この記事でわかること
- 生前整理を行うメリット・デメリット
- 生前整理の計画の立て方
- 生前整理の進め方やコツ
「終活とかエンディングノートとか生前整理という言葉をよく聞くようになった」
「妻や子どもたちに迷惑をかけないように、元気なうちにやっておかなければ」
「何から始めたらよいだろうと思っているうちに時間が過ぎてしまった…」
生前整理の必要性はわかっていても、進め方がわからないため、なかなか手をつけられない方は少なくないでしょう。
本記事では、生前整理と遺品整理・老前整理との違い、生前整理を行うメリット・デメリット、生前整理はいつ始めればよいか、生前整理の進め方やコツなどを弁護士が解説します。
生前整理とは
生前整理とは、人生の終わりが見える前に自身が所有する財産について確認し、身の回りの物を整理することをいいます。
ここでは、生前整理の必要性や、似た言葉である老前整理・遺品整理との違いなどをご説明します。
生前整理は「不要なものを捨てる」だけではない
生前整理は、自分が亡くなった後に、残された家族が遺品整理や遺産分割で苦労しないために、自身の財産や身の回りの物を整理・処分する活動をいいます。
いわゆる「終活」の一部と位置づけることができます。
老前整理・遺品との違い
生前整理は、老前整理・遺品整理と混同しやすいですが、三者には以下のような違いがあります。
生前整理 | 老前整理 | 遺品整理 | |
---|---|---|---|
行う人 | 本人 | 本人 | 遺族 |
行う時期 | 限定なし | 本人が高齢になる前 | 本人死亡後 |
目的 | 遺族の負担軽減 | 本人の老後の負担軽減 | 遺産分割を適正に行う |
対象 | 所有財産・身の回りの物 | 所有財産・身の回りの物 | 遺産・遺品 |
生前整理と老前整理との違い
生前整理と老前整理の主な違いは、「整理を行う目的」です。
老前整理は、自身の所有財産や身の回りの物を整理するという意味では生前整理と共通しています。
ただし、その目的が「自身が高齢になって財産の明確化や身の回りの物の整理が難しくなったときの負担を減らす」点で、生前整理と異なります。
生前整理と遺品整理との違い
生前整理と遺品整理との主な違いは「行う人と行う時期」です。
遺品整理は、亡くなった人の遺族(配偶者や子どもなど)が、亡くなった人の財産や遺品を整理・処分することをいいます。
遺品整理も、「財産や身の回りの物の整理をする」という意味では生前整理と共通しています。
しかし、遺品整理は「遺族が、本人の死亡後で行う」という点で異なっています。
生前整理を行うメリット・デメリット
生前整理には、以下のようなメリット・デメリットがあります。
メリット
生前整理を行うメリットは、主に以下の3つです。
家族の遺品整理の負担を減らせる
まず、家族の遺品整理の負担を減らせるというメリットがあります。
本人が亡くなって相続が発生すると、遺された家族は様々な手続を一定の期限内に行わなければなりません。
たとえば、権利証書や契約書などが見つからないと、すぐに行わなければならない手続きにも支障をきたしてしまうでしょう。
また、相続税の申告期限が「相続人が相続開始を知ったときから10カ月以内」であるため、それに間に合うように遺産分割協議を終わらせる必要があります。
しかし、宝飾品などの価値のある動産の有無や所在がわからないと、見つけるのに手間がかかって遺産分割協議が進まないことになりかねません。
さらに、価値のあるものと不要なものが混在していると、誤って捨ててしまうおそれもあります。
生前整理を行っておくと、遺族の負担を軽くしつつ、確実に遺産を引き継げるでしょう。
相続人間のトラブルを防げる
2つめのメリットは、相続人間のトラブルを防げることです。
相続人が相続財産の一部しか見つけられずに遺産分割協議を終えてしまうと、様々なトラブルが起こります。
まず、後から遺産が見つかった場合、遺産分割協議をやり直さなければならなくなります。
遺産分割協議は、法定相続人全員で行わなければ無効になります。
