この記事でわかること
- 相続で揉める家族の特徴
- 相続で揉めないための事前対策
目次
相続でトラブルになるケースは様々
被相続人の遺産を相続する方々が配偶者と子、または子のみであれば、スムーズに相続が行われることが多いでしょう。
また、被相続人が遺言せずに亡くなったとしても、相続人達が「遺産分割協議」を行い、財産分与をどうするか決めれば大きなトラブルに発展することはあまりないようです。
しかし、遺産の種類や総額・各相続人間の関係によっては、財産分与がなかなか進まず、争いにも発展しかねません。
相続人間で話し合っても平行線のままなら、家庭裁判所へその問題を持ち込むことにより、民事調停や審判によって解決を図ることもできます。
ここからは、「遺産総額でのトラブル」「相続人間のトラブル」で想定される事態について解説していきます。
遺産総額でのトラブル
遺産に関して相続人間で揉めるのは、単に遺産総額の多い少ないに限らず、遺産の種類や、被相続人から生前贈与された事実の有無等、いろいろな理由があげられます。
また、相続人が遺産を得たいがために揉めるケースだけではなく、誰も相続したがらないことが理由で揉めるケースもあります。
こちらでは、遺産に関するトラブルで想定されるケースを取り上げ、その解決策を紹介します。
遺産が多いと相続人は大変?
遺産が多ければ、相続人間で揉めやすいのでしょうか?
裁判所へ「遺産分割事件」として持ち込まれた件数をまずみてみましょう。
遺産の価額 認容・調停成立件数 1,000万円以下 2,448件 5,000万円以下 3,097件 1億円以下 780件 5億円以下 490件 5億円超 42件 算定不能・不詳 367件 総数 7,224件
裁判所へ遺産分割の問題が持ち込まれた件数は、遺産の価額5,000万円以下が3,097件と最多となっており、総数7,224件の内、約43%を占めています。
一方、遺産の価額1,000万円以下も意外に多く2,448件と、こちらは約34%を占めています。
表を見れば、単に遺産の多い場合に揉めやすいというわけではないことがわかります。
遺産が少なくて何故揉める?
表では遺産の価額1,000万円以下が件数として第2位となっており、遺産は少なくても揉めてしまうケースのあることがわかります。
原因としては、「自分の家には目立った財産なんてない。」と思い込み、調査すら行わず相続対策をしていなかったことがあげられます。
被相続人ですら忘れていた遺産が後から発見されたら、相続人間でトラブルになってしまうケースも少なくないでしょう。
被相続人となる人は、ご自分が亡くなる前に正確な財産の把握を行うなど、生前にしっかりとした「財産調査」を行っておくことが大切です。
財産調査はご自分で行うこともできますが、法律の専門家である弁護士・司法書士・行政書士に代わりに行ってもらうことも可能ですので、まずは専門家へ相談してみてはいかがでしょうか?
遺産の価額が高いほど揉めていない
前表をみてもわかる通り、遺産の価額が高くなるほど件数は減っています。
「1億円以下」780件、「5億円以下」490件、「5億円超」42件となっており、これらを合わせても1,312件と、「5,000万円以下」の件数の半分以下となっています。
その理由としては、遺産価額が5,000万円を超えるケース自体まれである、ということがもちろん考えられます。
しかし、被相続人となる資産家の方々は、多くの遺産が発生することを事前に予測し、既に相続対策を行っていて、相続で揉めることがなかったということもあるでしょう。
被相続人が事前に行っておくべき対策は、後述する「相続トラブルは事前対策で回避」にて解説します。
不公平はどう解決する?
遺産のほとんどが預金や債券等、相続人に分けやすい金融資産ばかりだったとしても、その取り分で揉める場合があります。
それは、特定の相続人が被相続人の生前に、よく贈与を受けていた場合などが考えられます。
事例特定の相続人がよく生前贈与を受けていた場合
例えば、相続人である子A・B・Cの3人がいて、被相続人は生前Aを特に可愛がり、特別にAの留学のため500万円を贈与していたとしましょう。
その後、何年かして被相続人が亡くなり、子A・B・Cが2,500万円の遺産を相続する場合、そのまま3等分することになったらB・Cはどう思うでしょうか?
