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最終更新日:2022/12/14

相続手続きガイド|手続き方法・流れ・費用を詳しく解説

弁護士 水流恭平

この記事の執筆者 弁護士 水流恭平

東京弁護士会所属。
民事信託、成年後見人、遺言の業務に従事。相続の相談の中にはどこに何を相談していいかわからないといった方も多く、ご相談者様に親身になって相談をお受けさせていただいております。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/tsuru/

相続の手続きは、なかなか素人には分かりにくい所があります。

しかし、相続はほとんどの人が、いずれ経験するものです。

当事者になった時に戸惑うことがないように、詳しい相続の流れをご説明します。

特に、相続放棄については、注意を要する点が多いので、費用を含めてより詳しくご説明いたします。

相続人の確定

人が亡くなった時点から、相続が始まります。

まずやるべきことは、「相続人」を確定することです。

正しくは「法定相続人」と言いますが、亡くなった人(以下「被相続人」と言います)の財産を引き継ぐ権利を持つ人については、民法で定められています。

以下、法定相続人になる人を簡単にご説明します。

なお、同じく民法で定めている財産の取り分(「法定相続分」と言います)も併せて記載します。

配偶者と子どもがいる場合

まず、被相続人に配偶者と子どもがいる場合は、どちらも法定相続人となります。

法定相続分は、配偶者、子ども共に遺産の2分の1です。

子どもが複数いる場合は、各子どもの相続分は均等です。

例えば、子どもが3人いる場合、それぞれの法定相続分は、遺産の6分の1ずつです。

ただし、被相続人が亡くなる前に、既に配偶者が亡くなっていた場合、全て子どもが相続することになります。

また、被相続人に認知した非嫡出子や養子がいた場合も、実の子どもと同じ相続分になります。

代襲相続

もし被相続人が亡くなる前に、子どもが亡くなっていて、その子どもに子ども(被相続人の孫)がいた場合には、その被相続人の孫に、子どもの分の相続権が移ります。

被相続人の子どもの相続権を引き継ぐという意味で、「代襲相続」と言い、相続権を引き継ぐ被相続人の孫を「代襲相続人」と言います。

子供がいない場合

被相続人に子ども、孫がいない場合、配偶者と直系尊属(被相続人の親)が法定相続人です。

法定相続分は、配偶者が遺産の3分の2、直系尊属が3分の1です。

直系尊属が2人いる場合には、各自の法定相続分は均等です。

例えば、被相続人の父母がともに健在の場合、遺産を6分の1ずつ相続します。

ただし、被相続人が亡くなる前に、既に配偶者が亡くなっていた場合、全て被相続人の直系尊属が遺産を相続します。

子ども、孫、直系尊属がいない場合

被相続人に子ども、孫、直系尊属がいない時には、配偶者と被相続人の兄弟姉妹が法定相続人です。

法定相続分は、配偶者が遺産の4分の3、兄弟姉妹が4分の1です。

もし兄弟姉妹が2人以上いれば、各自の法定相続分は均等です。

例えば、被相続人の兄弟姉妹が4人いる場合には、遺産を16分の1ずつ相続します。

もし被相続人が亡くなる前に、兄弟姉妹が亡くなっていて、その兄弟姉妹に子ども(被相続人の甥、姪)がいた場合には、その被相続人の甥、姪に代襲相続の権利があります。

ただし、被相続人が亡くなる前に、既に配偶者が亡くなっていた場合、全て被相続人の兄弟姉妹が遺産を相続します。

以上のように、法定相続人の範囲は意外と広いのです。

相続の流れ

次は、相続における流れを具体的に見ていきます。

相続手続きにおいて、最初にしなければならないことは法定相続人の確定です。

その確定方法から説明していきます。

法定相続人の確定

法定相続人を確定させるためには、被相続人が出生して亡くなるまでの連続した「戸籍謄本」を取り寄せる必要があります。

そして、被相続人の子どもや兄弟姉妹が亡くなっていれば、その人の子どもが代襲相続人になる可能性がありますから、さらに被相続人の子どもや兄弟姉妹の「戸籍謄本」も取り寄せる必要が出てきます。

