この記事でわかること
- 資産と財産の違いとは
- 資産を一覧表にした方がよい理由
- 財産の調べ方
相続手続きをするにあたって、被相続人の資産や財産を把握する必要があります。
しかし資産と財産の違いとは、一体何でしょうか。
今回は、資産と財産の違いについて、一覧表を使いながら詳しく解説します。
相続手続きで重要な、財産の調べ方についても参考にしてください。
目次
資産と財産の違い
資産と財産は、言葉としては似ていますが、厳密には意味が異なります。
資産は、将来的に利益を生み出す力を持つもの、という考え方が基本です。
たとえば預貯金や不動産、宝飾品など、お金に換えられるプラスの価値のあるものを指します。
一方で財産は、所有している経済的価値のあるものすべてを指します。
プラスの資産だけでなく、著作権などの法的な権利や、借金やローンといった負債も含まれます。
そのため相続では、相続資産とは言わずに相続財産と言われます。
資産は財産の一部であり、財産は資産を広く包括的にとらえた概念と考えるとよいでしょう。
個人と会社で異なる定義
資産と財産は、使う立場によって定義が変わることがあります。
特に個人と会社では、視点や目的が大きく異なるため、意味も使い方も変わります。
個人にとっての資産や財産は、主に日常生活や相続などの場面で出てきます。
現金、預貯金、不動産、自動車、保険など、自分自身や家族が所有しているものすべてが対象です。
一方で会社における資産や財産とは、企業活動を通じて利益を生み出すために保有する経済的価値のことを指します。
個人は所有しているかどうかに焦点を当てて考えますが、会社では利益につながるか否かが重視されます。
たとえば同じ不動産でも、個人では財産になりますが、会社では減価償却の対象となる固定資産として扱われます。
【一覧表あり】資産とは
一口に資産といっても、その種類は多岐にわたり、それぞれの性質や使い道によって分類が変わります。
そこで役立つのが、会計の考え方をもとにした資産の3分類です。
- 流動資産
- 固定資産
- 繰延資産
それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。
資産区分 | 項目 |
---|---|
流動資産 | 現金・預金 |
売掛金 | |
有価証券(短期保有) | |
棚卸資産 | |
固定資産 | 土地・建物(不動産) |
機械設備 | |
車両運搬具 | |
投資有価証券(長期保有) | |
繰延資産 | 開業費 |
開発費 | |
社債発行費 |
流動資産
流動資産とは、1年以内に現金化できる見込みのある資産のことを指します。
たとえば現金や預金、売掛金、短期保有の株式などが代表的な例です。
個人の視点で考えれば、財布の中の現金や、すぐ引き出せる銀行預金などが流動資産です。
一方、会社では売掛金などや棚卸資産も流動資産とされます。
決算書の中では、流動資産の金額が資金繰りの良し悪しを判断する材料になります。
固定資産
固定資産とは、長期間にわたって使い続けることを前提とした資産のことを指します。
たとえば、自宅やアパートなどの不動産、仕事に使う車両、長期契約の権利などが該当します。
すぐにお金に換えるわけではないものの、長期にわたって役に立つ価値を持っているため、資産として計上されます。
個人でも、住宅ローンの対象になる自宅や、収益を生む不動産などは、固定資産として意識している人もいるでしょう。
繰延資産
繰延資産(くりのべしさん)とは、すでにお金を支払ったもので、その効果が長期にわたって続くと考えられる支出のことです。
たとえば、新しく事業を始める場合の開業費や、何年も使う前提で広告宣伝費などを一括で支払った場合が該当します。
ただし、繰延資産はすべての会計ルールで必須というわけではなく、企業や財務の状況により計上しない場合もあります。
個人で使う場面は少ないですが、相続や帳簿の整理をする際に目にすることもあるため、知っておいて損はありません。
財産とは
財産とは、自分が所有しているすべてのものや権利、義務をひとまとめに表す言葉です。
財産は性質に応じて、積極財産と消極財産に分類して考えるのが一般的です。
それぞれの違いについて、詳しく見ていきましょう。
積極財産
積極財産とは、プラスの価値を持つ財産のことを指します。
たとえば、以下のように持っていることで経済的な利益になるものが該当します。
- 現金や預貯金
- 不動産
- 有価証券
- 車など
相続時にも重要な項目で、遺産分割や相続税の計算のもとになるため、正確に把握する必要があります。
個人も企業のように、所有している財産をリスト化して管理しておくと安心です。
消極財産
消極財産とは、借金やローンなどの負債のことを言います。
たとえば、住宅ローン、クレジットカードの未払金、未納の税金などが該当します。
消極財産も積極財産と同じように相続の対象であり、放棄しない限り相続しなければいけません。
積極財産だけを相続することはできないため、相続が発生したときには必ず、負債がないかよく確認しましょう。
消極財産が多い場合は、相続放棄や限定承認などを検討するとよいでしょう。
所有財産の効率的な把握方法
財産目録があれば容易に把握できますが、一覧にして管理している人は多くはないでしょう。
相続や終活、資産の棚卸しを進める上で、所有している財産を一つひとつ確認する作業はとても大切です。
