この記事でわかること
- 相続手続きを依頼する専門家の選び方
- 相続開始から相続税納付までの流れ
- 相続手続きにかかる費用
相続は、被相続人が亡くなった日から開始されます。
身内を亡くした悲しみの中、仕事や日常生活を送りながら相続手続きを行うことは、負担が大きいものです。
そもそも相続手続きといっても、何から始めればよいかわからないという人も少なくないでしょう。
相続手続きは、専門家に依頼することができます。
今回は相続手続きの流れをはじめ、専門家に依頼する場合の選び方・費用について解説します。
目次
相続手続きの流れ
相続手続きは、そう何回も経験するものではありません。
相続が発生したときに慌てないよう、あらかじめ流れを把握しておくとよいでしょう。
ここでは被相続人が亡くなった後、相続手続きがどのように進んでいくのか解説します。
遺言書を探す
まずは、遺言書が残されていないか探しましょう。
- 被相続人がよく読んでいた本の間
- 書斎の引出しの中
- 普段使っていない戸棚の中
このようにわかりにくい場所に隠してあることもあるため、遺品の整理をしながら探すのがよいでしょう。
自筆で書かれた自筆証書遺言が見つかった場合は、その場で開封してはいけません。
検認を受ける必要があるため、家庭裁判所に検認の申出を行います。
なお、公正証書遺言で残している場合や、法務局で自筆遺言を保管している場合は、検認の必要はありません。
相続人の調査、確定
遺言書の有無に関わらず、相続人を確定させる必要があります。
法定相続人全員に相続の権利があり、相続手続きには全員の同意が必要なためです。
誰か一人でも欠けた状態で行った手続きは、無効となる可能性があります。
よく「相続人が誰かわかっているので、調べるほどでもない」と考える人がいますが、存在を知らない相続人がいるケースは少なくありません。
以前、結婚していた時の子どもや、認知している婚外子がいる場合など、様々なパターンが考えられます。
相続人は、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を調べることで調査できます。
相続財産の調査、確定
相続人調査と同時に、相続財産の調査を行います。
遺言書がある場合でも、遺言書を作成した時点から財産の内容が変わっている可能性があるため、調査をする必要があります。
相続財産は、以下のような資料から調査します。
- 銀行通帳や残高証明
- 有価証券の資料
- 固定資産税課税明細書
- 貸金庫など
- 信用情報機関への開示請求
相続財産の調査は、非常に地道な作業です。
資料の確認や、遺品整理などを行いながら財産を洗い出していきます。
同時に、負債がないかもよく確認しましょう。
マイナスの遺産が多い場合、相続放棄や限定承認を行うことで、負債を相続せずにすみます。
ただし、相続放棄や限定承認の判断は、相続が開始して3カ月以内に申し出なければいけません。
3カ月を超えると、相続せざるを得なくなるため、相続手続きは速やかに行う必要があります。
遺産分割協議の実施、協議書の作成
相続人と相続財産が確定できたら、遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成します。
もし有効な遺言書があり、相続財産の分割方法が指定されている場合は、遺産分割協議を行う必要はありません。
遺産分割協議は相続人全員で話し合い、同意する必要があります。
一部の相続人が勝手に作成したものや、相続人以外が協議に参加していた場合、遺産分割が無効になる可能性もあります。
名義変更
遺産分割協議、あるいは遺言書によって相続財産の分割方法が決まれば、それぞれ財産の名義変更を行います。
手続きには、遺産分割協議書や遺言書が必要です。
相続税の申告
遺産分割の手続きが終われば、最終的に相続税の申告を行います。
相続税は、相続開始を知った日の翌日から10カ月以内に納めなくてはなりません。
基本的に現金一括納付です。
ただし、条件次第で物納や延納が認められています。
現金一括納付が難しい場合は、税務署で相談しましょう。
相続手続きを誰に頼む?