取り立てて兄弟の仲が悪くなくても、B・Cは不満に思うでしょう。Aだけが500万円もの大金を既に得ていて、更に今回の相続で約833万円も得られるのはやはり不公平です。
この場合には、Aが留学の際に得た500万円を「特別受益」として扱い、被相続人の遺産2,500万円をA:500万円、B:1,000万円、C:1,000万円という割合で遺産分割した方が、相続人間でトラブルにならない良い方法と言えます。
遺産は金融資産だけではない
遺産は、相続人が分割し易いものばかりではありません。
不動産資産である土地・建物のように分け難く、売却しようにも辺鄙な場所で買い手がつかず誰も相続したがらないケースもあるでしょう。
相続財産の金額の構成比は、次のようになっています(平成29年度分)。
土地 36.5% 現金・預貯金等 31.7% 有価証券 15.2% 家屋 5.4% その他 11.2% 参考:国税庁ホームページ「平成29年分の相続税の申告状況について(付表5)相続財産の金額の構成比の推移」
表のように土地が遺産の対象となる割合は、かなりの比重を占めています。
被相続人唯一の遺産が土地で、固定資産税や維持費が大きな負担となる場合は、相続人全員で「相続放棄」も検討しましょう。
相続で揉める家族の特徴~相続人間のトラブル~
相続で揉める家族の特徴
- ・相続人が互いに仲が悪い場合や疎遠である
- ・推定相続人に問題がある
- ・前妻との間に出来た子との関係がある
相続の際には、各相続人の関係もトラブルを発生させる原因の一つとなります。
相続人の数が多く一部の相続人とは疎遠になっている、兄弟の仲が悪く常にいさかいが絶えないという場合には、相続人間で頭を悩ます事態が想定されます。
相続人が互いに仲が悪い場合や疎遠である
被相続人に配偶者がいた場合、配偶者が無条件で相続人となります。
そして、子もいる場合は、配偶者・子が相続人となります。
しかし、子が数人いて互いに仲が悪かったり、独立したことがきっかけで疎遠になってしまったりすることもあります。
この場合には、まず故人(被相続人)の遺言書があればそれに従い、なければ遺産分割協議できちんと話し合いを進めましょう。
後々遺産争いにならないよう、各相続人が不満なく、妥協できるように配慮した遺言を作成するのが、最も賢明な相続対策と言えます。
遺言の作成方法については後ほど解説します。
推定相続人に問題がある
推定相続人とは、現状のままで相続が開始したら、直ちに相続人となるべき人を指します。
この推定相続人が明確なら相続手続きを進められますが、推定相続人の中に、認知症の人がいる場合や、どこに住んでいるかもわからない(いわゆる行方不明)の人がいる場合は、遺産分割協議を行うことができません。
彼らを無視して、他の相続人が勝手に話を進めるわけにもいかず、次のような手続きをとる必要があります。
- 1.認知症となってしまった相続人がいる場合→成年後見制度に関する審判
- 2.行方不明となってしまった相続人いる場合→失踪宣告の申立または不在者財産管理人の選任
いずれの場合も、家庭裁判所に申し立てが必要です。
「1」の場合は、認知症の相続人に「成年後見人」を選任することで遺産分割協議が行えます。
「2」の場合は、相続人が行方不明となってから7年以上が経過しているなら「失踪宣告の申立」を、7年以上が経過していないなら不在者財産管理人の選任を申し立てます。
これらの申し立てが認められれば、遺産分割協議が行えます。
前妻との間に出来た子との関係がある
被相続人に前妻がいて、既に離婚していれば前妻の相続権はありません。
しかし、前妻との間に生まれた子がいる場合、子は相続人となります。
このケースの深刻な点は、現在の配偶者・子達がその存在を知らないまま、相続開始後にその事実が発覚した場合です。
当然、前妻の子がいればその子抜きで遺産分割協議はできませんが、協議するとなると冷静に話し合いが進められるか非常に難しい面もあり、話がこじれて民事調停・審判等に発展するケースも考えられます。
被相続人は、将来起こり得るトラブルを回避するために、事前に前妻の子等のために遺言を残すのは良い方法です。
相続で揉めないための事前対策
相続で揉めないための事前対策
- ・遺言をする
- ・家族信託を活用する
将来、相続で揉めることを回避するためには、事前に対策を講じておくことは大切です。
相続対策は、法律で定められた方法に従い行わければいけませんが、1人で行わなくても専門家や家族の協力で進めることも可能です。
こちらでは、遺言の作成方法・家族信託の方法について解説します。
遺言をする
相続トラブルを回避する方法として真っ先に浮かぶのが「遺言」を残すことです。
しかし、被相続人となる人が自由に作成して良いかと言えばそうではなく、法で定められた方法で作成する必要があります。
(1)自筆証書遺言
自筆証書遺言は、遺言の作成方法として最もオーソドックスな方法です。
自分一人で書くことができ、費用や依頼の手間もかかりませんが、次のような条件があります。
- ・遺言は自筆で書く(ただし、2019年から財産目録だけはパソコン・ワープロ作成も可)
- ・日付を入れる(日付が特定できるよう遺言書を作成した年月日を記載する)
- ・本文で財産分与の内容を明確に書く(縦書きでも横書きでもOK)
- ・署名を必ず記載(自筆でフルネームを記載、戸籍通りの姓名の記載が望ましい)
- ・押印する(認印でも良いが、実印が望ましい)
(2)公正証書遺言
自筆証書遺言では、相続人に黙って開封されたり、破棄されたりすることもあります。
確実に遺言を残したい場合、公証人関与のもと作成する公正証書遺言にすれば安心です。
この遺言書は、公証役場の公証人に作成してもらうことになります。
こちらは自筆で記載する必要は無く、公証人に内容を口頭で伝え作成します。
公正証書遺言は公証役場でも1部が保管されるので、相続人の破棄・隠匿を防ぐことができます。
ただし、証人が2人以上必要で、手数料も5,000円~43,000円程度かかってしまうので、自筆証書遺言よりやや面倒な一面もあります。
家族信託を活用する
家族信託とは、被相続人となるご自身が、保有する土地・建物、預貯金等を信頼できる家族に託して、管理・処分を任せる財産管理方法のことです。
この方法を取れば高額な報酬は発生せず、事前に家族信託で受託者へ名義を変えておくと、すでに相続人となる方々へ管理・処分する権限が渡っているので、相続で揉める可能性が少なくなります。
家族信託をする場合は、被相続人となるご自身と、その受託者が契約を締結します。
契約書の作成自体は無料で行えますが、公正証書として証明力を持たせたい場合、公証役場で手続きをするので手数料がかかります。
まとめ
相続では、さまざまな問題が起こる可能性があります。
遺言書を作成する、家族信託を活用するなど事前に対策をしておくことで、相続人同士のトラブルを減らすことができます。
相続の事前対策について心配な場合は、専門家に相談してみるのもおすすめです。