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最終更新日:2023/9/19

祭祀財産(さいしざいさん)とは?承継方法や相続時の取り扱いについて

弁護士 水流恭平

この記事の執筆者 弁護士 水流恭平

東京弁護士会所属。
民事信託、成年後見人、遺言の業務に従事。相続の相談の中にはどこに何を相談していいかわからないといった方も多く、ご相談者様に親身になって相談をお受けさせていただいております。

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この記事でわかること

  • 祭祀財産にはどのようなものがあるのかを知ることができる
  • 祭祀財産を承継するための方法を知ることができる
  • 祭祀財産を活用して相続税を節税する方法がわかる

相続が発生すると、被相続人が所有していた財産はすべて、相続人が相続することとなり、遺産分割や相続税の対象となります。

しかし、祭祀財産と呼ばれる財産は、その他の財産とは異なるため、承継の方法も通常の相続とは別枠になります。

ここでは、どのような財産が祭祀財産となり、どのように承継されるのかを確認していきます。

また、祭祀財産の相続税法上の取扱いについても解説していきます。

祭祀財産(さいしざいさん)とは

祭祀財産とは、祖先を祀るために使用される財産のことです。

民法では、祭祀財産として次の3種類の財産を規定しています。

系譜

家系図など、祖先からその子孫へとつながる血縁関係を表す図表のことです。

掛け軸や巻物のような形になっていることも、多くあります。

祭具

祖先の祭祀や礼拝を行う際に利用される、道具や器具を指します。

位牌や仏壇、仏具、神具などがこの祭具に含まれます。

墳墓

亡くなった人の遺体や遺骨を葬る際に用いられるものです。

具体的には、墓地や墓石、墓碑、埋棺などを指します。

祭祀財産の承継方法

祭祀財産は、祭祀主宰者が原則として単独で承継します

これは、遺言や遺産分割協議により引き継ぐ人を決定する通常の遺産とは大きく異なります。

通常の遺産の場合、遺産を1人の相続人がすべて相続することとなれば、大きなトラブルになってしまいます。

そこで、できるだけ問題が起こらないよう、相続人ごとに一定の取り分に分けるのが普通です。

しかし、祭祀財産の承継に関しては、一般的な遺産に関するルールは適用されません。

これは、地域ごとあるいは家庭ごとに古くからのルールがあり、そのルールに従うべきとされているからです。

また、祭祀を主宰する人は1人であり、その人がすべての祭祀財産を承継するのが望ましいとされているためです。

祭祀財産の承継者となる祭祀主宰者の決定方法には、どのようなものがあるのか、確認しておきましょう。

被相続人が祭祀主宰者を指定する

被相続人により祭祀主宰者の指定がある場合、その祭祀主宰者が祭祀財産を承継します。

祭祀主宰者の指定は、必ずしも遺言による必要はありません。

簡単なメモ書きによる場合、生前に口頭で伝える場合など、通常の遺産では認められないような方法でも、祭祀財産に関しては認められます。

基本的には、被相続人の意思が重視されることとなります。

慣習により祭祀主宰者が決まる

被相続人による祭祀主宰者の指定がない場合、慣習により祭祀主宰者が決定されます。

ただ、一般的に認められている慣習とはどのようなものか、明確な基準はありません。

そのため、基本的には相続人同士の話し合いにより祭祀主宰者が決定され、祭祀財産の承継者が決まります。

家庭裁判所が承継人を決定する

相続人同士の話し合いがまとまらなかった場合、祭祀財産の承継者がいつまでも決まらないこととなってしまいます。

このような場合には、家庭裁判所に対する申立てに基づいて、家庭裁判所が祭祀承継者を定めることとなります。

家庭裁判所が祭祀主宰者を決定する際には、以下のような様々な事情を総合的に判断します。

  • 推認される被相続人の意思
  • 被相続人との親族関係
  • 被相続人との生活関係上の交流の親密度
  • 被相続人との親和性
  • 祭祀承継の意思及び能力

