この記事でわかること
- 失踪宣告を受けた人が生きていた場合の失踪宣告の効力
- 失踪宣告の取消方法と必要書類
- 失踪宣告を受けた人が生きていたときに財産の返還が必要なケース
長期にわたり行方不明になった人がいる場合、家族などの利害関係者は家庭裁判所に「失踪宣告」の申立てができます。
失踪宣告が行われると、失踪者は死亡したとみなされるため、相続が発生します。
また、配偶者がいる場合は死別扱いとなり、配偶者は再婚が可能になります。
それでは、失踪宣告を受けた人が生存していた場合、相続された財産や婚姻関係はどうなるでしょうか。
今回は、失踪宣告を受けた人が生きていた場合の失踪宣告の取消方法、相続財産の返還が必要なケースなどを解説します。
目次
失踪宣告した人が生きていた・・・どうなる?
失踪宣告を受けた人が生きていた場合、失踪宣告の効力はどうなるでしょうか。
生存が確認できても失踪宣告の効力は消滅しない
失踪宣告が行われた場合、失踪者は法律上、死亡したとみなされます(民法第31条)。
失踪宣告の手続きは家庭裁判所で行われているため、生存が確認できたとしても、失踪宣告の効力は消滅しません。
失踪宣告の効力を消滅させるためには、家庭裁判所に対して失踪宣告の取消を申し立てて、取消の審判を受ける必要があります。
失踪宣告の取消が認められれば戸籍の回復ができる
家庭裁判所で失踪宣告の取消が認められた場合、失踪者の本籍地または届出人の所在地の役所に届け出て、失踪者の戸籍を回復できます(戸籍法第94条、第63条)。
失踪宣告の取消方法については、次章でご説明します。
失踪宣告後配偶者が再婚した場合再婚は無効にならない
失踪宣告が行われ、利害関係人が役所に届け出ると、失踪者は死亡者として扱われるため、戸籍から除籍されます。
失踪者が婚姻していた場合は、婚姻が取り消され、配偶者は再婚が可能になります。
失踪者の生存がわかった場合も、再婚には法的な影響がありません。
また、失踪宣告が取り消された場合も、前婚は復活せず、再婚関係は有効のままです。
ただし、再婚関係に影響を及ぼさないのは、失踪者の元配偶者と再婚相手の双方が、失踪者生存の事実を知らなかった場合です(民法第32条1項)。
いずれか一方が失踪者生存の事実を知っていた場合は、失踪宣告取消によって前婚が復活し、法律上禁止されている重婚状態(民法第732条)になってしまいます。
この場合、失踪者は、家庭裁判所に婚姻の取消を請求できます(民法第744条2項)。
失踪宣告が行われた場合、前婚の配偶者は、民法第770条1項3号(配偶者が3年以上生死不明)または同5号(婚姻を継続しがたい重大な事由の存在)により、離婚訴訟を提起できます。
配偶者が失踪者生存の事実を知っていた場合は、失踪宣告取消後のトラブルを避けるためにも、離婚訴訟により離婚を確定させておくべきでしょう。
失踪宣告の取消方法・必要書類
失踪宣告を取り消すためには、本人または利害関係者が、家庭裁判所に対して失踪宣告取消の申立てを行う必要があります(民法第32条)。
ここでは、失踪宣告取消しの申立ての方法と必要書類をご紹介します。
失踪宣告の取消方法
失踪宣告取消の申立ては、本人または利害関係者が、本人が現実に居住している地を管轄する家庭裁判所に対して行います。
利害関係者とは、失踪宣告に対して法律上の利害関係がある人を指し、以下の人が含まれます。
- 失踪者の配偶者
- 相続人
- 財産管理人
- 受遺者(失踪者から遺言で財産の無償譲渡を受けることになっている人)
失踪宣告取消申立ての必要書類
失踪宣告取消し申立てにあたっては、取消申立書及び添付書類を裁判所に提出します。
取消申立書
失踪宣告取消申立書記載にあたっては、該当する記載を丸で囲む他、申立ての実情や申立てまでの経緯を可能な限り詳細に記載しましょう。
その他の必要書類
申立書の添付書類として、以下の書類が必要です。
-
1.失踪者本人が申立人の場合
・失踪者の戸籍謄本
・失踪者の戸籍の附票
・取消事由を証明する資料
・失踪者の写真3枚 -
2.利害関係人が申立人の場合
1.の書類に加えて、以下の書類が必要です。
・申立人の戸籍謄本(全部事項証明書)
・申立人と不在者の利害関係を証明する資料
失踪宣告取消の手続きの流れ
失踪宣告取消の申立てから決定(審判確定)までの手続きの流れは、以下の通りです。
申立て
