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最終更新日:2024/10/15

失踪宣告とは?相続時に必要なケースや手続き方法・必要書類

弁護士 山谷千洋

この記事の執筆者 弁護士 山谷千洋

東京弁護士会所属。
「専門性を持って社会で活躍したい」という学生時代の素朴な思いから弁護士を志望し、現在に至ります。
初心を忘れず、研鑽を積みながら、クライアントの皆様の問題に真摯に取り組む所存です。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/yamatani/

この記事でわかること

  • 失踪宣告とは何か
  • 自分で行う時の失踪宣告の手続き方法
  • 相続人の中に行方不明者がいる場合の対処法

銀行預金の払戻や不動産の名義変更などの相続手続きを行うためには、遺産分割協議が必要となります。

この遺産分割協議は相続人全員によって行われる必要があります。
そのため、行方不明の相続人がいる場合には遺産分割協議を行うことができず、相続手続きも進められなくなってしまいます
このような状況の解決策のひとつが、「失踪宣告」です。

本記事では、失踪宣告とはそもそもどんなものなのか、失踪宣告が必要なケース、手続きの流れなどについて解説します。

行方不明の家族がいらっしゃる方や、すでに相続が発生し相続人のなかに行方不明者がいて困っている方はぜひご一読ください。

失踪宣告とは

失踪宣告とは、行方不明などで生死が一定期間明らかでない方に対して、法律上死亡したものとみなす効果を生じさせる制度です。

失踪者を死亡したものとみなすことで、財産関係や家族関係等について安定を確保することが、この制度の目的です。

行方不明者がいる場合には基本的に遺産分割協議が成立しなくなってしまいますが、この制度を活用することで行方不明者を死亡したものとして取り扱うことができます。
このため、行方不明者以外の相続人だけで遺産分割協議を成立させることができるようになります。

失踪宣告の種類

失踪宣告には「普通失踪」と「特別失踪」の2種類があります。
それぞれどのようなものか、見ていきましょう。

普通失踪とは

不在者の生死が7年間明らかでないとき、事情は問わず、普通失踪として認められることとなります。

特別失踪(危難失踪)とは

戦争や船の沈没、震災等死亡の原因となる危難に遭遇した方が、その危難が去ってから1年間経過してもなお生死が明らかでないとき、特別失踪(危難失踪)として認められることとなります。

失踪宣告と認定死亡の違い

特別失踪(危難失踪)と似たような制度として、戸籍法上の「認定死亡」という制度があります。
認定死亡とは、震災や火災などで死亡したことが確実な状態で、死体を確認せずとも戸籍上、死亡したものとして取り扱う制度です。

「死亡したという事実は確認できていないが死亡したものとして取り扱う」という点に関して、失踪宣告と認定死亡は似ている部分があります。

一方、失踪宣告は死亡を認定する機関が家庭裁判所であるのに対して、認定死亡の場合は警察などの官公庁となる点が違いとして挙げられます。

また、認定死亡は死亡の事実を「推定」させるのみで、訴訟によって反証された場合には、対象者の生存を認定することも可能です。
これに対して失踪宣告は、対象者が死亡したものと「みなす」制度であり、失踪宣告が取り消されない限り、訴訟によって対象者の生存を認定することはできません。

失踪宣告と不在者財産管理人選任の違い

不在者財産管理人」とは、不在者が財産の管理人を置かなかった場合に、家庭裁判所で選任される財産の管理人のことを指します。
不在者管理人は、家庭裁判所に許可を得た上で、財産の処分行為などをします。

そのため、不在者財産管理人を選任し、行方不明者の代わりに遺産分割協議に参加してもらうことで、相続人の中に行方不明者がいる場合でも相続手続きを進めることができるようになります。

前述したように、失踪宣告によっても、相続人の中に行方不明者がいる場合でも相続手続きを進めることができます。
ただ、不在者管理人のメリットとして、後述する行方不明期間の要件がないため、早い段階で申し立てを行えるという点が挙げられます。