しかし、別々の場所に住んでいて仕事を持っている相続人が再び集まるとなると、それだけで時間や費用が余分にかかってしまい、不満を持つ人が出てくるかもしれません。
また、遺産分割協議の対象となった財産が「少ない」と感じて、「財産を隠している」と疑う相続人が出てくる可能性もあります。
生前整理をして、財産の内容や関係書類の保管場所、誰に相続してほしいかなどを家族に伝えておくと、このようなトラブルを事前に防ぐことが可能になります。
自分自身の気持ちの整理ができる
3つめのメリットは、自分自身の気持ちの整理ができることです。
家族の負担を減らし、トラブルを未然に防ぐ対策を講じておくと、万が一のときの不安を軽減できます。
不安が減ると、気持ちも前向きになるでしょう。
また、自分が持っている物を洗い出すことで、「仕事やライフスタイルについてのアイディアが思い浮かんだ」「これからの生き方を考えることができた」という収穫があるかもしれません。
デメリット
生前整理を行うことには多くのメリットがありますが、デメリットもあります。
以下に述べる「デメリット」を承知の上で、生前整理を行うことをおすすめします。
費用がかかる
まず、「費用がかかる」ということが挙げられます
たとえば、粗大ごみの処分費用、不用品買取業者や生前整理業者に作業・処分や査定を依頼する費用などがかかります。
また、不動産を売却する場合は、不動産会社に対する仲介手数料の支払いや、譲渡所得税・住民税などの税金の支払いが発生します。
不動産の取り扱いによって発生する費用などを含めれば、トータルで数十万円かかる可能性もあります。
ただし、これらを一度に全部やる必要はありません。
後述するように、あらかじめおおよその費用の見積もりと行動計画をたてた上で、時間をかけて進めていけばよいでしょう。
時間や労力がかかる
2つめのデメリットは、時間や労力がかかることです。
引越しの作業の手間を想像すればわかるように、目に見える「身の回りの物」を整理・処分するだけでもかなりの時間と労力がかかります。
また、不動産や保険・資産運用など、契約関係の取り扱いや見直しにあたっては、自分の判断だけでは難しく、専門家のアドバイスを受けたほうがよいでしょう。
その場合は、相談できる専門家を探す手間もかかります。
生前整理を始める時期
生前整理は、期限が決まっていないだけに「いつでもできるので、いつまでたってもやらない」ということになりがちです。
生前整理を始めるべき時期としては、どのようなタイミングがあるでしょうか。
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本記事をお読みになっている方は、生前整理をしようと思い立った、あるいは生前整理について気になって調べ始めたという状況ではないでしょうか。
まず、やることリストを作るといった「第一歩」だけでも踏み出してみましょう。
年齢的にまだ「生前整理」という言葉に抵抗を感じる場合は、「身の回りをすっきりさせたい」などの自分が納得できる動機で行うのをおすすめします。
子どもが自立して実家を出たとき
子どもが就職や結婚で実家を出たときは、生前整理を始めるよいタイミングといえます。
子どもが物理的に家を離れた後に親が亡くなると、子どもが家に帰って遺品整理をしなければならなくなります。
生前整理を行っていなかった場合、遺品整理の際に子どもは数日仕事を休む、あるいは子どもを預けるなどしなければならなくなるでしょう。
まず、子どもが実家を出たタイミングで、できれば貴重品・重要書類の所在の明確化や一部の不用品処分などだけでも行っておくのをおすすめします。
定年退職後
定年退職後も、生前整理を始めるタイミングとして適しています。
定年退職後は、仕事に追われることなく、時間をかけて自分のペースで生前整理を進められます。
時期的には老前整理と変わらないともいえますが、「老後の負担を減らす」という老前整理の目的もかねて行うとよいでしょう。
住み替えのタイミング