申立人が、家庭裁判所に申立書・添付書類を提出し、以下の申立て費用を支払います。
- 収入印紙代:800円
- 連絡用の郵便切手代:4,816円
家庭裁判所の審理
申立てを受けた家庭裁判所は、書面照会、調査官の調査、審問などを行います。
失踪宣告取消審判
審理が終了すると、失踪宣告取消の決定または申立て却下の審判が行われます。
失踪宣告取消審判の場合、通常は申立てが行われれば取消が認められます。
結果の連絡
審判が確定すると、当該家庭裁判所から申立人に対して、審判書謄本が郵送で届きます。
審判書謄本が届いてから14日以内に異議申立て(即時抗告)が行われなければ、審判が確定します。
審判確定後、10日以内に審判所謄本を添付して、本籍地または届出人の所在地の市区町村役場に戸籍回復の届出を行ってください。
失踪宣告した人が生きていたときに財産の返還が必要なケース
失踪宣告を受けた人が生きていた場合、失踪宣告取消が認められれば、失踪者の「死亡」の取扱いは原則として無効になります。
それでは、相続人が取得した財産を既に処分・費消してしまった場合はどうなるでしょうか。
失踪宣告取消による財産等の取扱いについては、民法第32条で以下のように規定されています。
- 失踪宣告後、「善意で」なされた行為の効力には影響がない(同条1項)
- 失踪宣告によって財産を得た者は「現に利益を受けている限度」で返還義務を負う(同条2項但書)
次に、失踪宣告取消後に財産の返還が必要なケースをご説明します。
失踪者の生存を知っていた場合は返還が必要
失踪宣告後、相続人が不動産や預貯金を取得した、あるいは生命保険金を受け取った後、善意でなされた行為については、得た利益を返還する義務はありません(民法第32条1項)。
ここでいう「善意」は、行為の当事者すべてが失踪者の生存、あるいは失踪宣告時とは異なる時期に死亡した事実を知らないという意味です。
このことから、財産行為の当事者が生存の事実を知っていた場合(悪意の場合)は、得た利益に加えて遅延損害金を返還しなければなりません。
たとえば、Aさんに対する失踪宣告後、子のBさんが相続によりAさん所有の不動産を取得後、その不動産をCさんに売却したとします。
BさんとCさんの両方が、土地を売却した時点でAさんの生存の事実を知らなかった場合は、土地の売買契約に影響はないため、CさんはAさんに対して土地を返還する必要はありません。
しかし、BさんまたはCさんのいずれか一方が生存の事実を知っていた場合は、土地の売買契約は無効となります。
この場合、CさんはAさんに土地を返還しなければなりません。
これは、BさんがCさんに対して所有権移転の登記を済ませていた場合も同じです。
「現に利益を受けている限度」で返還が必要
また、相続人などが失踪宣告によって財産を得た場合は、「現に利益を受けている限度」で失踪者に財産を返還する義務を負います。
「現に利益を受けている限度」(以下「現存利益」)については、生活費や住宅ローンの返済などに充てた額が含まれます。
これは、本来相続人などが自分の財産から支払うべきであった費用につき、相続財産で支払ったことにより利益を得たと考えられるためです。
一方、ギャンブルなどの遊興費に使ってしまった場合、費消した金額は法律上「現存利益」とはみなされません。
たとえば、前述した土地売買の例で、Bさん・Cさんがともに善意だった場合でも、Bさんは土地の売却代金のうち、生活費や住宅ローンの返済などに充てた分は現存利益として返還しなければならないということです。
まとめ
失踪宣告を受けた人が生きていた場合、失踪宣告による死亡の扱いを無効にするためには、家庭裁判所で失踪宣告取消しの審判を受ける必要があります。
失踪宣告が取り消された場合も、配偶者の再婚などの身分行為については、再婚当事者の一方または双方が悪意でない限り無効になりません。
一方、失踪宣告により財産的な利益を得た人は、「現に利益を受けている限度」で失踪者に財産を返還する義務を負います。
しかし、「現に利益を受けている限度」の判断を正確に行うのは難しく、返還義務の有無をめぐって争いが起こる可能性があります。
また、相続人や受遺者が財産を処分した場合の当事者の善意・悪意についても、特に第三者との関係ではトラブルが起こりやすいです。
失踪宣告を受けた人が生きていた場合は、様々な問題が起こりうるので、弁護士などの専門家へのご相談をおすすめします。