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最終更新日:2022/12/14

遺産相続の4つの時効パターンと請求権期限や時効の解消方法について

弁護士 水流恭平

この記事の執筆者 弁護士 水流恭平

東京弁護士会所属。
民事信託、成年後見人、遺言の業務に従事。相続の相談の中にはどこに何を相談していいかわからないといった方も多く、ご相談者様に親身になって相談をお受けさせていただいております。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/tsuru/

この記事でわかること

  • 遺産相続には期限があることについて理解できる
  • 遺産相続の時効について把握することが自分でできる
  • 遺留分減殺請求をいつまでにしたらよいのかがわかる
  • 相続にまつわる様々な期限について理解できる

相続には、いろいろな期限がついて回ります。

例えば、気がつかないうちに遺産分割協議がされていて、勝手に遺産分割をされてしまっていたとしましょう。

これを取り戻すにも、いつまでも取り戻せるというわけではなく、期限が決まっています。

いつまでも遺産を分割できることにしてしまうと、取引の安全にとっては良くないということで、遺産相続にも様々な時効が定められています。

今回は、遺産相続にはどのような時効があるのか、整理して考えてみましょう。

相続関係の時効について

下記では、相続関係の時効についてまとめています。

名称 時効 内容
相続権利の放棄 相続の開始を知ったときから3ヶ月以内 相続の権利を放棄する(家庭裁判所への届出が必要)
遺産分割請求権 時効なし(ただし早めの方が良い) 相続遺産について自分の取り分を請求できる権利
遺留分減殺請求権 相続開始・贈与があったことを知った時から1年間
相続から10年間
遺留分(必ず受け取れる財産)を侵害された人が、財産の要求できる権利
相続請求回復権 相続権を侵害された事実を知ったときから5年間
相続の開始から20年間
相続人以外の人が、遺産を相続したり処分した場合に、財産の返還を請求できる権利

ものによって異なりますが、一番短いものだと3ヶ月しか時効がありません。

時効を1日でも過ぎてしまうと、手続きができなくなったり、例外を認めてもらうために裁判所へ書面を出す必要があります。

すべての手続きで時効を過ぎてしまわないように、早めの手続きを心がけましょう。

もし時効を過ぎてしまう心配があるなら、弁護士への相談がおすすめです。

相続に慣れている弁護士なら、期間内に手続きを終われるからです。

遺産相続の時効が関係するとき

遺産相続の時効が関係するときは、4パターンあります。

一番短いものでは3ヶ月、長くても1年です。

どのような時効があるのか、それぞれ以下にまとめます。

まずは、相続権利を放棄する時効です。

借金が多いなどで、相続をしたくないときは、相続があったことを知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所で相続放棄の申述をする必要があります。

家庭裁判所は平日しか開いていないですし、相続があったことを知るというのは訃報を聞いてからでしょうから、訃報を聞いてから3ヶ月というと、お葬式などでかなり忙しい期間に当たります。

気がついたら3ヶ月を過ぎてしまって、相続放棄ができなくなっているという可能性もあります

次に、遺産分割請求権です。

遺産を自分にも分けてくれと請求するための権利のことを、「遺産分割請求権」といいます。

遺産分割請求権は、特に時効はありません。

ただ、いつまでも放置しておいてもよいことはありません。

なぜそうなるのかを、次に続く章で説明します。

三つ目が、遺留分減殺請求権の時効についてです。

現在では民法改正により、遺留分侵害請求と名前を改めていますが、一般には遺留分減殺請求と呼ばれていることもあります 。

遺留分減殺請求は、相続の開始を知った日から1年でできなくなってしまいます。

相続の開始を知らなかった場合は10年です。

最後に、相続回復請求権についてです。

相続回復請求権は、相続人らしく見える人が、本当は権利がないのに相続してしまった場合に、それを回復するための権利です。

相続人が自分の権利を侵害されていることを知ってから5年が時効になります。

知らなかった場合は、相続開始から20年で消滅します。

時効(1)相続権利放棄の時効

まず、「相続放棄」とはどのような制度でしょうか。

一般には「相続の権利を放棄する」といわれたりしますが、相続そのものを放棄しようとするならば、家庭裁判所に申述する必要があります。

単に遺産分割協議で、自分は今回財産を貰わなくていいからと辞退することとは異なりますので、ご注意ください。

では、以下の条文を参照してみます。

第九百十五条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。

ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

2 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。

引用:電子政府の総合窓口e-Gov 民法 第915条

上記の条文には、まず、相続放棄するためには、相続の開始を知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述しなければならないことが書いてあります。

