この記事でわかること
- 相続税対策に生命保険を活用するメリットが分かる
- 相続財産に生命保険金が含まれるときの相続税の計算方法が分かる
- 相続税対策に生命保険を利用するときの注意点が分かる
相続税の負担を軽減する手段として、生命保険の活用があります。
たとえば、生命保険金が一定額までは相続税から除外されることや、予期せぬ相続税の支払いに保険金を使えるなどです。
生命保険を使った相続税対策にはどんなメリットがあるのか、具体的な計算方法や、税金がかからない非課税枠の活用方法まで、生命保険を活用して賢く節税する方法を解説します。
相続税対策に生命保険を活用するメリット2つ
相続税を負担を軽減するための一つの方法が、生命保険をうまく活用することです。
具体的なメリットとして、次の二つの点が挙げられます。
相続税の負担を減らせる
生命保険はお金を残すための方法の一つですが、相続税対策にも使えます。
生命保険から得られたお金(死亡保険金)は、ある程度の額までは相続税から除外することができます。
つまり、生命保険をうまく使うことで、相続するお金の一部を税金として納める必要がなくなる場合があります。
非課税となる額については、後で詳しく説明します。
納税資金を準備できる
生命保険があると、相続税の支払いに使える資金を準備できます。
相続税は予想外に高額なことも多く、いざという時にその分のお金を用意するのは大変です。
しかし、生命保険があれば、その保険金を相続税の支払いに使うことができます。
これにより、税金の準備に困るリスクを減らすことができます。
相続税計算時の生命保険の取扱い
相続税の計算はかなり複雑です。
相続税が課税される財産と相続人の相続割合をそれぞれ個別具体的に評価し、計算しなくてはなりません。
例外や特例が毎年変わるのも特徴です。
ここでは、おおまかに理解していただけるように、基本的な考えを説明します。
相続税の計算の基本的な仕組み
相続税の計算は次の順序で行います。
- 課税対象の遺産総額を求める。
- 相続税の総額を求める。
- 各⼈の納付税額を計算する。
順に説明しましょう。
課税対象の遺産総額を求めかた
課税対象の遺産総額を求めるに当たって、まず、本来の相続財産にみなし相続財産を加えます。
本来の相続財産とは、相続によって取得した財産です。
具体的には、遺言や遺産分割協議で取得した財産のことをいいます。
不動産や預貯金、有価証券が代表的なものとして挙げられるでしょう。
みなし相続財産とは、税法上、相続財産とみなされるという意味で、本来の相続財産の他に相続税がかかる財産のことです。
みなし相続財産に該当するものは、細かく挙げると色々とありますが、代表的なものは生命保険金と生前贈与です。
(生前贈与については、従来、相続開始前3年以内に取得したものが対象でしたが、税法改正により、2024年以降の贈与からは、相続開始前7年以内に取得したものが対象となります。)
次に、そこから債務、葬式費用、非課税財産を差し引きます。
この非課税財産に該当するものも、細かく挙げると色々とありますが、代表的なものが生命保険金の非課税枠です。
さらに、そこから基礎控除額を差し引きます。
基礎控除額は次のように求めます。
- 基礎控除額 = 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)
こうして算出されたものが、課税対象の遺産総額となります。
相続税の総額を計算する
課税対象の遺産総額が計算できたとしても、直ちに相続税額が分かるわけではありません。
相続税は各人ごとに課税されるため、各人の取得額によって税率が異なる場合があるからです。
このため、まず、課税対象の遺産総額を法定相続分で按分します。
法定相続分とは、法律で定められた相続財産の取得分の割合です。
遺言や遺産分割協議で、実際に取得した財産の割合で按分するのではないことに注意してください。
たとえば、配偶者と三人の子がいる場合、法定相続分は次のようになります。
- 配偶者:2分の1
- 子A、子B、子C:6分の1
次に、各人の税額を計算します。
法定相続分に応ずる取得金額を相続税の速算表に当てはめて、相続税の総額の基となる税額を算出します。
この速算表に当てはめて算出した税額を合計したものが、相続税の総額になります。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
1,000万円超から3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超から5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超から1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超から2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超から3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超から6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
参考:国税庁 相続税の早見表
このようにして各人の税額を計算し、それらを合計して、相続税の総額を求めることができます。
各⼈の納付税額を計算する
最後に、相続税の総額を実際の相続割合で按分し、各⼈の納付税額を計算します。
このとき、人によっては税額控除を受けられる場合があります。
