この記事でわかること
- 相続放棄の意味や手続きがわかる
- 相続放棄の費用がわかる
- 相続放棄を専門家に依頼するときのメリット・デメリットがわかる
相続放棄という言葉は聞いたことがあるのではないでしょうか。
でも、遺産分割と似たものだと思っていたり、正式な手続きについて知らなかったりする人も多いでしょう。
この記事では、知っているようで知らない相続放棄の意味や手続きの方法、相続放棄の費用を解説します。
相続放棄を専門家に依頼するメリット・デメリットもご紹介します。
自分で相続放棄手続きをしたほうがよいのか、費用をかけても専門家に依頼したほうがよいのか悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
目次
相続放棄とは
相続放棄とは、「私は亡くなった方の財産も債務も相続しません」と意思を表明する手続きです。
相続放棄は口頭や自分で作成した書面で行うことはできません。
相続放棄の法律上の意味、手続き、期間などについて確認しましょう。
相続放棄と遺産分割の違い
一般の方がよく勘違いしているのが相続放棄と遺産分割の違いです。
よく、相続人間で行われる遺産分割で、次のような取り決めをすることがあります。
- ・相続人A 相続財産のうち不動産を取得
- ・相続人B 相続財産のうち預貯金や現金、株式など金融資産を取得
- ・相続人C 相続財産はなし
このケースでは、Cは相続放棄したように見えますが、法律上の相続放棄をしたことにはなりません。
相続放棄には「相続人ではなかったことになる」効果があります。
実質上、相続放棄をしたように見えても、遺産分割協議は相続放棄ではないので注意しましょう。
とくに気をつけなければならないのは、被相続人(亡くなった方)が債務を残していた場合です。
上記のケースで、遺産分割で債務について取り決めなければ、Cも法定相続分に従って負債を相続します。
Cが、プラスの財産も借金も一切相続したくないのであれば、家庭裁判所で相続放棄の手続きをしなければなりません。
相続放棄の手続きと熟慮期間
相続手続きは家庭裁判所に申述することにより行います。
相続放棄の手続き
どこで | 被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所 |
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いつまでに | 原則:相続開始を知ったときから3か月以内@ただし、期間を延長できる場合あり |
どうやって | 相続放棄申述書を提出 |
【ケース別】相続放棄の手続き費用
相続放棄をするには、どのくらい費用がかかるのでしょうか?
相続放棄に必ずかかる費用は、家庭裁判所に収める費用と戸籍謄本等の取り寄せにかかる費用です。
また、専門家に依頼する場合、専門家の報酬がかかります。
家庭裁判所に収める費用
家庭裁判所で相続放棄手続きを行うには、次の費用がかかります。
家庭裁判所に申述する費用
収入印紙 | 800円分(申述人1人につき) |
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連絡用の郵便切手 | 84円×4枚、10円×4枚 (合計376円分) |
このように、家庭裁判所に申述する費用は高くありません。
戸籍謄本等の取り寄せ費用
戸籍謄本等の取り寄せにかかる費用は高くないケースと、意外とかさむケースがあります。
まず、家庭裁判所で相続放棄手続きをするために取り寄せなければならない書類を確認しましょう。
配偶者と第1順位の相続人が相続放棄するケース
配偶者と第1順位(放棄する人が被相続人の子のとき)が相続放棄するときは、下記の書類を取り寄せれば足ります。
配偶者と第1順位(放棄する人が被相続人の子のとき)が相続放棄する場合
被相続人の戸籍謄本等 | ・被相続人の住民票の除票または戸籍附票 ・被相続人の死亡時の戸籍(通常は1通)(3か月以内のもの) |
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相続放棄する人の書類 | ・放棄する人の現在の戸籍の謄本(3か月以内のもの) |
このケースでは、被相続人の転籍回数が多くなければ、戸籍謄本等の取り寄せ費用はかさまないでしょう。
戸籍謄本等の費用
被相続人の住民票の除票 | 1通300円程度 |
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被相続人の除籍謄本、改製原戸籍 | 1通750円程度 |
相続人の戸籍謄本 | 1通450円程度 |
第2順位の相続人が相続放棄するケース
相続放棄する人が、第2順位の法定相続人の場合、次の書類が必要になります。
第2順位の法定相続人が相続放棄する場合
被相続人の戸籍謄本等 | ・被相続人の住民票の除票または戸籍附票 ・被相続人の死亡時の戸籍(通常は1通)(3か月以内のもの) |
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相続放棄する人の書類など | ・放棄する人の現在の戸籍の謄本(3か月以内のもの) ・被相続人の出生時に初めて載った戸籍の謄本から死亡時までの戸籍の謄本すべて(被相続人が載っている戸籍すべて) |
第3順位の相続人が相続放棄するケース
相続放棄する人が、第3順位の法定相続人の場合、次の書類が必要になります。
第3順位の法定相続人が相続放棄する場合