相続手続きは相続税納付の期限が決まっているため、限られた時間内でスムーズに行う必要があります。
しかし遺族だけで手続きを行うことは、難しい場合もあるでしょう。
そこで相続手続きのほとんどを、専門家に依頼することができます。
それぞれの専門家の受任できる範囲は、以下の通りです。
依頼内容 | 弁護士 | 税理士 | 司法書士 | 行政書士 |
---|---|---|---|---|
相続人調査 | ○ | ○ | ○ | ○ |
遺産分割協議 | ○ | △ | ○ | ○ |
相続放棄 | ○ | × | ○ | × |
名義変更など手続き | ○ | △ | ○ | ○ |
相続登記 | × | × | ○ | × |
相続税申告 | × | ○ | × | × |
相続の紛争解決 | ○ | × | × | × |
相続手続きは、士業に依頼するのが一般的です。
どの士業にどのような手続きが依頼できるか、見ていきましょう。
弁護士
弁護士は紛争解決など、争いごとを解決するプロです。
相続手続きにおいて紛争の可能性がある場合、弁護士以外は対応できません。
そのため相続でもめそうな場合は、最初から弁護士に依頼するとよいでしょう。
税理士
税理士は名前の通り、税務に関する専門家です。
相続税の申告は非常に複雑であるため、個人で行うと申告漏れを指摘されるケースもあります。
税の申告は、税理士に依頼することをおすすめします。
ただし、税理士は税務のみを専門としていることが多いため、遺産分割協議や金融機関の名義変更といった実務は行っていない場合があります。
司法書士
司法書士は登記の専門家です。
令和6年から相続登記が義務化されました。
不動産を相続する場合、名義変更の登記を必ず行いましょう。
登記手続きは自分で行うこともできますが、登記漏れが散見されるため、司法書士に依頼することをおすすめします。
また、司法書士は家庭裁判所の手続きもできるため、相続放棄をしたい場合も依頼することができます。
行政書士
行政書士は、手続きに必要な書類作成の専門家です。
遺産分割協議書の作成や、名義変更の窓口対応など、細々とした実務を任せられます。
司法書士、税理士など各士業と協業している場合が多いため、費用を抑えながら手続き全般を任せられます。
相続手続き代行サービスの選び方
相続手続きの代行サービスは、士業によって内容は様々です。
ここでは、相続手続き代行サービスを利用する際の判断基準やポイントを解説します。
争いがあるかどうか
相続は財産を巡って、トラブルが起きやすい傾向にあります。
争いがある場合、家族間で解決することは非常に難しいため、専門家に依頼するとよいでしょう。
その場合、紛争を解決できるのは弁護士のみです。
揉めそう、すでに揉めている、あまり家族の仲がよくないなど、不安な要素があれば弁護士を選択するとよいでしょう。
専門家同士の連携や協業ができているか
専門家はそれぞれ受任できる範囲が限られるため、一人で相続手続きのすべてを網羅していることはまれです。
そのため専門家同士で連携し、協業しながら対応することが少なくありません。
その場合、数種類の専門家が所属する事務所一カ所で依頼すれば、手続きすべてを任せられます。
横とのつながりや連携ができているか、確認してから依頼しましょう。
費用体系が明確か
相続手続きは難易度やボリュームによって、業務の範囲が大きく変わります。
最初に提示する見積もりの内容が明瞭か、また費用が妥当かしっかり見ておきましょう。
調査や手続きの中で新たな事実が判明した場合など、費用が変動する可能性もあります。
その場合も、事前にしっかり説明があるかどうかが、サービスを選ぶ判断基準となるでしょう。
費用は、いくつかの事務所を比較してみるのもよいでしょう。
金融機関は費用が高額
専門家以外で相続の相談先といえば、銀行や信託銀行の金融機関があります。
普段利用している銀行から、相続手続きに関する案内を受け取ったことがある人もいるのではないでしょうか。
銀行は、銀行員が代理で手続きを行うわけではありません。
銀行が窓口となり、連携している専門家にそれぞれ依頼し、相続手続きを行います。
そのため、専門家の手数料に加えて銀行手数料もかかるため、手続費用が高額になるケースが少なくありません。
遺産相続手続きの代行費用の相場
遺産相続手続きの費用は、相続の内容により大きく異なります。
一般的に相続人や財産の調査、金融機関での名義変更手続きなどの実務は、1件につき5万円程度が相場でしょう。
ここでは、基本的な実務の費用以外に、専門家ごとの費用の目安を解説します。
弁護士
相続人同士でもめている場合、協議ができなければ、遺産分割調停を行うことになります。
調停を弁護士に依頼した場合、弁護士費用として主に着手金、成功報酬、日当、実費がかかります。
着手金の相場は約30万~50万円、成功報酬は約10%前後のケースが多いです。
仮に調停の結果、相続財産1000万円を獲得できた場合、総額で150万円程度の弁護士費用がかかることになります。
ここに調査や手続きの実務費用が加算されるため、相続手続き全体で200万円ほどかかるケースもあるでしょう。
税理士
相続税の申告費用は、遺産総額の1%前後が相場です。
遺産が5000万円であれば、50万円となります。
もちろん相続税控除により相続税がかからないのであれば、税務申告の必要はありません。
司法書士
不動産の相続登記を依頼する場合、登録免許税、専門家手数料、実費が必要です。
登録免許税は法律で定められたもので、相続による登記は固定資産税評価額の0.4%を納付する必要があります。
ただし、相続人以外が遺贈により不動産を取得する場合は2%になります。
司法書士の手数料は、10万円前後が相場です。
このほか実費として、戸籍謄本などの取得費用がかかります。
行政書士
行政書士は書類作成と名義変更などの実務を行います。
遺産分割協議書、財産目録の作成、各種名義変更など各手続きは5万円前後が相場です。
このほかに調査のための戸籍謄本取得などの実費がかかります。
行政書士は、士業の中でも費用を一番安く抑えられる可能性があります。
まとめ
相続手続きは10カ月以内に完了させなければいけません。
滞りなく手続きを進めるためには、専門家に依頼することをおすすめします。
その場合、実費に加えて手数料がかかります。
手数料は事務所ごとに異なるため、比較検討するのがよいでしょう。
また、手続きを依頼する場合、専門家ごとに依頼できる業務が異なるため、相続財産や相続人の状況を考慮し、誰に頼むべきかを検討しましょう。