全ての法定相続人が確定したら、「相続関係図」という資料を作ることになります。

これは、実際遺産を分割する際に、金融機関や法務局に提出することになります。

財産調査

相続人の確定と同時並行で、被相続人の財産を調査します。

相続財産には、資産と負債(借金)がありますが、資産を超える負債がある場合、相続放棄、限定承認の手続きを検討する必要があります。

相続放棄、限定承認の期限は、自分が相続人であることを知ってから3ヶ月以内という短い期間ですから、相続財産の確定は速やかに行う必要があります。

なお、相続放棄、限定承認は後で詳しくご説明します。

財産目録の作成

資産は、主に現金、預貯金、有価証券、不動産(土地、建物)で、負債は借金や住宅ローンなどの借入金、公共料金などの未払金です。

判明した資産と負債を「財産目録」という形にまとめて、法定相続人に提示することになります。

資産については、比較的確定することは難しくありませんが、負債、特に個人に借り入れを行っている場合には、借用書や契約書がないか、念を入れて調べる必要があります。

遺言書の確認

法定相続人の確定・確認、相続人の確定と併せて、被相続人が遺言書を書いていないか調べる必要があります。

遺言書があった場合

遺言書には、主に自筆証書遺言と公正証書遺言があります。

このうち、被相続人が公正証書遺言を書いている場合は、自宅に遺言書が残っていなくても、公証役場に控えが保存されていますから、比較的簡単に調べることができます。

問題は、被相続人が自筆証書遺言を書いている場合です。

自筆証書遺言はその名のとおり、自分で作成する遺言書ですから、誰にも相談することなく書いて、しまい込んでいる可能性があります。

被相続人の遺族は、思い当たる場所を探す必要があります。

もし2通以上の遺言書が出てきたら、最も新しいものが有効となります。

自筆証書遺言が見つかったら、そのまま開封することなく、家庭裁判所で検認の手続きを行います。

検認とは、家庭裁判所で、全法定相続人の立ち合いのもと遺言を開封し、内容を確かめることです。

もし自筆証書遺言を見つけた人が勝手に開封をしたら、その人の相続権がなくなる可能性がありますから、注意が必要です。

遺言書は、被相続人の最後の意思ですから、先程ご説明した「法定相続分」よりも、遺言書の内容の方が優先されることになります。

遺言書が見つからないまま相続人で遺産を分割した後、遺言書が見つかった場合には、遺産の分割をやり直す可能性もありますから、遺言書の有無を確認することはかなり重要です。

遺言書がなかった場合

一方、遺言書がない場合には、遺産をどのように分割するか、話し合わければなりません。

この際に、相続放棄をした法定相続人は話し合い自体に参加する必要がありませんが、相続を行う相続人は、話し合いの後「遺産分割協議書」を作成する必要が出てきます。

遺産分割協議書の作成

被相続人が遺言書を残していた場合は、遺言書の内容のままで分割してよいか、全員の法定相続人に確認を取る必要があります。

もし、相続人が全員、遺言書の内容で良いと言った場合は、遺産分割協議書を作成する必要はありません。

しかし、法定相続人が一人でも遺言書に異議がある場合、あるいは遺言書がない場合には、相続放棄した相続人を除く全員で、話し合いを行います。

話し合いがまとまれば、被相続人の財産と相続する人を具体的に記載した「遺産分割協議書」を作ります。

そして、最後に相続人全員の署名と印鑑(実印)を押します。

この署名と捺印は、相続放棄をした相続人も行います。

なお、署名・捺印した「遺産分割協議書」に、相続人全員の「印鑑証明書」を添付します。

遺産の分割

遺産分割協議書が完成したら、その内容に沿った分割を行います。

例えば、動産(本、掛け軸、壺など)は、それを引き継ぐ相続人に引き渡せば完了です。

しかし、預貯金は、遺産分割協議書、印鑑証明書を添えて、各金融機関で手続きを行う必要があります。

また、土地や建物などの不動産は、法務局に行って、「所有権移転登記」の手続きを行う必要があります。

この「所有権移転登記」は、専門的な知識が必要ですから、できれば司法書士に依頼した方が良いでしょう。

相続税の申告

相続税の申告は、被相続人が亡くなってから10ヶ月以内です。

ただし、全員が相続税を納める対象となるわけではありません。

相続税には、「基礎控除」があり、この金額に達しなければ、相続税を納める必要はないのです。

計算式は、次のとおりです。

基礎控除額…3,000万円+(600万円×法定相続人の数)

なお、不動産の所有権移転登記と同じく、相続税についても専門知識が必要ですから、できれば税理士に相談した方が良いでしょう。

相続放棄

相続では、資産はもちろん負債も相続人が負担することになります。

もし負債が資産を上回るようであれば、そもそも相続放棄を考える必要があるでしょう。

相続放棄とは、法定相続人が被相続人の遺産を相続できる権利を一切放棄することです。

相続放棄をすると、資産、負債の全てを相続できなくなります。

一方、限定承認というものがありますが、これは、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を受け継ぐものです。

つまり、借金だけが残る場合には、不足分を支払う必要はなく、逆にプラスの財産で借金を支払って残りがあった場合には、引き継ぐことができるとものです。

しかし、限定承認に至ってはかなり複雑な手続きがあるうえ、負債の清算義務をすべて免れるわけではないので、今回は利用される頻度の多い相続放棄のみ詳しく説明していきます。

