この記事でわかること
- 遺言信託の必要性
- 遺言信託の費用について
- 遺言信託に関する疑問や悩み
遺言書を残すだけで十分なのか、遺言信託を活用すべきか、判断に迷うこともあるでしょう。
遺言信託は、相続対策の非常に有効な手段の一つですが、すべての人に必要というわけではなく、費用や内容をよく理解しておくことが大切です。
今回は、遺言信託が必要な人・いらない人の特徴や、費用・解約方法まで詳しく解説します。
目次
遺言信託とは
遺言信託とは、遺言の作成や保管、遺言の執行までを信託銀行などの金融機関が一貫して行うサービスです。
一方で法律用語の遺言信託は、遺言の中で特定の人に信託をする旨を記すことを言います。
一般的に遺言信託と言えば、金融機関のサービスを指すことが多いです。
ここでは遺言信託のメリット・デメリットをふまえ、仕組みや流れを解説します。
遺言信託の仕組みとは
遺言信託とは、信託銀行など専門の機関に、遺言の作成支援から保管、執行までを一括して依頼できるサービスです。
本人の死後、指定した通りに財産を配分してもらえるため、確実に遺言を執行できる点が特徴です。
遺言信託は取り扱っている金融機関が限られるため、利用する場合はよく検討しましょう。
他の遺言方法との違い
遺言信託の最大の特徴は、作成・保管・執行がセットで用意されていることです。
一般的な遺言書では、死後に家庭裁判所の検認が必要な場合や、内容の不備で無効になるリスクがあります。
他の遺言との違いは、以下の通りです。
種類 | 特徴 | 注意点 |
---|---|---|
自筆証書遺言 | 費用をかけず、好きな時に自分のタイミングで作成できる | 不備で無効になる可能性や、紛失・改ざんのリスクがある |
公正証書遺言 | 不備や紛失のリスクを避け、法的に有効な方法で作成できる | 公証人と証人が必要なため、費用と時間がかかる |
遺言信託 | 遺言の作成、保管、執行まですべて専門家に任せられる | 保管料や執行料など、最も費用がかかる |
遺言信託は、費用はかかりますが安全性と確実性を優先する場合は、非常に有効な手段と言えます。
それぞれの違いを知ることで、最適な方法が見えてくるでしょう。
遺言信託の流れ
遺言信託の手続きは、以下のような流れで行います。
- ①信託銀行に相談、契約
- ②公正証書遺言の作成
- ③信託銀行が保管
- ④死後、信託銀行が遺言執行
遺言信託は、まず取り扱いをしている信託銀行などの機関に相談することから始めましょう。
銀行と契約を行い、公正証書遺言を作成します。
遺言の作成について、銀行や提携している専門家が作成のサポートをしてくれる安心感も大きな特徴です。
公証人との調整や、証人の手配も任せられます。
作成した遺言は公証役場と、銀行が保管をします。
死後、死亡通知人が銀行に遺言者の死亡を通知すると、銀行は遺言執行に取りかかります。
メリット・デメリット
遺言信託には大きなメリットがある一方で、もちろんデメリットもあります。
主なメリットとデメリットは以下の通りです。
【メリット】
- リスクを最小限にできる
- 作成から執行まで一貫して対応してもらえる
- 相続トラブルを未然に防ぐことができる
【デメリット】
- 費用が高額(総額100万円前後かかる場合も)
- 契約後の変更や解約に手間がかかる
- 税務申告や登記手続きなど追加費用がかかる場合がある
検討段階から、メリットとデメリットをよく理解しておくことが大切です。
遺言信託が必要な人
遺言信託が必要なケースとは、どのような場合でしょうか。
ここでは、遺言信託が必要な人の特徴について解説します。
家族関係が複雑な人
再婚や離婚を経験していると、相続の手続きが複雑になりやすいです。
誰にどの財産を渡すか決めておかなければ、トラブルにつながることもあります。
遺言信託を使えば、一貫して専門家が手続きをするため、公平で冷静な手続きが可能になります。
- 相続人が多い
- 前妻の子どもがいる
- 認知した子がいる
- 疎遠になっている相続人が複数人いる
このような場合は、遺言の準備と同時に、確実に執行できる遺言信託を検討するといいでしょう。
相続財産が多い人
財産が多くなると、相続の手続きも複雑になります。
相続人で協議を行うとトラブルの原因になりやすく、不安を感じる人も多いでしょう。
