この記事でわかること
- 再転相続が起こるケース
- 再転相続発生時に相続放棄できるケースとできないケース
- 再転相続発生時の相続放棄の期限
たとえば、祖父Aが借金を残して亡くなった後、Aの唯一の相続人であった父Bが相続の承認も放棄もしないまま2カ月後に亡くなってしまったとします。
この場合、Bの息子Cが祖父Aについての相続を放棄するには、いつまでに放棄の意思表示をすればよいでしょうか。
今回は、上記のようなケースで発生する「再転相続」について、似ている数次相続との違いや、再転相続が発生した時の相続放棄の取り扱いや期限、再転相続が発生したときの注意点などを解説します。
目次
再転相続とは?数次相続との違いは?
ここでは、まず再転相続とは何か、再転相続と似た数次相続とはどのように違うかをご説明します。
再転相続とは
再転相続とは、最初の相続(一次相続)の法定相続人が承認も相続放棄もしない状態で、熟慮期間中に死亡した場合に発生する相続をいいます(民法第916条)。
「熟慮期間」とは、相続人が相続開始を知った時から3カ月以内の期間をいいます(民法第915条1項)。
この3カ月間に相続の承認または相続放棄をするか否かを検討・選択しなければならないことから、この期間はこのように呼ばれています。
再転相続と数次相続との違い
再転相続と似ているものに「数次(すうじ)相続」があります。
数次相続とは、一次相続の法定相続人が承認(財産を相続するという意思表示)をした後の遺産分割協議の前、または協議の途中で亡くなり、二次相続が起こることをいいます。
再転相続と数次相続は、短期間で2回の相続が発生する点で共通していますが、「二次相続が発生するタイミング」に違いがあります。
再転相続の場合、一次相続の熟慮期間中に二次相続が発生するため、二次相続人(再転相続人)自身が一次相続及び二次相続で相続放棄を検討することが可能です。
これに対して数次相続の場合は、一次相続の相続人が相続承認した「後」に二次相続が発生しているため、二次相続の相続人が一次相続の時点で相続放棄を選択することはできません。
再転相続の具体例
再転相続が起こるのは、具体的にどのような場合でしょうか。
ここでは、再転相続の具体例を紹介します。
一次相続の法定相続人が1人の場合
乙(甲の妹、夫はすでに他界)
丙(乙の子ども)
甲が高齢で亡くなり、相続人が乙1人だったところ、乙が熟慮期間中に亡くなったため、乙が相続した財産を丙が相続した。
この場合、乙の死亡により再転相続が発生しています。
丙は甲の財産に対して相続の承認・放棄を選択する権利が与えられます。
一次相続の法定相続人が複数の場合
乙(甲の息子、配偶者と子ども1人)
丙(甲の娘、配偶者と子ども2人)
甲が亡くなり、乙と丙が法定相続人となったが、熟慮期間中に乙が亡くなったため、乙の配偶者・子どもが乙の相続分を相続した。
この場合、乙の配偶者・子どもについて再転相続が発生しています。
乙の配偶者・子ども・丙の3人は、甲の財産に対して相続の承認・放棄を選択する権利が与えられます。
同時死亡の場合
乙(甲の妻、両親は他界)
丙(甲乙の子ども、配偶者と離婚)
丁(丙の子ども・成人・独身)
甲・乙・丙・丁で旅行中に事故に遭い、甲乙が即死、丙は事故の1週間後に死亡した。
この場合、甲・乙は同時死亡の扱いになるので、甲乙間に相続は発生しません(民法第32条の2)。
丙は甲乙の財産を相続しますが、熟慮期間中に死亡したため、丙の相続人である丁に再転相続が生じます。
丙は、甲乙丙の財産について相続の承認・放棄を選択する権利が与えられます。
再転相続発生時の相続放棄の取り扱い
一次相続の相続人が、相続放棄しないまま亡くなった場合、二次相続の相続人は一次相続・二次相続の2回の相続について、相続放棄するかどうかを判断します。
ここでは、再転相続が発生した場合に、二次相続の相続人が相続放棄できるかどうかを解説します。
相続放棄できるケース
乙(甲の息子:配偶者は他界)
丙(乙の息子:独身)
たとえば、甲が亡くなり、甲の息子乙が相続した直後に乙が亡くなり、乙の息子丙が再転相続の手続きをする場合を考えてみましょう。
この場合、丙は、祖父甲の財産を相続放棄して、父乙の財産を相続することができます。
また、甲・乙両方の財産について相続放棄することも可能です。
相続放棄できないケース
二次相続が発生したときに、相続放棄ができないのは「一次相続について単純承認した場合」です。
これは、二次相続で相続放棄すると、一次相続における相続人としての地位がなくなるためです。
上の例でいえば、丙が祖父甲の財産を相続した場合、乙の財産について相続放棄はできなくなります。
仮に乙の財産について相続放棄すると、甲の相続人としての地位が失われるためです。
