この記事でわかること
- 再婚家庭で相続が起こった場合の相続権の有無や相続順位・割合
- 再婚家庭で起こりやすいトラブルの予防策
- 再婚相手の子どもに財産を残す方法
「離婚した妻が再婚して、子どもが再婚相手と養子縁組しました。自分も結婚を考えている女性がいます。その女性と再婚して子どもが生まれると、自分の法定相続人は再婚相手と自分の子ども達だけになりますか?」
このように、再婚家庭では特に子どもの相続が複雑になり、トラブルが起こる可能性があります。
今回は、再婚家庭の相続の取り扱いについて、起こりやすい相続トラブルのパターンや、再婚相手・再婚相手の連れ子との相続関係などを詳しく解説します。
離婚・再婚歴のある人の相続の取り扱い
夫婦が離婚した場合、その元夫婦と、子どもがいる場合には子どもの相続権はどのように変わるでしょうか。
また、一方または双方が再婚した場合、再婚相手や、再婚相手との間の子ども、それぞれの前婚の子どもの相続の取り扱いはどのようになるでしょうか。
元配偶者の相続権はなくなる
まず、離婚した場合、元配偶者は相続権がなくなります。
したがって、一方が先に亡くなった場合は、遺言で元配偶者に財産を相続させる意思を表示していない限り、元配偶者が相続することはありません。
元配偶者との間に子どもがいる場合は子どもの相続権が残る
元配偶者との間に子どもがいる場合は、子どもは親が先に死亡した場合に必ず法定相続人となります(民法第887条1項)。
子どもが未成年である間の親権の有無や、親の一方・双方の再婚などの身分関係の変化の影響を受けることもありません。
ただし、法定相続人としての相続順位は、親が亡くなった時点で再婚の配偶者がいるかいないかで変わります。
再婚の実子や養子との関係では、有無や人数によって相続分が変わりますが、順位が変わることはありません。
再婚した場合は再婚相手の法定相続人となる
離婚した人が再婚した場合、死亡した時点で婚姻関係が続いていれば再婚相手が相続順位第1位の法定相続人になります(民法第890条)。
再婚相手との間の実子も法定相続人となる
再婚相手との間に子どもが生まれた場合、その子どもは前婚の子どもと同じ順位の法定相続人となります。
再婚相手の前婚の子どもは養子縁組すれば法定相続人となる
再婚相手の前婚の子どもは、原則として法定相続人にはなりません。
ただし、養子縁組した場合には、縁組の日から法律上の親子関係が発生します(民法第809条)。
したがって、縁組の後で本人が死亡した場合には、再婚相手の前婚の子どもも法定相続人となります(民法第887条1項)。
相続順位は本人の前婚の子ども、再婚相手との実子と同じです。
再婚家庭で起きやすい相続トラブル6つ
前述したように、再婚によって相続人の数が増えるとともに、子どもの法定相続割合が変わります。
特に、再婚した本人の前婚の子どもと、再婚相手やその子ども達とはトラブルが起こる可能性があるため、対策が必要です。
想定されるトラブルとして、以下の6つが考えられます。
熟年再婚の影響による相続割合に子どもが不満を抱く
たとえば、子どもからみて父親が再婚すると、再婚相手の女性が父親の財産の半分を相続する権利を持ちます(民法第900条1号)。
父親が子どもの親権者となった上で、子どもが小さいうちに再婚した場合は、再婚相手と子どもの間で信頼関係ができていることが多く、相続についても子どもが抵抗を感じることはあまりないでしょう。
これに対して、子どもが成人し、自立した段階で再婚した場合は「相続分が大幅に減る」ことに不満が生じやすくなります。
遺産分割協議がまとまらず相続税の軽減特例制度を使えない
相続税の申告が必要な場合、相続の開始があったことを知った日から10カ月以内に申告しなければなりません(相続税法第27条1項)。
そこで、それまでに遺産分割協議を行って、法定相続人ごとの相続財産を確定しておく必要があります。
遺産分割協議は相続人全員で行いますが、同じ両親から生まれた兄弟姉妹の間でも、考え方の違いから対立することがよくあります。
再婚相手との子どもや養子縁組した連れ子がいる場合、法定相続人としての立場は実の兄弟姉妹と対等です。
しかし、離婚・再婚の経緯などの問題もあいまって、前婚・再婚の実子養子の間では実家(不動産)の扱いや、その他の財産の分割をめぐって争いが生じる可能性があります。
分割協議が円滑に進まず、申告時に未分割の状態だと配偶者の軽減特例や小規模宅地等の特例などの相続税軽減制度が適用されなくなってしまいます。
ただし、10カ月の期限の前に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付した上で未分割の申告をしておけば、期限後でも特例の適用を受けられます。