これらの項目を検討し、家庭裁判所が祭祀主宰者にふさわしいと考える人を指定します。

相続発生時の祭祀財産の取り扱い

相続が発生した時に、祭祀財産はどのように取り扱われることとなるのでしょうか。

通常の遺産と承継方法が異なりますが、相続税の対象になるのか、相続放棄した場合どうなるのかといったポイントを解説します。

祭祀財産は相続税がかからない

祭祀主宰者となって多くの祭祀財産を引き継ぐと、その分相続税の負担が増えることを心配する方もいるでしょう。

しかし、祭祀財産は仮に金銭的な価値が認められるものであっても、相続税は非課税となります。

そのため、どれだけ沢山の祭祀財産を引き継いでも、相続税の負担は増えません。

基本的に、相続が発生した場合には、被相続人が所有する財産はすべて相続税の対象となります。

しかし、中には相続税がかからない財産があり、非課税財産として相続税法に規定されています。

その中に、墓地や墓石、仏壇、仏具などが非課税であると明記されています。

そのため、祭祀財産はどれだけ引き継いだとしても、相続税の税額が増えることはありません。

相続放棄しても祭祀財産を承継できる

相続放棄すると、すべての債務を承継しない代わりに、一切の財産も相続できなくなります。

そもそも相続放棄した人は、はじめから相続人ではなかったものとして取り扱われます。

しかし、祭祀財産は通常の遺産とは異なり祭祀承継者が所有権を承継するものであり、相続財産ではありません。

そのため、相続放棄することとした人であっても祭祀主宰者となり、祭祀財産の承継者となることができます

祭祀主宰者は多くの遺産を相続できるわけではない

祭祀主宰者は、あくまで祭祀財産の承継者となっただけであり、このことは通常の遺産の承継には、まったく影響しません。

そのため、祭祀主宰者が多くの遺産を相続できるということはありません

中には、祭祀主宰者がなかなか決まらず、相続人間で問題になることがあります。

この場合、遺産を多く相続する代わりに、祭祀主宰者になるということも考えられます。

しかし、祭祀主宰者になったからといって、多くの遺産を相続できる権利が保障されているわけではないことに注意しましょう。

祭祀財産を活用した相続税の節税方法

先にも述べたように、祭祀財産には相続税がかかりません。

このことを利用して、相続税を節税できる場合があります。

祭祀財産を相続税の節税に活用する方法には、どのようなものがあるのでしょうか。

生前に墓地や墓石を購入する

被相続人が亡くなる前に、自身が亡くなった後に入る墓地や墓石を購入しておく方法があります。

その墓地や墓石を祭祀主宰者に引き継いでもらっても、相続税の対象にはなりません。

一方で、墓地や墓石を購入した際に現金で支払いを行っているため、相続財産を減らすことができます。

その結果、相続税の節税を行うことができます。

生前に仏壇や神具を購入する

被相続人が亡くなる前に、自身が亡くなった後に相続人が使えるように、仏壇や神具を購入しておく方法もあります。

その仏壇や神具を祭祀主宰者に承継しても、祭祀主宰者には相続税の負担はありません。

一方で、仏壇や神具を購入した際に被相続人は現金で支払いを行うため、相続財産を減らすことができます。

そのため、相続税の節税を行うことができます。

生前に仏像や仏具を購入する

仏像や仏具であっても、美術品や骨董品でなければ、祭祀財産として相続税が非課税になります。

そこで、被相続人が亡くなる前に、仏像や仏具を購入しておく方法もあります。

その仏像や仏具は祭祀財産であるため、祭祀主催者が承継しても相続税の負担はありません。

一方で、仏像や仏具を購入した被相続人は、現金で購入していれば相続財産を減らせることになります。

そのため、相続税の節税を行うことができます。

祭祀財産を承継するときの注意点

祭祀財産を承継しても相続税の対象にはならないため、節税に利用することができると紹介しました。

ただ、相続税が非課税になるという特徴から、様々なトラブルが発生するケースや、税務署の指摘を受けるケースがあります。

そこで、祭祀財産を承継する時にはどのような注意点があるのか、確認しておきます。

祭祀主宰者を被相続人が指定する

祭祀財産の承継は、遺産分割協議のように利害関係が複雑ではありません。

そのため、祭祀主宰者を決定することも、基本的にはそれほど難しくはありません。

ただし、通常の遺産に関する遺産分割協議で揉めてしまうと、その余波は祭祀財産にも及ぶ可能性があります。

そのため、祭祀主宰者が相続人の話し合いで決まらない場合や、被相続人の希望が覆される場合があります。

被相続人は、遺言により祭祀主宰者を指定しておくのが望ましいでしょう。

祭祀の方法や費用負担を話し合っておく

祭祀財産を承継する人は、祭祀主宰者となった1人の人だけです。

ただし、祭祀を実施する際は、祭祀主宰者1人だけでは実施することはできず、全員で話し合う必要があります。

しかし、相続が発生した後に話し合いを行っても、遺産分割協議などで揉めていると、話し合いは成立しません。

そこで、相続が発生する前に被相続人となる人と、相続人になる人で話し合いを行っておくといいでしょう。

そうすれば、事前に祭祀の実施について、自身の希望を伝えておくことができます。

また、相続人同士の話し合いでは話しにくい祭祀の費用負担についても、事前に話し合っておくことができます。

墓仕舞いも選択可能となる

相続が発生すると、祭祀主宰者となった人は相続放棄した場合でも、祭祀財産を承継しなければなりません。

しかし、祭祀財産を維持することにはお金がかかるため、ゆくゆくは祭祀財産を手放したいと考えることもあります。

このような場合、祭祀主宰者は相続した祭祀財産を自身の意思に基づいて、自由に処分することができます

そのため、承継したお墓を撤去する墓仕舞いを行うことも可能です。

ただ、家族や親族に相談なく墓仕舞いを行ってしまうと、新たなトラブルの火種となる可能性があります。

そのため、勝手に墓仕舞いを行うのではなく、事前に話し合ってから墓仕舞いを行うようにしましょう

祭祀財産にならないものがある

祭祀財産として認められれば、その財産は相続税の対象にはなりません。

ただし、仏壇や仏具、神具などのすべてが祭祀財産になるとは限りません

たとえば、高価な純金製の仏具や、古い時代に作られた仏像があったとします。

これらは、用途から判断すれば祭祀財産になるものですが、実際には祭祀財産とは認められない場合があります。

純金製の高価な仏具や、古くに作られた骨董品のような仏像は、美術品や骨董品と同じ取扱いにされます。

その結果、相続税の対象として多額の相続税が発生することがあるので、注意が必要です。

まとめ

相続税の計算に大きく影響するのが、遺産分割協議により決められる相続人ごとの遺産の取り分です。

ただし、祭祀財産と呼ばれる系譜・祭具・墳墓は、基本的に相続税の対象になりません

中には、祭祀財産を生前に購入して相続税の節税を実行することがあります。

ただし、祭祀財産と認められず、相続税の対象となってしまうものが出る場合もあるため、注意が必要です。

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