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最終更新日:2022/11/18

奨学金の受取に贈与税はかかる?課税されるケースや計算方法について

弁護士 水流恭平

この記事の執筆者 弁護士 水流恭平

東京弁護士会所属。
民事信託、成年後見人、遺言の業務に従事。相続の相談の中にはどこに何を相談していいかわからないといった方も多く、ご相談者様に親身になって相談をお受けさせていただいております。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/tsuru/

この記事でわかること

  • 貸与型の奨学金を受け取っても贈与税はかからない
  • 給付型の奨学金を受け取った場合は贈与税が課される場合がある
  • 奨学金を返済する際に肩代わりしてもらうと贈与税がかかる

大学や専門学校への進学には、多額のお金が必要です。

そこで、大学などに進学する学生が奨学金を申請し、奨学金を受け取ることがあります。

奨学金を受け取ることは、財産をもらったのと同じと考えることもできますが、税金が課されることはあるのでしょうか。

また、奨学金を返済しなければならない場合、返済のタイミングで税金がかかることはあるのでしょうか。

貸与型の奨学金には贈与税がかからない

奨学金には、大きく分けて「貸与型」と「給付型」の2つのタイプに分けることができます。

このうち貸与型に分類されるのは、学校を卒業した後に返済しなければならない奨学金を受け取った場合です。

名前こそ奨学金ですが、貸与型の奨学金はその中身は実質的に借入金と同じです

提供される資金は、学校に対して支払う学費や生活費などに消えていきます。

一方で、奨学金として支給されたお金は、金融機関などで借り入れをしたのと同じように、後で返済しなければなりません。

多くの奨学金では、返済する際に利息が計算され、利息をつけて返済する必要があります。

後から返済しなければならない資金を先にまとめて受け取ったとしても、それによって利益を得ているわけではありません。

受け取った奨学金は、今後負債として返済義務を負うこととなります。

そのため、貸与型の奨学金を受け取った場合には、所得税や贈与税が課されることはありません

給付型の奨学金には贈与税がかかる場合がある

奨学金のもう1つの形が、給付型奨学金です。

給付型の奨学金は、奨学金を実施している団体が対象となる学生に学費を支給してくれます。

貸与との大きな違いは、資金の提供を受けた人は、その後一切の返済義務を負うことがない点です。

貸与型は、資金の提供を受けた学生が負債を負うこととなりましたが、給付型は全く違います。

返済する必要がないため、資金の提供を受けた学生は利益を得ていると考えることができます。

ただ一方で、提供された資金は学費などで使ってしまうため、手元にお金が残るわけではありません。

そのため、もし課税されてしまうと、税金を支払うためのお金が残っていないのではないかとも考えられます。

結論として、給付型の奨学金を受け取った場合、所得税は基本的にかかりません

これは、所得税法に明記されている非課税所得にある「学資に充てられるため給付される金品」に奨学金が該当するためです。

学校に入学金や学費として支払う奨学金に税金がかかると、奨学金を受けた本来の目的が達成できません。

そのため、給付型奨学金を受け取った場合、その所得は非課税とされているというわけです。

ただ、注意しなければならないケースもあります。

それは、法人から給付型奨学金を受け取る場合です。

奨学金の内容によっては、法人から学生が給与を受け取っていると判断され、給与所得として課税されることがあり得ます。

ほとんどの奨学金は所得税の課税対象になりませんが、学生が法人の役員になっている場合など、注意が必要な場合もあります。

一方、給付型奨学金を受け取った場合に、贈与税が課税されることはないのでしょうか。

実は、給付型奨学金をどのような団体から受け取ったかによって、贈与税の課税対象になることがあるのです。

贈与税の対象にならないのは、相続税法に定める特定公益信託からの奨学金です。

また、法人からの給付型奨学金についても、受け取った学生に贈与税がかかることはありません。

一方、特定公益信託や法人以外から給付型奨学金の給付を受けた場合、贈与税の対象となります。

この場合、年間110万円の基礎控除を超える部分の金額が、贈与税の課税対象となるため、贈与税の申告・納税をしなければなりません。

奨学金の返済の肩代わりには贈与税がかかる

給付型奨学金を受け取る際には、その支給する人によって贈与税がかかるケースもあることがわかりました。

ただ、実際には特定公益信託や法人からの奨学金が多いため、課税されるケースは少ないと言えるでしょう。

一方、貸与型給付金の場合は、資金を受け取ったときも、奨学金を返済するときも税金は発生しません。

貸与型奨学金を受け取る時は、借入金を受け取ったのと同じ状態と言えます。

また、奨学金を月々返済するのも、ローンの返済を行っているのと同じと考えられます。

そのため、課税対象となるようなことは何も起きていないのです。

しかし、奨学金の返済を行う際に注意しなければならないことがあります。

奨学金の返済は、実際にそのお金を借りた人が自分で返済しなければならないことです。

奨学金を返済するのは、当初借入を行った人でなければならず、他の人が返済すると、贈与が行われたと判断されてしまいます

