この記事でわかること
- 失踪宣告の取り消し方法
- 失踪宣告取り消しの効果
- 失踪宣告取り消しの注意点
失踪宣告の取り消しは、家庭裁判所が死亡とみなした失踪宣告をなかったことにするため、家庭裁判所で申立てを行います。
失踪宣告が取り消されると、元の身分や権利が復活し、相続された財産の返還請求も可能ですが、影響範囲や第三者への影響などを理解しておかないと大きなトラブルに発展する恐れがあります。
この記事では、失踪宣告取り消しの概要と、失踪したと思われていた人の財産や身分を守るために必要な知識を詳しくお伝えします。
目次
失踪宣告の取り消し方法
失踪宣告は、失踪者が生存していた、もしくは死亡と認定された日と違った日に死亡したことが分かった場合に取り消すことができます。
なお、失踪宣告は「死亡とみなされる」という重大な手続きのため、失踪宣告の取り消しも同様に、慎重に行われる手続きです。
ここでは、失踪宣告の取り消し方法について、必要書類、全体の流れと手続きのポイントについて解説します。
必要書類
失踪宣告の取り消しを行うためには、まず申立てに必要な次の書類を準備します。
- 失踪宣告取消審判申立書(必要事項を記載したもの):失踪者一人につき800円の収入印紙貼付
- 失踪者の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 失踪者の戸籍の附票
- 失踪者の写真(正面全体,顔正面,顔両側面)4枚程度
- 申立人が失踪者以外の場合、申立人の利害関係を証する資料:親族関係であれば戸籍謄本(全部事項証明書)
- 郵便切手:各家庭裁判所によって金額や枚数の指定がありますので、事前に確認が必要です
失踪宣告取消審判申立書には、申立ての実情や失踪宣告取り消しの理由を記入します。
また、失踪宣告取り消しの事情を証明する書類などがあれば、その書類も証拠として添付します。
家庭裁判所での申立て
必要書類を揃えたら、失踪者が実際に居住している場所を管轄する家庭裁判所で失踪宣告取り消しの申立てを行います。
申立てができる人は、失踪者本人や、利害関係人などに限られます。
利害関係人とは失踪者の相続人や失踪者にお金を貸すなどしていて、法律上の利害が発生する人のことで、知り合いや親戚といった理由では申立てできません。
家庭裁判所が申立て書類一式を受理すると、正式に審理が開始されます。
審理
家庭裁判所での申立てが受理されると、失踪宣告取り消しに関する審理が行われます。
審理では生存していた失踪者が本当に本人かどうか、または失踪宣告と異なる時期に死亡したのかについて、提出された書面などから家庭裁判所調査官が調査を行います。
失踪宣告の取り消し決定
審理の結果、失踪宣告の取り消しが適切と判断された場合、家庭裁判所は正式に失踪宣告の取り消しの審判を下します。
そして審判書の写しが申立人に送られ、官報にも記載されて審判が確定します。
失踪宣告の取り消しの審判が確定すれば、家庭裁判所での申立て続きは完了です。
失踪宣告を取り消した効果
失踪宣告を取り消すと、失踪宣告で失われた権利義務や身分関係が元に戻るという効果が発生します。
元失踪人は失踪宣告により死亡したとみなされて、戸籍や住民票、持っていた財産などすべての権利義務を失っていますが、失踪宣告の取り消しにより、死亡が認定された日に遡って、すべての権利義務が復活します。
では、具体的にどのようになるかをご紹介します。
身分関係の復活
失踪宣告が取り消されると、戸籍や住民票など、元失踪者の法律上の身分関係が復活します。
そのため、親子関係・婚姻関係も元通りになります。
たとえば、失踪者として見なされていた期間中に親が亡くなって相続する権利が発生していた場合、相続人としての地位を得ます。
相続された財産などを返還請求できる
失踪宣告によって元失踪者は死亡したとみなされ、通常、元失踪者の財産は相続人に相続されています。
しかし、失踪宣告が取り消されると、遡って死んでいなかったことになるため、相続された財産も当然、元失踪者の所有に戻ります。
