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最終更新日:2024/4/15

成年後見人の報酬の相場はいくら?目安と払えないときの対処法

弁護士 水流恭平

この記事の執筆者 弁護士 水流恭平

東京弁護士会所属。
民事信託、成年後見人、遺言の業務に従事。相続の相談の中にはどこに何を相談していいかわからないといった方も多く、ご相談者様に親身になって相談をお受けさせていただいております。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/tsuru/

成年後見人の報酬の相場はいくら?目安と払えないときの対処法

この記事でわかること

  • 成年後見人の受け取る報酬の相場・目安
  • 報酬の決定者・負担者
  • 報酬付与申立ての手続き

成年後見人は、認知症など自分ですべての意思決定ができない人が財産を守るための制度です。

成年後見人となった人は一定の報酬を受け取るとされていますが、その報酬の決め方やおおよその相場はどのようになっているのでしょうか。

この先、誰もが関係する可能性のある成年後見人制度と、その報酬について解説します。

成年後見人とは

成年後見人とは、精神・知的障害や認知症などで判断能力が低下した人の財産管理や契約といった法律行為を代行する人です。

成年後見制度に基づいて、意思決定に不安を抱えた人を悪質商法や不当な契約から守ります。

また、希望に沿った医療・介護が受けられるよう手助けする役割も担うのです。

成年後見には、法定後見と任意後見の2種類があり、本人の判断能力の状態により選べる種類が異なります。

法定後見はすでに判断能力が低下した人が対象ですが、任意後見はまだ自身で判断できる人が事前に契約し将来に備える場合の制度です。

成年後見では状況に合わせ、適切な制度・人物を選ぶ必要があります。

成年後見人は弁護士や司法書士など法律の専門家だけでなく、条件を満たし家庭裁判所から選任された一般の人でも問題ありません。

ただし、「制度を利用する本人と訴訟関係にある」といったトラブルを抱えた人や、未成年などは成年後見人になれません。

成年後見人の報酬額の決め方・報酬相場

成年後見人に対する報酬の計算方法は、法律で決められているわけではありません。

ただし、過去の裁判例や事例の積み重ねにより、ある程度の相場が形成されています。

報酬を決めるうえでポイントになるのは、実際に管理する財産の額と被後見人において発生した特別な事情です。

成年後見制度は、法定後見制度と任意後見制度の2種類があるため、それぞれみていきましょう。

法定後見制度の報酬相場

財産の額にもとづいて決められる報酬を「基本報酬」、特別な事情により発生する報酬を「付加報酬」といいます。

基本報酬

裁判所が成年後見人を定める基本報酬は、月2万~6万円が相場です。

過去の裁判例では、成年後見人の報酬は成年後見人と被後見人の資力や近親関係の有無、職業、社会的地位、後見の難しさなどの事情を考慮して決められます。

しかし、あらゆる要素を考慮して基本報酬の額を決定するには、時間的にも限界があります。

そのため現実的には、基本報酬の額は管理する財産の額によって決められるのです

裁判所が公表している成年後見人の報酬の目安は、以下のとおりです。

管理する被後見人の財産の額 報酬(月額)
1,000万円以下 2万円
1,000万円超5,000万円以下 3~4万円
5,000万円超 5~6万円

出典:東京家庭裁判所「成年後見人等の報酬額のめやす」

このような報酬の決め方は、財産の額が同じ場合には報酬の額もほぼ同じになるため、一見すると公平であるように思われます。

しかし、財産の額が同じであっても、成年後見人としての業務の難しさが一切報酬に反映されない問題点があるのです。

特に、財産の額が大きい人の成年後見人となった場合には、特に成年後見人としての業務を行っていなくても多額の報酬が発生するため、被後見人にとっては大きな負担となります。

逆に、財産の額が少なくても成年後見人としての業務が複雑な場合は、成年後見人にとって負担となるケースがあるのです。

付加報酬

成年後見人としての業務の困難さや身上監護に特別な事情がある場合を加味して、基本報酬の50%の範囲内で報酬が付加されます。

この報酬を付加報酬といいます。

特別な事情とは、例えば多数の収益不動産を保有しているため管理が複雑な場合、親族間で激しい意見対立がありその調整が必要な場合、成年後見人の不正が発覚したために新たな成年後見人が就任してその対応を行った場合などです。

ただし、このような付加報酬は必ず認められるわけではなく、最大でも基本報酬の50%とされています。

実際に支払われる金額は、高額にならない場合が多いです。

また、これとは別に、成年後見人の特別な働きにより付加報酬が支払われるケースもあります。

  • ①被後見人が不法行為を受けたために起こした訴訟に勝訴し、被後見人の管理財産額を1,000万円増加させた場合は80万円~150万円程度
  • ②被後見人の配偶者が亡くなったために遺産分割調停を申し立て、調停を成立させて2,000万円の遺産を被後見人に取得させた場合は55万円~100万円程度
  • ③居住用不動産を任意売却したために、被後見人の療養看護費用3,000万円の資金を準備させた場合は40万円~70万円

その行為の難しさや金額的な貢献の大きさに応じて、付加報酬の額も変動します。

任意後見制度の報酬相場

任意後見人や任意後見監督人に支払う「月額報酬」、専門家に手続きを依頼した場合の「各種手続き報酬」があります。

月額報酬(定額報酬)

