この記事でわかること
- 共有で遺産を相続することの問題点がわかる
- 共有分割とは何かがわかる
- 共有分割協議書の書き方がわかる
目次
共有相続の問題点
被相続人が残した遺産を相続人で分割する際、遺産分割協議により1つの財産を1人の相続人が所有するようにします。
しかし、相続人ごとにバランスよく遺産分割しようとすると、1人で1つの財産を相続できない場合があります。
特に、金額の大きな土地については、他の相続人とのバランスを取りにくい財産といえます。
そこで、1つの土地などの財産を2人以上の相続人で相続し、突出して金額の大きくなる相続人が生じないようにするのです。
この分割方法を共有相続と言います。
共有相続の対象となる財産は、そのほとんどが土地や建物などの不動産になります。
しかし、共有相続は後に次のような問題が生じるので注意が必要です。
- 不動産を処分する際に共有者全員の同意が必要
- 不動産の利用や管理のために話し合いが必要
- 相続によりさらに共有者が増える
それぞれ詳しく見ていきましょう。
不動産を処分する際に共有者全員の同意が必要
共有相続の対象となった不動産を処分する際には、共有者全員の同意が必要となります。
そのため、共有者の中で意見が合わない場合、不動産を処分することができなくなるのです。
たとえば、共有相続した土地を、相続後に売却しようと考えた人がいた場合、その土地を売却するためにはすべての共有者が売却に同意しなければなりません。
共有者の中に売却したくないという人が1人でもいれば売却することはできないということです。
不動産の利用や管理のために話し合いが必要
不動産を処分する時だけでなく、不動産を保有するだけでも、共有者による話し合いを行う必要があります。
共有者同士で意見が合わないと、不動産を活用することも難しい状態となってしまう可能性があるのです。
たとえば、共有となっているアパートが老朽化し空室が増えてきたため、修繕して入居率を改善したいと考えた人がいるかもしれません。
一方で、アパートを取り壊して新しい物件を建てたいと考える人や、そのままの状態で細々と賃貸業を続ける方がいいという人もいるでしょう。
このように、共有者の中で共有物件に対する考え方が異なるため、思い切ったことができないまま、放置されてしまうことが多いです。
相続によりさらに共有者が増える
共有となっている不動産の共有者が亡くなると、不動産の一部が相続財産となります。
そのため、新たな共有者を遺産分割により決定しますが、ご紹介したように財産を共有することには多くのデメリットがあるため、なかなか相続人が決まらないことがあります。
そこで、共有物件の持分を相続する際に、何人かの共有とすることがあります。
その結果、最初は2人の共有だった不動産が、最初の共有者の配偶者、あるいは子どもが加わり3人、4人と共有者が増えてしまうことがあるのです。
こうなると、ますます共有者の意見をまとめることは難しくなり、売却も建て替えも取り壊しもできないこととなってしまいます。
共有物分割とは
共有物分割とは、複数人での共有状態となっている不動産の共有関係を解消し、単独所有にするための手続きです。
すでに共有となっている不動産を相続する場合、被相続人の持分を相続した後もその不動産は引き続き共有のままとなってしまいます。
しかし、共有不動産はその後の利用や処分が思いどおりに進まないというリスクがあるため、できるだけ単独所有に変更しておくのが望ましいのです。
そこで共有物分割により、不動産の共有状態の解消の手続きを行うことができるのです。
共有物分割の方法
それでは、具体的に共有物分割の方法には、どのようなものがあるのか確認していきましょう。
現物分割
現物分割とは、1つの財産を共有者ごとに単独所有の財産に分割することをいいます。
現物分割できるのは、土地を共有する場合です。
事例500㎡の土地を兄3/5、弟2/5で「現物分割」する場合
たとえば、500㎡の土地を兄弟で共有し、兄の持分は3/5、弟の持分は2/5だったとします。
共有している場合、実質的には兄は300㎡分、弟は200㎡分の権利を得るとともに義務を負っていることとなります。
しかし、あくまで土地としては500㎡の1つの土地であることから、兄の分と弟の分を分ける境界線は存在しません。
そのため、兄の分だけ、あるいは弟の分だけを売却することは非常に難しいのです。
そこで、兄の持分と弟の持分を分けるため、1つの土地を2つに分筆します。
兄の財産 | 弟の財産 |
---|---|
300㎡の土地 | 200㎡の土地 |
その結果、兄も弟も自分だけの意思で、その土地を利用することができるようになります。
第三者に売却することも、自分で住むために利用することもでき、さらに、賃貸物件を建てて、不動産業を行うこともできます。
換価分割
換価分割とは、共有する財産を売却した後に、売却代金を分割することです。
