番初めに期限を迎えるのは、死亡届の提出日です。
死亡届は、被相続人の死亡の事実を知った日の翌日から7日以内に行います。
ここでの注意点は7日以内に死亡届を提出しないといけないのは、被相続人が国内で死亡した場合だということです。
国外で被相続人が亡くなったときは、3カ月以内と長めに期限が設定されています。
死亡届の提出先は、以下のいずれかの市区町村役場に提出します。
- 被相続人の死亡地
- 被相続人の本籍地
- 届出人の所在地
死亡届は死亡診断書等と一対になっているため、病院で亡くなられたときは病院で、事故等で亡くなられたときは警察を通して医師に交付してもらえます。
死亡届を交付されたら、期限内に必ず提出するようにしましょう。
【10日以内】厚生年金の受給停止・受給権者死亡届
厚生年金の受給停止・受給権者死亡届は、被相続人の亡くなった日から10日以内に行います。
もし手続きを怠ってしまうと、被相続人が亡くなった後も厚生年金が振り込まれてしまいます。
もちろん後で過剰に振り込まれた分は返金することになりますが、余計な手間を増やさないためにも、期限内に手続きを行うようにしましょう。
厚生年金の受給停止・受給権者死亡届は、社会保険事務局に提出します。
【14日以内】国民年金の受給停止・受給権者死亡届
国民年金の受給停止・受給権者死亡届は、被相続人が亡くなった日から14日以内に提出します。
国民年金は厚生年金よりも少し長めに期限が設定されているため、余裕をもって手続きができるでしょう。
国民年金の受給停止・受給権者死亡の提出先は、市区町村役場になります。
【14日以内】健康保険に関する手続
健康保険に関する手続きは、被相続人が亡くなった日から14日以内に行います。
健康保険はいくつか種類があるため、被相続人が加入していた健康保険をしっかりと確認します。
主な健康保険は、下記の3種類です。
- 国民健康保険
- 後期高齢者医療保険
- 会社や健康保険組合など
健康保険ごとに必要な書類や提出先が異なるため、注意が必要です。
あわせて気をつけたいのは、被相続人が会社や健康保険組合等に加入していた場合です。
会社や健康保険組合等では、手続きの期限が14日よりも短くなっていることがあるためです。
被相続人が会社や健康保険組合に加入していた場合は、早めに手続きを行うようにしましょう。
【14日以内】介護保険の保険証の返却・資格喪失届
被相続人が介護保険に加入していたときは、介護保険の保険証の返却と資格喪失届の提出を亡くなった日から14日以内に行います。
介護保険の保険証の返却と資格喪失届の提出先は、被相続人が居住していた住所を管轄する市区町村役場の福祉課窓口です。
未納分などがあった場合は、資格喪失届の手続きのときに精算されます。
【14日以内】世帯主の資格喪失届
被相続人が世帯主だった場合は、世帯主の資格喪失届を亡くなった日から14日以内に提出しましょう。
世帯主の資格喪失届は、被相続人以外の世帯員が2名以上いるときの手続きになります。
えたとえば世帯主が夫で世帯員が妻だけの場合は、妻が次の世帯主になることがはっきりしているため、資格喪失届は不要です。
たとえば世帯主が夫で世帯員が妻だけの場合は、妻が次の世帯主になることがはっきりしているため、資格喪失届は不要です。
世帯主の資格喪失届は、被相続人の住所地を管轄する市区町村役場に提出します。
【3カ月以内】相続放棄・限定承認の申述
相続放棄と限定承認をするときは、自分が相続人になった事実を知った日から3カ月以内に行います。
相続放棄をすると、初めから相続人ではなかったという立場になり、被相続人の財産を一切相続しません。
限定承認は、被相続人のプラスの財産の範囲で借金などのマイナスの財産を相続します。
相続放棄と限定承認は家庭裁判所で手続きを行いますが、他の相続手続きとは異なり、絶対に行う手続きではないため、必要ない場合に誤って手続きをしないようご注意ください。
なお、一般的に相続放棄や限定承認をするときは、遺言状の有無の確認や法定相続人の調査、財産目録の作成などを経て行います。
単純承認と比べてやることが多くなるため、時間に余裕を持って行動しましょう。
【4カ月以内】準確定申告
被相続人が不動産所得などの所得を得ていた場合は、被相続人が亡くなった日から4カ月以内に確定申告をします。
被相続人の確定申告は準確定申告と呼ばれ、被相続人の住所地を管轄する税務署で手続きをします。
なお、期限内に準確定申告をしないと延滞税などが発生するため、4カ月以内に申告をするようにしましょう。
【10カ月以内】相続税の申告・納付
相続税を支払う必要があるときは、被相続人の死亡の事実を知った日の翌日から10カ月以内に申告と納付をします。
相続税を納付する前に、遺産分割協議をして相続人間で財産を分配するのが一般的な流れです。
また遺産分割協議後は銀行口座や不動産、その他財産の名義変更をして、相続税の計算をします。
最初の遺産分割協議で話がまとまらず時間がかかる場合もあるため、早めに遺産分割協議を始めることをおすすめします。
【1年以内】遺留分侵害額請求
