この記事でわかること
- 失踪宣告確定後の戸籍がどう変化するか
- 失踪宣告をしない場合に起こりうる問題や関係者への影響
- 失踪宣告の手続
- 失踪者が見つかった場合の失踪宣告取消手続きと効力
失踪宣告は、行方不明者の法的地位を明確にし、行方不明者の財産と身分関係を整理する重要な手続きです。
本記事では、失踪宣告後の戸籍の変化、宣告しない場合の影響、そして失踪宣告の手続きの流れについて解説します。
また、失踪宣告後に本人が生存していた場合の対応についても触れ、関係者が直面する可能性のある様々な状況に対する理解を深めることができるでしょう。
目次
失踪宣告後の戸籍の表記
失踪宣告の審判が確定すると、失踪者の戸籍は死亡したものとして除籍されます。
ここでは、失踪宣告の審判決定から戸籍に反映されるまでの流れと、戸籍の表記について記載例を含めて解説します。
失踪宣告の審判「決定」と審判「確定」の違い
失踪宣告の審判が決定すると、家庭裁判所から申立人に審判決定書が郵送され、失踪宣告の内容は官報に掲載されます。
この時点で失踪宣告の審判が「決定」されていますが、審判決定から2週間は即時抗告(不服申立)する期間が設定され、即時抗告がなければ失踪宣告の審判が「確定」します。
官報などで審判決定を知った失踪者本人や関係者が、失踪人が生きている、若しくは違う時期に死亡していたなど、審判の決定内容と違う主張をすると、審判確定ができなくなります。
このように、失踪宣告は審判決定から2週間は不安定な状態で、審判確定した時点で本当に失踪宣告が完了します。
審判決定書が送られてきても、失踪宣告が終わっていないことに注意が必要です。
また、審判が確定した後には改めて審判確定証明書を家庭裁判所に請求する必要があることも知っておきましょう。
審判確定後は、10日以内に失踪届を提出する
失踪宣告の審判確定後、家庭裁判所は審判確定を公告し、失踪者の本籍地の市区町村役場に通知します。
しかし、市区町村役場は審判確定の通知を受け取っても失踪者の戸籍の記載変更は届出がない限りしないため、失踪宣告の申立人は審判確定の日から10日以内に失踪届を提出します。
失踪届を提出すれば、戸籍の記載が変更されます。
失踪届の提出方法
失踪届は、失踪者の本籍地又は申立人の住所地の市区町村役場に提出します。
届出には、失踪届、審判決定の時に送られてきた審判書謄本、審判確定後に請求した確定証明書が必要です。
失踪宣告が反映された戸籍の記載内容
失踪届が反映された戸籍には、失踪者の死亡とみなされる日、失踪宣告の裁判確定日、届出日、届出人が記載されます。
戸籍の記載内容を確認する時に注意することは、失踪者の死亡日とされる日は、失踪宣告の申立てをした日や行方不明になった日ではなく、行方不明になった日から7年経過した日ということです。
戸籍の記載内容を確認して、問題がなければ役所への手続はこれで完了です。
ここから、失踪者の相続手続などが進められます。
失踪宣告をしないとどうなるのか
失踪者をそのままにして失踪宣告をしないと、以下のような問題が起こります。
- 失踪者の配偶者が離婚できないなど身分上の問題
- 失踪者名義の不動産や預貯金、保険など財産管理上の問題
ここでは、これらの問題について解説します。
失踪者が法律上存在しているままになる
失踪宣告をしない限り、失踪者は法律上存在している状態が続きます。
つまり、失踪者の権利や義務が現存しているのに、それらを履行する本人がいないため、権利義務が実行されず、利害関係を持つ人達に迷惑がかかるということでます。
失踪者の配偶者は離婚も再婚もできない
失踪者の配偶者は、離婚届を提出することができないため離婚ができず、もしも再婚を考える相手ができても再婚ができないという問題が起こります。
ただ、3年以上の生死不明の場合は、離婚裁判により離婚するという方法もあります。
ただ、離婚裁判で離婚すると、その後に失踪者が見つかったとしても離婚を取り消すことはできません。