被相続人の戸籍謄本等 | ・被相続人の住民票の除票または戸籍附票 ・被相続人の死亡時の戸籍(通常は1通)(3か月以内のもの) |
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相続放棄する人の書類など | ・放棄する人の現在の戸籍の謄本(3か月以内のもの) ・被相続人の出生時に初めて載った戸籍の謄本から死亡時までの戸籍の謄本すべて(被相続人が載っている戸籍すべて) ・被相続人の父母や祖父母の死亡の記載がある戸籍の謄本 |
なお、第2順位や第3順位の相続人は、先順位の相続人の相続放棄が受理されてからでないと、相続放棄を申述できません。
意外とかさむ戸籍謄本などの取り寄せ費用
相続放棄する人が、第2順位や第3順位の法定相続人の場合、意外と除籍謄本の取り寄せ費用がかさむケースがあります。
被相続人の出生時に初めて載った戸籍の謄本から死亡時までの戸籍の謄本すべてが必要だからです。
被相続人が何度か本籍地を移転していると、被相続人の出生までさかのぼるには、何通もの除籍謄本を取り寄せなければなりません。
被相続人の離婚などによって、転籍回数が多くなることもあります。
また、戸籍がコンピュータ化される前の「改製原戸籍」を数通取り寄せるケースもあります。
被相続人出生までさかのぼるために、数通取得しなければならない場合もあるので、注意しましょう。
専門家に依頼する費用
相続放棄の事情などにより変動しますが、専門家に相続放棄を依頼する相場は以下のとおりです。
- ・司法書士に依頼する場合 3万円から5万円程度
- ・弁護士に依頼する場合 3万円から10万円程度
なお、戸籍謄本取得など実費が別途かかります。
相続放棄を専門家に依頼するときのメリット・デメリット
相続放棄の手続きを専門家に依頼するとどのようなメリット・デメリットがあるでしょうか。
相続放棄を専門家に依頼するときのメリット
専門家に相続放棄の手続きを依頼する最大のメリットは、面倒な書類の作成や、戸籍謄本など取り寄せを頼めることです。
専門家に依頼するメリット
- ・相続放棄申述書などの作成の手間が省ける
- ・戸籍謄本などの取り寄せの手間が省ける
- ・相続放棄期間を過ぎてしまう心配がない
- ・相続放棄をすべきかどうか相談できる
相続放棄申述書は、申述の趣旨、相続財産の概要など記載事項も多く、面倒に感じる方も多いでしょう。
家庭裁判所に提出する戸籍謄本等の数が多いと、取り寄せに時間や日数がかかります。
申述書の作成や、戸籍謄本等の取り寄せで時間がかかっているうちに、相続放棄の期間が過ぎてしまうかもしれません。
自分で相続放棄手続きを行うと、申述書の作成でミスをすることもあります。
相続財産が、プラスの財産と借金のどちらが多いかわからないときは、相続放棄をすべきかどうか、的確に判断できない可能性もあるでしょう。
法律の専門家に相談したうえで相続放棄を行えば、相続放棄の判断や手続きでミスをしなくてすみます。
相続放棄はできるかぎり、専門家に依頼することをおすすめします。
とくに、相続人間の感情的な対立がある場合や、相続財産の調査が必要なときは、弁護士に依頼するとよいでしょう。
相続放棄を専門家に依頼するときのデメリット
ここでは、司法書士と弁護士の場合に分け、デメリットを見てみます。
相続放棄を司法書士に依頼するデメリット
司法書士に相続放棄の手続きを依頼するデメリットは、司法書士には交渉の代理権がないことです。
司法書士に相続放棄を依頼すると、他の相続人や金融機関との対応・交渉は、自分で行わなわなければなりません。
相続放棄が家族間のトラブルに発展しそうな場合や、金融機関との交渉が必要なケースでは、司法書への依頼は注意して決めましょう。
相続放棄を弁護士に依頼するデメリット
弁護士に相続放棄を依頼するデメリットは、費用がかさむことです。
弁護士事務所では標準的な報酬を定めているので、正式な依頼の前に必ず、費用の総額を確認して決めましょう。
相続放棄の手続きだけでなく、他の相続人や金融機関の対応も弁護士に依頼するケースでは、費用がかさむ可能性があります。
費用について疑問があったら、細かく質問して安心してから依頼することが大切です。
相続放棄の手続きを安く抑える方法
専門家に依頼しなければ、相続放棄の費用を抑えることができます。
しかし、確実に相続放棄するため、費用もおさえつつ専門家に依頼したいと思ったら、どのような方法があるでしょうか。
経済的に専門家に依頼する費用の負担がきびしい方は、法テラスの利用がおすすめです。
法テラスは国が設立した機関です。
法テラスでは、法律関係の相談窓口の情報提供業務などを行っています。
収入が少ない方にも、広く法律サービスを利用してもらう制度も整えられています。
無料弁護士相談や弁護士費用の立て替えも、法テラスの業務の1つです。
法テラスの無料相談や弁護士費用立て替えについては、収入の要件があるので、利用を検討するときは、法テラスに確認してください。
まとめ
ここまでで、相続放棄の意味や手続き、費用について見てきました。
相続放棄の費用には、必ずかかる費用と、専門家に依頼する場合の費用があります。
専門家に依頼すると費用はかかりますが、手続きの手間が省けたり、関係者との交渉を行ってもらえたりするので安心です。
相続放棄は短い期間内で行わなければなりません。
気が変わっても撤回できないので、相続放棄は慎重に決める必要があります。
相続がひかえていたり、相続に直面していたりする方は、早急に弁護士など専門家に依頼することをおすすめします。
自分で相続放棄手続きをして失敗するよりも、確実な方法を選びましょう。