これは相続放棄だけではなく、「限定承認」の場合も同様です。

限定承認とは、遺産の中に借金がある場合に、借金を返して、それでも残ったら遺産を相続するというものです。

ただし、限定承認は単独の相続人だけですることは不可能であり、相続人全員で手続きをしなければなりません。

ちなみに、「単純承認」というのは、全部の遺産を負債も含めて相続するということです。

相続放棄をすると、どうなるのでしょうか。

第九百三十八条 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

(相続の放棄の効力)
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

引用:電子政府の総合窓口e-Gov 民法 第938・939条

上記に記されている通り、相続放棄をすると、初めから相続人ではなかったことになります。

したがって、代襲相続は起こりません。

時効(2)遺産分割請求権の時効

相続が起こったときに、「自分にも遺産をください」と請求するのが遺産分割請求権です。

これは、特に時効はありません。

根拠は、民法907条です。

ここには、いつでも、その協議で遺産の全部または一部の分割ができるとあります。

ただし、いつでもとあるものの何か特別な理由がある場合は家庭裁判所が分割を禁じることができます。

また、遺産分割協議は、相続開始時に遡及して効力が発生します。

(遺産の分割の協議又は審判等)
第九百七条 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。

2 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。

ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。

3 前項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。

(中略)

(遺産の分割の効力)
第九百九条 遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。

ただし、第三者の権利を害することはできない。

引用:電子政府の総合窓口e-Gov 民法 第907・909条

「いつでもできるなら急がなくてよい」と思ってしまいがちですが、遺産分割協議をいつまでもしないまま放置しておくことはおすすめできません。

むしろ、そのままにしておくことにあまりよいことはないので、適切な時期に早めに対処した方がよいでしょう。

では、なぜ放置しておいてはいけないなのでしょうか。

理由は二つあります。

まず、相続税の申告には期限があるためです。

死亡日から10か月後(相続税法第27条)が相続税申告の期限になります。

ちなみに、相続税の時効は国税通則法第70条により、5年間です。

わざと申告せずに隠していた場合は7年間になります。

申告の必要のないくらいの少額の相続財産なら話は別かもしれませんが、自宅があるなど金額や規模の大きい相続の場合は、様々な税制上の優遇措置を受けたいものと思われます。

それらを受けるためには、期限内に相続税を申告することが必要です。

遺産分割協議がまとまらないとか、後回しにしてしまったので相続税申告の期限を過ぎてしまい、控除が受けられなくなってしまう、ということのないように注意しましょう。

次に、遺産分割協議をしないまま時間が過ぎていくと、いずれは世代が変わってしまうためです。

そして権利関係がどんどんわかりづらくなっていきます。

世代が変わってしまうということは、相続人の相続人ができ、増えていくということです。

昨今、空き家問題が社会問題化していますが、空き家問題は相続人が多過ぎて連絡が取れず、どうしようもないという物件があるようです。

このようになってしまったのは、結局のところ遺産分割協議をしてこなかったためであり、きちんと遺産分割協議をしていれば、相続人が多過ぎてどうしようもない、ということにはならなかったのではないでしょうか。

時効(3)遺留分減殺請求権の時効

「遺留分減殺請求権」にも時効があります。

遺留分減殺請求権とは、遺産の中でも最低限もらえる部分について、請求する権利のことです。

2019年の民法改正により、遺留分減殺請求は、遺留分侵害請求に名前を変えました

民法には、遺留分侵害請求として規定されています。

(遺留分侵害額の請求)
第千四十六条 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。

2 遺留分侵害額は、第千四十二条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。

一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第九百三条第一項に規定する贈与の価額
二 第九百条から第九百二条まで、第九百三条及び第九百四条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額
三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第八百九十九条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第三項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額

(中略)

(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
第千四十八条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。

相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

引用:電子政府の総合窓口e-Gov 民法 第1046・1048条

遺留分侵害請求は、いつまでもできるというわけではありません。

相続の開始を知ってから1年間、もしくは遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知ってから1年間行使しないときは消えてしまいます。

相続があったことを知らなくても、相続開始の時から10年を経過すると、遺留分侵害請求権は消滅してしまいます。

時効(4)相続請求回復権の時効

相続請求回復権にも時効があります。

(相続回復請求権)
第八百八十四条 相続回復の請求権は、相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。

