この記事でわかること
- 生前贈与に使える生命保険の種類
- 生命保険を活用した生前贈与のメリット・デメリット
- 生命保険を活用した生前贈与の注意点
生前贈与した財産は遺産分割の対象から外れるため、相続争いを防止する効果があります。
また、生前贈与すると相続財産が減少するので、相続税対策としても有効な手段です。
一般的な生前贈与は現金や預貯金、不動産などの移転ですが、生命保険を活用すると、相続対策の効果がさらに大きくなるケースがあります。
生命保険の種類や契約形態によっては、贈与税のかからない生前贈与も可能になるでしょう。
今回は、生命保険を活用した生前贈与について、メリット・デメリットなどをわかりやすく解説します。
生前贈与に使える生命保険の種類
生命保険を使った生前贈与には、以下の2パターンがあります。
- 生存給付金を贈与する
- 保険料を生前贈与する
どちらも金額によっては贈与税がかからなくなり、相続税を低く抑える効果もあるので、生命保険の種類や契約形態は以下を参考にしてください。
生存給付金が受け取れる一時払い終身保険
生存給付金が受け取れる一時払い終身保険に加入すると、生存給付金を生前贈与に活用できます。
たとえば、一定期間ごとに支払われる生存給付金を110万円以下で生前贈与すると、贈与税がかかりません。
生前贈与には年間110万円の基礎控除があるので、生存給付金も含めた1年間の贈与が110万円以下であれば、贈与税の申告・納税は不要です。
また、一時払い終身保険の場合、保険料は加入時に一括払いするため、現金資産の減少につながり、相続税対策としての効果もあります。
一時払い終身保険は加入者の年齢制限が緩やかなので、高齢な方でも契約できるでしょう。
生前贈与したお金で保険料を払い込む
一般的な生命保険に加入する場合、生前贈与したお金で保険料を払い込むと、非課税贈与が可能になるケースもあります。
たとえば、以下のように被保険者と保険料負担者を分けておくとよいでしょう。
- 被保険者:親
- 保険料の負担者:子供
- 保険金の受取人:子供
親が子供へ年間110万円以下の現金を贈与し、その現金で子供が保険料を払い込むと、贈与税はかかりません。
贈与した現金をそのまま保険料に使うため、子供の手元には何も残りませんが、将来的には死亡保険金を受け取ることができます。
親の現金資産も確実に減少するので、相続税の節税効果も十分に期待できるでしょう。
生命保険を活用した生前贈与のメリット・デメリット
生命保険を活用して生前贈与する場合、以下のようなメリット・デメリットがあるので、どちらも十分に理解しておかなくてはなりません。
メリットには節税や相続争いを回避する効果などがありますが、保険金が目減りするデメリットも考えられるでしょう。
生命保険を活用した生前贈与のメリット
生命保険を活用して生前贈与すると、以下のメリットがあります。
- 運用利益が見込める可能性がある
- 死亡保険金は受取人の固有財産として扱われる
- 生命保険の活用で相続争いの可能性を減らせる
- 相続税対策にも利用が可能
- 受贈者の浪費を回避できる
- 相続を放棄した場合でも、保険金の受け取りが可能
生命保険の一般的なイメージは「遺族の生活保障」ですが、相続対策にも活用できるので、具体的な内容は以下を参考にしてください。
運用利益が見込める可能性がある
加入者から払い込まれた保険料は、保険会社によって運用されます。
親から生前贈与された現金で子供が保険料を払い込んだ場合、運用益が発生したときは贈与額以上の保険金を受け取れるでしょう。
貯蓄型や外貨建て保険などを選ぶと、高い運用益を期待できる可能性があります。
死亡保険金は受取人の固有財産として扱われる
死亡保険金は民法上の相続財産ではなく、受取人の固有財産になるため、遺産分割の対象から外れます。
確実に財産を残してあげたい相続人がいるときは、死亡保険金の受取人に指定しておきましょう。
相続争いを回避できる
主な相続財産が不動産に偏っており、現金や株式などの財産が少ないケースでは、生命保険の活用で相続争いの可能性を減らせる可能性があります。
たとえば、資産価値の高い不動産を長男が相続し、わずかな預金を次男が相続した場合、兄弟間に不公平が生じるため、争いに発展する可能性があります。
しかし、不動産と同額の保険金を次男が受け取るようにすると不公平な遺産分割が解消されるので、相続争いを回避できるでしょう。
相続税対策にも利用が可能
死亡保険金は税法上の「みなし相続財産」として扱われるため、相続税の課税対象になりますが、以下の非課税枠を超えた部分しか課税されません。
- 死亡保険金の非課税枠:500万円×法定相続人の数
法定相続人が3人いるときは、死亡保険金1,500万円(500万円×3人)が非課税になるため、現金や預貯金の相続よりも節税効果が高くなります。
受贈者の浪費を回避できる
受贈者に贈与した現金を保険料の払い込みに充てると、贈与財産の浪費を回避できます。
使い道を限定しない生前贈与の場合、毎年110万円程度の現金を渡し続けると、受贈者の年齢が若ければ金銭感覚が狂ってしまう可能性があります。
しかし、現金や株式などの金融資産ではなく、生命保険を活用した生前贈与にすると、ギャンブルなどに浪費される心配はありません。
相続を放棄した場合でも、保険金の受け取りが可能
死亡保険金は民法上の相続財産ではないため、相続放棄した人でも受け取れます。
相続開始までに返し切れない借金があり、将来的に家族が相続放棄を選択する可能性があるときは、生命保険の生前贈与が相続対策になるでしょう。
生命保険を活用した生前贈与のデメリット