任意後見人の報酬は、任意後見人と被後見人で決めます。

自由に決めて良いとされていますが、通常は月額報酬制で、法定後見制度の報酬や一般的な相場を鑑みて決定するのです。

また、誰が任意後見を行っているかや、資産の量で金額の相場が異なります。

親族や家族が任意後見人の場合、相場は無報酬もしくは月3〜5万円程度です。

弁護士や司法書士など法律の専門家が任意後見人を担当する場合は月2〜6万円で、資産が多いほど高額になります。

任意後見制度の場合、任意後見人が適切に業務を行っているか監督する任意後見監督人が裁判所から選任されます。

この任意後見監督人にも裁判所が決定した月額報酬を支払う必要があり、相場は1〜3万円程度です。

任意後見監督人の報酬は、資産が5,000万円を超えているかがポイントとなります。

資産が5,000万円未満の場合は1〜2万円、以上の場合は2.5〜3万円が目安と考えましょう。

各種手続き報酬

任意後見では、日常的な業務の他に特別な業務を依頼する場合があります

自宅の売買や増改築といった不動産や医療・介護に関わる契約などの業務です。

将来、上記に関する契約が必要になる可能性があれば、任意後見の契約書に、報酬金額とともに記載しなければなりません。

任意後見人が家族の場合、特別な業務については無報酬で行うケースが多いです。

ただし、専門家に依頼する場合は別途報酬が必要となります。

相場は取引の種類により異なりますが、1つにつき、5,000円〜3万円程度となるのが一般的です。

また、特別な手続きがある場合は、付加報酬として任意後見監督人にも通常報酬の50%までの範囲で報酬を支払う必要があります。

成年後見人の報酬は誰が決めるのか

被後見人は、その制度を利用する段階で判断能力が著しく低下しているため、成年後見人と折衝して妥当な報酬額を決定するのは難しい状況にあります。

また、報酬額を成年後見人が一方的に決定すると、本来の趣旨である判断能力が低下した人の財産保護に反する結果となる可能性もあります。

そこで、成年後見人に対する報酬の額は、家庭裁判所で行われる「報酬付与の審判」によって決まります

この「報酬付与の審判」は、成年後見人となる人が申し立てをして行われるのです。

親族が成年後見人となる場合に報酬が支払われないのは、実務的にはこの申し立てを行っていないためです。

もちろん、報酬のために成年後見人になるわけではないとの前提があり、無報酬となる場合もあります。

いずれにせよ成年後見人になった人でも、報酬付与の審判を行わずに被後見人の口座から勝手にお金を引き出してはならないのです。

成年後見人の報酬は誰が負担するのか

成年後見人に対して支払われる報酬は、成年後見人制度の利用者の家族や親族が負担すると考えるかもしれません。

しかし、実際にはその制度を利用する被後見人が負担します。

認知症や知的障害などで判断能力が低下している人が成年後見人に対して報酬を払えるほどの資力があるのか、と疑問があるかと思います。

現実的に被後見人の財産が全くなければ、成年後見人に対して報酬を支払えません。

ただ、無報酬では成年後見人になってくれる人が誰も見つからない状況にもなりかねません。

そこで、誰でも成年後見人制度を利用できるよう、多くの自治体では報酬の支払いを助成する制度を設けています。

成年後見人が報酬を得るための申立て手続き

成年後見人の報酬は基本的に後払いです。

また、受け取るために規定の書類を用意して、報酬付与申立てを行う必要があります。

申立てのタイミングに決まりはありませんが、手続きを行い報告した期間分しか報酬を受け取れない点に注意しましょう。

報酬付与申立ての頻度

成年後見人の報酬付与申立ての頻度について、法律による明確な決まりはありません。

一般的には被後見人が亡くなり任意後見が終了した時点もしくは、1年おきに申立てます

ただし、申立てを行う際には報告書の提出が必要です。

後見終了時に申立てすると、手続きが1回で済みますが、記録が古くなり量も多くなるため報告書をまとめる手間がかかります。

また、一括で報酬を受け取った場合、後見人が税務上不利益を被る可能性があります。

定期的に申立てを行う場合は、手続きの回数が増えますが、年に1回の定期報告を行っている場合、再度報告書を作成する必要はありません。

定期的な申立てを行えば、正確な報告書が作りやすく、定期的に報酬を受け取れます。

報酬付与申立ての流れ・必要書類

報酬付与申立てには、書類作成、申立て、審議、報酬受け取りの流れがあります。

まずは、報酬付与の申立てで必要な以下の書類を用意しましょう。

  • 申立書
  • 報酬付与申立事情説明書

以下の書類については後見等事務報告時に提出していなければ、提出が必要となります。

  • 事務報告書
  • 収支予定表
  • 財産目録
  • 通帳の写し
  • 付加報酬に関する資料

裁判所にその他の資料を求められた場合は、併せて提出します。

また、書類以外に収入印紙(800円)と切手(82円)も必要です。

書類を揃えて申し立てを行うと裁判所による審議が行われ、2週間程度で結果が通知されます。

「審判書」により結果を確認したら、指定された額を被後見人の口座から引き出して報酬の受け取りが可能です。

まとめ

成年後見人の報酬は、管理する財産の額が大きくなるほど高くなります。

また、その業務の内容が複雑になるほど、あるいは資産の増加やスムーズな療養看護に貢献するほど高くなります。

高齢化社会が進むにつれ、利用者が増えると予想される成年後見人制度について、今一度考えるきっかけとしてください。

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