相続開始の時から二十年を経過したときも、同様とする。

引用:電子政府の総合窓口e-Gov 民法 第884条

相続人ではないのに相続人らしく見える人がいます。

一例として、排除や欠格があって、血縁的には確かに相続人に当たりそうではあるが、その権利がない人のことです。

まれに、このような人が相続をしてしまうことがあります。

このような、本当は無権利者なのに相続をしてしまった人から、相続財産を取り戻すためには、相続権を侵害された事実を知ったときから5年以内に相続回復を請求しなければなりません。

と言っても、侵害された事実に気が付かないことはあると思われます。

その場合は、相続開始から20年経過すると、相続回復を請求できなくなります

遺産相続の時効を回避する方法について

このように、遺産相続の時効はそれぞれバラバラの時期に存在していますので、把握するのも一苦労です。

どうしたら時効を回避できるのでしょうか。

弁護士の力を借りよう

時効は、本来1日でもその期限を過ぎてしまったら権利が消滅してしまいます。

ただ、相当な理由があって、手続きをできなかったとか知らなかったということはあり得ます。

そこで、裁判をするなどして、時効で権利が消滅することを回避することは可能です。

ただ、素人がするのはとても難しいので弁護士の力を借りることをおすすめします。

モヤモヤしたらすぐ相談

悩んでいるうちにも時効は刻一刻と近づいてきます。

どうしようかと悩んでいる場合は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

例えば、相続放棄しようかどうしようか悩んでいるとします。

相続放棄の期限は相続が始まってから3ヶ月しかありません。

その間に、借金と資産などを全て把握できますか。

一人の力だと難しいのではないでしょうか。

早めの方が選択肢も多いです。

悩みそうになったら、すぐに弁護士に相談してください。

まずは無料相談を利用してみる

多くの弁護士事務所では、初回の相談を無料で受け付けています。

「弁護士に依頼すると費用がかかってしまう」と気にしている人は、まずは無料の相談から利用してみましょう。

無料相談の範囲内であれば費用はかかりません。

相談をしてみて、その弁護士に依頼したいと思ったら、実際に依頼すればいいだけです。

電話などで気軽に相談できるため、ひとりで悩まずに弁護士への無料相談がおすすめです。

覚えておきたい!その他の遺産相続に関する期限

このほか、遺産相続に関する期限で覚えておいた方がよいものを以下でご紹介します。

  • 不動産の名義変更・・・特に期限はありませんが、不法占有している人がいる場合は時効取得されないように早く登記した方がよいです。
  • 贈与税の時効・・・贈与税の申告期限から6年間です。
  • 所得税の準確定申告・・・相続開始を知った日の翌日から起算して4ヶ月です。
  • 払い過ぎた相続税を取り戻す(更生の申告)・・・相続税の申告期限から5年以内にしてください。

また、忘れがちなのが被相続人が有していた債権です。

  • 債権の消滅時効・・・債権者が権利を行使することができることを知ったときから5年間、権利を行使することができるときから10年間です。

ちなみに、銀行預金も債権の一種です。

忘れずに名義変更を行うか、解約をしてください。

時効を過ぎた場合の対処について

相続についての時効を知った段階で、すでに時効が過ぎているケースもあるかもしれません。

例えば相続破棄は、相続を知った日か3ヶ月と期間が短く設定されています。

もし相続放棄の期限を過ぎていた場合は、家庭裁判所へ説明して、例外的に期間を延長してもらう方法もあります。

ただし事情を書面で説明するため、法的な知識がない状態では裁判所を納得させるのが難しいかもしれません。

自分でやるよりも弁護士に任せて、手続きを依頼した方が、裁判所の許可をもらえる可能性が高くなります。

また他の時効については、相続破棄のように裁判所への申立ができない場合もあります。

時効を過ぎているものがあれば、すぐに弁護士へ相談して、早急に対応した方がいいでしょう。

まとめ

今回は、相続に関連する遺産相続の4つの時効パターンと請求権期限や時効の解消方法についてご紹介しました。

4つの時効パターンをもう一度表にまとめます。

相続権利放棄の時効 相続の開始を知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所に申述
遺産分割請求権の時効 特に期限はない
ただし放置しておいてもよいことはないのでお早めの手続きを推奨
遺留分減殺請求権の時効 相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知ったときから1年間、相続の開始から10年間
相続請求回復権の時効 相続権を侵害された事実を知ったときから5年間、相続の開始から20年間

何かと忙しい相続ですが、様々な時効は次々とやってきます。

よくわからないうちに過ぎてしまって、権利を行使できなかった、ではなく、必要であれば、きちんと期限内に権利行使をしましょう。

もし、期限を過ぎそうだと思ったら、一刻も早く弁護士にご相談ください。

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