なお、不在者財産管理人が選任されたとしても、行方不明者が死亡したとみなされるわけではないので、行方不明者にも相続を受ける権利は残ります
また、不在者財産管理人が遺産分割協議に参加するためには、家庭裁判所の許可を得る必要がある点についても注意が必要です。

相続時に失踪宣告が必要なケース

それでは、どのようなケースにおいては失踪宣告が必要となるのでしょうか。
相続手続きにおいては、主に以下のような場合で失踪宣告が必要となります。

行方不明の相続人がいるケース

相続開始時に行方不明の相続人がいる場合、失踪宣告が必要となります。

前述したように、ある人が亡くなったとき、亡くなった人が遺言書を作成していない場合には、遺産分割協議を行った後に銀行預金の払戻や不動産の名義変更などの相続手続きをすることとなります。
この遺産分割協議には相続人全員が参加する必要があり、1人でも協議に参加できない人がいると遺産分割協議は有効に成立しません。
つまり、行方不明の相続人がいると、有効な遺産分割協議が行えず、そのため銀行預金の払戻や不動産の名義変更などの相続手続きも行えないこととなります。
しかし、失踪宣告をすることで、失踪者はすでに死亡したものとして取り扱い、失踪者を除いて遺産分割協議や相続手続きを進められるようになります。

なお失踪宣告には裁判所での手続きが必要で、かつ手続きには時間と手間がかかります。
推定相続人のなかに行方不明者がいる場合には遺言書を作成しておくなど、事前に対策を取っておくことをおすすめします。

行方不明の人の財産を相続するケース

行方不明者の財産の処分を行いたい場合にも、失踪宣告が必要となります。
失踪宣告などの手続きをしないまま、預金の払戻しや不動産などの資産の売却をすることはできません。

適切な手続きを行って失踪宣告をすることで、行方不明者は死亡したものとみなされ相続が発生し、相続人は自由に財産を処分することができるようになります。

失踪宣告ではなく不在者財産管理人選任を使うべきケース

前述の不在者財産管理人を選任することでも、行方不明者が不在のまま遺産分割協議を進めることはできます。

失踪宣告に比べて要件が緩いため、以下のようなケースでは不在者財産管理人の選任をご検討ください。

行方不明になってから7年が経過していないケース

失踪宣告の審判を得るためには、普通失踪の場合7年間の行方不明期間が必要です。
行方不明になってから7年間が経過していれば失踪宣告を申し立てることで相続手続きを進められますが、7年間を経過していない場合にはその期間が経過するまで失踪宣告をすることができません。

多くの場合、失踪宣告を行うために遺産分割をせずに何年も待つことは現実的ではないため、このようなケースでは不在者財産管理人を選任することが望ましいでしょう。

居場所がわからないが生きていることは判明しているケース

相続人の居場所はわからないものの、時々連絡は取れるので生きていることは明らかである場合には、失踪宣告を行うことはできません。

そのため、このようなケースでは不在者財産管理人を選任すべきでしょう。

なお、不在者財産管理人選任を行う場合には行方不明者が死亡したとみなされるわけではなく、行方不明者にも相続する権利が発生し続ける点には注意が必要です。

失踪宣告の要件

ここまで、失踪宣告には7年間の生死不明期間が必要だと説明してきました。
他にどのような要件を満たすと、失踪宣告をすることができるのでしょうか。
失踪宣告の種類ごとに、要件を確認していきましょう。

普通失踪の場合

普通失踪を申し立てるためには、行方不明になった方の生死が7年間明らかでないことが要件です。
生死が明らかでない期間が7年間に満たない場合には、生死不明期間が7年間経過するのを待ってから申立てをすることとなります。

特別失踪(危難失踪)の場合

特別失踪を申し立てるためには、行方不明になった方が山での遭難や船舶の沈没など死亡の原因となる危難に遭い、その危難が去った後でも1年間行方不明であることが要件となります。

失踪宣告の手続き方法・必要書類

続いて、失踪宣告の具体的な手続き方法や必要書類について解説します。

失踪宣告の申立

手続きは、利害関係人が家庭裁判所へ失踪宣告の申立書を提出することで開始されます。
なお、申立書の提出先となる家庭裁判所は、行方不明者の最新の住所地や居住地を管轄する裁判所です。