再転相続に承認・放棄の可否についてまとめると、以下の表のようになります。
(表の読み方:最上段「一次相続で単純承認した場合、二次相続で単純承認は可能」)
一次相続の選択 | 二次相続の選択 | 相続放棄や単純承認の選択の可否 |
---|---|---|
単純承認 | 単純承認 | 〇 |
相続放棄 | 相続放棄 | 〇 |
相続放棄 | 単純承認 | 〇 |
単純承認 | 相続放棄 | × |
再転相続発生時の相続放棄の期限
相続放棄・承認の判断をする期間(熟慮期間)は原則として、自分が相続人になったことを知ってから3カ月間です(民法第915条1項)。
ただし、再転相続の場合、熟慮期間の起算点、つまり「自分が相続人になったことを知った」時点がいつの時点を指すのかが問題となります。
ここでは、再転相続発生時の相続放棄の期限について解説します。
再転相続の熟慮期間の起算点
再転相続の場合、「自分が相続人になったことを知った」時点とは、いつの時点を指すでしょうか。
これについて、二次相続については「二次被相続人の死亡の事実を知った時点」と考えて問題ありません。
一方、一次相続については「二次被相続人の死亡を知った時点」(A説)とするのか、「一次被相続人の死亡を知った時点」(B説)とするのかが問題となります。
これが問題となるのは、特に一次相続の被相続人が多額の債務を負っていた場合に、どちらを起算点とするかで再転相続の相続人の負担が大きく異なるためです。
たとえば、独身男性で多額の債務を負っていたXが亡くなって弟Yが相続人となった後、熟慮期間中にYが死亡してYの子どもZが再転相続人となった場合を考えてみましょう。
Xの債権者の請求のタイミングによってはZが相続放棄をしても間に合わず、Xの債務を承継せざるを得なくなってしまいます。
この点、従来はA説が通説的見解になっていました。
A説に従うと、二次被相続人Yが死亡して3カ月を過ぎた時点でZは一次被相続人Xの相続放棄もできなくなります。
しかし、子どもは父母のきょうだいとは関わりが薄いことも多く、叔父が亡くなった事実や、自分が叔父の再転相続人になったことを知らないケースも多いでしょう。
自分の父親が亡くなったことはすぐにわかっても、叔父が亡くなったことについてはかなり時間がたってから知った、ということも十分ありえます。
このような場合にも「父親の死亡後3カ月以内に叔父の相続放棄もしなければならない」とするのは、再転相続人に対して不合理な負担を強いることになります。
「一次相続の相続人となったことを知ってから3カ月以内」が判例の見解
このようなケースで、判例(最高裁2019年8月9日付判決)は、上記のB説の見解をとり、「一次相続の相続人となったことを知ってから3カ月以内」であれば、一次被相続人の相続について相続放棄できると判断しました。
判例のケースでは、再転相続人が一次被相続人の死亡の事実を知った時点が、二次被相続人の死亡の事実を知った時点よりも後でした。
一次被相続人の債権者からの請求のタイミングが「二次被相続人の死亡3カ月を過ぎていたが、一次被相続人の死亡の事実を知ってから3カ月以内」という時期にあたり、この判決となりました。
再転相続が発生した時の注意点
再転相続が発生した場合は、以下の点に注意が必要です。
遺産分割協議書の作成方法に注意
再転相続の場合、相続が2回発生しているので、遺産分割協議書は2枚に分ける必要があります。
ただし、2回とも法定相続人が同一の場合は、遺産分割協議書を1枚にまとめることができます。
遺産分割協議書が2枚にわたる場合、再転相続人は1回目の相続の遺産分割協議書にも署名します。
また、再転相続の場合、遺産分割協議者における関係者の肩書の記載にも注意が必要です。
再転相続の一次相続の相続人は「相続人兼被相続人」の肩書がつきます。
中間省略登記ができるかを確認する
再転相続で不動産を相続することになった場合、登記手続きが必要です。
再転相続では2回相続が発生しているため、通常は不動産の登記手続きも2回行います。
ただし、1回目と2回目の相続人が同じで、かつ1人のみの場合は、登記手続きを1回にまとめることができます。
これを「中間省略登記」といいます。
なお、二次相続の相続人が複数いる場合でも、一次相続人が1人だけであった場合は、一次相続の登記手続きは省略可能です。
再転相続が発生した際に、中間省略登記が可能かを確認しましょう。
まとめ
再転相続については、短期間で複数の相続手続きを進めなければなりません。
その際、相続放棄の可否や遺産分割協議書の記載方法、登記手続きなど、単一の相続と比較しても難しい判断を必要とすることが多くあります。
複雑な相続手続きをスムーズに進めるために、相続問題を専門とする弁護士に相談されることをおすすめします。