たとえば、奨学金の返済を毎月7万円行っている人が、その返済が苦しいため、親に返済を肩代わりしてもらっているとします。

家族であれば、苦しい時には助け合っていくのが当然と考えられますが、税制の世界では必ずしもそうではありません。

奨学金を返済するのは、その奨学金を受け取った人でなければならず、家族とはいえ他の人が返済するのは特別なこととなります。

そこで、家族などに代わりに返済してもらった場合には、返済資金を贈与されたと考えます。

毎月7万円の返済をすべて家族に肩代わりしてもらっている場合には、年間で84万円の贈与を受けたものとされます。

この場合は、年間110万円の基礎控除以下であるため税金は発生しません。

ただし、毎月10万円弱の返済を肩代わりしてもらうなど、年間110万円を超える贈与に該当する場合については、申告・納税が必要となります。

なお、国税庁のホームページでは、贈与税がかからない財産として、以下のような財産を紹介しています。

「夫婦や親子、兄弟姉妹などの扶養義務者から生活費や教育費に充てるために取得した財産」
引用:国税庁のホームページ

ところで、奨学金の返済資金も教育費に充てるための財産であり、贈与税がかからない財産と考えることはできないでしょうか

この点については、教育費とはどのようなものかを考える必要があります。

国税庁のホームページでは、贈与税がかからない財産は、教育費として必要な都度、直接これらに充てるものに限られるとしています。

教育費の名目で贈与しても、預金や別の用途に充てている場合は、贈与税がかかるとしています。

また、奨学金の返済に充てるために贈与された財産は、直接教育費として使うわけではありません。

そのため、奨学金の返済を家族が肩代わりしている場合には、贈与税がかかるケースがあることに注意しましょう。

なお、子どもが学生の時に、親が学費や生活費を肩代わりした場合には、贈与税が課されない財産に該当します。

このように、いつ何のために贈与するかによって、贈与税の課税対象になるかどうかの考え方が変わってくるといえます。

奨学金の返済の肩代わりにかかる贈与税計算方法

貸与型奨学金の返済を肩代わりした場合、贈与税の課税対象になることがお分かりいただけたでしょう。

ところで、奨学金の返済を肩代わりした場合、どれだけの贈与税がかかることとなるのでしょうか。

実際の金額から、贈与税の計算方法とその税額を確認しておきましょう。

①年間いくらの返済を肩代わりしてもらったか計算する

まずは返済スケジュールから、1年間でいくらの返済を肩代わりしてもらったかを計算してみましょう

多くの場合、毎月決まった日に返済することとされているため、その金額を12か月分合計します。

返済額には、元本部分と利息部分が含まれている場合が多いですが、この区分に関係なく、肩代わりした金額を合計します。

たとえば毎月15万円の返済を肩代わりしてもらった場合、年間では15万円×12か月=180万円の贈与を受けたこととなります。

②基礎控除の金額を差し引き、課税対象を求める

1年間に返済を肩代わりしてもらった金額を求めたら、その額から基礎控除の額を差し引きます。

基礎控除額を差し引いた後の金額が、贈与税の課税対象になります。

前述したように、基礎控除の額は、1年間で最大110万円とされています。

奨学金返済の肩代わり以外にも贈与された金額がある場合は、その額も贈与された金額として計算する必要があります。

その上で、1年間に贈与された金額が110万円以下である場合は、基礎控除を差し引くとゼロとなります。

ゼロとなった場合は、課税対象となる金額がないこととなるため、贈与税の申告を行う必要はありません。

たとえば、奨学金返済で180万円、それ以外に50万円の贈与を受けた場合、贈与された金額は230万円となります。

そして、基礎控除110万円を差し引いた後の金額は230万円-110万円=120万円となります。

③税率を乗じて贈与税額を計算する

課税対象となる金額を求めたら、その金額に贈与税の税率を乗じて贈与税額を求めます

贈与税の計算を行う際は、以下の表を使って計算します。

特例贈与(贈与された人が18歳以上で贈与した人が直系尊属)の場合

基礎控除後の金額 税率 控除額
200万円以下 10%
400万円以下 15% 10万円
600万円以下 20% 30万円
1,000万円以下 30% 90万円
1,500万円以下 40% 190万円
3,000万円以下 45% 265万円
4,500万円以下 50% 415万円
4,500万円超 55% 640万円

引用:国税庁

たとえば課税対象となる金額が120万円の場合、贈与税額は120万円×10%=12万円となります。

奨学金の返済の肩代わりだけであれば、それほど大きな税額にならないでしょう。

ただ、他に贈与された財産があると大きな税負担になることもあるため、注意が必要です。

また、贈与税が発生する場合には、必ず申告・納付を忘れないようにしましょう。

まとめ

奨学金を受け取る場合、その人は経済的な利益を受けているように見えるかもしれません。

しかし、奨学金は教育を受けるために必要な資金であり、税金が発生しにくくなるようなルールが定められています。

一方で、奨学金の返済は借金の返済と同様であり、返済を肩代わりすると贈与税の対象になってしまいます

贈与税が発生しないようにする、あるいは贈与税が発生した場合には正しく申告することを心がけましょう。

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