生命保険を活用して生前贈与する場合、以下のデメリットが生じるケースもあります。
- インフレで保険金の価値が下落するリスクがある
- 元本割れのリスクがある
- 契約満了までの期間が長い
- 他の相続人から特別受益を主張される可能性がある
インフレや元本割れは経済的な損失ですが、特別受益は相続争いに発展する可能性があるので、以下を参考にしてください。
インフレで保険金の価値が下落するリスクがある
物価の上昇によってインフレ状態になると、貨幣価値が下がるため、受け取った保険金も目減りします。
インフレの影響を受けやすい終身保険などに加入しているときは、資産の一部を株式に組み換えるなど、損失が出にくいように調整する必要があるでしょう。
元本割れのリスクがある
生命保険は元本割れのリスクがあるので、運用次第では保険金が贈与額を下回ります。
変額保険や外貨建てなどの保険はハイリスクハイリターンになるため、大きな運用益を期待できますが、損失の影響も大きいので注意してください。
中途解約も元本割れする場合があるので、保険商品の選び方や保険料負担にも注意しておきましょう。
契約満了までの期間が長い
生命保険は契約満了までの期間が長いため、途中で贈与者(被保険者)が亡くなると、生前贈与の計画が狂ってしまう可能性があります。
10年先を見越して1,000万円以上を贈与する予定でも、贈与者の死亡によって生命保険を中途解約すると、元本割れになる確率が高いでしょう。
他の相続人から特別受益を主張される可能性がある
高額な保険料や生存給付金を生前贈与すると、受贈者は他の相続人から特別受益を主張される可能性があります。
生前贈与が特別受益に該当した場合、受贈者は相続できる財産を少なくされるため、高額な生前贈与はトラブルの原因になりかねません。
特別受益は判定が難しいので、遺産分割協議がまとまりにくくなり、相続税申告などの期限に間に合わなくなる場合があります。
生命保険を活用した生前贈与の注意点
生命保険を活用して生前贈与する場合、契約形態によっては死亡保険金に贈与税や所得税がかかります。
税務署が生前贈与を認めなかったときは、保険料などの贈与分が相続財産に加算されるので、以下の注意点をよく理解しておきましょう。
生命保険の契約形態で課税される税金が変わる
生命保険は契約形態によって課税される税金が変わるので、以下の例を参考にしてください。
- 相続税のパターン:被保険者と保険料負担者が父親、保険金受取人が子供
- 贈与税のパターン:被保険者が父親、保険料負担者が母親、保険金受取人が子供
- 所得税のパターン:被保険者が父親、保険料負担者と保険金受取人が子供
保険料が1,000万円、死亡保険金が1,500万円の場合、課税額は以下のようになります。
- 相続税:1,500万円-非課税枠500万円=1,000万円(相続人が1人の場合)
- 贈与税:1,500万円-基礎控除110万円=1,390万円
- 所得税:1,500万円-保険料1,000万円-特別控除50万円=450万円
同じ条件で計算すると所得税がもっとも低くなるので、契約形態別のシミュレーションが必要です。
贈与契約書を必ず作成しておく
生命保険を活用して生前贈与するときは、贈与契約書を必ず作成してください。
以下の内容で贈与契約書を作成しておけば、当事者同士の合意があったことを証明できます。
- 表題:贈与契約書
- 贈与者
- 受贈者
- 贈与財産
- 贈与方法
- 贈与日
- 契約日と贈与者・受贈者の署名捺印
贈与契約書は贈与する都度作成し、記録が残るように銀行振込みで保険料などを贈与しておきましょう。
贈与税を申告しておく
基礎控除を少しだけ超えるように生前贈与を行い、贈与税を申告しておくと、保険料や生存給付金が贈与であったことを証明できます。
たとえば、111万円を生前贈与したときの贈与税は1,000円になるので、税負担もわずかです。
贈与税申告の手間はかかりますが、毎年同じパターンで申告書を作成するため、2年目以降は慣れてくるでしょう。
ただし、申告期限を過ぎると追徴課税があるので、贈与があった年の翌年2月1日から3月15日の間に申告・納税を済ませてください。
相続時精算課税制度も検討しておく
相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母や祖父母から、18歳以上の子供や孫に生前贈与した場合、2,500万円までが非課税になる特例制度です。
2,500万円を超える金額には一律20%の税率が適用されるため、贈与額が大きくなるほど節税のメリットが増します。
暦年贈与(一般的な生前贈与)との併用はできませんが、2024年1月1日以降は110万円の基礎控除が新設されるので、利便性の高い制度になるでしょう。
ただし、相続税精算課税制度で生前贈与した場合、相続時の財産に贈与財産を加算するため、相続税の節税効果は期待できません。
一時払い終身保険の加入が難しいときや、生命保険以外でまとまった財産を渡したいときは、相続時精算課税制度を検討してもよいでしょう。
まとめ
生命保険を活用して生前贈与すると、節税や相続争いを回避できる効果があるので、メリットの大きな相続対策になります。
早めに現金資産を減らしておきたい方は一時払い終身保険、生存給付金を生前贈与したい方は生存給付金付定期保険などが向いているでしょう。
ただし、契約形態によっては課税される税金が高くなり、元本割れやインフレリスクが高い生命保険もあるので、十分な検討が必要です。
生前贈与に生命保険を活用するときは、ファイナンシャルプランナーや税理士などのアドバイスを参考にしてください。