このように、失踪宣告をしないと、離婚や養子縁組の解消などの関係を終了する手続きができず、次のステップに進めないという状況が起こり得ます。
失踪者本人の財産を処分できない
本人がいないとはいえ、失踪者の財産は失踪者のもののままです。
失踪者の財産は他人が勝手に処分できず、管理についても銀行や保険などの書類上の手続もできません。
ただ、失踪者の財産管理については、家庭裁判所に不在者財産管理人選任の申立を行うと、選任された財産管理人が必要に応じて以下の手続きを行ってくれます。
- 失踪者の財産の管理、売却などの換価処分
- 遺産分割協議への参加
- 債務の支払い等
ただ、不在者財産管理人はあくまで財産の管理を行うだけで、離婚や養子縁組の解消、失踪者本人の相続といった戸籍に関する身分行為はできません。
やはり、失踪者の財産に関する権利義務を全て清算し、離婚や相続などの身分行為も行うためには失踪宣告が必要となります。
失踪宣告をしたいが7年経過前の場合は、必要に応じて不在者財産管理人の選任を行い、7年経過後に失踪宣告の申立をする、という流れになります。
失踪宣告の手続きの流れ
失踪宣告の手続は、家庭裁判所への申立から始まります。
失踪宣告全体の詳しい流れは次のとおりです。
- 失踪宣告申立:失踪者の配偶者や利害関係人が、失踪者の住所地を管轄する家庭裁判所へ申し立てる
- 審理:家庭裁判所の調査官が、調査・審問・参与委員の聴き取り・書面照会などの審理を行う
- 公示催告:審理が終わると、家庭裁判所が3カ月以上(特別失踪は1カ月以上)の期間を定めて官報や裁判所の掲示板で、失踪者本人やその生存を知っている人に届出を促す
-
審判決定:公示催告期間中に届出がなければ、失踪宣告の審判が決定する
※この時点では、審判が「確定」していません - 審判確定:審判決定から2週間以内に即時抗告がなければ、失踪宣告の審判が「確定」する
-
失踪届:失踪宣告確定日から10日以内に失踪者の本籍地又は申立人の住所地のある市区町村役場に失踪届を提出する
※届出には審判書の謄本と失踪宣告確定証明書の添付が必要です
失踪届を提出すると1週間程度で戸籍に死亡した旨の記載がされ、失踪宣告の手続は全て完了します。
失踪宣告をしても生きていた場合はどうなる?
失踪宣告が確定した後に、失踪者が生きていた場合には、失踪宣告の取消を行います。
ここでは失踪宣告の取消手続、失踪宣告の取消が与える影響について解説します。
家庭裁判所への失踪宣告取消の申立
失踪者が生きていたことが分かったとしても、自動的に戸籍が元に戻るわけではないため、家庭裁判所へ失踪宣告取消の申立を行います。
失踪宣告取消の申立は失踪者本人や利害関係人が行い、失踪宣告が取消されると、遡って失踪宣告による死亡がなかったことになります。
戸籍が復帰し、身分関係も復活する
失踪宣告が取消されると戸籍も失踪前の状態に復帰するため、失踪宣告で死別扱いになっていた婚姻関係も元通りになります。
しかし、元配偶者が元失踪者の生存を知らずに再婚していた場合は、再婚が有効とされます。
失踪者の生存を知らなかったことの証明など、複雑な交渉になることもあるため、具体的な案件については弁護士にご相談ください。
相続されていた財産は返還される
失踪宣告により元失踪者の財産は相続人が相続しますが、失踪宣告が取消されると、相続されていた財産も返還しなければなりません。
しかし、失踪宣告取消による相続財産の返還は、「現に利益を受けている限度(※現存利益)においてのみ」とされており、既にギャンブルや遊興費などで消費してしまった財産は返還の義務がありません。
まとめ
失踪宣告は、失踪者を死亡とみなす重要な手続きのため、慎重に審理された上で審判が確定します。
一方、失踪宣告をしないと所有者のいない財産をどう管理するか、失踪者の配偶者は再婚したくてもできないなどの問題が起こってしまいます。
失踪宣告に関わる可能性のある方は、問題が大きくなる前に弁護士などの専門家に相談しましょう。