この方法は、相続した物件をどうしても保有し続けたいという共有者がいる場合はできません。
しかし、売却してもいいと考えている場合は、共有物件のまま売却し、代金だけを分割することができるのです。
事例500㎡の土地を兄3/5、弟2/5で「換価分割」する場合
たとえば、先ほどの例のように、500㎡の土地を兄が3/5、弟が2/5保有しているとします。
そして、兄弟で共有したまま、その土地を5,000万円で売却したとします。
この場合、売却した後に兄が3,000万円、弟が2,000万円の代金を受け取ることとなるのです。
代償分割
代償分割は、共有となっている財産について、共有者の1人が他の共有者の持分を取得することです。
共有者の中に持分を売却したい人がいる場合、その人の持分を他の共有者が購入することで、結果的に共有から単独所有となります。
事例500㎡の土地を兄 3/5、弟2/5で「代償分割」する場合
相続人 | 取得する財産 | 代償金 |
---|---|---|
兄 | 500㎡の土地(時価 5,000万円) | -2,000万円 |
弟 | 現金 2,000万円 | +2,000万円 |
先ほどの例では、500㎡の土地のうち2/5を所有する弟の持分を、兄が2,000万円で取得することで、兄の単独所有となります。
分筆のような手続きは必要ありませんが、購入する人はまとまったお金が必要となるため、誰でも利用できるわけではありません。
それぞれの分割方法のメリット・デメリットについては以下の記事をご覧ください。
共有物分割の手続きの流れ
共有物分割を行うためには、どのような手続きが必要なのでしょうか。
また、その際に必要となる書類には、どのようなものがあるのでしょうか。
共有物分割協議
共有物分割を行うためには、共有者同士で話し合いを行う場合と、裁判による場合があります。
まずは共有者全員で共有物分割協議会によって話し合いを行い、具体的な共有物分割の方法について意見統一を図ります。
なお、共有者全員が納得し、合意した上でないと分割を実施できないのでご注意ください。
共有物分割協議会が成立したら、共有物分割協議書を作成し土地の登記を申請します。
共有物財産分割調停
共有物分割協議の場で、共有者全員の同意を得ることができなかった場合、その話し合いは成立しません。
そこで、一段階先に進んで、調停委員と裁判官または調停官が相続人同士の話し合いを仲介する「共有物分割調停」が行われます。
調停委員に選ばれるのは、一般市民です。
調停委員は、相手方が席を外した状態で個別にそれぞれの主張を聞き、双方の主張をまとめた上で解決に導くという手順がとられます。
ただ、調停といっても、実際には当事者同士の主張を調停委員を通して行うだけとなる場合もあります。
そのため、共有物分割調停を行えば、必ず共有物分割がまとまるとは限りません。
共有物財産分割訴訟
共有物財産分割調停に納得できない場合には、裁判所に共有物分割訴訟を提起することができます。
共有物分割の訴訟を提起すると、3つの共有物分割のいずれかが行われることとなります。
ただ、これらの方法でも解決に至らない場合には、最終的に競売となるケースもあります。
ただ、競売になると売却価格は大きく下落してしまうため、売却してもメリットは大きくありません。
共有物分割請求訴訟の必要書類
共有物分割訴訟を提起する際には、訴状の他、以下のようなものが必要となります。
- 共有物分割協議の議事録(協議が不調となったことを示すもの)
- 不動産の固定資産税評価証明書
- 不動産の全部事項証明書
- 収入印紙
- 郵便切手代
これらの書類をそろえたら、不動産の所在地、あるいは被告となる相続人の住所地のいずれかを管轄する裁判所に訴えを起こします。
自身以外の共有者はすべて被告となるため、その住所地から裁判所を決定することができます。
共有物分割協議書の書き方
共有物分割協議書は、共有物の分割で合意に達した場合に、その内容を記載する書面です。
共有物分割の内容は、土地を共有者がそれぞれ単独所有となるように分割する場合もあれば、共有者の1人が他の共有者の持分を買い取る方法もあります。
また、その土地のすべてを第三者に売却した後、売却代金を持分に応じて分割することもできます。
その実態に合った共有物分割協議書を作成する必要があるため、注意しましょう。
例)持分を共有者の一方が買い取った場合の共有物分割協議書
まとめ
共有物となった財産は、その共有を解消しない限り、売却したり取り壊したりすることができません。
中には、何も手を付けられないまま放置されることもあり、資産価値が下落してしまうことも考えられます。
そのため、相続の際に大事なことは、極力、共有相続を行わないようにすることです。
また、共有となっている財産がある場合は、できるだけ共有所有を解消できるよう、話し合いを進めるようにしましょう。