遺留分侵害額請求は、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年以内にする必要があります。
遺留分とは、全体の相続財産に対する各相続人の相続できる割合をいいます。
遺留分が他の相続人の生前贈与や遺贈によって侵害されたときは、遺留分侵害額請求をして取り返せます。
ただし前述したとおり、遺留分侵害額請求は1年を過ぎるとできなくなるため、遺留分を侵害されているときは早めに手続きをしましょう。
【3年以内】不動産の相続登記
不動産の相続登記は、所有権の取得を知った日または遺産分割が成立した日から3年以内に行う必要があります。
不動産の所在地を管轄する法務局で、相続登記の申請をします。
もし期限内に不動産の相続登記を行わなかった場合は、罰則を科されることもあるため、忘れずに登記を行いましょう。
【3年以内】死亡保険金の請求
被相続人が死亡保険に加入していた場合は、権利を行使できるときから3年以内に行います。
ただし、保険会社ごとに期限が異なる場合もあるため、あくまでも目安として捉えてください。
死亡保険金を請求する前に、まずは保険会社に期限を確認するといいでしょう。
【5年以内】相続税の還付請求
相続税を多く納付していたときは、相続開始の日の翌日から5年以内に還付請求をしましょう。
相続税の還付請求は、被相続人の住所地を管轄する税務署で手続きをします。
還付請求ができる期限は長めに設定されていますが、多く納付しているのに気づいたときは忘れないうち早めに請求することをおすすめします。
【期限なし】早めにしておきたい相続手続き
ここからは「期限のない」相続手続きの中でも、早めにしておいたほうがいい手続きを紹介していきます。
早めにしておいたほうがいい相続手続きは、次の通りです。
- 相続人の調査
- 相続財産の調査
- 遺言書の検認
- 遺産分割協議・遺産分割協議書の作成
- 銀行口座や自動車などの名義変更
これらの相続手続きには、期限が設定されていません。
しかし、一つ一つの手続きが独立しているわけではなく、重要な手続きをするための前準備となっている場合がほとんどです。
たとえば相続税の申告には、遺産分割協議書の提出が必要なケースがあります。
それぞれどのような相続手続きなのかを説明していきます。
相続人の調査
相続人の調査とは、被相続人の法定相続人が誰なのかを調べることです。
相続人の調査をしないと、相続手続きができないといっても過言ではありません。
被相続人が亡くなったら、まずは戸籍謄本などを取得して、相続人を把握しましょう。
相続財産の調査
相続財産の調査も、相続人の調査と同じように大切な行為です。
相続財産にどのようなものがあるのか、金額がいくらになるかなど調査しないと、相続税の計算にも影響が及んできます。
相続財産は預貯金や不動産などのプラスの財産に目が行きがちですが、借金などのマイナスの財産もしっかりと把握するようにします。
プラスの財産とマイナスの財産のどちらの額が大きいのかで、相続放棄や限定承認をするか決定することが多いためです。
このように、期限のない相続財産の調査も後に続く相続手続きと密接に繋がっています。
遺言書の検認
遺言書の検認は、被相続人が遺言書を残していたときに行います。
残された遺言書が偽造されたものではないかなど、家庭裁判所が確認します。
また遺言書の検認をすることで、相続人に遺言書の存在を知らせるのも目的の一つとされています。
遺言書の検認をせずに相続財産を分割した場合は、5万円以下の過料を科されるので気をつけましょう。
遺産分割協議・遺産分割協議書の作成
遺産分割協議と遺産分割協議書の作成は、期限がない相続手続きの中でも、とても大事な手続きの一つです。
遺産分割協議書を相続手続きで提出する機会が多く、重要な手続きである相続登記の申請や相続税の申告のときにも必要になります。
遺産分割協議を作成する前段階になる遺産分割協議は、話がまとまらないこともあるため、早めに開始することをおすすめします。
銀行口座や自動車などの名義変更
銀行口座や自動車などの財産の名義変更にも、期限はありません。
しかしいつまでも名義変更をしないでいると、不利益を被るおそれがあります。
銀行口座のお金は時効で消滅しませんが、名義変更する権利が5年で消滅する場合があるためです。
後で困らないように、財産の名義変更もできるだけ早く行いましょう。
期限内に相続手続きをしなかった場合のデメリット
相続手続きには、期限内に行う必要があるものが数多くあります。
やらなければならない相続手続きの数の多さから、つい手続きをするのを忘れてしまうことや、日々の生活に追われて時間がとれず、できない場合もあるかもしれません。
しかし数多くある相続手続きの中で、期限内に行わなければペナルティが発生するものもあります。
以下の相続手続きは、期限内に行わないとデメリットがあるものです。
- 相続放棄・限定承認の申述
- 相続税の申告
- 遺留分侵害額の請求
- 不動産の相続登記
- 死亡保険金の請求
それぞれどのようなデメリットがあるのか、一つずつ見ていきましょう。
相続放棄・限定承認の申述をしない場合のデメリット