実家の土地・建物の相続権が再婚相手の子どもに譲られる
これは、被相続人が、前婚の子どもにとっての実家に再婚相手と夫婦で住んでいた場合に起こりうるトラブルです。
たとえば、子どもからみた父親が再婚して、実家に再婚相手と住んでいた場合、父親が亡くなると実家の土地・建物は再婚相手が相続することが想定されます。
父親と再婚相手が実際にその家に住み続けていたのであれば、それ自体は不合理とはいえません。
しかし、「自分が生まれ育った家が、自分の親ではない人の所有物になる」というのに対して、前婚の子どもが抵抗を感じる可能性もあります。
また、その後に再婚相手の女性が亡くなったとき、前婚の子どもは再婚相手と養子縁組していない限り、実家の土地・建物を相続できなくなります。
仮に養子縁組していない場合、父親と再婚相手との間に生まれた子どもがいれば、その子どもに実家の相続権があります。
そして、再婚相手に連れ子がいて父親と養子縁組していた場合には、連れ子も相続権を持つことになります。
いずれの場合も、前婚の子どもからみれば「その家で生まれ育った自分ではなく、再婚の子どもや再婚相手の連れ子が相続する」ことになるわけです。
これに対して、前婚の子どもが納得できないと感じるのも十分に起こり得るでしょう。
遺言が再婚相手しか配慮していない内容になっている
これは、ある程度財産のある男性が再婚後に亡くなった場合に起こりやすいトラブルです。
たとえば、前婚の子どもが父親の遺言を確認したら「妻(再婚相手)にすべての財産を相続させる」という内容だった、という場合です。
これに対しては、前婚の子どもは法律上、遺留分侵害額の請求(民法第1046条)ができますので、前婚の子どもがまったく相続できなくなるというのは、現実には起こりません(遺留分については後述します)。
前婚の子どもが親の再婚相手から相続放棄を迫られる
再婚相手やその連れ子からみると、前婚の子どもは相続分を脅かす存在とみられることがあります。
前婚の子どもが被相続人と長年別居していたような場合は、再婚相手やその連れ子とは交流も少なく、利害の対立だけが残るということになりやすいでしょう。
このような場合に、再婚相手が自身や連れ子の相続分を減らされないよう、前婚の子どもに対して相続放棄を迫る可能性があります。
しかし、相続放棄を行うためは、相続人自身の意思表示が必要です(民法第915条1項)。
また、法律で認められた例外的な場合を除いては、相続人の意思に反して相続権を奪うのはできません。
また、強要の程度によっては、相続放棄を迫る言動等が強要罪(刑法第223条)に該当する可能性があります。
連れ子が相続人になれない
被相続人と、再婚相手の連れ子とは親子関係がないため、連れ子に相続権はありません。
しかし、被相続人が連れ子と養子縁組していた場合は、連れ子は被相続人の子ども(養子)として法定相続人となります。
被相続人が、前婚の子どもへの配慮などから再婚相手の連れ子と養子縁組しなかった場合、連れ子や再婚相手が不満を持つ可能性があるでしょう。
もちろん、後年、再婚相手である親からの相続を経由して、被相続人の財産を取得することは可能です。
また、相続によらなくても、生前贈与や遺贈により被相続人の財産を譲り受けることができます。
これについては後述します。
再婚時手に全財産を残す方法はない
被相続人が「再婚相手に全財産を遺す」というような偏った内容の遺言が行われるケースは実際にあります。
しかし、このようなことが実際にできるのでしょうか。
元配偶者との間に子どもがいる場合は再婚相手に全財産を遺す方法はない
まず、元配偶者との間に子どもがいる場合は、その子どもが生存している限り「実子」として法定相続人となります。
元配偶者が再婚して、再婚相手がその子どもと養子縁組した場合も、実子の相続権は残ります。
また、養親がいることによって、相続人としての順位が変わることもありません。
仮に遺言で「再婚相手に全財産を相続させる」意思を表示したとしても、前婚の子どもは法定相続分の2分の1を遺留分(民法第1042条1項2号)として請求できます。
では、遺留分について解説していきましょう。
遺留分について
前婚の子どもには法定相続人の遺留分(民法第1042条)があるため、極端な内容の遺言に対しては遺留分侵害額の請求(民法第1046条)をすることができます。
たとえば、子どもは前婚の子ども2人のみで、再婚による親子関係が生じていないケースで「再婚相手に全財産を相続させる」という内容の遺言があったとします。
この場合、子どもはそれぞれ法定相続分が44分の1であるため、遺留分はその2分の1、つまり相続財産の8分の1となります(民法第1042条1項2号)。
このため、子どもはそれぞれ、再婚相手の女性に対してそれぞれ相続財産の8分の1に相当する金銭の支払いを求めることができます。