したがって、元失踪者は相続された財産を返還するよう、相続人に請求できます。
しかし、ある日突然、死んだとされていた人の戸籍が復活して、財産を取り戻し始めると問題が起こります。
次に、失踪宣告の取り消す際の注意点を解説します。
失踪宣告を取り消す注意点
失踪宣告の取り消しで身分関係や権利義務が復活すると、失踪宣告を前提になされた身分行為や相続手続きなどに問題が起こります。
失踪宣告を取り消す際の注意点は、次の3つです。
取り消しが影響する範囲
失踪宣告を取り消す際には、その取り消しがどの範囲に影響を与えるのかを理解しておくことが重要です。
前述したように、失踪宣告取り消しは、失踪した時期に遡って失踪宣告がなかったことにするという効果が発生し、すべての法律関係が元通りになります。
少なくとも、失踪時の配偶者、両親、子ども、兄弟姉妹、甥・姪には影響が出ると考えておきましょう。
また、元失踪者の相続によって相続人が得た財産を売却・賃貸していた場合は、その取引相手にも影響が及ぶでしょう。
第三者への影響については、『「善意」の第三者の保護』の項目で詳しく解説します。
財産の返還は現存利益のみでよい
失踪宣告の取り消しにより財産を返還する場合、既に消費してしまった財産の返還は必要なく、「現に利益を受けている限度(現存利益と言われます)においてのみ」返還の必要があります。
たとえば、相続人が100万円を相続していて、ギャンブルなどで70万円を浪費していた場合、残った30万円の現存利益だけ返還すればよいとされています。
ただし、生活費や住宅ローン、学校の授業料などに使っていた場合は、現に利益を受けているとみなされるため100万円すべてを返還する必要があるとされています。
元配偶者が再婚していた場合
失踪宣告後に元配偶者が再婚していた場合、元配偶者と再婚相手のどちらもが元失踪者の生存を知らなければ、元配偶者の再婚は有効とされています。
しかし、元配偶者・再婚相手のどちらか1人だけでも元失踪者の生存を知っていたならば、元々の婚姻関係が復活するとされています。
ただ、そうなると元配偶者は2人の相手と婚姻している(重婚)状態となり、更に問題が複雑化します。
この場合については、法律で正確に明言されておらず、ケースバイケースですので、気になる方は弁護士にご相談ください。
「善意」の第三者の保護
失踪宣告取消を知らずに売買などの契約をしていた場合、善意の第三者は保護されます。
民法上、「善意」とはある事実を知らないことを指し、この場合の善意の第三者は、失踪者が生存している事実を知らなかった第三者を指します。
たとえば、失踪宣告中に行われた相続によって土地を取得した者が、失踪者の生存を知らない善意の第三者に売却したとします。
数カ月後に失踪宣告が取り消されたからといって、ある日突然土地の売買が無効になり、当事者の権利や利益が一方的に侵害されると誰もが困惑します。
そのため、善意の第三者は保護され、土地の売買は引き続き有効となります。
しかし、売主(元失踪者の相続人)か買主のどちらか一方でも元失踪者の生存を知っていた場合は保護されず、契約は無効となり、土地を元失踪者に返還する義務があるとされています。
まとめ
失踪宣告の取り消しは、必要書類をそろえて家庭裁判所に申立てを行い、審判を受けるというのが唯一の方法です。
注意しておくべきことは、失踪宣告の取り消しの効果は絶対的なものではないということです。
相続で財産を受け取った人が浪費していた部分は請求できず、現存利益のみしか請求できません。
また、婚姻関係も元配偶者が再婚していると、簡単には復縁できないでしょう。
そして、失踪宣告の取り消しについて善意の第三者は保護されるため、失踪宣告から時間が経っているほど財産の返還が難しくなってしまいます。
失踪宣告の取り消しについては、事後処理が非常に複雑でトラブルが起こる可能性も高いため、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。