特に賃貸住宅や分譲マンションに住んでいる方は、住み替えのタイミングで生前整理を行うのもおすすめできます。
引越しのときは、移動の日までに出ていく家を「空」にしなければなりません。
また、転居に伴って様々なサービスの契約で連絡先の変更手続きが必要になります。
このタイミングは、家財道具や自分の持ち物の片付けや整理、重要書類のまとめ作業、契約関係の見直しなどの絶好のチャンスともいえます。
生前整理の進め方
生前整理は、以下の流れで進めるのをおすすめします。
必要なものと不要なものを分別する
まず、必要なものと不要なものを分別する作業を行いましょう。
「もの」には、家財道具や衣類、本、書類などの形がある「物」と、パソコンやスマホなどのデジタル機器に保存された「データ」があります。
形がある「物」の分別
形がある「物」の分別については、昨今の断捨離ブームにみられるように「捨てる」のを推奨する本やブログ記事などが沢山あります。
確かに、多くの物を捨てる決断をして、結果的にそれでよかったというのも多いでしょう。
しかし、分別は必ずしも大量に物を捨てることを意味するわけではありません。
最初はとりあえず「必要な物」と「いらない物」を分けて、それぞれをノートなどに書き出しておく、あるいはいらない物を箱に入れておくだけでも十分です。
デジタル機器に保存された「データ」の分別
パソコンやスマホに保存された画像、動画、メール、SNSの投稿などのうち、不要なものと他人に見られたくないものを分別しておくのも大切なことです。
データの分別をする際には、
- 不要なものを消去する
- 見られたくないものはパスワードをかける、または消去する
のような順序がおすすめします。
パソコンやスマホのデータは大量に蓄積していることが多いので、すべてを一度に整理するのは難しいでしょう。
「画像を1日何件消去する」など、具体的な作業を毎日少しずつやるようにすると、データ整理の習慣が身につきます。
財産関係の整理を行う
次に、「お金」にかかわる物や情報の整理を行います。
財産関係の物や契約の整理は、セキュリティの都合上、本人でなければできない、あるいは家族が代わりに行うと非常に手間がかかるものが多くあります。
お金関係のほうが気になるという方は、こちらを先に進めてもよいでしょう。
クレジットカードの整理をする
お金にかかわる整理の中でも、優先的に行いたいのはクレジットカードの見直しです。
相続段階で、クレジットカードの解約を遺族が行うのにはかなりの手間がかかります。
生前整理の段階で、不要なクレジットカードの解約を自身で行っておくのをおすすめします。
また、ショッピングのリボ払いやカードローンの残高が多いと、利子の支払いが長年続き、多額の債務を相続することになりかねません。
残高や返済状況によっては、弁護士に債務整理の相談をおすすめします。
デジタル機器やネット上で管理された財産を整理する
「デジタル遺産」とも呼ばれる、デジタル機器やネット上で管理された財産の整理も必要です。
これらの情報はすべてデジタル機器やインターネット上で管理されているため、他者から見えにくいという問題があります。
「デジタル遺産」には定期課金や為替取引など、マイナス財産あるいはマイナス財産になるおそれのある情報も含まれます。
本人が情報の内容を把握して整理しておくと、遺産整理時のトラブルを防ぐことができるでしょう。
- 【デジタル遺産の例】
- 有料会員サービスの契約料
- 暗号資産
- 証券会社の取引関連情報
- 電子マネーその他のキャッシュレス決済情報
- 各種ポイント
エンディングノートや財産目録を作成する
物やデータ、財産関係の整理を行ったら、エンディングノートに行動記録を残す、財産目録に財産関係の情報をまとめることをおすすめします。
各種の暗証番号やパスワードなどで相続に必要な情報は、紙に書いて封筒に入れて封緘するか、エンディングノートに書いてセキュリティシールを貼るなどして保管しましょう。
生前整理を業者に依頼する