遺言信託を使えば、資産内容に応じて専門家に最適な方法をアドバイスしてもらえます。
- 相続税が発生する可能性がある
- 株や有価証券など金融資産が多い
- 相続人が複数人いる
このような場合には、遺言信託の活用が適切でしょう。
生前対策を進めておきたい人
遺言信託自体は遺言に関する手続きですが、信託銀行では生前の資産運用や贈与に関する相談にものってもらえます。
専門家のサポートを受けながら、生前からしっかりと準備が進められるメリットがあります。
- 生前贈与も検討したい
- 今ある資産を活用しながら相続対策をしたい
- 信頼できる専門家にサポートしてほしい
このような人にも遺言信託は頼れるしくみと言えます。
遺言信託がいらない人
遺言信託は、誰にでも有効なものではありません。
中には遺言信託は必要ない人もいます。
ここでは、遺言信託がいらない人について解説します。
家族関係がシンプルな人
家族構成や関係がシンプルで、誰に何を相続させるか明確な場合、遺言で十分と言えます。
相続人が少ない場合や、揉める可能性が低い場合は、信託まで行う必要はないでしょう。
もし遺言信託をする場合は、まとまった費用と労力が必要になるため、費用対効果を含めて検討するといいでしょう。
財産が少ない人
相続財産が少ない場合、遺言信託にかかる費用のほうが財産より高くなる可能性があります。
無理に信託を使うことで、費用倒れになるケースも考えられます。
- 預貯金が数十万円~数百万円程度
- 不動産を持っていない
- 株式や投資信託を保有していない
- 相続税の対象にならない
- 相続人が少数で明確
このような場合は信託を使わずに、遺言で済ませる方が現実的と言えるでしょう。
不動産がない人
不動産は分割をすることが難しく、相続においてトラブルになりやすい原因の一つです。
遺言信託を利用することで相続をする人が明確になり、確実に実行できるメリットがあります。
しかし金融資産は分割が容易なため、信託を利用せずとも、遺言で対応できることが多いです。
不動産を持っていない場合や、金融資産が潤沢にある場合は、遺言信託は必要ないと言えるでしょう。
遺言信託にかかる費用
遺言信託には、遺言の作成費用・保管料、遺言の執行報酬などがかかります。
金額は銀行や信託会社によって異なりますが、おおよその相場は以下の通りです。
- 遺言作成サポート費用:5万円~15万円
- 遺言保管料:年間1万円程度
- 遺言執行報酬:50万円~100万円が一般的
この他、相談料や申込みの際に初期費用がかかる場合もあります。
執行報酬は、相続財産の金額によって変動することが多いです。
また、途中で解約した場合、返金されないことや解約手数料が必要な場合もあるため、契約する際はよく確認しましょう。
全体的に弁護士などの専門家より高額になる傾向があるため、比較検討することをおすすめします。
遺言信託に関するよくある質問
遺言信託を検討する際には、疑問に思うこともあるでしょう。
ここでは、遺言信託に関するよくある質問について解説します。
誰でも利用できますか?
原則、遺言能力のある成人であれば、誰でも遺言信託を利用することができます。
ただし、遺言や契約の判断能力がない状態で行った契約は無効となります。
そのため、認知症の診断を受けている人や、未成年者などは利用できません。
途中で内容の変更や解約はできますか?
途中で遺言の内容を変更したい場合は、銀行に申し出れば変更できます。
また、途中で解約することも可能です。
ただし、それぞれ変更や解約に関する条件がある場合が多いため、契約内容を確認しましょう。
信託契約によっては別途、手続きの費用がかかることや、解約手数料が必要な場合もあります。
自分の希望通りに遺産分割できますか?
遺言には、財産を誰にどれだけ渡すか、遺言者の希望を記すことができます。
しかし相続人には、遺留分という法的に守られた最低限の取り分が決められています。
あまり偏った内容の遺言にすると、遺留分をめぐってトラブルの原因になることが考えられるため、注意が必要です。
まとめ
遺言信託は、相続対策の有効な手段です。
家族構成が複雑な場合や、資産が多く、相続トラブルが起きないか不安を感じている場合におすすめです。
ただし、すべての人に必要とは限らないため、自分の状況に合わせてしっかり検討しましょう。
少しでも迷いがあるなら、一度専門家に相談してみてください。