ただし、預金通帳や不動産の権利書のように目に見えるものばかりとは限らず、書類がまとまっていない場合や、デジタル化されている場合もあります。
ここでは、効率よく財産を洗い出すための4つの具体的な方法を解説します。
自宅の中を探す
まずは自宅にある書類を確認することから始めましょう。
たとえば以下のものから財産を把握できます。
- 通帳
- 保険証券
- 株式の取引報告書
- 不動産の登記書類
- 年金関係の通知など
書斎の引き出しやタンス、押し入れ、本棚の奥など、本人しかわからない場所に入っていることもあるため、家全体をくまなく確認する必要があります。
また、現金そのものが自宅に保管されていることもあるため、封筒や箱などの中身も丁寧にチェックしましょう。
郵便物で保険や預貯金の契約情報を調べる
通帳や証券自体が見つからなくても、ハガキや封書から財産を見つけることもできます。
保険会社からの契約更新のお知らせ、証券会社からの取引報告書、銀行からの残高通知などがあれば、取引の事実を確認することができます。
また、公共料金の引き落とし口座を記載した明細や、クレジットカードの請求書から利用している金融機関や契約状況が分かることもあります。
法務局や役所で不動産を調べる
不動産の情報を詳しく調べる場合は、登記簿を取得しましょう。
法務局で登記事項証明書(登記簿謄本)を取得することができ、土地や建物の名義、面積、権利関係などが分かります。
ただし登記簿は、不動産の所在が明らかでないと調べられません。
被相続人が所有する不動産情報を把握するには、名寄帳(なよせちょう)を使うのが便利です。
名寄帳は市区町村の役場で取得できるもので、被相続人が地域内で所有している不動産を一覧で確認できます。
固定資産税の納付先などを手がかりに、役所で問い合わせてみましょう。
金融機関や保険会社に問い合わせる
自宅にも書類がなく、郵便物でも手がかりが得られない場合は、直接、金融機関や保険会社に問い合わせてみましょう。
口座番号や契約番号が分からなくても、本人確認書類と相続関係を証明する書類(戸籍や遺言書など)を提出すれば、資産の有無や残高を確認できる場合があります。
特に金融機関や保険会社は、一定期間取引がない口座を休眠扱いにしていることもあるため、調査の申し出をすることで判明するケースもあります。
また、複数の金融機関に渡って取引している場合、マイナンバーに紐づけていれば、預金口座の一括照会制度を利用することもできます。
相続人が複数いる場合には、代表者が代表相続人届を提出することで、情報開示をスムーズに進められます。
相続財産を調べるときのポイント
相続財産を調べる過程で、注意しなければならないポイントがいくつかあります。
相続トラブルを避けるためにも、相続財産とみなされるのか、どのような扱いになるのかを事前に理解しておくことが大切です。
相続財産とみなされないものがある
すべての財産が、自動的に相続の対象になるわけではありません。
たとえば、死亡退職金は受取人固有の財産でみなし相続財産として扱われ、原則、遺産分割協議の対象には含まれません。
ただし、相続税の課税対象には含まれます。
また、墓地や仏壇などの祭祀財産、日常生活で使われていた衣類なども、相続税の課税対象から除外されることがあります。
生命保険は受取人によって扱いが異なる
生命保険金は契約者、被保険者、受取人を誰に設定するかにより、課税される税金の種類が変わります。
そのため相続財産となるかどうかは、契約関係をもとに判断する必要があります。
3者の組み合わせによって、課税される税金が相続税、所得税、贈与税に分かれます。
具体的には、次のように分類されます。
契約者 | 被保険者 | 受取人 | 課税される税金 |
---|---|---|---|
A | A | B | 相続税 |
A | B | A | 所得税(一時所得) |
A | B | C | 贈与税 |
たとえば、被保険者と契約者が同一人物で、受取人が配偶者や子どもであれば、受け取る保険金には相続税がかかります。
契約者と受取人が同一人物で、被保険者のみ異なる場合は、所得税の一時所得になります。
契約者が父、被保険者が母、受取人が子というケースでは、親から子への贈与とみなされ、贈与税の対象になります。
保険金を受け取る際にどの税金がかかるかは契約内容次第であるため、受取人だけでなく契約者と被保険者の関係にも注意しましょう。
相続開始前3年以内の贈与に注意
被相続人が亡くなる前に行っていた贈与のうち、相続開始前3年以内のものは、相続税の計算上、相続財産に加算される贈与として扱われます。
たとえば、子どもに毎年110万円までの非課税贈与をしていた場合でも、亡くなる直前3年以内の贈与分は非課税とならず、相続税の課税対象になります。
また、現行の3年ルールは今後変更される予定で、令和9年(2027年)から段階的に7年以内の贈与へと対象期間が延びていきます。
具体的には、2024年以降の贈与について、1年ごとに加算期間が延び、最終的には7年以内の贈与がすべて相続財産に含まれるようになります。
まとめ
相続ではプラスの資産だけでなく、負債も相続財産に含まれるため、資産と財産の違いを理解しておくことは重要です。
すべての財産を把握し、もし負債が多いようであれば相続放棄や限定承認も含め、よく検討しましょう。
相続財産の把握や相続税の計算は難しく、全体像がつかみにくいものです。
弁護士や税理士などの専門家へ、早めに相談しましょう。