ここまでは、生前整理を自力でやることを前提にしていました。
しかし、不用品の量が多い、多忙で整理作業に時間を取りづらいなど、自力ですべてやるのが困難な場合は、生前整理の一部またはほぼすべてを業者に依頼するという方法もあります。
自力である程度できる場合は不用品買取業者に依頼する
分別・処分がある程度自力でできる場合は、不用品の売却や処分を買取業者に依頼するのをおすすめします。
買取業者は、買取と有料回収を両方行う業者から、特定ジャンルで価値のある物の買取りだけを行う業者まで千差万別です。
不当に高い料金を支払わされる・価値があるものを安値で買いたたかれるなどの悪質な業者を見分けるため、複数の業者の見積もりを取るなどして比較検討するとよいでしょう。
自力での生前整理が難しい場合は生前整理業者に依頼する
自力での生前整理が難しい場合は、生前整理業者に依頼することを検討しましょう。
生前整理業者は、依頼者又は家族の立ち合いのもとに、分別・片付け・清掃・不用品買取りを引き受ける業者です。
生前整理業者を探す場合は、下記の遺品整理士認定協会のページから検索や電話相談を行うことをおすすめします。
(一般財団法人 遺品整理士認定協会)
生前整理をするコツ
生前整理を行うには、かなりのエネルギーを必要とします。
ここでは、生前整理をするコツをご紹介します。
ポジティブな動機づけを行う
生前整理というと「縁起が悪い」「死ぬ準備をするなんて」など、ネガティブなイメージを持つ方もいるかもしれません。
前述したように、生前整理という言葉に抵抗を感じるならば、自身が行動を起こしたくなるようなポジティブな動機づけを行うのをおすすめします。
まず、家の中を片づけること自体が、心身にポジティブな影響をもたらします。
「断捨離をしたら頭がすっきりして気持ちが前向きになった」という話はよく聞きますし、「片づけを徹底的にやったら、身体も軽くなった」という経験をする方も少なくないようです。
また、エンディングノートを書くことで、「これからの人生を悔いなく生きるために自分がやりたいこと、やるべきだと思ったことが明確になる」という効果が得られます。
自分に合った方法で進める
生前整理については、よく「やることリストを作る」「計画をたてて進める」などをすすめられるでしょう。
確かに、生前整理はやることがありすぎて何から手をつけてよいかわからない、ということになりやすいです。
そこで、前章で提案した「進め方」のように、ある程度順序だてて行動するのが役に立ちます。
どの程度計画的に行うかについては、その人の性格や気質に合った方法をとるほうがよいでしょう。
綿密な計画を立てるのが好きな方もいれば、計画を立てること自体を億劫に感じてしまう方もいるかもしれないからです。
特に後者にあてはまる方は、「最低限、お金関係の重要物や情報だけ自分で整理して、あとは生前整理業者を頼んで業者と一緒にやる」くらいのやり方でもよいでしょう。
ただし、自分のエネルギーをあまり割かず、かつしっかり整理を行うためには、それなりの費用を見込む必要はあります。
無理のない形で家族の協力を得ながら進める
自分の生前整理のために配偶者や子どもに片づけなどを手伝わせるのは気が引ける、あるいは相手が嫌がる、というのもあるかもしれません。
一方で、万が一のときに家族が「どこに何があるかわからない」という状態にさせないことも必要です。
そこで、できるだけ負担をかけない範囲で、家族の協力を得ながら整理作業を進めるとよいでしょう。
たとえば、重要書類のまとめ作業自体は自分で行った上で、家族がわかりやすい場所に保管してもらうなどです。
まとめ
生前整理には費用や時間・労力がかかりますが、自分が動けるうちに行っておくと、遺族の負担を減らすとともに、快適な余生を過ごす手がかりを得ることができます。
生前整理を進める中で、財産関係の問題が発生した場合や、何らかのトラブルが予見される場合、あるいは生前整理を終えて遺言を作成する場合などには、遺産相続問題を専門とする弁護士に相談するのをおすすめします。