相続放棄のメリットとデメリット

相続放棄のメリットは、借金を相続しなくてすむことです。

被相続人の財産は、プラスの資産だけではなく、ローンや借金などのマイナスの資産もあります。

相続放棄をしないと、プラスの財産はもちろん、マイナスの財産も引き継ぐことになります。

「プラスの財産だけを引き継ぎたい」というわがままは通りません。

また、面倒な相続の手続きをしなくても良いということも、相続放棄のメリットです。

仮に、被相続人に負債がなくて、プラスの財産だけだったとしても、相続したいという意思がある法定相続人には、相続分の協議(話し合い)、遺産分割協議書の作成・署名・捺印、実際の遺産の分割手続きなど、大きな負担がのしかかってきます。

相続人間で、遺産の分け方をめぐってトラブルが発生することは珍しくなく、そのことが原因で、兄弟が絶縁したという話も少なくなりません。

しかし、相続放棄をしてしまえば、そのような面倒な事態に巻き込まれることはありません。

一方で、相続放棄のデメリットは、一切の財産を受け取れないことです。

実は、負債が多く、相続放棄をした方が得だと思って手続きをした後で、プラスの財産が見つかり、その方が遥かに大きいことがわかった、という話は珍しくありません。

一旦相続放棄をしてしまうと取消ができませんので、遺産の内訳をじっくり見て、それから相続放棄をするか否かを決める必要があります。

また、相続放棄をしてしまうと、被相続人の一部の遺産、例えば掛け軸を1つだけでももらいたい、といったこともできません。

つまり、被相続人の全ての遺産を受け継ぐか、全く受け取らないかの二者択一なのです。

相続放棄の判断

相続放棄は、法定相続人個々に与えられた権利です。

したがって、自分で相続するのか、相続放棄をするのかを判断することになります。

そこで、大事になってくるのが、被相続人の財産調査です。

できるだけ詳しく、しかも速やかに、プラスの財産、マイナスの財産を調べる必要があります。

そのうえで、プラスの財産が多ければ、相続放棄することを控え、マイナスの財産が明らかに多いことがわかれば、相続放棄の検討をする必要があります。

ただ、法定相続人の誰かが財産の調査を行っても、漏れがあったり、不動産などの価格が正確でなかったりする可能性も出てきます。

そこで、専門家、例えば弁護士、税理士などに財産の調査を依頼することで、正確な財産価格の調査をしてもらうことができます。

相続放棄の期限

相続放棄の手続きができる期限は、自分が相続人であることがわかってから3ヶ月以内です。

被相続人が亡くなって3ヶ月以内でないことに注意してください。

なぜこのような基準になっているかというと、実際に被相続人の戸籍謄本を取り寄せて調査をしないと、誰が法定相続人なのかわからない場合があるからです。

この3ヶ月で相続放棄をしないと、「単純承認」といって、全ての被相続人の遺産を引き継がなければなりません。

しかし、財産の調査に時間がかかり、3ヶ月で相続放棄をするか否かの判断ができない場合には、家庭裁判所に申請を行い、延長の手続きを行うことが可能です。

ただこの場合も、全てのケースで延長を認めてくれるわけではありませんから、相続を専門とする弁護士に前もって相談しましょう。

また、すでに3ヶ月が過ぎていた場合でも、過去の事例から一部相続放棄が認められたこともあります。

ただ、そのハードルはかなり高いですから、弁護士に相談することをお勧めします。

方法・流れ・費用

相続放棄をすることが決まったら、被相続人が最後に住んでいた市区町村を管轄する家庭裁判所に、次の書類等を提出します。

  • ・相続放棄申述書(家庭裁判所に備え置き)
  • ・被相続人の住民票または戸籍附票
  • ・相続放棄をする人の戸籍謄本
  • ・手数料(収入印紙:800円)
  • ・郵送用切手(家庭裁判所に確認)

提出後、1週間ほどで、家庭裁判所から「相続放棄の申述についての照会書」が郵送されてきます。

この「照会書」には、幾つかの質問事項が記載されています。

その質問事項の回答を記載し、家庭裁判所に返送します。

回答の内容に問題がなければ、「相続放棄申述受理証明書」が郵送されてきます。

この交付によって、相続放棄が完了します。

まとめ

相続には、相続放棄(3ヶ月以内)、相続税の納付(10ヶ月以内)と、期限が決まっている事柄が多いので、正確で、しかも無駄のない手続きが求められます。

他の相続人と十分連絡を取り合い、どの手続きを専門家に依頼するかなど、トラブルを極力発生させない取り組みが大切です。

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