この記事でわかること
- 遺産相続とは何かが理解できる
- 遺産相続の手続きの流れを知ることができる
- 相続税の計算が自分でできるようになる
- 遺産相続において注意すべきポイントがわかる
身内の方が亡くなったときは、遺産相続をしなければなりません。
しかし、多くの方は遺産相続になれておらず、何から手をつければよいのか、いつまでに何をしなければならないのかが分からないというのが実情ではないでしょうか。
遺産相続にはさまざまな法律上のルールがあり、一定の期限までに行わなければならない手続きもあります。
また、ある程度の遺産がある場合は相続税を申告し、納付しなければなりません。
遺産相続に関する知識がなければ、いつまでも遺産を分けることができないばかりか、何らかのペナルティやデメリットを受けてしまうおそれもあります。
そこで今回は、遺産相続とは何かをご説明した上で、必要な手続きの流れや期限、注意点や相続税についても解説していきます。
遺産相続とは
「遺産相続」とは、亡くなった方(被相続人)が所有していた財産を相続人が引き継ぐことをいいます。
具体的に遺産相続とは何かを考える際には、「誰が」「どの遺産を」「引き継ぐのか」というように分けて考えることが重要です。
つまり、遺産相続の重要なポイントとして次の3つを挙げることができます。
- ・誰が相続人となるのか
- ・相続で引き継がれるのはどのような財産か
- ・遺産の引き継ぎ方にはどのような方法があるのか
ここでは、上記の3つのポイントについてご説明します。
誰が相続人となるのか
誰が相続人となるのかについては、民法で定められています。
まず、被相続人に配偶者がいる場合、配偶者は必ず相続人となります。
その他の親族については優先順位が決められており、次の順序に従って相続人となります。
- 第1順位:子ども
- 第2順位:直系尊属(父母、祖父母など)
- 第3順位:兄弟姉妹
以上の相続人は民法に定められていることから「法定相続人」と呼びます。
法定相続人以外の人に対しても、被相続人の遺言によって財産を遺贈することができます。
遺贈を受けた人のことは「受遺者」と呼びます。
相続で引き継がれるのはどのような財産か
相続で引き継がれるのは、被相続人が所有していた資産や権利義務のうち、財産的価値のあるすべてのものです。
具体的には、現金や預貯金の他、不動産や自動車などの動産、株式などの有価証券などが主なものとして挙げられます。
注意が必要なのは、これらのようなプラスの財産だけでなく、マイナスの財産も引き継がれるということです。
被相続人に借金があった場合は、その借金も相続人に引き継がれます。
一方、相続で引き継がれない財産もあります。
例えば、仏壇や仏具、神具、墓石や墓地などの祭祀財産は相続の対象となりません。
また、被相続人の一身専属的な権利関係も相続によって引き継がれることはありません。
例えば、被相続人が取得した資格が相続人に引き継がれることはありません。
被相続人が負担していた子どもの養育費も、そのこと親子関係のない相続人には引き継がれません。
遺産の引き継ぎ方にはどのような方法があるのか
遺産相続では、基本的には被相続人が所有していた資産や権利義務のうち、財産的価値のあるものはプラス・マイナスを問わずすべて相続人に引き継がれます。
しかし、遺産の内容によっては相続人が引き継ぎたくないと考えることもあります。
そこで、遺産の引き継ぎ方には次の3種類の方法が定められています。
すべてを引き継ぐ単純承認
「単純承認」とは、被相続人の遺産をすべて引き継ぐことを相続人が認めることをいいます。
とはいえ、単純承認をするために相続人がことさらに「認める」「引き継ぐ」といった意思表示をする必要はありません。
相続人が何もしなければ、単純承認したものとみなされます。
注意が必要なのは、遺産の一部でも処分したり使用したりすれば単純承認したものとみなされることです。
いったん単純承認したものとみなされると、その後に被相続人の借金が判明したとしても、次にご説明する相続放棄はできなくなります。
何も引き継がない相続放棄
相続放棄とは、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も含めた遺産に対する一切の相続権を相続人が放棄することをいいます。
被相続人が負っていた借金から免れたい場合や、相続争いから解放されたい場合には相続放棄をすることが有効です。