申し立てをすることができるのは、失踪宣告により法律上の利害関係を有するものに限定されます。
具体的には配偶者や相続人が申立てをすることができ、単なる友人知人などは申立てをすることができません。

申立に必要な書類は、以下のようになっています。

  • 申立書
  • 申立人および行方不明者の戸籍謄本
  • 行方不明の事実に関する資料
  • 利害関係に関する資料

またその他、印紙や切手、官報広告料も必要となります。

家庭裁判所による調査

失踪宣告の申立てを受けた裁判所は、調査を行うこととなります。
具体的には提出資料を確認し、裁判所の調査官が申立人に聴き取りをすることとなります。

公示催告

裁判所による調査が行われた後、裁判所は官報や裁判所の掲示板に失踪宣告の申し立てがされている旨を公示します。
その中で、一定期間内に行方不明者については生存の届け出を、行方不明者の生存を知っている人はその旨の届け出をするように催告します。

なお、上記の「一定期間」は普通失踪では3カ月以上、特別失踪では1カ月以上とされています。

審判

公示催告後、行方不明者本人や行方不明者の生存を知っている人からの届出等がない場合には、裁判所による失踪宣告の審判が行われることとなります。

審判がなされると、裁判所から結果などが記載された「審判書謄本」等が申立人に送られてきます。

失踪の届出

審判によって失踪宣告が認められても、自動的に行方不明者の戸籍が変更されるというわけではありません。
戸籍を変更するためには別途、行方不明者の本籍地または申立人の住所地である市区町村の役場へ失踪の届出をする必要があります。

市区町村への失踪の届出にあたっての必要資料は、審判書謄本と確定証明書です。

失踪の届出が受理されると、失踪者は除籍となります。

失踪宣告をした後に相続人が見つかったときの取り扱い


失踪宣告は、行方不明者を死亡した人とみなす制度であり、死亡の事実を保証するものではありません。
そのため、失踪宣告をしたが実は行方不明者が生きていた、というケースももちろん発生します

このようなケースにおいては、以下のような取り扱いをすることとなります。

失踪宣告の取消の申立て

失踪宣告は、本人の生存が明らかになったからといって、自動的に取り消されることはありません。
失踪宣告を取り消すためには、本人や利害関係人から裁判所に失踪宣告の取り消しの申立てを行う必要があります。
申立てをすべき管轄裁判所は、失踪者本人が現実に居住している地を管轄する家庭裁判所です。

失踪宣告の取り消しは申立書によって行われますが、この申立書については、不在者の生存状態や経緯などをできる限り詳細に記載することとなります。

なお、失踪宣告によって行方不明者は死亡したものとみなされますが、失踪宣告が取り消された場合にはその人ははじめから死亡しておらず、行方不明者はずっと生きていたということになります。

遺産分割協議はやり直す必要があるか?

相続人である失踪者を除いて行われた遺産分割協議は、他の相続人が失踪者の生存を知っていたかどうかによって、有効か無効かが決まります。

他の相続人が一人でも失踪者の生存を知った上で行われた遺産分割協議については無効となります。
そのためこの場合には、行方不明だった相続人も含む相続人全員で再度、遺産分割協議をやり直す必要があります。

一方、失踪者の生存を知っている相続人が一人もいなかった場合、すでに行われた遺産分割協議は有効であり、そのため遺産分割協議をやり直す必要はありません。

まとめ

遺産分割協議は相続人全員で行うことが必要であり、相続人の中に行方不明者がいる場合には失踪宣告の手続きをとることが有効となります。

なお前述の通り、失踪宣告には裁判所での手続きが必要で、かつ手続きには時間と手間がかかるため、推定相続人の中に行方不明者がいる場合には遺言書を作成しておくなど、事前に対策を取っておくことも有効となります。

また、失踪宣告を行う場合、権利関係も複雑になる傾向があるため、必要に応じて弁護士などの専門家から助言やサポートを受けることもご検討ください。 

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