相続税の税額控除には、細かく挙げると色々とありますが、代表的なものは配偶者の税額軽減が挙げられます。
配偶者の税額については、配偶者の法定相続分または1億6000万円までは非課税のため、いずれか大きい金額に対応する税額を差し引くことができます。
相続税の対象となる生命保険金
生命保険金と税金の関係は、被保険者、保険契約者、保険金受取人によって変わります。
生命保険金が相続税の対象となるのは、次の場合です。
- 被保険者(保険の対象者)と保険契約者(保険料の負担者)が同一である。
- 保険金受取人が相続人である。
これ以外の場合は、相続税ではなく所得税(+住民税)や贈与税の対象となります。
生命保険金とみなし相続財産
前述したように、税法上、本来の相続財産の他に相続税がかかる財産を、みなし相続財産といいます。
生命保険金は、このみなし相続財産に当たります。
つまり、生命保険金の受取金額は、課税対象の相続財産に加えなければならないものです。
生命保険金の非課税枠
しかし、受取保険金のすべてに相続税がかかるわけではありません。
生命保険金には非課税枠が設けられています。
生命保険金の非課税枠は、次の計算式で求めます。
- 非課税枠の額 = 500万円 × 法定相続人の数
すべての相続人が受け取った保険金の合計額が、この非課税枠内であれば、その部分については相続税がかかりません。
この非課税枠を超えるときに、その超過部分が相続税の課税対象になります。
相続財産に生命保険金が含まれるときの相続税の計算方法
相続財産に生命保険金が含まれる場合、どのように相続税を計算するか、具体例で説明しましょう。
次のような事案を想定します。
説明を分かりやすくするため、生命保険金以外のみなし相続財産や非課税財産はないものと仮定します。
- 父が死亡し、相続人は母、子A、子B、子Cの4名である
- 各人が取得した相続財産の合計は1億円だった
- 子Aと子Bが生命保険金をそれぞれ1,000万円ずつ、計2,000万円受け取った
では、手順に従って計算していきましょう。
生命保険金をみなし相続財産として課税対象の遺産総額に加える
- 課税対象の遺産総額 = 1億円 + 2,000万円 = 1億2,000万円
相続財産の合計から基礎控除額を差し引いて、課税対象の遺産総額を求める
- 基礎控除額 = 3,000万円 + (600万円 × 4人) = 5,400万円
- 課税対象の遺産総額 = 1億2,000万円 – 5,400万円 = 6,600万円
課税対象の遺産総額を法定相続分で按分し、各人の課税対象額を求める
- 母:6,600万円 × 1/2 = 3,300万円
- 子A、子B、子C:6,600万円 × 1/6 = 1,100万円
各人の課税対象額に応じて税率を乗じ、控除額を差し引いて納税額を求める
- 母:3,300万円 × 20% – 200万円 = 460万円
- 子A、子B、子C:1,100万円 × 15% – 50万円 = 115万円
相続税の総額と特例適用後の額
- 460万円 + (115万円 × 3) = 805万円
なお、配偶者の税額軽減を使う場合は、母の納税額はゼロとなり、相続税の総額は次のようになります。
- 115万円 × 3 = 345万円
遺産分割における生命保険金の取扱い
相続人の中に生命保険金を受け取る者と受け取らない者がいる場合、受け取らない者は不公平感を持つことがあります。
生命保険金を遺産分割して、自分にも分けてほしいと考えるかもしれません。
生命保険金は、遺産分割の対象になるのでしょうか。
生命保険金が受取人固有の財産になるケース
生命保険金は、保険金受取人の固有の権利とされます。
原則として遺産分割の対象になりません。
このため、保険金受取人は、保険金を他の相続人に分ける必要はありません。
保険契約者が自分自身を保険金受取人にしていた場合は事情が異なります。
この場合、保険金請求権は相続財産となり、相続人全員の合意がある場合は、遺産分割の対象とすることができると考えられます。
ただし、このような例はあまり多くないでしょう。
これ以外にも、生命保険金が事実上遺産分割の対象になることがあります。
「特別受益」の対象になる場合です。
生命保険金が遺産に含まれるケース
特別受益とは、相続人が故人から受けた贈与の一種です。
生前贈与や遺贈、死因贈与などが特別受益になります。
特別受益がある場合、相続分は次のように計算します。
- 遺産に特別受益額を加える
- その額を、各人の法定相続分に応じて按分する
- 特別受益を得た者については、その額を差し引いて相続分とする
ここで、生命保険金額によって著しい不公平が生じる場合には、これを特別受益として扱うことになります。
具体的な金額や比率が決まっているわけではないので、どのようなときに生命保険金が特別受益になるのかは、個別具体的な事情を考慮して判断されます。
節税対策として生命保険金を検討する場合は、生命保険金によって相続人の間で大きな不平等が発生しないよう、注意しなければなりません。
まとめ
生命保険金を賢く利用すると、生命保険金の非課税枠を活用して相続税の負担を減らすことができます。
生命保険金は納税資金の準備にも役立ちます。
しかし、生命保険金はみなし相続財産になり、税法上の課税対象となることに注意が必要です。
相続人間の不平等が著しい場合は、特別受益として遺産分割の対象となります。
生命保険金を利用して、具体的な相続税対策を考える場合には、必ず専門家に相談するようにしてください。