相続放棄をするためには、相続開始を知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所で相続放棄の申述をする必要があります。
プラスの財産の限度でマイナスの財産を引き継ぐ限定承認
「限定承認」とは、被相続人が所有していたプラスの財産の範囲内でのみマイナスの財産も引き継ぐことをいいます。
被相続人に借金があると思われるものの、具体的にどのくらいの借金があるのかが判明しない場合には限定承認をするのが有効です。
ただし、限定承認は相続人の全員で手続きを行う必要があり、1人でも反対する相続人がいる場合は限定承認をすることはできません。
このように使い勝手が悪いため、実際にはあまり限定承認は行われていません。
遺産相続の手続きの流れ
それでは、遺産相続は具体的にどのような流れで進められるのかをみていきましょう。
遺産相続の開始
被相続人が亡くなると、そのときから相続が開始します。
相続放棄や相続税の申告などの期限も、被相続人が亡くなった日を基準としてカウントされ始めます。
遺産相続の手続きには、意外に手間や時間を要するものです。
そのため、可能な限り早い時期から遺産相続の手続きを始めるべきといえます。
かつては、具体的な遺産相続の手続きは四十九日の法要が終了してから始めるべきという考え方もありました。
長男がすべての遺産を取得するような場合はこのような進行でも問題はないかもしれません。
しかし、公平に遺産相続をすることが多くなった現在では、四十九日の法要が終わるまで何もしないのでは遅いというべきでしょう。
遺言書がないかを確認する
遺言書がある場合は、遺言書に記載された内容を最優先にして遺産相続を進める必要があります。
そのため、被相続人が亡くなったら、まずは遺言書がないかを確認することが重要です。
自宅内をくまなく探しても見つからない場合は、銀行の貸金庫や公証役場に保管されていないかも確認しましょう。
弁護士や司法書士の事務所で保管されているケースもあるので、その手がかりとなる書類を探さなければならないこともあります。
2020年7月10日からは法務局で遺言書を保管する制度も始まるので、それ以降は法務局でも確認することが必要です。
相続人を調査し、確定する
誰が相続人となるかは自明のことと考えている方も多いですが、遺産相続では戸籍を調査して相続人を確定することが必要です。
調査方法としては、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本を取り寄せ、その記載内容を確認します。
このようにして調査をすると、被相続人の前妻との間の子どもや認知した子ども、養子縁組した子どもなどが見つかるケースも珍しくありません。
これらの相続人が見つかったときは、連絡をとって遺産相続に参加してもらう必要があります。
連絡をとらずに遺産相続を進めてしまうと、その手続きは無効となり、最初からやり直さなければならなくなるのでご注意ください。
相続財産を調査する
相続人を調査するのと併せて、相続財産を調査することも必要です。
相続財産の調査をおろそかにしていると、遺産相続の手続きが終わった後に新たな遺産を発見することもよくあります。
このような場合、その遺産を誰が取得するのかをめぐって相続人間でトラブルが発生しがちです。
新たに見つかったのがプラスの財産であればまだよいですが、借金などのマイナスの財産が後日に見つかることもあります。
しかし、遺産相続の手続きが完了していれば、相続人の全員が相続を単純承認したことになっています。
したがって、この場合は被相続人の借金の返済義務から免れることはできません。
相続放棄するかどうかを判断する
相続財産の内容や量が明らかとなった時点で、相続放棄をするかどうかを判断しましょう。
プラスの財産よりもマイナスの財産が多い場合は、相続放棄をすることになるでしょう。
相続放棄をするためには、相続の開始を知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所で相続放棄の申述をしなければなりません。
期間の制約が厳しいため、相続財産の調査は早めに開始して、効率よく行っておく必要があります。
遺産分割協議を行う
相続放棄をしない場合は、誰がどの遺産を相続するのかを相続人全員で話し合って決めます。
この話し合いのことを「遺産分割協議」といいます。