相続放棄と限定承認は、必ず行わなければいけない相続手続きではありません。
しかし、もし相続放棄や限定承認をする予定だった場合、期限内に手続きをしなかったらどんなデメリットがあるのでしょうか。
相続放棄と限定承認の手続きができる期限は、自分が相続人になった事実を知った日から3カ月以内と定められています。
期限内に手続きをしなかったときは、単純承認をしたものとみなされます。
単純承認とは、相続放棄や限定承認とは異なり、被相続人のすべての財産を相続することです。
相続する財産がプラスの財産よりも借金などのマイナスの財産が大きいときに単純承認をすると、借金などの返済をしなくてはなりません。
相続放棄や限定承認の手続きの期限が過ぎると単純承認とみなされるのは、大きなデメリットといえます。
相続税の申告をしない場合のデメリット
相続税の申告を期限内に行わなかった場合のデメリットは、以下のペナルティが発生することです。
- 延滞税
- 無申告加算税
- 過少申告加算税
- 重加算税
上記のペナルティ以外にも、督促に従わず相続税の納付をしないでいると、財産を差し押さえられる可能性もあります。
また相続税の手続きを怠ると、小規模宅地等の特例などの相続税の軽減制度を利用できなくなります。
相続税の申告をせずにペナルティを受けなくてもいいように、期限内に手続きをしましょう。
遺留分侵害額の請求をしない場合のデメリット
遺留分侵害額の請求は期限である1年以内にする必要があります。
厳格に期限が定められているため、期限が過ぎた後に他の相続人に遺留分が侵害されている事実が判明しても、請求ができません。
期限の厳格さがデメリットでもあるといえます。
また期限内に遺留分侵害額請求を行ったとしても、他の相続人へ侵害額を請求できる期間は5年間です。
5年を過ぎると請求できる権利が消滅するため、期間内に侵害額を回収する必要があります。
話し合いが進まないケースも多いため、5年の期間は請求する相続人にはデメリットといえるでしょう。
不動産の相続登記をしない場合のデメリット
不動産を相続したときは、所有者を被相続人から相続人へ変更する登記を申請しなければなりません。
相続登記は期限内に行うよう法律で定められているため、もし相続登記をしない場合には罰則として10万円以下の過料を科されます。
他にも相続登記をしないでいると、不動産を売れなくなる、あるいは担保にできなくなってしまいます。
デメリットが生じないように、期限内に登記をしましょう。
死亡保険金の請求をしない場合のデメリット
死亡保険金を請求できる期限は、基本的に保険会社は被相続人が亡くなった日の翌日から3年間とされています。
死亡保険金を期限内に請求しない場合のデメリットは、保険会社に請求する権利を失うことです。
法律の定めにより死亡保険金を請求する権利は時効で消滅してしまうため、早めの請求をおすすめします。
相続手続きが間に合わない場合は期限を延長できる?
様々な事情があって、期限内に相続手続きを完了できない場合があるかもしれません。
もし期限内に相続手続きを完了できなかった場合、期限を延長してもらえるのでしょうか。
結論から言うと、相続放棄・限定承認の手続きと相続税の納付の期限が間に合わないときには対処法があります。
それぞれどのような対処法なのかを、詳しく説明していきます。
相続放棄・限定承認の手続きに間に合わないときの対処法
相続放棄と限定承認の期限は、熟慮期間と呼ばれています。
この熟慮期間は3カ月ですが、相続財産の評価に時間がかかるときもあります。
また相続人の中に所在不明な者がいるために、相続手続きが進まないケースもあるでしょう。
そういったやむえない事情があり、期限内に相続放棄や限定承認を行えないときは、熟慮期間を延長してもらえる場合があります。
家庭裁判所で、熟慮期間である3カ月以内に延長手続きを行う必要があります。
熟慮期間内に相続放棄や限定承認の手続きができそうにないと感じたら、早めに延長手続きをしたほうがいいでしょう。
相続税の納付期限に間に合わないときの対処法
相続税の納付期限は10カ月ですが、期限内に遺産分割協議などをして相続税を計算しなければいけません。
遺産分割協議がまとまらない場合、期限内に相続税を納付できない事態に陥ってしまいます。
このような場合の対処法は、遺産分割をせずに各相続人の法定相続分で分割したときの相続税を納付します。
納付した後に遺産分割協議が成立したら、払いすぎた相続税の還付や足りない分を納めて調整していきます。
ただし、この対処法は納付期限を延長するものではないため、期限内に納付する必要があります。
期限が過ぎてから納付すると、延滞税が発生するため、注意しましょう。
まとめ
相続手続きは、期限が定められているものが多くあります。
中でも被相続人が亡くなってから6カ月以内に行う相続手続きは、数が多くなっています。
相続手続きを円滑に進めようとしても、トラブルが発生して遅々として進まず、期限に間に合うか不安になるときもあるのではないでしょうか。
そういうときは一人で悩まずに、弁護士などの専門家に相談されることをおすすめします。
相続手続きの専門家が悩みを解決する手助けをしてくれるでしょう。