「遺留分」は法定相続人の中の遺留分権利者が行使できる権利ですが、法定相続人の意思次第では、遺留分侵害額の請求をしない場合があります。
また、相続開始前に遺留分を放棄する場合もあります(民法第1049条)。
しかし、遺留分権利者の意思に反して、他の相続人等が遺留分を放棄させることはできません。
再婚相手に全財産を遺すことができる場合
遺留分は、被相続人の子ども及び直系尊属(父母)が行使できます(民法第1042条1項)。
したがって、再婚相手に全財産を遺すことができるのは、以下の【11または2】及び【3または4】を満たした場合に限られます。
1:元配偶者との間に子どもがいないか、前婚の子どもが相続放棄した、または相続権を失った
2:前婚の子どもが遺留分侵害額の請求をしなかった(生前に遺留分を放棄した)
3:被相続人の両親がすでに亡くなっているか、双方が相続放棄した、または相続権を失った
4:被相続人の両親が遺留分侵害額の請求をしなかった(生前に遺留分を放棄した)
再婚相手の連れ子に財産を相続させる方法
前述したように、再婚相手の連れ子は、原則として被相続人の財産を相続できません。
しかし、法律上、以下の3つの方法により、再婚相手の連れ子に財産を相続させることが可能です。
連れ子と養子縁組する
まず、被相続人が再婚相手の連れ子と養子縁組するという方法があります。
養子縁組により、連れ子は法律上の「子」に該当することとなります。
連れ子の場合は、未成年であっても縁組について家庭裁判所の許可を得る必要はありません。
また、連れ子の年齢が養子縁組の時点で15歳未満であった場合は、その法定代理人(再婚相手)が、本人に代わって縁組の承諾(代諾)をすることができます(民法第797条1項)。
養子縁組の手続きは、連れ子または被相続人の本籍地、または届出人の住所地を管轄する市区町村役場で養子縁組届を提出することのみで完了します。
連れ子に遺贈する
2つ目は、「遺贈」という方法です。
遺贈とは、遺言によって相続人でない人に無償で財産を譲ることをいいます。
遺贈を行うと、養子縁組をしなくても、連れ子への財産の相続が可能です。
遺贈は公正証書遺言によって行う
遺贈の内容・金額などは、贈与する側が自由に決めることができます。
しかし、たとえば被相続人が「全財産の半分を再婚相手に相続させ、残りの半分を連れ子に遺贈する」などと偏った内容の遺言により遺贈を行うと、他の相続人とトラブルになり得ます。
連れ子に遺贈を行う場合は、必ず遺言書を作成しましょう。
遺言書は、費用がかからない自筆証書遺言書を選ぶ方が多いのですが、様式の不備によって様式が無効になる・内容を無断で書き換えられるなどのリスクがあります。
トラブルを避けて確実に財産を引き継ぐためには、遺言書を公証役場で公正証書遺言として作成することをおすすめします。
養子縁組していない連れ子には相続税が加算される点に注意
遺贈は養子縁組によらずに財産を受け継ぐ方法として有効ですが、相続税の課税額に注意する必要があります。
法定相続人以外の人が遺贈により財産を引き継いだ場合、相続税額が2割加算されます。
なお、被相続人が亡くなる直前であっても、連れ子と養子縁組していれば、2割加算の対象になりません。
遺贈に対しては、相続税がどの程度課税されるかなども考慮して検討をおすすめします。
連れ子に生前贈与を行う
遺贈以外にも、養子縁組によらずに連れ子に財産を受け継ぐ方法として、「生前贈与」があります。
生前贈与とは、贈与者と受贈者の合意のもとに、贈与者の生前に財産を無償で譲る契約をいいます。
贈与税や遺留分に注意する
生前贈与に対しても、贈与税が課税されます。
ただし、1年間につき110万円までは基礎控除の適用を受けられます(暦年課税制度)。
そこで、贈与税を節税するため、毎年110万円以下の贈与を行うという方法があります。
この方法をとる場合、毎年110万円以下であっても贈与を長期継続すると、定期贈与とみなされる可能性があります。
定期贈与とみなされた場合、贈与総額に対して贈与税がかかります。
また、遺贈の場合と同じく、偏った内容の生前贈与を行うと、他の相続人から遺留分侵害額請求されるなどのトラブルになる可能性があります。
まとめ
再婚家庭では、前婚の子どもと再婚相手、再婚後に生まれた子ども、再婚相手の連れ子との間でトラブルが起こりやすいため、事前にそれぞれの相続人に対する配慮が必要になります。
本記事で挙げた例以外でも、前婚の子どもと再婚家庭側の交流がない場合に「前婚の子どもの所在が不明で遺産分割協議を進められない」といった問題が起こる可能性もあります。
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