遺産分割協議には、相続人の全員が参加する必要があります。
1人でも欠いて行われた場合は、遺産分割協議が無効となります。
ただし、遺産分割協議は必ずしも相続人が一堂に会して行う必要はありません。
日程が合う相続人から順次会って話し合ってもかまいませんし、電話や手紙、メールなどで話し合う形でもかまいません。
それでも、最終的には一定の内容で相続人の全員が合意に至ることが必要です。
遺産分割協議がまとまったら、遺産分割協議書を作成しておきましょう。
遺産分割協議書にも、相続人全員が署名・押印することが必要です。
話し合いがまとまらなければ調停・審判を申し立てる
相続人同士の話し合いがまとまらないときは、家庭裁判所へ遺産分割調停を申し立てましょう。
「調停」とは、家庭裁判所が選任した調停委員という中立公平な有識者を介して相手方と話し合う手続きです。
専門的な知見に基づいて解決案を提示してくれることもあるので、当事者だけで話し合うよりは解決する可能性が高まります。
調停でも話し合いがまとまらない場合は、自動的に審判の手続きに移行します。
審判では、当事者が申し出たさまざまな事情を審判官(裁判官)が総合的に考慮した上、相当な遺産分割方法を決定します。
遺産の引き渡しや名義変更などを行う
遺産分割の方法が確定したら、実際にそれぞれの遺産を取得する人に引き渡したり、名義を変更したりします。
不動産については、法務局で相続登記の手続きを行って名義を変更します。
預貯金については、金融機関で解約・払い戻しや名義変更の手続きを行います。
遺産の名義変更には特に期限の定めはありません。
しかし、放置しておくと第三者との関係でトラブルが発生したり、さらに相続が発生したときに権利関係が複雑になってしまうおそれがあります。
そのため、遺産分割の方法が確定した段階で早めに名義変更をしておきましょう。
相続税の申告・納付をする
相続税がかかる場合は、必ず相続税を申告して納付するようにしましょう。
相続税の計算方法や申告方法・期限については、次項で詳しくご説明します。
遺産相続にかかる相続税
ある程度の遺産がある場合は、遺産相続時に相続税がかかることがあります。
相続税がかかる場合は、期限内に申告して納付しなければ、重加算税などのペナルティを課されるおそれがあります。
ここでは、相続税の計算方法や申告方法・期限についてご説明します。
相続税の計算方法
相続税を計算する際には、次のステップを踏みます。
- ・相続税がかかるかどうかを判断する
- ・実際に相続税を計算する
- ・税額控除を適用する
以下、順に解説していきます。
相続税がかかるかどうかを判断する
遺産の総額が基礎控除額以下であれば、相続税はかかりません。
基礎控除額は、次の計算式で求められます。
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
法定相続人の数が3人の場合、基礎控除額は4,800万円となります。
遺産の総額が4,800万円以内なら相続税はかかりませんし、申告も不要です。
実際に相続税を計算する
相続人が1人の場合、相続税は次の計算式で求められます。
相続税額=(遺産総額-基礎控除額)×税率-控除額
相続税の税率と控除額は、以下の表のとおりです。
法定相続分による取得金額 税率 控除額 1,000万円以下 10% - 3,000万円以下 15% 50万円 5,000万円以下 20% 200万円 1億円以下 30% 700万円 2億円以下 40% 1,700万円 3億円以下 45% 2,700万円 6億円以下 50% 4,200万円 6億円超 55% 7,200万円 引用元:国税庁|相続税の税率
相続人が複数名いる場合の計算は少し複雑で、次のステップを踏んで行います。
- ・各相続人が取得する課税遺産額を求める
- ・相続人ごとの税額を求める
- ・各相続人の税額を合計する
「課税遺産総額」とは、遺産総額から基礎控除額を差し引いた金額のことです。
例えば、課税遺産総額が3,000万円あるとして、相続人として妻、長男、長女の3人がいるとしましょう。
各相続人が取得する課税遺産額は、次のようになります。
妻:3,000万円×1/2=1,500万円
長男:3,000万円×1/4=750万円
長女:3,000万円×1/4=750万円
次に、相続人ごとの税額は以下のようになります。
妻:1,500万円×15%-50万円=175万円
長男:750万円×10%=75万円
長女:750万円×10%=75万円
最後に、各相続人の税額を合計すれば、相続税の総額を求めることができます。
175万円+75万円+75万円=325万円
税額控除を適用する
基本的には以上で求めた税額が納税額となりますが、相続税には以下のようにさまざまな税額控除が認められています。
- ・配偶者の税額軽減
- ・贈与税額控除
- ・未成年者控除
- ・障害者控除
適用できる税額控除がある場合は、忘れずに適用するようにしましょう。
特に、配偶者の税額軽減は相続による取得価格が1億6,000万円または法定相続分のどちらか多い方までは相続税が非課税となります。
相続税の申告方法・期限
遺産総額が基礎控除額を超える場合は、相続税がかかります。
その場合、期限内に相続税を申告して納付しなければなりません。
相続税がかからない場合は、基本的に申告は不要です。
ただし、税額控除などの特定の適用を受けた結果、非課税となる場合は、申告が必要です。
申告方法は、相続税を申告し、必要書類と一緒に住所地を管轄する税務署へ提出することです。
申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内です。
期限内に申告・納付をしなければ重加算税などのペナルティを課されることがあります。
遺産相続の注意点
ここでは、これまでにご説明してきたことの他に遺産相続で注意すべき点についてご説明します。
未成年の相続人がいる場合
未成年者が遺産相続に参加する場合は、代理人が必要です。
通常は親権者が未成年者の代理人となりますが、親権者も同じ相続で相続人となっている場合は、代理人として認められません。
その場合は、家庭裁判所で特別代理人を選任する必要があります。
親権者がいない場合は、未成年後見人が代理人となります。
認知症などで判断能力が不十分な相続人がいる場合
相続人のなかに認知症などで判断能力が不十分な方がいる場合も、代理人が遺産相続に参加する必要があります。
この場合、基本的には成年後見人が代理人となります。
成年後見人も同じ相続の相続人となっている場合は、未成年者の場合と同じように家庭裁判所で特別代理人を選任する必要があります。
行方不明の相続人がいる場合
行方不明の相続人がいる場合に遺産相続を進めるためには、家庭裁判所で不在者財産管理人を選任する必要があります。
その相続人が長期間行方不明となっていて生存している可能性が低いと思われるときは、家庭裁判所で失踪宣告を受けることもできます。
失踪宣告を受けると、その人は死亡したものとみなされます。
その人に子どもがいる場合は、子どもが代襲相続人となります。
多額の生前贈与を受けている相続人がいる場合
被相続人から多額の生前贈与を受けている相続人がいる場合は、相続分を調整することが必要です。
まず、その相続人が受けた特別受益を相続財産に持ち戻して各相続人の相続分を決めます。
そして、特別受益を受けた相続人は、この相続分から特別受益を差し引いた分のみを最終的に受け取ることになります。
被相続人の財産の維持・増加に貢献した相続人がいる場合
被相続人の介護や看護に努めたり、事業を手伝うなどしてその財産の維持・増加に貢献した相続人がいる場合も、相続分を調整することが必要です。
この場合は、まず遺産からその相続人による寄与分を差し引いて、各相続人に相続分を決めます。
そして、貢献した相続人はこの相続分に寄与分を加えた分を受け取ることができます。
遺産相続における弁護士の役割
遺産相続には、さまざまな専門的知識が必要になります。
困ったときや悩んだときは、早めに専門家に相談することが大切です。
不動産登記の方法がわからないときは司法書士へ、相続税の申告方法が分からないときは税理士へ相談・依頼するとよいでしょう。
一方、相続人間でトラブルが発生したときは、弁護士へ相談・依頼すべきです。
弁護士に依頼すれば、遺産分割協議を依頼者に代わって代行してくれます。
調停や審判を申し立てる際も複雑な手続きを任せることができますし、有利な条件で解決できるようサポートを受けることができます。
まとめ
遺産相続では意外にやるべきことが多い反面、手続きの期限が決められているため、効率よく進めることが大切です。
ただでさえ大変な作業なのに、相続人間にトラブルが発生するとなかなか遺産分割が進まなくなります。
困ったときは専門家の力を借りて解決することも検討してみましょう。